kurayamisakaが繋ぐ“憧れの連鎖”。オルタナロックシーンの新鋭バンドが次世代に贈る夢|Newave Japan #57

Interview
DIGLE MAGAZINEが注目する新鋭アーティストをピックアップするインタビュー企画『Newave Japan』。今回は、破竹の勢いでシーンを席巻している5人組バンド・kurayamisakaが登場。メンバー全員のルーツや、結成の経緯から2025年4月9日リリースの新曲「sekisei inko」に至るまで、バンドの歩みを追った。

5人組ロックバンド・kurayamisaka(読み:くらやみざか)が奏でる音楽を聴くと、「音楽をやりたい!」という衝動を無性にかき立てられる。ロックを聴く喜び、楽器を鳴らし歌う喜び、ライブで音を全身に浴びる喜び――5人が作る楽曲には、そういった瑞々しい幸福感が満ち溢れているのだ。

2022年に東京・大井町にて始動した彼らは、無名の状態でSNSに投稿した音源で話題に。その後も<FUJI ROCK FESTIVAL '24>のROOKIE A GO-GO出演、NME「2025年注目すべき世界中の新鋭アーティスト100組」やローリングストーン誌日本版が選ぶ「Future of Music」への選出など、国内外で注目されている。今もっとも旬なバンドのひとつと言っても過言ではないだろう。

彼らの楽曲は1990〜2000年代のオルタナティブロックや、グランジ、シューゲイザーなど、さまざまなロックサウンドを昇華している。2025年4月9日リリースの新曲「sekisei inko」も、1990年代のさまざまなギターロックバンドたちを想起させる。ソングライターでありバンドの発起人である清水正太郎(Vo. / Gt.)いわく、リファレンスが見えやすいサウンドは意図的に作られたものだという。“文化とは現在・過去からの引用からなる多元的な織物”という批評家のロラン・バルトの言葉があるが、まさにkurayamisakaはロックの先人たちが積み上げた歴史の先に生まれた、唯一無二のバンドだ。

さて、その5人の“引用元”にはどんなアーティストがいるのだろう。今回は、メンバー全員にインタビューを実施。各々のルーツとなる楽曲を元にしたプレイリストを作成してもらった。

toddleはバンドの一番のお手本。メンバーのルーツを選曲したプレイリスト

ー今回は、kurayamisakaとして活動する上でルーツとなった音楽を、おひとり2曲ずつ選曲していただきました。冒頭はフクダさんのセレクトですね。

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フクダリュウジ(Gt.):

僕はいわゆるオルタナティブロックと言われるものと出会った2曲を選びました。高校生の頃からBase Ball Bearとかのロックバンドを聴き始めて。大学で軽音楽サークルに入った夏、ART-SCHOOLの「FADE TO BLACK」をコピーしている先輩がいて、ライブを観て初めて心を動かされたんです。さらに同じ年の11月に同じ先輩がTHE NOVEMBERSをやってて「こんなにカッコいいバンドがいるんだ!」と思ったところから、音源を聴き漁ってどっぷりハマって。バンドをやるにあたって「こんなふうにカッコいい演奏がやりたいな」と思った2組でもあります。

ーギターはいつから始めたんですか?

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フクダリュウジ(Gt.):

中学3年生のときに友達に教えてもらったんですけど、FとBコードの壁にぶち当たり挫折しちゃって(笑)。大学受験を終えて暇だったから、軽音楽部の友達にKEYTALK[Alexandros]People In The Boxとかを教えてもらって、またやってみようかなって。実際に始めたのは大学からですね。

ー清水さんはkurayamisakaの音楽性にも通底する2曲ですね。

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清水正太郎(Vo. / Gt.):

そうですね。曲作りの支柱になってるバンドはいろいろあるんですけど、あえて絞るならこのふたつです。僕のバンド人生はラジオで流れているASIAN KUNG-FU GENERATIONを聴いて始まったので、まず「橙」を選曲しました。toddleはkurayamisakaを結成するにあたって一番お手本にした存在です。

ーラジオでアジカンを聴いたのは何歳ぐらいの頃ですか?

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清水正太郎(Vo. / Gt.):

15歳ですかね。それまではゆずとかを聴いてて、その頃からギターをやってました。でもアコギしか持っていなくて、「いわゆるロックの音ってエレキじゃないと出せないらしい」と知り(笑)、エレキギターを買った感じです。

ー堀田さんが選んだのは洋楽ですね。

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堀田庸輔(Dr.):

もともとNUMBER GIRL「透明少女」の“叩いてみた”動画を清水が観たことで、僕はバンドに誘ってもらったので、今のプレイスタイルもその延長線上だと思っているんです。でも、自分が昔から聴いていたこの2曲もプレイスタイルに滲み出ていると思って選びました。
 
Muse(ミューズ)「Stockholm Syndrome」のドラムパターンはkurayamisakaのフィルでもちょくちょくオマージュしています。Heart(ハート)もそうで、「jitensha」で「Barracuda」の足のパターンを組み込んでみたらうまくハマったんですよね。直接的なルーツと言われるとまた違うアーティストになるんですけど、今はこれらの曲を軸にドラムのアレンジを決めているので、この2曲は礎になっているのかなと思います。

ー直接的なルーツも洋楽ですか?

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堀田庸輔(Dr.):

聴き始めは洋楽ですね。幼少期に父が洋楽を取り扱うテレビ番組を流してたんです。そこで流れていたKISS(キッス)にハマって小学校6年生の頃にドラムを始めるんですけど、その時期はKISSとはまた別の洋楽を聴いていました。中学校2年生のときに阿左美くんとバンドを組んだときも、いろんな洋楽をコピーしていましたね。

ー阿左美さんも堀田さんと同時期にベースを始めたんですか?

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阿左美倫平(Ba.):

ベースを始めたのは大学生ぐらいで、最初はギターだったんですよ。今回選んだのは日本のアーティストで、cinema staffは国内で1・2を争うぐらい好きなバンドですし、かつベースを始めたいと思ったきっかけだったんです。syrup16gも同じぐらい大切なバンドで、「modify Youth」のベースラインはsyrup16gの「生活」からめちゃくちゃ引用してます。他だとbloodthirsty butchersもkurayamisakaのプレイにも反映させてもらってますけど、自分はそうやって好きなバンドをいい感じに引用していますね。

ーさちさんはいかがでしょうか?

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内藤さち(Vo. / Gt.):

aikoさんは人生で最初に超ハマったアーティストです。CMで「シアワセ」を聴いたときに「こんな曲があるんだ!」って衝撃を受けて。aikoさんを好きになったことで、自分はキャッチーな曲やJ-POPが好きなんだなって知りました。そこからTSUTAYAでaikoさんのアルバムを借りてめっちゃ聴いたのがきっかけで“アルバム単位で音楽を聴く”ということを覚えたので、1曲はこれにしました。

adieu「灯台より」は「evergreen」のリファレンスにもなっているとか。

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清水正太郎(Vo. / Gt.):

そうですね。ギターと歌だけで始まるところだったり、全体的な雰囲気も含めてこういう曲を作りたいなと思って、リファレンスにしました。
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内藤さち(Vo. / Gt.):

あれ、たしかadieuは私が教えた…んだよね…?
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清水正太郎(Vo. / Gt.):

たぶん…?
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一同:

(笑)
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清水正太郎(Vo. / Gt.):

車に乗って移動することが多いんですけど、そのときメンバーそれぞれがBGMを決めてて。「これいいね」みたいな感じで共有する中で、この曲を知りましたね。
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内藤さち(Vo. / Gt.):

adieuは歌い方が好きですね。バンドを始めるちょっと前に知って「めちゃくちゃ良いな」と思っていたちょうどそのときに、(清水から)kurayamisakaへの誘いと「farewell」のデモが送られてきたんです。それで「farewell」を歌ってみることになったけど、はじめは感情的に歌うことしかできなくて、正太郎くんから「もうちょっと淡々と歌ってほしい」という要望があって。それで「adieuっぽく歌ったらいいかも」と思ったらうまくハマって、そこからkurayamisakaでの歌い方を見つけていきました。

ーさちさんが音楽をやりたいと思ったのはいつ頃ですか?

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内藤さち(Vo. / Gt.):

中学生の頃ですね。YUIさんが好きで歌う女の子への憧れがあったので、お兄ちゃんのギターでちまちま練習していたんです。でも人前で歌うのは恥ずかしくて…。チャットモンチーにも憧れていたので「高校では絶対にチャットモンチーのコピバンをやるぞ」と思って軽音部に入ったんですけど、「歌いたい」って3年間言い出せず(笑)。バッキングギターとかを弾いて3年間過ごしました。

ー歌いたいという思いを、何年も胸に抱いていたわけですね。

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内藤さち(Vo. / Gt.):

そうですね。大学のサークルの新入生歓迎会で偶然、正太郎くんが目の前に座ってたんですけど、「東京事変のコピバンのボーカルを探しているんだよね」と話してて。これを逃したら一生歌えない気がするなと思って、「やりたい」と言ったのが始まりでした。めっちゃ勇気を出しましたぁ(笑)。

バンドをやりたい人は全員何かしらの形でやったほうがいい

ーkurayamisaka結成の経緯について伺います。メンバーより先に、バンド名を決めたそうですね。

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清水正太郎(Vo. / Gt.):

そうなんですよ。東大井に“くらやみ坂(旧仙台坂)”という坂があるんですけど、そこが通勤路でもあったので看板をよく目にしていて「“くらやみざか”って名前のバンドいいな」とずっと思ってたんです。そこからどういうバンドにしようか自分の中で整理してメンバーを集めた形で、さっちゃん(内藤)に最初に声をかけました。

ーメンバーのどういった部分に惹かれたんでしょうか?

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清水正太郎(Vo. / Gt.):

さっちゃんは歌が上手いですし、大学で一緒にバンドをやっていたので、またやりたいなと思って。僕はせだいというバンドもやっていて、阿左美もyubioriというバンドをやっているんですけど、yubioriのライブを見てて阿左美はプレイヤーとして信頼できるなと思ったので声をかけました。堀田とは知り合いじゃなかったけど、さっき言ってた「透明少女」の“叩いてみた”映像を観ていいなと思ったし、知らない人ともバンドを組んでみたいという気持ちがあって。阿左美と堀田は中学の幼馴染だったので、紹介してもらいました。
 
ドラゴン(フクダ)はサークルの後輩で、新しいバンドを始めることを仄めかしたツイートを(当時のTwitterで)したんですね。そうしたら彼から「興味があります」「荒波に揉まれたいです」ってLINEが来て(笑)。メンバー5人にする発想はなかったんですけど、面白そうだしいいかと思って加入してもらうことになりました。オリジナル曲のバンドは初めてだったんだっけ?
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フクダリュウジ(Gt.):

そうだね。サークルではコピーバンドしかやってなかったから、バンドをやりたくてムズムズしていたんです。そのツイートを見て「乗るしかないな、このビッグウェーブに」って。
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一同:

(笑)
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フクダリュウジ(Gt.):

ビッグウェーブというのも、せだいとyubioriのやりとりをSNSで見ていて「何かムーブメント的なものが起きるんじゃね?」と感じたからで。ダメ元で連絡を入れてみたら、意外と「いいよ」って言われました。
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清水正太郎(Vo. / Gt.):

ドラゴンとも10年来ぐらいの付き合いで、彼がバンドを立ち上げようとしてポシャったりしたのも知っていたんです。僕は、バンドをやりたい人は全員何かしらの形で絶対やれたほうがいいと思っているので、「後輩やし入れたるか」という気持ちで入れましたね(笑)。気心の知れた仲というか、彼の好きな音楽への信頼もありましたし、問題ないかなって。

ー最初に全員で集まったときのことは覚えていますか?

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清水正太郎(Vo. / Gt.):

段取りがぼやけちゃうとポシャるなと思ったので、最初にみんなが合わせられる曲を1曲作ろうと思って。それでできたのが「farewell」なんです。頭から最後まで完成したデモを「とりあえずこの曲だけ覚えてきてください」ってみんなに提出して、スタジオで合わせたら感触が良かったので「いけるな」と思いました。
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内藤さち(Vo. / Gt.):

私は「このバンドいけるぞ!」みたいな感じじゃなくて、シンプルに「めっちゃええやん」って思いましたね。ふたり(阿佐美・堀田)と初めて会ったドキドキ感もあったけど、「楽しいじゃん!」っていう純粋な気持ちだったのを覚えてます。
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堀田庸輔(Dr.):

言語化するのは難しいけど、僕はそれまで他でやっていたサポート活動の延長で、与えられた音源を「上手いことやらなきゃ」っていうのが先行してたんです。そのときはライブじゃなくて「音源を作る感じになると思う」と言われていたので、「頼られてるし頑張るぞ!」って。だけど実際にスタジオに入ったら、すごくいい雰囲気でできてよかったと思った記憶があります。

ー職人気質なんですね。

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堀田庸輔(Dr.):

そんな大層なものじゃないです(笑)。そういう考え方の癖というか、必要にされてることに存在意義を見出しちゃうので。でも、今の心境は違いますね。自分がどう思われるかとか、自分の気分を良くするためにはやってないです。清水くんから曲が来た時点でもうちゃんと楽しい。いつもそれを「どうしてやろうかな」と思ってますね。

ーフクダさんと阿佐美さんは、初めてのスタジオでどんな気持ちを抱いていましたか?

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フクダリュウジ(Gt.):

僕は初めてのバンドだったんで、ワクワクをしながらも緊張のほうが大きかったなって。彼(清水)の作るデモはほとんどフレーズが作られていて、リフとか曲の華となるフレーズが絶対にあるんですよ。そこをちゃんと弾けるのかとか、「ここはたぶん自分で考えろってことだな」とか思いながらやってみて。
 
今もそうなんですけど、新曲ができたときは一回それを弾いてみて、顔色を伺うんです(笑)。それは悪い意味じゃなくて、清水正太郎というギタリスト的に、自分が弾くフレーズはオッケーなのかなっていうのを知りたいからで…でも当時はすごく緊張しました。あとは、もともと知り合いのメンバーもいるし、リズム隊のふたりとは同い年なので、緊張がありつつもワイワイできたのが嬉しかったです。
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阿左美倫平(Ba.):

僕も「楽しい」しかないですね。「ええや〜ん」って(笑)。例えて言うなら、楽器を弾き始めて初めてみんなでバーンって音を出したみたいな、ああいう新鮮な感じだったかなと。みんなデモをちゃんと練習してきてて、曲を普通に通して終われたんですよ。コピーバンドとかだと、展開を覚えて来てないとかあるじゃないですか。「やべえ曲止まっちゃった」みたいな(笑)。
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堀田庸輔(Dr.):

あの気まずさ、嫌だよね(笑)。
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阿左美倫平(Ba.):

ドラムが止まらなきゃなんとかなるから、そこは堀田くんがちゃんとやってくれました。曲が一発目で合わせられて成立してる感じが楽しかったし、僕はホント能天気なので「もうこの状態でレコーディングしに行けるんじゃね?」って。
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内藤さち(Vo. / Gt.):

気持ち的にはね(笑)。
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阿左美倫平(Ba.):

みんなポジティブな感じではありました。

ースタジオで曲が通ったときのホッとする感じ、わかります。全然通らなくて行き詰まったときは休憩しまくるとか。

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フクダリュウジ(Gt.):

でも、すごい休憩多かったよね。
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阿左美倫平(Ba.):

そうだったねぇ(笑)。
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内藤さち(Vo. / Gt.):

めちゃくちゃ休憩してた(笑)。
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清水正太郎(Vo. / Gt.):

ライブする気もなかったしね。

ー「とりあえず音源を作ることができればいい」みたいな?

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清水正太郎(Vo. / Gt.):

そうですね。だから大嘘になっちゃったんですけど。
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一同:

(笑)

kurayamisakaを観た人がバンドを始めたくなってくれたら一番嬉しい

ーみなさんがkurayamisakaで音を鳴らすとき、意識してることを教えてください。

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阿左美倫平(Ba.):

なめられたくないなって(笑)。
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一同:

(笑)
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阿左美倫平(Ba.):

音源を聴くと、「淡々と演奏してる感じなのかな」というイメージを持たれることがあるみたいで、そこをいい意味で裏切りたくて。めちゃくちゃ下手(しもて)のふたりが頭振ってるし、ガチャガチャやってるみたいな。そういう意味での「なめられたくない」で、ギャップをいい感じに表現できたらいいなとずっと思ってます。「ライブはライブ、音源は音源」という感じで作ってるので、自分はそういうところを心がけてますね。

ー実際、ライブパフォーマンスを観てビックリした人間がここにいます(笑)。

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阿左美倫平(Ba.):

ありがとうございます。それこそ(ルーツの)cinema staffも暴れてて、しかも演奏がうまいっていう。そういうのに憧れていたし、kurayamisakaを始める前から自分はそういうプレイスタイルだったので、好きにやらせてもらってますね。
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フクダリュウジ(Gt.):

僕も阿左美と同じ考え方ですね。cinema staffとsyrup16gとか、阿左美と共通して好きなバンドも多いですし、プレイリストで選んだTHE NOVEMBERSも暴れて演奏するスタイルなので、ライブをする上でそういうパフォーマンスは意識してます。淡々と弾くのももちろんいいんですけど、せっかくお客さんの前に立ってるので、視覚的に情報量が多くて音もデッカくしたいなって。“自分も楽しいし、お客さんも楽しい”というのは意識してますね。
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堀田庸輔(Dr.):

なかなか言葉にするのが難しいですけど、みんなが独自のプレイスタイルを持ってくれてるから、僕は冷静さを意識してます。
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フクダリュウジ(Gt.):

でも堀田はライブ中に突拍子のないアレンジをするよね。
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内藤さち(Vo. / Gt.):

本番で急にやるよね?
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堀田庸輔(Dr.):

そう、だから言い方が難しい(笑)。空気を読むと言うと語弊があるかもしれないですが、冷静にその場の雰囲気を感じて、自分もどれだけ羽目を外していいか考えるようにしてます。遊んでいい雰囲気だったらバカみたいに遊ぶし、でも冷静になりすぎて萎縮しちゃったら意味ないので、メリハリですね。僕のリズムでみんなが楽しんでくれてるんだったら「じゃあ僕も好きにやっていいね」みたいな。それに、バカなことをやってもみんな「お前、今のなんだよ!」みたいに怒らないんですよ、基本は。

ー“基本は”?

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堀田庸輔(Dr.):

MCで勝手に喋ること以外は(笑)。「喋る前に相談しろよ」って言われるという。
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一同:

(笑)
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堀田庸輔(Dr.):

あと、「このバンドはドラムがうまい」っていう感想が、SNS上にできるだけ出ないようにしたくて。ドラマーが悪目立ちしないように意識しているというか、それさえなければプレイは遊んでもいいかなって。

ーなるほど。ボーカルはいかがですか?

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内藤さち(Vo. / Gt.):

私は、音源でもライブでも共通して「自分の話をしない」というか、あまり自分の気持ちで歌わないようにしています。というのも、感情的にじゃなくて物語を喋ってるくらいの歌い方のほうが、日々に溶け込むなって。今まで別のバンドをやってきたり好きなアーティストの歌を聴いたりして、それがわかってきたんです。だから、歌詞の意味よりも言葉をしっかり冷静に歌うことだけを意識して、どんな気持ちでも聴ける歌にしたいなと思って、音源は歌ってます。

ー音源においては、リスナーが各々で意味を捉えられるように、言葉をしっかり歌うという。

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内藤さち(Vo. / Gt.):

そうですね。最初はライブでも同じように歌いたかったんですけど、初めてライブしたときにみんなの音がデカすぎて「これは無理だな」って(笑)。それでライブでの歌い方を考えたときに、しっかり歌っていかなきゃいけないけど、でもkurayamisakaとしてのスタンスを崩したくなかったんです。だから音源だとスッと歌ってるけど、ライブでは息いっぱい(含ん)でファッと歌おうかなって。ライブでは「こういうニュアンスもあるんだ」みたいな、違う一面を見せる感じで歌うことを意識しています。

ー清水さんはいかがですか?

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清水正太郎(Vo. / Gt.):

いつも「カッコいいライブをしたい」って言ってますけど、改めて考えてみたらkurayamisakaを観た方がバンドを始めたくなってくれたら一番嬉しいなって思いますね。「うらやましいな」「こんなの自分もやりてえな」って思ってくれたら。あとは「こんな演奏をバックにギター弾いちゃって役得だな」って感じでやってます(笑)。自分が作っているから曲を好きなのは当たり前ですけど、それを最高のメンバーが演奏してくれるわけですよ。その中で気持ちよくギターソロなんか弾いちゃって申し訳ないなって(笑)。

ー(笑)。実際、コピーやカバー動画もよく見かけますよね。

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阿左美倫平(Ba.):

めちゃくちゃ嬉しいっす。
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堀田庸輔(Dr.):

コピーしてくれた人のアレンジを「これ、いいじゃん。やろう!」って思ったりもします(笑)。
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清水正太郎(Vo. / Gt.):

やめとけよ(笑)。(動画も)全部チェックしてます。普通に嬉しいですし、その人が大事にしてる部分も見えたりしていいなって、いつも楽しみにしてます。だからどんどんコピーしてほしいですね。

時代を超えて、未来の少年少女に衝撃を与えたい

ー楽曲制作は、どのような流れで行なっていますか?

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清水正太郎(Vo. / Gt.):

何かしらのネタが思い浮かんだら、GarageBandなりボイスメモなりに落として、それを広げていく形です。基本的に僕が最初から最後まで作ってメンバーに投げて、それぞれブラッシュアップしてもらう作業の繰り返しですね。ギターリフは作りますけど、細かなフレーズとかは各々の手癖に任せちゃってます。

ーギターの弾き分けはどのように決めていますか? リードプレイはフクダさんとか?

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フクダリュウジ(Gt.):

いつの間にかそんな感じになってますね。言ってしまえば、面倒くさいフレーズを僕が弾いて、おいしいところは彼(清水)が持っていくんですよ。全然いいんですけどね(笑)。初期はそんな感じだったんですけど、最近はそこも引き続き請け負いつつ「ここはこう弾きたいな」という部分で、我を出すようになってきています。そこは(ギタリストとしての)自覚というか、活動に慣れてきたんだなっていうのを実感しています。

ー新曲「sekisei inko」も、制作方法はいつもと同じでしょうか?

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清水正太郎(Vo. / Gt.):

そうですね。自転車を漕いでいたら最初のリフが思い浮かんで、そこからデモを作ってみんなにブラッシュアップしてもらって、スタジオで“せーの”で合わせて作った感じです。

ーオルタナティブロック好きに刺さる1曲で。ギターでザクザクと刻む感じはNUMBER GIRLなどさまざまなアーティストを想起したのですが、リファレンスはあったのでしょうか。

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清水正太郎(Vo. / Gt.):

NUMBER GIRL、ART-SCHOOL、Nirvana(ニルヴァーナ)とか、いろいろなバンドから影響を受けた曲で、まさにそうというか、突っ込まれたらなんの弁解もしようがないです(笑)。
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一同:

(笑)
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清水正太郎(Vo. / Gt.):

でも、そこはもう確信犯ですね。そういう“憧れの連鎖”はかなり意識しています。たぶん、そういった(リファレンスに挙げた)アーティストたちも「俺もこれやりてぇ」みたいな気持ちで曲を作ってたと思うんですよ。先人たちが感じたその憧れを僕たちもバンドというものに感じているし、いつか「これ、kurayamisakaじゃん!」みたいなサウンドのバンドが生まれてきたら嬉しいですね。そういう妄想をしちゃいします。

ーそこが音楽の醍醐味というか、音楽の歴史って、先人の作ったものを引用したり再構築したりして紡がれていくものだと思います。

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清水正太郎(Vo. / Gt.):

「sekisei inko」も聴いた人がそれぞれが「これ、あの曲じゃん!」と思うところを見つけてくれたらいいなって。そういう聴き方をしてくれたら嬉しいですし、(リファレンス元のバンドを)知らない子たちがこの曲について調べて、元の曲を聴いてまた「かっけえ!」ってなってほしいです。

ーどこか懐かしいけれど新鮮な聴感を覚えたのは、そういった狙いがうまくハマったからなんですね。では、みなさんが「sekisei inko」の制作時に意識したことを教えてください。

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清水正太郎(Vo. / Gt.):

さっき言ったところ以外で言うと、“空気の質感がわかるぐらいギターしか鳴っていないところからバンドインする”みたいな、そういう冒頭の爆発力を音源で出せるように頑張りました。
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堀田庸輔(Dr.):

音が空く隙間に、バスドラムやタムとか低い音をギチギチに詰め込むのは意識しましたね。「ドッパン・ドドパン」みたいな8ビートの中に「ドッパン・ドドドドドパン」みたいに(16分音符より細かい音)を詰め込んだり。この曲では他の楽器はあまりテクニカルなことをしていないので、ドラムがそこと被らないように見せ場を作るとしたら、隙間に「こんなのなんで鳴らそうとしたんだろう?」みたいな音をいかに入れていくかだなって。それで、好きなことを全部やる代わりに、メンバーに「ここはこうして」と言われたことは全部従う。清水くんからもらったリファレンスを飲み込んだ上で僕の好きなことをやって、満足した上でみんなの要望を聞くっていう。
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フクダリュウジ(Gt.):

間奏のギターソロ回しで清水のあとに僕が弾くんですけど、そこにバンドの楽しみみたいなものが詰まってるなと思います。“いっせーのーせ”で音を鳴らす、かつそこでギターソロがバーンと入るのはバンドらしいし、「バンドをやるんだったらこういう曲は絶対欲しいよね」という曲が作れたことが嬉しいです。

あと、フレーズ作りにおいては「ああでもない、こうでもない」っていうのがいつも以上に多かった気がします。プリプロではなんとなく弾いてたけど、実際にプロジェクトに起こすと「ここが違う」っていう指摘が清水先生からあって。そこは反省点でもあるんですけど、さっき言った「制作で我が出せるようになった」というのは、この曲がきっかけなんじゃないかなって。今も新曲は作り続けているんですけど、この曲で清水先生からの「ああでもない、こうでもない」があったからこそ自分の中で「じゃあここならかませられるかも」っていうOKラインが見えてきたんです。だからこの曲は僕にとっても苦労した曲でもあるし、成長のきっかけを与えてくれた曲でした。
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阿左美倫平(Ba.):

逆に僕は何もしないというか、ギターがおいしい曲なので、飾るようなフレーズは弾かずに、リズムに寄る方向でギターがノリやすいベースを心掛けましたね。なのであまり派手なことはやってなくて、「ここはギターを立てたい、ここはドラムを立てたい、ここは歌を立てたい、歌詞を立てたい」っていう感じで、本当に堅実にやるというか。「sekisei inko」に関しては、そういうテーマを自分の中で持っていました。やっぱりギターが3人いるんで、なかなか全員がやりたいことをやると「何がしたいんだろう」ってなっちゃうんですよ。yubioriもトリプルギターで、今はトランペットも増えたんですけど、その経験もフィードバックしましたね。

ーその中でも、ふとした瞬間のスライドやグリスに存在感があって、グッときました。

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阿左美倫平(Ba.):

さっき清水が言っていた“バンドに憧れる”感じというか、わかりやすくベースがおいしい部分は取り入れてますね。ベースはめっちゃ簡単なんで、コピーしてほしいなって思います。そういう手に取りやすさも心がけていたところかなって。

ーベースは曲によって前に出る/出ないを使い分けていますよね。

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阿左美倫平(Ba.):

そうですね、けっこう変えてます。明確に線引きがあるわけではないんですけど、「これはいろいろ弾いたほうが面白そうだな」みたいな感じで、今はデモを聴いたときの直感的な判断で決めてます。

ーボーカルはいかがでしょうか?

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内藤さち(Vo. / Gt.):

曲がカッコいいので、ボーカルは優しく可愛く歌ったほうがちょっと切なくなるかなと思って、話しているような感じで歌うことを意識しました。『kimi wo omotte iru』は淡々とAIっぽく歌うのが合ってたので、ずっとそのやり方だったんですけど、この曲はちょっと抑揚をつけたほうが立体感が出ていい曲に聴こえるかなと思ってチャレンジしました。それで、レコーディングではおしゃべりっぽく歌うパターンも録ってみて、おしゃべりパターンが採用されたんです。

ーそれぞれプレイヤーとしての挑戦も詰まった楽曲なんですね。今後、kurayamisakaはさらに勢いを増していくように感じていますが、長期的な目標や野望はありますか?

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清水正太郎(Vo. / Gt.):

バンドの規模が徐々に大きくなってきて一番思うのは、時代を超えたいなって。高校生のときに10〜20年前のCDをブックオフの500円コーナーで買って、そこで出会った音楽に人生を変えられてしまうとか、僕らはそういうことがあった人たちで。だから今バンドをやっているんじゃないかなと思うんですけど、そういう衝撃を未来の少年少女に与えられたら一番です。それができたら死んでもいいですね。

INFORMATION

インフォメーション画像

New Single『sekisei inko』

2025年4月9日(水)リリース
〈tomoran〉

【配信リンク】https://pci.lnk.to/sekiseiinko

<kurayamisaka tte, doko? #6「くらやみざかより愛を込めてツアー」>

2025年9月27日(土)宮城・仙台FLYING SON
OPEN 17:30/START 18:00

2025年10月4日(土)北海道・札幌BESSIE HALL
OPEN 17:30/START 18:00

2025年10月11日(土)福岡UTERO
OPEN 17:30/START 18:00

2025年10月24日(金)愛知・名古屋クラブクアトロ
OPEN 18:00/START 19:00

2025年10月25日(土)大阪・梅田クラブクアトロ
OPEN 17:00/START 18:00

2025年11月9日(日)神奈川・CLUB CITTA’
OPEN 17:00/START 18:00

※全公演ワンマン

チケット:¥4,500(tax in)

▼ワンマンツアーチケット先行販売(抽選)※4月27日(日)まで
https://eplus.jp/kurayamisaka/

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kurayamisaka(くらやみざか)

東京・大井町にて結成された5人組のロックバンド。メンバーは写真左より、阿左美倫平(Ba.)、フクダリュウジ(Gt.)、内藤さち(Vo. / Gt.)、清水正太郎(Gt. / Vo.)、堀田庸輔(Dr.)。

活動開始直後、2022年3月にSNS上でアップした「farewell」の音源がたちまち話題に。同年10月には1stミニアルバム『kimi wo omotte iru』をリリースした。2024年には<FUJI ROCK FESTIVAL '24>のROOKIE A GO-GOに出演に加え、同年に実施したツアー<kurayamisaka tte, doko? "自転車で行くには少しだけ遠過ぎるかなツアー">が全公演ソールドアウト。2025年2月に東京・渋谷クアトロにて実施した初のワンマンライブのチケットも即完している。

5月から6月にかけて、ツーマンライブツアー<kurayamisaka tte, doko? #5『つま先から頭の隅に流れるツアー』>を開催予定。
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