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文: 黒田 隆太朗 写:Yosuke Demukai
ユニークだ。民族音楽やジャズ、ワールド・ミュージックを愛聴していた親と、インディシーンに鋭いアンテナを張っていた姉に囲まれて育ったermhoi。彼女は民放が映らなかったために海外の音楽に傾倒していたというエピソードも含めて、とにかく独自のルーツでその音楽観を育んできた。実験精神溢れる彼女の創作は、こうしたバックグラウンドによって支えられているのだろう。
当時は知る人ぞ知る存在だったが、今から4年前にリリースされたデビュー作『Junior Refugee』には、既に聴く者の心酔させる魔力が備わっていた。そしてご存じの通り、今や彼女は様々なプロジェクトに関わる特別なキャリアを送っている。インディシーンで強烈な存在感を放つBlack Boboiを結成し、日本中を席巻しているKing Gnuの常田大希のプロジェクト・millennium paradeのヴォーカルを務めるなど、ヤバい音楽の震源地で輝かしい活動を繰り広げている。唯一寂しさを感じるのは、ソロ作のリリースが件のアルバム以降「Oh Men」の1曲しか出ていないことだが…今は溢れるクリエイティヴを様々なフィールドに注いでいる最中で、来年以降さらなる飛躍を遂げることは間違いないだろう。エレクトロニカやアンビエント、インディロックやジャズ、ワールド・ミュージックやバルカン音楽までを飲み込んできたermhoiのルーツを辿った。
ー一番最初に音楽に触れた記憶はなんですか?
具体的にこれっていうものはないんですけど、ぼんやりした記憶にあるのは、家族とお祭りに行って聴いた音楽や、車の中で聴いていたものですね。親に連れられていった、佐渡島に太鼓を専門としているお祭りでソウル・フラワー・ユニオンを聴いたのを覚えています。母がエスニックなものが好きだったので、家でもソウル・フラワー・ユニオンや上々颱風(シャンシャンタイフーン)が流れていましたね。
ー今回ルーツの楽曲をまとめていただいたプレイリストを作っていただきましたが、民族音楽やワールドミュージックが目立ちますね。
親が土曜の朝にNHKでやってるピーター・バラカンの番組と、ゴンチチがやってる「世界の快適音楽セレクション」っていうラジオをよく聴いていたんです。どっちも幅広いジャンルをセレクトしている番組で、土曜の朝はいつも民族音楽やワールドミュージック、R&Bやジャズが流れていきたので、私には民族音楽やワールドミュージックが凄く身近なものでした。
ー身体に馴染んでるんですね。
中学校に上がってからは、Youssou N’Dour(ユッスー・ンドゥール)のアフリカからアメリカに行き、ルーツを逆戻りするドキュメンタリー映画を家族で見に行った時に衝撃を受けて。Oumu Sangare(ウム・サンガレ)のCDを自分で買ったんですよね。アフリカの音楽を何でもいいから買いたい!って感じでCDショップに行って、最初に並んでいたのがその方のCDでした。
ーなるほど。BeirutもUSのインディ・バンドですが、バルカン音楽を取り入れているバンドですね。
そうですね。Beirutはバルカン半島の音楽と、フランスの公園でオルゴールを回しながら歌ったりするようなシャンソン的な音楽と、メキシコのマーチング音楽が混ざってると思うんですけど。私がトランペットをやっていたこともあって、バルカンブラスにめちゃくちゃ惹かれました。テクニカルすぎてちょっと笑っちゃうぐらい面白くて。そんな流れで高校から大学時代は民族音楽の音程がぴったりあっていなくても独自の美しさを滲み出している音楽に興味を持っていました。今は自分の音楽を作るほうが先行しちゃってますが、いつか旅に出て民族音楽に触れまくる日々を送ることがいまだに夢です。
ーちなみにプレイリストは多くが洋楽ですが、やっぱり海外のものにシンパシーを感じることが多かった?
日本の音楽でも好きな人がいれば聴きますが、確かに海外の曲ほうがグッとくるものは多いです。
ー何が理由だと思いますか?
うーん、難しいですね。私は日本生まれの日本育ちだから、自分は日本人だと思ってるんですけど、同時に日本人じゃないとも思っていて。考え方とか発言の仕方が、若干ズレている感じはずっとあります…あ! それは家のテレビで民放が映らなかったのも関係していると思ってます(笑)。流行りの音楽をあまり知らなくて、Mステとかも見てこなかったから。そもそも近くになかったっていうのが大きいですね。
ーなるほど(笑)。だとしたら椎名林檎から始まるのは意外ですね。
小学校の時にのど自慢大会があって、椎名林檎の「歌舞伎町の女王」を歌ったんです。歌詞の意味も分かってなくて、今思うと「あの子なんて歌を歌うの」って思われたかもしれないけど、当時は歌の表している事情がわかっていなかったので歌いましたね。で、そしたら偶然担任の先生が元々ロックバンドでギターを弾いてた人で、「君! Janis Joplin(ジャニス・ジョプリン)とか知ってるかい」って話になって。急に私に往年のロックを教えてくださって。
ー(笑)。
当時はなんだこれって感じだったんですけど、後々聴いてすごく好きになって。それがロックをディグるきっかけになったかもしれないですね。
ー10代の頃、これが私の好きな音楽なんだと自覚した曲はありますか。
強烈に聴いていたものはThe Libertinesです。
ーあ、ガレージロック・リバイバル?
いや、あのジャンルで他にハマったものはないんです。The Libertinesだけが好きで、あれを聴かなきゃ一日が始まらないほどハマりました。たまたま家にCDがあって、中二病的に脆いものや危なそうなものに惹かれてた、思春期に聴いたのが大きいのかなと思います。はっきり言ってめちゃくちゃ下手なんですけど(笑)、なんかあの音楽にはトリガーがあって、堕落的なところに惹かれてました。
ー刹那的なものを感じたんですね。
本当にそういう感じです。それ以外だと先ほど挙げたBeirutと、あとはFeist、Kings of Convenience、CocoRosie辺りを永遠リピートしていました。姉が大学生になって上京していたので、帰省する度に持って帰ってくる音楽の中に今言ったバンド達がいて。アンテナを張っていた姉から教えてもらったものが多いですね。
ーFeistは特に今の音楽性に通じますね。その時の自分の音楽の接し方はどういうものでした?
通学途中に音楽を聴いていました。地元の川沿いの光景と音楽が重なったり、風景だけではなくて、当時の友達や恋人との記憶と音楽が結びついていて、音楽が凄くエモーショナルなものになっていきました。音の中に自分にとって大事な場所が作られていくというか、私は思い出を反芻するのが好きで、そこに浸っていく作業にこの上ない幸せを感じるんですよね。
ーノスタルジーな時間をもらえるのが音楽?
そうですね。そのために音楽があってよかったなって思います。辛いことがあっても音楽を聴いていればその悲しさを俯瞰できるというか、なんとか乗り越えれる。いまだにそういう聴き方をする時はあります。
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