文: Mai Kuno 写:塙薫子 編:Kou Ishimaru
柔らかな歌声に感じる温もりは、彼女が感じてきた誰かの温もりなのだろう。
TikTokやInstagramでのカバー投稿で注目を集め、2025年10月に1stアルバム『Daydreamer』をリリースした東京拠点のシンガー・ソングライター・楓。繊細な歌声とアコースティックサウンドで夢見心地な世界に誘う楽曲のルーツには、家族が営むスナックで聴いた音楽や幼少期から両親の影響で慣れ親しんだ洋楽があるという。
今回のインタビューではそんな音楽的感性からさらに踏み込み、彼女の人間的感性がどのように形成されていったのか、共に制作を行う活動のパートナーでもある実兄・遼にも同席してもらい話を聞いた。さらに、3人組ポップグループ・ROBITASでの活動やシンガー/トラックメイカーのSUKISHAとのコラボなど、活動の幅を広げる中でどんなビジョンを描いているのか。二人の現在地についても語ってもらった。
ー幼少期、ご家族が営むカラオケスナックで音楽に触れていたそうですが、当時聴いていた中で、覚えている曲はありますか?

楓:
常連のお客さんたちがよく歌っていた、演歌や昭和歌謡ですかね。
遼:
祖父と祖母の世代は演歌、父と母の世代は昭和歌謡や(松田)聖子ちゃんとかを歌っていて…。特に演歌は、原曲を聴いたことないのにカラオケでみんなが歌っているのは聴いたことがある、みたいな曲が多いです(笑)。
楓:
あとチェッカーズを歌っていた人もいたよね。80年代頃に流行っていた曲は、気づいたら聴いていたと思います。ーお二人にとって、スナックとはどんな場所ですか?

楓:
スナックのママをやっている祖母が、おしゃべりで盛り上げ上手なんです。だから、みんなが楽しそうにしていて安心する場所で。親戚と常連さんを何人か呼んで、みんなで年越しをするのが毎年恒例の行事なんですよ。
遼:
町会のみんなの集合場所みたいな感じになっていて、お祭りと年越しのときには集まっていますね。ーいろんな方に囲まれて育ったんですね。

楓:
地域の方々に育ててもらった感覚です。私たちが生まれる前から常連の方がいて、生まれたときには病院で抱っこしてくれたり、成人するときにお祝いしてくれたり、家族みたいな人がいっぱいいます。
遼:
親戚だと思っていた人が、実は常連さんだったということもあるくらいでした(笑)。ー育ってきた環境や周りの方々から受けた影響はありますか?

遼:
スナックって、“いろんな世代の人が一緒に温かいムードでいられる空間”なんですよね。僕らはスナックに馴染みがない世代なので、特殊な経験だと思います。それもあって、僕らはあまり人見知りしないし、人と話すのが苦じゃないんです。
楓:
あと、血が繋がっていなくても、お互いの心配をするんですよ。常連のおじちゃんたちは頑固だから、どこか体が悪くなってても全然病院に行かなくて、みんなで「早く病院行って!」と世話の焼き合いをしていたり。そんな光景を小さい頃から見てきたので、“どうやって人に情を持って、大切にするか”というのを学んだと思います。
ー楓さんはバンクーバー留学中に作詞作曲を始めたそうですが、そもそもなぜ留学をしようと思ったのですか?

楓:
幼少期から英語に興味があったんです。小学生の頃から洋楽を歌い始めて、英語を話せるようになりたいとずっと思っていました。そして、高校2年生の頃に大学のキャンパス見学へ行ってみたんですが、「大学に何を学びにいくんだろう?」とわからなくなってしまって。私は“英語を学びたい”という目的がハッキリしていたので、母に留学の相談をしたら、逆に「いつ行ってくれるのか待ってた」と言われて決意したんです。
遼:
母も20代の頃にワーキングホリデーで1年間カナダに行っていたそうで、その経験から行かせたかったんだと思います。
楓:
私の名前の「楓」もカナダの国旗からとっていて。母の好きな場所なら行かないとな、と思ったんです。ーでは、作詞作曲を始めたきっかけは?

楓:
音楽活動を始めたのは、留学とは別のきっかけでした。私は留学する前、学校に行けない時期があったんです。10代だったので精神的に不安定だったんだと思いますが、留学に行ったら何か変わるような気がして、思い切って留学に行ってしまったんです。でも、やっぱり自分自身はどこにいても変わらなくて。バンクーバーに行って数ヶ月後、留学先の学校にも行けなくなってしまいました。でも、自分のことを支えてくれる人が日本にいるということを強く感じたので、曲を書いてみようと思いました。ー心の叫びのように生まれた音楽だったんですね。

楓:
“辛いから音楽で発散しよう”というのは、今もずっとそうですね。ー当時よく聴いていた曲はありますか?

楓:
Taylor Swift(テイラー・スウィフト)が、『reputation』をリリースした頃で、いつも聴いていました。それまでとガラッと雰囲気が変わったアルバムだったんですよね。バンクーバーは都会と自然の融合が綺麗な街なので、今でも「聴きながらここを歩いていたな」と景色を思い出します。

楓:
Snail's HouseというトラックメイカーさんもSoundCloudで出会い、そこからリピートしていた記憶があります。ー遼さんもずっと音楽を続けられていますが、その原動力は何でしたか?

遼:
中学生の頃に父に教えてもらってアコギを始めて、高校に入ってからは部活でギターの弾き語りをしていました。大学でバンドを始めたのをきっかけに、音源を作るようになって、そのあとに楓と音楽を作り始めて。
ー楓さんは去年からROBITASとしての活動も始められました。どういう経緯で始められたのでしょう?

楓:
ROBITASのリーダーの黒澤さん(Gt.)が私をSNS上で見つけてくださって、「一緒にやりませんか?」とDMをいただいたのがきっかけです。ーROBITASで歌うとき、表現のアプローチは分けていますか?

楓:
自分で作曲する楓としての活動は、“自分の世界だけで作る”と決めているんです。でも、バンドとのコラボやどなたかに曲を書いてもらったときは、“自分の技術をそちらの世界観に合わせにいく”みたいなイメージで使い分けている気がします。ー遼さんから見て、ROBITASで活動を始めた楓さんはどうですか?

遼:
ソロのときとは違う味が出せているので見ていて面白いです。僕ら二人では完全なバンドサウンドは出せないので、その部分を表現できる一つの場所になっている感じがします。楓がいろんなスタイルで歌えるのを知っているから、それが見られて嬉しいです。ーまた、今年は「導火線」「おとぎばなし」とSUKISHAさんとのコラボが続いています。制作で印象的なエピソードを教えてください。

楓:
SUKISHAさんが今年に入って「New Standard」という連続リリース企画をやっていて、それに参加させていただきました。SUKISHAさんは曲を作るのが早いし、家でレコーディングした音源を送った次の日にはミックスを終わらせて、すぐにリリースされるんです。そのスピード感に驚いていました。そのペースで制作しても “SUKISHAさん節”が出るのはすごいですよね。軸をぶらさずいい曲を書かれるので、尊敬しています。ーレコーディングに際して、SUKISHAさんからのリクエストはあったのでしょうか?

楓:
なかったんですよね。「リズムが難しいから気をつけてほしい」ということくらい。「歌詞は変えてもいい」「メロディーも大幅じゃなければアレンジしてください」という感じだったので、好きにやらせてもらいました。コラボ1回目だった「導火線」は、たくさん褒めてもらえて嬉しかったです(笑)。ー普段のアコースティックの雰囲気とは違う印象で素敵でした。

楓:
ROBITASでもそうですけど、自分以外の方が詞を書くと、歌っているときの気分も違うんです。自分の楽曲は感情に寄り添うような歌詞で、素直な歌い方をすることが多いんですけど、他の人が書いたものを歌うときは技術にフォーカスして歌えて。ROBITASやSUKISHAさんの曲は難易度が高い、というのもあるんですけどね。「導火線」を録ったときは、難しくて朝まで歌っていて、正直泣きそうになりました(笑)。ー知らない間にスキルが身についていそうですね。

楓:
SUKISHAさんの作る楽曲はR&B感が強いけど、私は英語でしかR&Bっていうのを歌ったことがなかったんです。日本語でR&Bを歌うことの難しさを痛感しました。日本語独特のリズム感をR&Bに落とし込むと「ここの発音はボカさないとリズムが取れないんだ…」とか、技術面で学びは多かったですね。ー「導火線」「おとぎばなし」は、どういった部分が好きですか?

楓:
自分が書かないような歌詞を書いてくださるので、いつもと違う自分になれた感覚があって、それが好きですね。「導火線」も「おとぎばなし」も、“大人っぽいけどあざとい”イメージがあって、それを表現するのが楽しくて(笑)。
楓:
ROBITASでもそうなんです。曲によって雰囲気が変わるし、曲に合わせて歌い分けをするのは演技をしているみたいで楽しいです。ー遼さんの活動についても教えてください。最近Instagramで弾き語りのカバーを上げていますが、どんなきっかけで始められたんですか?

遼:
楓に「ギター面白いんだからなんかやってよ」と言われたのがきっかけです。楓とやるときは裏方なので、みんな僕が何をしているか知らないし、僕にアーティストというイメージはないんですよね。自分でも活動することで、名刺にもなるから良いなと思って始めました。好きな曲やSNSで見かけた曲をカバーしていて、動画の撮り方やミックスの仕方を考えたりするのも面白いです。ー昨年秋に配信リリースされた1stアルバム『Daydreamer』は、今年6月にCDとして〈ミオベル・レコード〉からフィジカルでのリリースもされました。実物を手にしたときはどんな気持ちでしたか?

楓:
今までSNS上での活動ばっかりだったので、実物がタワレコに並んでいるのを見られたのはすごく嬉しかったです。「あ、作ったんだぁ」って実感が湧きました。ーCDのパッケージでこだわった部分はありますか?

楓:
収録曲の配信シングルのアートワークを全て封入している部分ですね。各楽曲のアートワークと歌詞を両面印刷した紙をバラで入れていて、一番好きなジャケットをCDを開いたところに挟んで飾れるようにしているんです。これもTaylor Swiftに影響されていて。『1989』というアルバムに、チェキの写真がいっぱい入っていたんですよ。リリース当時、それを一枚一枚部屋に飾っていたときがあったので、同じように飾れるものにしたくて入れていただきました。ーCD限定でTaylor Swift「Never Grow Up」と東京事変「落日」のカバーが収録されています。この2曲を選んだ理由は?

楓:
「Never Grow Up」の歌詞は、自分が成長する過程で感じてきたことや、今改めて思うことをうまく表現してくれている曲だなと思ったんです。それに、このアルバムの曲たちにも合うなと思って入れました。ー編曲でこだわったポイントはありますか?

遼:
Taylorの方はシンプルにカバーしようと思って原曲通りに。「落日」は全然違う雰囲気にしたいと思って、元々がバンドのサウンドなので、アコギでやるならどうしようかと考えました。結果、オープンチューニングにして叩きながら弾いていて、オクターバーを入れて最後は壮大にする……ということをしてみました。
ー今後やりたい音楽も広がっていくと思いますが、二人で方向性の擦り合わせをしているのでしょうか?

楓:
結構しているね。
遼:
どうやっていこうか悩んでいるところです。
楓:
最近聴くジャンルが、ポップスよりもコアになってきて。元々持っているキャッチーな曲作りに、好きな要素も入れたいから、どう形にするかバランスを考えていて。なので、今好きな曲を兄に「この音良くない?こういう音がいいね」と勧めて、擦り合わせしています。
遼:
密かにインプットされているね(笑)。ー最近はどういったアーティストを聴いていますか?

遼:
Laufey(レイヴェイ)とか?
楓:
そうだね。洋楽はメジャーなものが多いかも。日本人だと青葉市子さん、君島大空さん、宗藤竜太さんとかも好きです。音楽作りに活かすために、ジャンルにとらわれず音楽を聴いていて、HIP HOPであれば唾奇さん、鎮座DOPENESSさん、Elle Teresaちゃんがfeatしている曲を聴いたり。サウンドが良ければなんでも聴いていますーでは最後に、ミュージシャンとしてどんなビジョンを描いてますか?

楓:
大きなビジョンは描いていないんです。でも、自分が音楽に救われてきた立場なので、“居場所を作ってあげられる曲たち”を書いたり歌ったりできるといいなとずっと思っています。ー音楽でスナックのような空間を作っていくような感じですかね。

楓:
居場所が欲しいなって思う瞬間がいろんなタイミングであるので、場所を自分で作って、そこに人が集まってきてくれたらいいなって。同じような気持ちの人たちに出会う、仲間探しみたいなイメージですね。ースナックのママと同じかもしれませんね(笑)。

楓:
本当にそうですね(笑)。「私のバイブスに合うんだったらおいで」っていう。ー立ってみたいステージはありますか?

遼:
この前、Angine de Poitrine(アンジーヌ・ド・ポワトリーヌ)を観るために初めて行った<フジロック>のステージですね。自然の中で歌いたいなって思うので、大きなステージに立ちたいというよりかは、野外フェスのような場所でやる方が憧れます。あと海外には絶対に行ってみたいので、海外ツアーが一番大きな目標かもしれませんね。ー今回のアルバムを機に、ライブの機会も増えそうです。直近の予定はありますか?

遼:
9月9日(水)に三軒茶屋GRAPEFRUIT MOONで、heimrecordとcambelleとのスリーマンの対バンライブがあります。また、9月12日(土)には日暮里で行われる複合マーケットイベント<みちくさVol.68>にも出演します。
楓:
それから今、曲を作っているので楽しみにしていただけたらと思っています。兄待ちの状態なので、できるだけ早く出したいな(笑)。
遼:
絶賛編曲中です(笑)。EVENT INFORMATION
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<UNSQUARE DANCE #15>
日付:2026年9月9日(水)
時間:OPEN18:15 / START19:15
出演:heimrecord / cambelle / 楓
会場:三軒茶屋Grape Fruit Moon
〒154-0004 東京都世田谷区太子堂2-8-12 佐々木ビルB1
料金:前売¥3,500+1D / 当日¥4,000+1D※来場順入場自由席
※現金のみとなります複合マーケットイベント<みちくさVol.68>
日付:2026年9月12日(土)、13日(日)
時間:12:00 -21:00
1部12:00〜15:00
2部15:00〜18:00
3部18:00〜21:00出演:楓は12日の第3部に出演予定です。
●9月12日(土)
芝上寝太朗 / パオーンけいぞう(ザ ヴーギー) / 安宅伸明(daisansei) / キクチユースケ(plane) / yume sato / ゆうせい / 楓(独奏)
《DJ》
農家の孫●9月13日(日)
丸岡雅弘 / 佐々木碧 / 中澤ウルハ / りんごむし / kiss the gambler / Nobuki Akiyama (DYGL, Deadbeat Painters)
《DJ》
Erykah / 農家の孫会場:元映画館
〒116-0014 東京都荒川区東日暮里3丁目31−18 旭ビル 2F料金:
◉9月12日(土)入場料
*場内のお買い物・お食事でご使用できるチケット¥1,000分を含む
1部・2部・3部:各¥3,000
1〜2部通し券:¥3,500
2〜3部通し券:¥3,500
1日券:¥4,000◉9月13日(日)入場料
*場内のお買い物・お食事でご使用できるチケット¥1,000分を含む
1部・2部:各¥3,000
3部:¥4,000
1〜2部通し券:¥3,500
2〜3部通し券:¥4,500
1日券:¥5,000
RELEASE INFORMATION
![]()
楓『Daydreamer』(1st Full Album)
配信:2025年10月4日 配信
CD:2026年6月17日 リリース / 3,300円(税込)Label:〈miobell records〉
【Tracklist】
01.Break of Dawn (Intro)
02.純白
03.太陽の涙
04.やだまだ
05.おもかげ
06.秘密
07.二人
08.空想
09.夢想家
10.Lucifer
11.Never Grow Up *1
12.落日 *2*1 テイラー・スウィフトのカヴァー(CDにのみ収録)
*2 東京事変のカヴァー(CDにのみ収録)![]()
SUKISHA, 楓『導火線』(Single)
2026年3月13日 配信
Label:〈HINABA records〉![]()
SUKISHA, 楓『おとぎばなし』(Single)
2026年6月19日 配信
Label:〈HINABA records〉
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