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文: 保坂隆純 写:Demukai Yosuke 編:久野麻衣
台湾人の父親のイングリッシュ・ネームを由来とする印象的なアーティスト名と、ブラック・ミュージックをルーツとするグルーヴィな音楽性、そしてそれを日本語を軸としたポップスに落とし込んだ楽曲で注目を集めるDinoJr.。その手腕は“ 新鋭”といった言葉が似つかわしくないほどにウェルメイドだ。
2ndアルバム『2091』を今年1月にリリースして以降も「Hello Strange」、「Magic Hour」と立て続けに新曲を発表しているDinoJr.にインタビューを敢行。コロナ禍中のリアルな本音と、音楽家としてこれからの時代を走り抜く秘訣を訊いた。
ーこのコロナ禍以降の動きについて教えて下さい。外出自粛期間中はどのような活動を行っていましたか?
外出自粛に伴いインプットも減って、中々オリジナル曲が作れなくなりました。そんな中、星野源さんの「うちで踊ろう」が流行った時、映像表現のおもしろさに気づいて。僕も真似しようと思ったのですが、他の人がやっていないことをやりたいなと。考えた結果、全部自分の声だけで有名な曲をカバーした映像をUPしたりしました。
そしたら意外と反響もあって。普段通りに活動していたら中々届かなかった人たちにもアプローチできた手応えを感じました。ある意味、自分の活動を見直すきっかけにはなったかなと思います。SNSの使い方だったり、自分のことを知らない人に届けるためにはどうすればいいのかなど、改めて考えるようになりましたね。
ーなるほど。
中でも、カバーさせてもらったアーティストさんご本人が反応してくれることもあって。まさに今の時代ならではですよね。元々、コロナ禍が起きる前から、ライブ・メインでの活動に対する疑問もあって。昔は小さいライブハウスで徐々に知名度を高めていくっていうのが当たり前だったと思うんですけど、今はネットで注目を集めてから、満を持しての初ライブっていうパターンも珍しくないですよね。そういった今日的な構造の一端を垣間見れたような気もします。
ーこのような状況下において、ポジティブな発見もできたと。
はい。でも、もちろん最初はずっとモヤモヤしていました。というのも、このパンデミックって、ある日突然起こったわけではなく、緩やかに、徐々に影響が出始めましたよね。現実は予告もなしにこんなにも変わるのかって感じで、中々受け入れることができなった記憶があります。でも、現実的にはライブもなくなって、外出も自粛せざるを得ない状況になった。すごく不透明でわからないことばかりの中で、音楽シーンは世の中のガス抜きじゃないけど、槍玉に挙げられたような気がしましたし。
ー科学的にもまだ解明 されていないことが多いし、 国からの発表も曖昧 。それ ぞれの意識にも 大きな ズレ があり、世の中的にすごく嫌な空気が流れていましたよね。
3月頭に僕、BREIMEN、Kroiの3マン・ツアーがあったんですけど、開催の判断がすごく難しいタイミングで。色々な準備もしていたので、僕らは決行という判断を選択したんですけど、やはり批判の声もあって。メンバーも傷ついていました。周りのミュージシャンとも「これからどうしていこうか」っていう話をよくしていましたし、みんな不安を抱えていましたね。
特に僕が仲良くしているミュージシャンって、セッションや色々なアーティストのライブ・サポート、あとはレッスンなどで生計を立てている人が多くて。経済的なダメージも大きいと思います。
ー7月にリリースされた「Hello Strange」は、まさしく今おっしゃっていたようなことがリリックとなった曲ですよね。昨今の新 型コロナウイルスによって社会 での 居場所“を失ってしまったミュージシャンを”Strange=変わり者”と例え、それでも臆さず表現を続けていくという。
東京都に緊急事態宣言が発令されていた時、無観客配信などで関係者がライブハウスに行っていただけで「自粛してください」という張り紙が張られるっていう出来事を目にした時、怒りもあるんですけど、それと同時にすごく悲しい気持ちになって。もちろんミュージシャン、音楽関係者も最大限注意を払わなければいけないとは思うのですが、あまりにも世間の理解のなさに、やるせなさを感じました。
ーリリックにはそういったフラストレーションが表現されていますが、それを軽快かつポップなトラックに乗せ、 エンターテインメントに昇華しているのがお見事だなと。
やっぱりライブで披露した時のことを考えてしまって、曲調は自然とああいう感じなりました。ただ、ポップで明るいサウンドに、100%ポジティブなリリックを乗せるのは、自分はやらなくてもいいかなって思っている部分があって。元々根暗な側面もあるので、自分の作品には明るいけどふとした時に憂いが感じられるとか、そういう曲が昔から多いんです。ある意味ブルースとリンクするというか。日々辛いことがあるけど、それでも生きていこうぜっていう。そういうメッセージは無意識に出ていることが多いかもしれません。
ー制作は外出自粛期間だったこともあり、ミックス/マスタリング以外は全てご自身で手がけたそうですね。こういった作り方は初めての試みですか?
はい。人に会えなかったので、全ての楽器演奏、アレンジ、プログラミングを自分で手がけて、自宅で完結しています。実は2ndアルバム『2091』に収録した「YAWN ft. MC SCARF」も同じような作り方で完成させているんですけど、それは結果的にそうなっただけで。というのも、最初はバンドでレコーディングしたんですけど、どうもしっくりこなくて。ただ、僕はインディペンデントで活動しているのであまり予算もなく、レコーディングし直すのは難しい。ということで、苦戦しながらも自分でいちから作り直したんです。
なので、最初からひとりで作り上げることを念頭に置き、プロセスを頭に思い浮かべた状態で制作に臨む。そういった方法は「Hello Strange」が初めてでした。今後のことを考えると、自分でできることはどんどん増やしていきたいと思うので、こういった作り方はすごくいい修行になります。
ー大変だけど、得るものは多そうですね。
そうですね。元々僕はセッションにもよく参加していたんですけど、そういったところで凄腕のミュージシャンをたくさん観ていて。彼らのようなミュージシャンにお願いすれば一瞬で終わるような作業を、自分で何時間もかけて行う。それは確かに苦行なんですけど、やっぱり自分の頭の中で鳴っている音を再現するのは、自分が一番上手いはずで。苦労して自分だけで完成させた作品は本当に誇りに思える仕上がりになるんですよね。
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