文: 石角友香 編:Miku Jimbo
国内のバンドの多くが90年代邦楽ロックの影響を受けたギターロックバンドである事実の中で、突出する方法はもはやその人にしかない言葉と声なんじゃないかと思うことが多々ある。今回紹介するSouvenirのギター&ボーカルでソングライターの杉山悠佑に感じたことはまさにそれだ。杉山、近藤空良(Ba.)、ポルノ藤田(Dr.)からなる千葉県出身の3ピースバンドである彼らは2021年から千葉・東京を中心にライブ活動をスタート。これまで4枚のEPと1枚のアルバムをリリースし、2023年の<JAPAN JAM 2023>にオープニングアクトで出演するなど、コロナ禍の最中に活動を開始したにしてはコンスタントにバンドの歩みを進めてきた印象だ。
インタビューを読むと、バンド名はスピッツのアルバム『スーベニア』に由来しているといい、メロディの良さを大切にするスタンスは彼らにも通じているという。また、3ピースサウンドにこだわり、メンバーの演奏でシンプルに楽曲を構成し、伝えたいことを磨いていく方法論はplentyの影響で、さらに多くのギターロックバンドの普遍的なロールモデルであるBUMP OF CHICKENやRADWIMPSの名前も挙げている。多くのバンドが通ってきたプロセスだと思うが、中でもストイックなまでに3人の演奏を突き詰めたスタイルはplentyの孤高のイメージにも通じる。
特に初期作品であるEP『近況報告』(2021年)あたりの表現は、大人と呼ばれる年齢になってもいわゆる一般論での大人になれない自分を認めたり、自己嫌悪に陥ったりする心情をリリカルに描写。ただ青臭いと断じきれない、誰もが内面に抱く生きにくさをとてつもなく美しいメロディに乗せて歌っていた。その後も基本的にはそうしたフィロソフィを纏うバンドであることは変わりなく、中でも2nd EP『束になって』収録の「ジュネーヴ」の輝度の高いギターサウンドと美メロは彼らがスピッツの影響下にあることを改めて実感する名曲だと思う。
徐々にパンキッシュな側面やダークでイーブルなサウンドも取り入れ始めたのは1stアルバム『アルトリスト』以降。2023年リリースのEP『キャスタウェイ計画』では海外のインディロックやポストパンクからファンクの要素まで昇華した多彩な楽曲を聴かせてくれたが、基本はシンプルな3ピースのアンサンブルにこだわることで、透明感にあふれ、ある種ジェンダーを超えていく杉山の声と言葉の強度は屹立することになった。しかも「自分らしく在る」なんて言葉では納得できない人も思わず唸るであろう、いろいろなことを諦めても自分でいられる状態を思わせる「正しく在る」という曲にはかなり驚かされた。歌詞面でもさらにオリジナリティに磨きがかかっていたのだ。
そして『キャスタウェイ計画』以来となり、2024年のSouvenirを占う1曲が今回の「アリバイ」だ。彼らの孤高の良さが際立つミディアムテンポのナンバー。イントロからAメロにかけての少ない音数で淡々と描写される心情、サビの直前に温度が変わるように短いBメロが挟まれることでスリルが生まれ、ポップスにも通じるナイスメロディのサビに飛翔していく。セルフライナーノーツで「自分にとってもしSouvenirの音楽を1曲で説明しないといけないとしたらこの曲」と説明しているだけに、ポップスとグランジの要素が混在するような感覚はまさに!である。《アリバイ 君の秘密》と歌われるあたりでは秘密の恋を思わせるが、《悩んでる僕の横で 君は変わらずにいるから》と続くあたりで、君にすら言えない僕だけの悩みの存在にも気づく。共犯関係でもあり、お互いの孤独も見えてきて少しゾッとしたり。
とてもシンプルで端正なバンドサウンドながら、聴き手の奥のほうの感覚に触れてくるスリル。新たなテーマで書かれたこの新曲を含め、今後のSouvenirの動きがかなり気になる。
INFORMATION
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New Single『アリバイ』
2024年4月24日(水)リリース
early Reflection
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