K-POPが支持され続ける理由とは。韓国音楽の背景に迫ったブックガイド紹介

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K-POPだけにとどまらず、韓国カルチャーや韓国エンタメが浸透してきている。流行の背景をめぐり、今回は、韓国音楽について書かれた著書を紹介。なぜ韓国音楽は支持され続けるのか、紹介する著書を通して探ってみてはかがだろうか。

コロナ禍に入り、『梨泰院クラス』『愛の不時着』といったドラマや、『82年生まれ、キム・ジヨン』『あやうく一生懸命生きるところだった』といった韓国文学、BTSをはじめとしたK-POPなど、韓国エンタメブームが巻き起こり、日本で普通に暮らしていても韓国コンテンツについて見聞きする機会がぐんと増えた。

数々の韓国コンテンツの中でもっとも手軽に無料で楽しめるコンテンツ、K-POP。ステイホーム期間にK-POPに手を出し、いつの間にか沼にハマって抜け出せなくなってしまった人も少なくないのではないだろうか。筆者の周りでも、InstagramやTwitterでお気に入りの韓国ミュージックをシェアしたり、家でオンラインライブを鑑賞している様子をSNSにアップする友人が一気に増えたように思う。

そんな中で沸々と湧き上がる疑問。「K-POPはどうしてこんなに凄いのか」「K-POPの魅力を言語化して周りに共有したいが上手く伝えられない」「K-POPと他のジャンルとの違いは?」と素朴な問いを持ち始めた人も多いのではないだろうか。自称 “韓国インディーズ音楽PR隊” として日々布教活動を行なっている筆者も例外ではない 。

私が韓国音楽にのめり込んだ背景には巧妙な仕掛けや時代背景が折り重なっているに違いない、と度々考えを巡らせ、その答えを見つけるためにこれまで様々な関連書籍を漁ってきた。今回は、韓国の音楽に関して日本語で書かれた書籍の中から、いくつかオススメを紹介したいと思う。何から読んでいいのかわからないという方の参考になれば嬉しい。

PROFILE

Akari Hiroshige 

会社員として働く傍、『BUZZYROOTS(バジールーツ)』 という韓国インディーズ音楽に特化したサイトを友人と立ち上げ運営中。韓国のミュージシャンや業界人に取材をしたり、オススメの楽曲を紹介したりと、微力ながら韓国音楽愛好家として活動している。気づけば韓国音楽担当というブランディングに繋がり、本メディア・DIGLE MAGAZINEでも韓国のインディバンドSURLのインタビュー記事や、ライブレポート等、韓国関連の記事を担当。


歴史的背景からK-POPを理解する

私の中の韓国史は、2個下の妹がSHINeeにハマったことに端を発する。その頃の私は韓国の「か」の字も知らず、SHINee含むK-POPに対してあまり良い印象を抱いていなかったものの、韓国という存在が私の中に姿を表したという意味でとても大きな出来事である。当時は所謂 “第2次韓流ブーム”と呼ばれ、周りはKARA少女時代東方神起等で盛り上がっていた。一方、逆張り精神の私には全く刺さらず、ブームに乗れなかった。(結局数年後にどハマりすることになるのだが…)波に乗り遅れた私にとって、過ぎ去った K-POPブームの全貌を遡るのに役に立ったのが『植民地時代から少女時代へ 反日と嫌韓を超えて』(著:福屋 利信)である。

タイトルの通り、戦争時代〜日本でK-POPが受容されるまでの出来事が時系列で丹念にわかりやすく整理されている。「第1次韓流ブーム、第2次韓流ブームはどのようにして起きたのか」「日本で初めて韓国の音楽が到来したのはいつか」。そんなK-POPの歴史の基礎について押さえるのにうってつけの1冊である。

逃れられない兵役の存在

K-POPの世界に足を踏み入れて数ヶ月。ついに自分に「推し」ができた。ところが、人気の絶頂にいる推しがファンを置いてしばし軍隊へと姿を消してしまうことを知る。隣国に徴兵制があることは何となく知っていたつもりだったが、いつも画面越しに会えていたアーティストがいざいなくなるとなると、一気に軍隊という存在が自分ごと化される。推しが辛い思いをしているかもしれないと思うと、居ても立ってもいられないのだ。そんな心痛を静めるべく、1冊の本を手に取った。それが『韓流スターと兵役 あの人は軍隊でどう生きるのか』(著:康熙奉)だった。

兵役の仕組み、軍隊での生活、芸能界と兵役の関係など、推しの帰りを日本で待ちわびる私にとってのブラックボックスを解明してくれたありがたい一冊だ。最終章では、「ファンは手紙を送れるの?」「芸能人だからといって軍隊でいじめられないの?」など「ファン目線」の疑問とそれに対する回答が一問一答形式で記載されており、K-POPファンにとことん最適化された内容だった。

“音楽” としてのK-POPにクローズアップ

K-POPの世界に入り浸ってしばらく経つと、改めて “音楽” としてのK-POPについて興味が湧いてくる。K-POPというジャンルはどのようにして生まれたのか。世界をこんなにも魅了するK-POPの魅力とは一体何なのか。そんな疑問に答えてくれるのが『K-POP 新感覚のメディア』(著:金 成玟)である。

本書では、音楽、産業、社会の3つの視点からK-POPの「感覚」を解明していく。「韓国歌謡」に始まり、時代の変遷と共にどういった産業的・社会的影響を受け、どんな音楽的要素をアドオンしながら今のサウンドにたどり着いたのかがわかる。K-POP特有の「ドラマチックなバラード」や「ラップとの相性の良さ」など、普段自分が何となく感じていたK-POPが文字情報に変換されていくことに快感を覚えた。この本を通して「ポンキ」という言葉を知り、K-POPアイドルの原型と言われるソバンチャキム・ワンソンの存在を知った。


今や韓国アーティストの “成功” のアイコン的存在となったBTSについて知りたい人は『BTSを読む なぜ世界を夢中にさせるのか』(著:キム・ヨンデ、訳:桑畑優香)をぜひ。マネーやシステムにフォーカスしたK-POP本が多い中、本書ではBTSをミュージシャンとして強く意識し、音楽評論家ならではの視点で彼らの “音楽” を分析している。ディスクレビューがかなり充実しているため、実際に楽曲を聴きながら読み進めてみることをオススメする。

アイドルだけじゃない、ジャンル特化型書籍

少し前と比べると、YouTubeやストリーミングサービスで音楽を聴くことが多くなり、ヒップホップやロックなど、ダンスミュージック以外の韓国音楽に出会う機会が増えたのではないだろうか。一方、そうしたK-POPアイドル以外のミュージシャンに関するテキスト情報は、日本にいるとなかなか簡単には入ってこないのが実情だ。韓国の音楽事情に詳しいライター、キュレーターを中心に関連情報の発信はなされているものの、WEBメディアの特性上、断片的な情報である場合が多い。

WEBや雑誌の情報量に物足りなさを感じ書籍を漁ってみたところ、これまた魅力的な書籍に出会うことができた。ここでは、以下の3冊をご紹介したい。

韓国のヒップホップシーンに興味のある人のための必読書といえば、鳥居咲子さん著の『ヒップホップコリア 韓国語ラップ読本』だろう。The QuiettBeenzinoなど、K-HIPHOP界で大人気の総勢65組のアーティスト紹介をメインとした網羅性の高い内容となっている。他にもヒップホップに焦点を当てたコラムやアーティスト/プロデューサーへのインタビューが充実。鳥居さんのトークイベントに参加し、本書の表紙裏に名前入りでサインをいただいたのが思い出深い。

韓国のロックシーン、インディ・シーンに興味のある人は、ぜひ『大韓ロック探訪記 海を渡ってギターを仕事にした男』を読んでみてほしい。初渡韓の1995年以降、サヌリムチャンギハと顔たちなど名バンドに参加しながら、韓国のミュージシャンと深く関わってきた長谷川陽平さんと共に韓国の音楽シーンの歴史をなぞっていく。日本で生活している限りは、どうしても煌びやかなK-POPアイドルの話しか聞こえてこないからこそ、リアルな韓国を間近に見てきた長谷川さんの話は非常に貴重で興味深い。


K-POPからは逸れるが、『北朝鮮ポップスの世界』(著:高英起・カルロス矢吹)を気分転換に読んでみても面白いかもしれない。簡単に行くことができない異国の音楽を掘るのは、驚きと発見の連続でびっくりするくらい楽しい。

K-POPをプロモーションの視点から紐解く

K-POPはいかにして世界に広まったのか。数々の大ヒットのからくりを解き明かしたいなら、つい先日発売された『K-POPはなぜ世界を熱くするのか』(著:田中絵里菜)をすっと差し出したい。

K-POPを取り巻く様々な仕掛けが業界人への取材内容と共に説明されている。「カムバック」「スミン」「ショーケース」等、K-POPを追いかけている人なら一度は見聞きしているであろうキーワードが事例付きでわかりやすく紹介されており、K-POPビギナーもするっと読めてしまう。これ一冊手元に置いておけば、誰でもK-POP博士になれそうな気がする。ファン心理を突いた韓国流プロモーションの実例の数々は、K-POPファンだけでなく、マーケティングを学びたい人にとっても参考になるはずだ。


これらの本を読む時は、ぜひYouTubeを開きながらペンとノートを片手に読むことをオススメする。楽曲の解説パートでは、YouTubeで実際にその楽曲を再生する。話が複雑になってきたら軽くノートにメモして整理しながら読み進めると、より理解が深まるはずだ。(筆者はエクセルで時系列に要点をまとめながら読むことが多い。)インターネット上に情報が点在している今だからこそ、本を通して体系的に “K-POP” を理解してみてはいかがだろうか。

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