2010年代の最後の一年は、ロックが再生の兆しを見せた一年だ。全ジャンル並行に聴かれる環境に最適化できたトラップやポップスに比べて後れを取ったロックの中から、一転攻勢を予感させる重要作品を7曲選出した。
この7曲を選ぶに至った背景を、サウンド面やシーンの流れにフォーカスして触れていきたいと思う。
Post Maloneの「rockstar」や、Kurt Cobainの再来と揶揄されたBillie Eilishが象徴するように、10’sのロックスター的ポジションは、トラップ・ヒップホップやポップスミュージシャンが支配した。ギターが核で、使える音色に縛りがあるという弱点を持つロックに対して、電子音が前提のトラップやポップスは音色のバリエーションが豊か。2019年においてサウンド面が最適化されているのはそれらであることを突きつけられたのがロックの立場だ。
そんな状況下でロックミュージシャンは過去の音楽を参照したり、内省的な作品作りや活動、コアな表現をより肯定していった。今年出した2枚のアルバムが高く評価されたインディロックバンド・Big Thiefもそのうちの一つ。今日においてインディロックという言葉が示しているものは、旧来のスターを狙うバンド観へのオルタナティヴであり、自身のスタンスやバンドサウンドの魅力を再確認するための流れとも言えよう。
2018年11月末、ピアノやサブベース、シンセサイザーなどのサウンドを取り入れ、音色の豊かさを獲得したThe 1975の『A Brief Inquiry Into Online Relationships』がリリース。
それに続くように2019年5月にリリースされたのがVampire Weekendの『Father or the Bride』で、1曲目の「Hold You Now」ではサブベース×ゴスペル×アコースティックギターを組み合わせ、The 1975と同様インディロックでありながらバンドサウンド以外に豊富な音色を取り入れている。
そしてThe 1975は2019年8月に先行シングルとして「people」をリリース。一見、ロックバンドであることを放棄したようにも見えた前アルバムから一変。MVではまるでMarilyn Mansonのようなゴスなヴィジュアルを披露し、インダストリアルやメタルをモチーフに、90年代のロックを再降臨させる意思表示を見せた。
The1975はその約2ヶ月後、UKベースミュージックを代表するプロデューサー・Burialスタイルのダブステップから触発された「Frail State Of Mine」を配信。「People」と同じアルバムに収録される予定の楽曲だが、ロックから一転しクラブミュージックへの愛を体現。
同様の例として、12月27日にポストハードコアバンドBring Me The Horizonがトリップポップ〜アンビエント作品を突然ドロップし、どちらもロックファンをはじめ多くのリスナーに衝撃を与えた。
10’sは、ロックの核である“ロックとポップス”という対立軸自体に魅力を感じなくなってきた時代でもある。そんな時代において、ロックのカウンター的価値観やサウンドの脆弱性をなんとか乗り越えながら、ロックミュージックへの愛を形にする方法論が確立されてきているのは、ロックミュージシャンにとって大きな希望だ。
10’sの最後に輪郭が出てきたこの方法論で、ロックを愛するすべてのミュージシャンが新たな音楽シーンを開拓していく2020年代に心が躍る。
Bearwear Profile
Bearwearは2016年に Kazma(Lyric/Vo)、kou(Music/Arrange/Ba)の2人を中心に結成されたインディエモバンド。サポート含めフレキシブルな体制で活動をしている。
2018年春にリリースしたシングル「e.g.」がネット上のインディ・ファンの間で注目を浴びると、すぐにネット・レーベル Ano(t)raks のコンピレーション1曲目に選曲されるなど話題を呼んでいる。夏には「Dead Funny Records」と契約を交わし、過去作のシングルをデジタル・リリース。10月には初の流通作品『DREAMING IN.』をリリースしました。
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