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文: 黒田隆太朗
優雅にして魔法のような響き。松木美定の音楽には、思わずため息が溢れるような慎ましやかな感動がある。ジャズを下地に、現代のポップスの要素をブレンドすることで生まれる旋律は、さながら美しい織り物のように魅惑的だ。
衝撃的な音楽との出会いに導かれ、「自分もこのフィールドで戦いたい」と思い立ち上げたソロプロジェクト・松木美定。2018年11月に活動を始めると、SoundCloudにアップされる音源を早耳のリスナー達がキャッチ。2019年7月には出雲のレーベル、Local Visionsからシングル『主観』を発表し、同年9月には時を同じくして活動を始めた宅録音楽家、浦上想起とユニット形式でライヴ活動も展開。完全自主での活動ながら、インディシーンでじわじわと話題を集めていった。
年が開けた2020年2月には、代表曲となる『実意の行進/焦点回避』を配信リリース。コロナ禍でライブ活動はストップするも、12月に『おぼろの向こう』を発表するなど、マイペースだが着実にその地盤を築いていっている。
今回のインタビューでは、幼少から活動を始めるまでに出会ったルーツ・プレイリストをまとめてもらい、彼の音楽遍歴を辿りながらその表現の根幹を探ってみた。40年代以降のビバップやハードバップを起点に、20年代のミュージカル・スタンダードのエッセンスを取り込み、現行の国内ポップシーンと共鳴するこの音楽は、さまざまな音楽の交差点である。心弾むようなポップスを作る松木美定に話を聞いた。
ールーツとなる楽曲をまとめたプレイリストは、出会った順番に並べられているそうですね。
小さい頃から松木を始める頃までに出会ったプレイリストです。親の車で流れていたのが上のふたつで(村下孝蔵の「踊り子」とCarpentersの「There`s A Kind Of Hush」)、父親の車ではフォークソングが、母親の車では洋楽やクラシックがかかっていました。
ー音楽が好きなご両親なんですね。
特に母親が音楽好きで、情操教育の一環かわからないですけど(笑)、クラシックや洋楽は幼少の頃からよく聴いていました。僕の血的にはCarpentersの方が合っていたみたいで、Carpentersは自分からもお願いして流してもらっていましたね。そこからポップな魂をもらったんじゃないかなと思います。
ーQueenの「You’re My Best Friend」は?
ここから一気に飛ぶんですけど、Queenを聴き始めたのは高校生の頃です。小学生くらいまでは車の中で流れていたら聴くけど、そんなに音楽が好きではなかったんですよね。それから中学に上がると、周りが聴いているポップスに合わせなきゃと思って、無理やりJ-POPを聴いていたんですけど。当時の僕には面白いとは思えなくて。
ー馴染めなかったと。
それで中学くらいまではグッとくるものがなかったんですけど、高校生に上がった頃に友達にQueenを勧められて。Queenの中に小さい頃から聴いていたクラシカルなコード進行を見出したのか、僕も彼らの音楽を聴くようになったんですよね。「You’re My Best Friend」はクラシカルな要素のある楽曲ではないんですけど、この曲にグッときて他の作品も聴くようになりました。今の松木にどう影響しているかはわからないですけど、能動的に音楽を聴くきっかけをくれたのがQueenでした。
ー当時音楽はやられていたんですか?
一応中学から吹奏楽をやっていたんですけど、人口の少ない街だったので、部活に入らない手がなかったんです。で、絶対に部活に入らなきゃいけないとなった時に、野球部か吹奏楽部しかなくて。野球部に入ると100%坊主にさせられるのが嫌だったので、無理やり吹奏楽部に入りました。
ーなるほど。
そこからトランペットを始めて、高校まで吹奏楽部に入っていました。吹奏楽での経験は、確かに譜面を読むことには役立ちましたが、どちらかと言うと青春を謳歌するための活動だったので、音楽を愛していた感じではなかったです。
ーでも、楽しい青春時代だったんですね。
そうですね。高校の吹奏楽は軍隊みたいな部活だったんですけど、そのストレスの反動か、放課後に吹奏楽部のメンバーでジャズバンドをやっていました。
ー次のBud Powellからは、ジャズの楽曲が続きますね。
大学に上がるとジャズ研に入ったんですけど、先輩が演奏しているBud Powellの「Oblivion」を聴いて僕の人生が変わりました。こんな恥ずかしいこと言いたくないんですけど…その曲を聴いた時に電撃が走ったんですよ。
ー雷に打たれちゃったと。
Bud Powellに限らず、ビバップにはクラシックの音使いがかなり入っていて、そこが昔聴いていたクラシックと合致したのか、こんなに素敵な曲がこの世にあるのかと思いました。「Oblivion」は凄くエレガントな音使いで、ドラムとベースとピアノという少ない編成にも関わらず、凄くゴージャスな演奏になっていて、その素晴らしさに触れた時謎の悔しさが出てきたんですよ。
ー自分も作りたいと思ったんですね?(笑)。
そうです。自分で音楽を作るなんてそれまで一切考えたことがなかったんですけど、僕も作曲をしたいと思いました。Bud Powellに憧れてピアノを始めて、コード進行も知らないまま、彼の曲をコピーするうちに音楽理論を学んでいって。だんだんと理論がわかってきた頃、大体2013年くらいからバドのフレーズを拝借して作曲を始めました。
ーHorace Silverはハードバップを代表する音楽家ですね。
Bud Powellを導入剤にして、それまで聴いたことのなかったビバップの美しい音使いに惹かれていったんですよね。こんなに素晴らしい音楽があるのなら知らない手はないってことで、40年から50年代の有名アーティストを手当たり次第につまみ食いしていくんですけど、そこで突き当たったのがHorace Silverです。
ーどこに惹きつけられたんですか?
彼はBud Powellよりファンキーで、ポップなんです。僕は明るい音楽が好きなので、バドの血をなんとなく感じつつも、彼の曲のポップさに新しい要素を見出したんだと思います。あと、2014年くらいに大阪でInternational Jazz Dayというイベントが開催されたんですけど、そこで見たDee Dee Bridgewaterというジャズボーカリストが凄く素敵な曲を歌っていて、調べてみたらそれもHorace Silverの曲だったんですよね。
ーそういう出会いもあって、惹かれていったんですね。
そうです。しかも、Horace SilverはBud Powellよりも作曲に力を入れている感じがあるんですよ。
ーつまり、今のご自身の作曲にも影響がある?
とんでもなくあります。たぶん、作曲に関しては一番影響を受けていると思います。「実意の行進」という曲には、一番と二番の間に4小節くらいの間奏があるんですけど、そこではHorace Silverのフレーズがそのまま使われていたり、彼の曲は今でも教科書のように聴き返しています。
ーJo Staffordはビバップやハードバップよりも、さらに時代を遡りますね。
ホルスを研究しつつ、ジャズ研の活動もやっていくんですけど、セッションしていく内にいわゆるスタンダード曲…1920年から30年代くらいのミュージカルや映画音楽で使われていた、凄くシンプルでメロディが良い曲の良さに気づき始めていくんですね。それまでは楽器の跳躍や複雑なリズムを吸収してきたんですけど、Jo Staffordらが歌っている美しいメロディの美学に惹かれていって、そこからミュージカルスタンダードにハマり始めました。
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