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文: 高木 望 編:Miku Jimbo
2024年7月3日、音楽プロジェクト・TALLAによる新作EP『青に抱かれて』の配信がスタートした。
’80年代〜’90年代のシティポップを土台としながら、夏の爽快感を6曲のポップチューンで表現した、トレンディドラマのような匂いのする作品集。しかし彼らが自身の音楽を“5Gポップ”と表現するように、それらは決して当時の再現ではなく、令和の新たな音楽のエッセンスを加えようとしている。
基本的にオンライン上でやりとりし、楽曲制作を行っているというTALLA。シティポップ・リバイバルが成熟期を迎えた現在、なぜ彼らは「古き良き時代」の音楽に独自の解釈を加え、アップデートを追求するのだろうか。
今回はフロントマンであるボーカル・平石英士に、TALLAの結成経緯や新作EPに込めた意図、そして今後の展望について話を伺った。
ー平石さんは、音楽活動を始めてどれくらいになりますか?
だいたい10年くらいです。高校1年生で同級生からバンドに誘われ、ボーカルを担当したのがきっかけでした。
ーそれ以前から音楽を聴くこと自体は好きでしたか?
好きだったと思います。親の影響もあって阿部真央さんはずっと好きでした。あとはディズニー・チャンネルを機に知ったMiley Cyrus(マイリー・サイラス)も聴いたりしていました。ただ、自分から好きな音楽を積極的に調べて聴くようになったのは、中学1〜2年生くらいです。
ー当時、影響を受けたアーティストは?
特に好きだったのはRADWIMPSでしたね。全アルバム・全シングルの楽曲を聴いているくらいには今も好きで。それこそ高校で組んだバンドでもコピーしてました。
ーRADWIMPSの曲だけやっていたんですか?
RADWIMPSをやることもあれば、Green Day(グリーン・デイ)をやることもあったし。ONE OK ROCKやP.T.P.(Pay money To my Pain)などシャウトやスクリームが入った曲をやることもありました(笑)。僕含めてメンバーは5人いたので、メンバー各々がやりたい曲を順番にやっていった感じです。
ーでは、当時のバンドではオリジナル曲を作らずに?
それが、コピーをしていたのは結成した最初の1年だけです。当初は全然ここまで続けるなんて思ってもいなくて。文化祭に出られたら解散するつもりでした。
ーそこからオリジナル曲を作るようになったきっかけは?
あるとき、高校生のコピーバンドが集まるイベントに行ったんです。神戸・三宮にあったスタークラブというライブハウスで(※現在は閉店)、ちょうどメンバーの友達が出演するタイミングがあったんですよね。
いかんせん軽音部のない学校だったのもあり、同世代のバンドがどんなレベルなのかを全然知らなくて。それで偵察も兼ねて遊びに行ったら、出演しているバンドがどれもめちゃくちゃ上手かったという(笑)。
ー火が付いちゃったわけですね。
目標も文化祭どころではなくなっちゃいました。猛練習して、文化祭より先にライブハウスに出ることを目指すようになったんです。オリジナル楽曲も、その流れで作り始めるようになりました。
そして結成して半年後、高校1年生の終盤には無事にスタークラブでライブハウスデビューを飾れたという。
ーライブハウスに行ったことが運命の瞬間だったのかな、とお話を聞いていて思いました。
本当にあのときスタークラブに行ってよかったです(笑)。しかも当時組んでいたバンドメンバーの中には、TALLAのメンバーであるたら(Dr.)と冨田(Gt.)もいて。ある意味でTALLAの前身のような活動でした。
ー当時作っていたオリジナル楽曲は、現在TALLAとしてリリースしている楽曲とスタイルも近かったですか?
いやー、近くはないかもしれません……。実はギターロックをずっと作っていました。ただ、当時からメロディと歌詞は主に僕が担当し、作曲は冨田が中心でした。編曲だけメンバー全員でやっていたかな。
大学に上がるタイミングでメンバーが1人抜けて4人体制になったのですが、特にその頃の音楽はストレートなギターロックでしたね。
ー確かに「近い」とは言えないかもしれませんね。
ただ「まったく違う」というほどでもなかったと思います。ギターロックだけど、どこかしらでポップな音を追求しようとはしていました。まさに今の僕たちが模索している“5Gポップ”に通じる要素は、当時から入っていた気がします。
ー “5Gポップ”というバンドのキャッチフレーズは、どういった経緯で決まったんですか。
前作のアルバム『HADAGI』をリリースするタイミングで決まりました。過去の音楽に現代のエッセンスを混ぜ込んだ音楽作りを目指すという意味で「新しさ」を表現したくて。
いかんせん深夜2時くらいにメンバー同士で話し合って生まれたキャッチフレーズなので、時間が経つにつれ恥ずかしく感じてきたんですけど(笑)。
ー良いキャッチフレーズだと思います。でも、今のようなシティポップの要素を取り入れた作風にはどうやって辿り着いたのでしょうか?
大学在学中の2019年、たらと冨田が「ポストロックやオルタナの曲をやりたいから」と、別のバンドを掛け持つようになったんです。その流れで、一旦高校からスタートしたバンドは解散しました。
でも、冨田たちが掛け持っていたバンドもそこから1年くらいで解散したんですよね。冨田から「一緒に音楽をやろう」と声をかけてもらったのは、そこからさらに1年後の2020年。2年ものスパンを経て、気づけば冨田は作風がシティポップになっていました。
ー「オルタナをやりたい」と飛び出した仲間が、シティポップ好きになって帰ってきた、と。
冨田がシティポップにハマった経緯はよくわからないんですけどね(笑)。ただそのときに「クリスマスソングを出したいから声を乗せてほしい」と冨田の持ってきたトラックは、山下達郎さんをはじめとするシティポップに影響を受けた音楽でした。
ー当時、平石さんご自身はシティポップを聴いていましたか?
知ってはいたけれど、そこまで傾倒していたわけではありませんでした。でも冨田が用意してきたデモがめちゃくちゃ良くて。レコーディングを機に、冨田が影響を受けた楽曲を聴くようになりました。
そのうち僕と冨田、2人の音楽プロジェクトという体裁でTALLAが結成され、高校時代のバンドメンバーだったたらにも「アレンジの協力をしてほしい」と声をかけるようになって。そこに森重(Ba.)も加わり、次第に今の編成へと整っていった、という流れです。
ーいわゆる「シティポップ」をそっくり踏襲するわけではなく、“5G”の音楽として昇華する意識がどうやって芽生えたかも気になりました。
’80〜’90年代の音楽をそのままリバイバルしても、ただの懐古的なものになってしまうじゃないですか。加えて僕たちは当時を生きていたわけでもないし、当時と同じ機材を使って音楽をやっているわけでもありません。
同時に僕たちは基本的に性格が捻くれているとも自覚していて(笑)。ベタなことをあまりしたくない性格のメンバーが、良くも悪くも集まっていました。文字通り「そのまま」再現することは不可能だからこそ、「今しかできない」音楽を新たに生み出したほうが面白いはず、という考えに至ったんです。
現代の僕らが感じる「当時の音楽の良さ」を、僕たちなりのフィルターを通して抽出すること。そしてリアルタイムの流行を取り入れながら、新たな音楽として落とし込んでいくこと。そこに僕たちは一番の楽しさを感じています。
ー現在はメロディと歌詞作りを平石さん、作曲を冨田さんや森重さん、たらさんが手がけていますよね。平石さんが歌詞やメロディを作るときに“5G”を意識することはありますか?
「ありきたりになってないか」は間違いなく気にしています。思いついたアイディアも「なんか聴いたことがあるかも」と感じたら、ボツにすることが多くて。
とはいえ、馴染みのない言葉や常軌を逸したメロディは作りたくない。そのバランスを意識しながら作っている、という感覚はあります。あとは冨田たちからトラックを受け取ったとき、自分が面白さを感じたポイントをどう活かすかを意識することが多いです。
ー平石さんがメロディや歌詞を先に用意する、というわけではないんですね。
バンドをやっていたときは、僕が作ったメロディと歌詞に曲をつけてもらうこともありました。ただ、僕の作るメロディは結構クセが強くて(笑)。どうしても一辺倒になっちゃうんですよね。
さまざまなテイストやジャンルを取り入れようと意識した結果、自然とトラックが先行するような制作の手順になりました。曲によっては、メロディまで彼らが用意していることもあります。
ー楽曲が送られてきたとき、メンバーとはどういったコミュニケーションを取ることが多いですか?
曲のデータと一緒に「お題」が届くこともあるし、僕から彼らに相談することもあります。
たとえば今回のEPで言うと「DTtN」は、作曲を手がけた冨田から「ネオソウルのようなビートやノリ感、グルーヴを意識している」と言われましたね。実際に何曲かリファレンスも送られてきました。
ーおお、どんなリファレンスが?
The Whispers(ウィスパーズ)の’80〜’90年代くらいの楽曲や、Earth, Wind & Fire(アース・ウインド & ファイアー)、Diana Ross(ダイアナ・ロス)などです。「DTtN」を作っている間は、この3組を聴き込んでいました。
ー最終的にそのリファレンスを、平石さんはどのように解釈してアウトプットしましたか?
歌詞で用いる言葉のリズム感に反映しました。この曲に関しては、リズム重視で歌詞を紡いでいったなと思います。めちゃくちゃ難しかったです。
ーお題が作曲の段階で固められた曲もある一方、平石さん自身の独自解釈に委ねられた曲もありそうですよね。
2曲目の「硝子の踊り子」がそうかもしれません。最初に聴いたとき、恋人同士のドラマを描くような、具体的なイメージを感じたんですよね。
特に今回制作したEPは“夏”と“ドライブ”にフォーカスさせる方向で動いていたので、「硝子の踊り子」は大きな舞台としてその情景を用意しながらストーリーを紡いでいきました。
ー今回のEP『青に抱かれて』には全6曲が収録されていますが、その中でもコアになっている楽曲を挙げるなら?
最初にパンッて生まれたのは「イニシエイション・ブルー」です。リリース前に身近な人に聴いてもらい、反応が良かったのもこの曲でした。“夏”と“ドライブ”というテーマを如実に表現できた一曲だと思っています。
ーそもそも、なぜ “夏”と“ドライブ”というテーマを今回は選んだのでしょう?
前作の『HADAGI』では自分たちの興味と正直に向き合いながら制作できた一方、「まとまりのなさ」を感じる仕上がりになってしまったんです。マイペースな自分たちを安定させるための錨として、今回はまずテーマを決めることにしました。
そのなかでも「夏っぽい」「ドライブに合いそう」っていうシチュエーションを前提にすれば、聴いてもらいやすいのではと考えました。それで“夏”と“ドライブ”に至った、という経緯です。
ーでは、今後のリリースでも明確なテーマを都度決めていく方針ですか?
必ずしもテーマを設けるべき…とまではいかないです。でも、僕たちは大前提としてまだライブをやっていないんですよね。
まだライブを通して根強いファンを獲得していないからこそ、初めて聴いてくれる人のことを考えると、ある程度の軸を用意したほうが触れてもらいやすくなるかな、とは思っています。
ー近い将来、ライブをする予定はありますか?
いずれやりたいとは思ってます。やっぱり大勢の人たちと同じ時間・空間を共有できる瞬間がすごく好きなので。
でも、しばらくは楽曲制作に専念ですかね。高校から大学までの経験上、僕たちは一度ライブを始めると、ライブを中心とした活動に偏っちゃうのが目に見えているから(笑)。
ーセーブすべき時期、と判断したんですね。
セーブというより、むしろ楽曲制作へ全振りする時期かなと判断してます。
今、みんな曲作りへのモチベーションがすごく高いんです。いい意味でマイペースに、無理のないよう音楽と向き合い続けたいからこそ、ライブはある程度時期を空けてからやりたいな、と考えています。
ー今後、TALLAとして挑戦してみたいことはありますか。
今まで作曲の比重が冨田に寄っていたので、徐々に本当の意味で「4人で音楽を作って」いきたいです。次のアルバム/EPは今年の冬に出す予定なのですが、そのときは僕も作曲やミックスに挑戦していきたいです。
あと個人的な目標になるのですが、音楽の消費が加速している気がしていて。そこで何かしらの良い変化を生み出せるような立場にはなりたいんです。……大袈裟なことを言っちゃったかもしれません(笑)。
ー素晴らしい目標だと思います。
ありがとうございます(笑)。でも僕の中で少なくとも、音楽は心の支えというか、安定剤になっているんです。音楽を介して救われる瞬間は多々ありました。
今、僕らが音楽をやることは自己満足かもしれません。でも僕がそうやって救われたように、誰かの心や思い出の支えになるような音楽を続けていきたいです。「こういうときにこの曲を聴きたい」「この曲を聴くと思い出が蘇る」みたいな音楽を、たくさん発信したいと思います。
INFORMATION
2nd EP『青に抱かれて』
〈TALLA〉
2024年7月3日(水)リリース収録曲
M1. イニシエイション・ブルー
M2. 硝子の踊り子
M3. 夏に抱かれて
M4. 浪漫避行
M5. DTtN
M6. ユースラビリンス
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