ソニー・ウォークマンのPR企画・PlayYou.Houseをきっかけに2010年に始動したグループ・Goose house。YouTube黎明期にカバー楽曲やオリジナル楽曲を投稿、所属メンバーの歌唱力の高さと個性的なキャラクター、そして豊かなハーモニーが多くの人の心を掴み、人気を博した。そんなGoose houseのメンバーでもあった竹渕慶が、盟友・齊藤ジョニーとのコラボ曲「HAPPY SONG feat. 齊藤ジョニー」を2025年7月16日にリリースした。
今はグループを離れて活動をしているふたりだが、意外にもふたりで一緒に楽曲を制作するのは今回が初めてになるそう。ファンも期待していたであろう、待望のコラボ曲。タイトル通りのハッピーな空気感が溢れるサウンドとかけがえのない仲間に出会えること自体の喜びを歌った歌詞は、まさに、多くの出来事をともに乗り越え、厚い信頼関係を築いてきたふたりだからこそ生まれたものなのだろう。
今回は、そんなふたりにインタビューを実施。コラボ曲「HAPPY SONG」の制作背景についてはもちろん、Goose house時代のエピソードや関係性の変化、さらにそれぞれの『心の支え』になっている楽曲を集めたプレイリストについて語ってもらった。
ー竹渕さんは、⿑藤ジョニーさんと一緒に作品を作ったのは久しぶりだそうですね。
竹渕慶:
⿑藤ジョニーとは、2010年に始まったPlayYou.Houseの頃からずっと一緒に歌って奏でてきたんですが、2018年に私がGoose houseを離れてからは別々の道を歩いてきて。でもここ数年は、一緒に歌ったり動画で共演したりすることも増えてきましたね。別に何があったっていうわけでもないんですが、このタイミングで一緒に曲を作るのがすごく自然に思えて、今回コラボ曲を出すことにしたんです。ー⿑藤さんとは、2025年4月にリリースした竹渕さんのカバーアルバム『この歌をあなたに』でも共演されています。まずこの作品についてお伺いしたいのですが。
竹渕慶:
カバーは私にとって切っても切り離せない存在ではあったんですが、ライブではやっても、アルバムとしてまとめてリリースをすることに対してはちょっと踏み切れないところがあったんです。(Goose houseという)カバーで皆さんに知られたグループから自分が出てきた背景もあるので、その上でカバーアルバムを出すとなると、「やっぱりカバーの人か」ってなってしまいそうな懸念があって。ー大槻マキさんの「memories」とHYの「366日」を齊藤さんと一緒にやろうと思ったのはどうしてだったんですか?
竹渕慶:
「memories」はYouTubeでも一度動画を出してるんですけど、なぜあの動画をふたりで出したかというと、私が2019年にタイの水上生活者村を訪れたときにボートから見た情景が、アニメ『ONE PIECE』の世界観と重なって見えたんですね。それで初代エンディングテーマであるこの曲を改めてボートの上で聴いていたんですが、Goose houseの頃の自分たちと今の自分に重なる部分があることに気づいたんです。日本に帰ってきてからもずっとそれが残っていて、何か形にできないかなと思っていたときに自然とジョニーのことが頭に浮かんだので、声をかけたんです。ー反響も大きかったようですね。
竹渕慶:
はい。『ONE PIECE』は世界中で愛されてる作品なので、いろんな国の人から反響がありました。コメント数もすごかったし、再生回数もボン!と跳ねてびっくりしたんです。中には私たちのバックグラウンドを知らない人たちももちろんいたと思うんですけど、それでも何か感じるものや、今の私たちだから伝えられるメッセージがあの曲を通して伝えられたのかなと思って、カバーアルバムを出すとなったからには入れるべきだなと。ー竹渕さんからオファーがあったときはどんなお気持ちでした?
齊藤ジョニー:
単純に嬉しかったです。あとは、慶ちゃんから動画と全然違うアレンジでやりたいと言われたんですが、それもすごく潔いなと思いましたね。僕は慶ちゃんがきっかけでこの曲を知ったんですけど、こんな素敵な歌があったんだと思ったし、僕自身も昔の自分たちとリンクするフレーズがすごくたくさんあるなと感じていたので、アルバムに入れるタイミングで声をかけてもらったのは単純にすごく嬉しかったです。オファー来るかなとは思ってましたけど(笑)。竹渕慶:
(笑)。ー「366日」に関してはどうですか?
竹渕慶:
YouTubeで、HYの仲宗根泉さんが大橋卓弥(スキマスイッチ)さんと歌っている動画があって。歌詞だけを見ると女性から男性に対する切ない思いなんですが、それを男女でデュエットで歌うとまた新しい曲になるように感じて、すごくいいなと思ったんです。女性キーなんだけど、男性と一緒に歌ってもこんなにいいハーモニーになるんだと思ったときに、やっぱりジョニーの顔が浮かびまして(笑)。「memories」が結構明るい曲調なので、バラードというかスローテンポでしっとりと一緒にハモって歌い上げる曲もほしかったんですよね。あとはやっぱりギターの音。あの切ないフレーズをギター1本で奏でるとなると、ジョニーにしかできないんじゃないかなって。齊藤ジョニー:
照れますね(笑)。竹渕慶:
絶対的な信頼を置いております(笑)。ー実際にレコーディングしてみて、どういうことを感じましたか。
齊藤ジョニー:
久々に慶ちゃんの歌入れを聴いて、上手いのもそうだし、精度が抜群に高いのはやっぱり単純にすごいなと。グループでやってたときは、人数が多いから段取りをちゃんとしなきゃとか、全員の歌を録り切らないととか考えることが多かったけど、今回はふたりだったから歌入れをしっかり聴けたんですよ。当時よりもちろんレベルアップしてるし、すごい人とやってたんだなっていうのを改めて感じましたね。あとは、年齢と経験を重ねた深みみたいなものも感じました。特に「366日」。あの頃にはなかった説得力みたいなものがスピーカーを通じてちゃんと届いてきたし、ボーカリストとして次のステージに行ったんだなって、兄目線なのか何なのかわからないけど(笑)、嬉しく思いましたね。竹渕慶:
嬉しいですね。ミュージシャンとして本当に尊敬してるので、その方にこんなふうに言ってもらえるなんて(笑)。齊藤ジョニー:
いやいやいや(笑)。竹渕慶:
こんなふうにフランクに喋ってからかい合ったりしてますけど、他の尊敬しているアーティストの方に「あなたの歌は素晴らしいですね」って言われてるのと同じ感覚だから、認められたみたいな感じで実はすごく嬉しいんですよ。どこまで本心なのかわからないですけど(笑)。齊藤ジョニー:
(笑)。竹渕慶:
ちょっと話は脱線しますけど、グループ時代はやっぱり今のような関係性とは違ってて。もちろん尊敬して認め合ってはいるんだけど、グループとしてどう見えるかとか、グループとしてもっと成長しないとっていう気持ちがすごくあったから、お互い「もっとこうしたほうがいい」とか「こうじゃないといけないんじゃないか」ということを、指摘して成長させ合うみたいな局面が多かったんです。だから、メンバー同士あんまり褒めなかったよね。齊藤ジョニー:
確かに、褒め合った記憶はないかもしれない。竹渕慶:
「いいねいいね」とかは言うかもしれないけど、「君のこういうところがすごくいいよね」とか、具体的なことはあまり言わなかった。家族みたいになってたから、照れくさいとか小っ恥ずかしいっていうのもあったと思うけど。齊藤ジョニー:
うん。家族一歩手前ぐらいの繋がりがあるふたりだったので、さっきの「ボーカルがすごくよくなったな」っていうのも、本音に近い言葉で言うと「あぁ、こんなバラードをここまで歌いこなせるようになったのね…」みたいな感じ(笑)。どうしても年齢的に僕のほうが上なので、「当時はこんな歌をここまで歌いきれなかったよな」って兄のような目線でさっきはああいう言い方をしましたけど、すごくレベルアップしたんだなって思ったのは本当です。竹渕慶:
あの頃は、わざわざ言葉にしなくても通じてるだろうっていう甘えみたいなのがあったのかな。大人になったのか、関係性がまたひとつ変わったからなのか、割と今は素直に言えるというか。だから今も「え、そんなふうに思ってくれてたんだ」みたいな感じです(笑)。ーそういう関係性、とても羨ましく思います。共に過ごした時間があって、それぞれの時間があって、そしてまたここでさらに違うレベルで融合できる間柄ってそんなにないと思うので。
齊藤ジョニー:
どっちかっていうのはあると思うんですよ。ミュージシャンとして尊敬してる関係性、あるいは長い付き合いだからっていう関係性。でもその両方っていうのは稀有だなと思ってます。7~8年くらいそういう仲間と一緒にやれたこと、他の誰とも分け合えない思い出をそこで共有し合えてることは、僕たちだけにしかないものだなって。ーそんなおふたりですが、オリジナル曲を共作・共演するのは意外にも初めてなのだとか。
竹渕慶:
そうなんですよ。グループ時代はたくさんオリジナルも出してて、ほとんどが、2~3人に分かれて作る感じだったんですね。ジョニーとも1度ふたりで1曲作ったことはあるんですが、当時はすごく自然に分業していたというか、どっちかが歌詞を書いて、どっちかがメロディを書くっていう感じだったんです。例えば最初だけ「こういう感じにしよう」みたいなことを話して、曲先だったら曲を待って、曲が来たら「はい、歌詞書きます」みたいな。それはそれでうまくいってる部分もあったんですけどね。齊藤ジョニー:
世に出てるものも出てないものも含めて、何回かはふたりで作ったんですよ。でもグループの中でそれを僕らが歌うとは限らないから、ふたりで作ってふたりで歌うっていうのはこれが初めてなんです。ータイミング的には、特に何かあったわけでもなく自然と今だったというお話でしたね。
竹渕慶:
そうなんです。特にあれから何年だねとかもないし、キリがいい年でもないし(笑)。なんだろうね?齊藤ジョニー:
何回か動画でコラボしたり、一度ライブにお邪魔したりしたこともあるんですけど、そういう形でセッションを重ねていくうちに、やっぱりこのふたりの組み合わせで何か形に残しておくのはアリかもねっていうのは、たぶんふたりとも思ってたと思うんです。なぜなのかわからないけど(笑)。ひたすら相性がいいということでしかない気がするんですけど、それって非常にかけがえのないことだと思うんですよね、逆に言えば。竹渕慶:
そうだね。齊藤ジョニー:
それがちょうど今、お互いの活動の中でスポッとハマったタイミングだったと思うんですよ。僕もソロで活動しながら、ここ2年ぐらいでアルバムを2枚出して自分のことを見つめ直す機会にもなったし、割とペースが速かったので根詰めてやった後のフッと抜けた瞬間にいろいろ考えたりもして。ー例えばどういうことですか?
齊藤ジョニー:
本当にやりたいことをやれるうちにやらなきゃなとか、いつか機会がやってくるだろうって思ってたらたぶんこないだろうなとか。年齢的に焦りがないわけではないけど、どちらかというと「歳を重ねたから自由にできることがたくさんあるんじゃない?」って思うんですよ。「何のために歳を取ったの?」みたいなことも思ったりして。そう考えたときに、慶ちゃんと一緒にやるのはやりたいことのひとつとして当然ありましたし、そんなタイミングで声をかけてくれたからには「よし、やるか!」っていう。偶然ほど頼りなくはないけど、運命ほど大げさではないみたいな。その感じも、なんだかふたりのノリだなって思うんですよね。竹渕慶:
脱退してすぐとか、3年前とかだったらやってないと思う。齊藤ジョニー:
一度巣立ったからには、何か成し遂げてからじゃないと顔向けできないぞみたいな。竹渕慶:
簡単に元メンバーとまたやりますみたいなのって、あんまり…。齊藤ジョニー:
気安くできないよなって。あの時間を大切に思うからこそ、そういう気にはならなかったっていうのはあると思います。竹渕慶:
「あ、また一緒にやるのかな?」ってファンの皆さんにも期待させちゃうっていうのかな。それも無責任だなと思ってたから、今までは「ちょっと音で遊ぼうよ」ぐらいな感じでコラボしたりしてきてたけど、お互いそれなりにしっかりソロ活動もしてきましたからね。何となくお互いのタイミングで今、みたいなことかなって。齊藤ジョニー:
この感じも、僕らにとってはすごくナチュラルで。前からそんな感じだったんですよ、このふたりは。のらりくらりとしながら、でもたまに一緒にやるとウワッ!てすごいものができる。でも、「よっしゃ頑張るぞ」とか「また絶対やろうな」みたいな熱いノリにはならず(笑)。ー今回の「Happy Song (feat. ⿑藤ジョニー)」は、その空気感が形になったような曲だなと思います。
竹渕慶:
そうですよね(笑)。齊藤ジョニー:
そんな感じする(笑)。ーレコーディングはいかがでしたか?
竹渕・齊藤:
楽しかったね。ー声が揃いましたね(笑)。
竹渕慶:
(笑)。正直、作り始めるまでは緊張してて。最後に一緒に作ったのがグループ時代の記憶で、今とは空気感も違っていたから「大丈夫かな?」「どうなるんだろう」って、ちょっとイメージできない部分もあったんです。でも、あれからお互い人としても結構変わったよなっていうのがあって。始めてみたら当時とは全然違う空気感と心持ちでできたので、これは大丈夫だなって一気に肩の力が抜けて自然体で作れました。ーお互いにアイデアを投げ合うような作り方だったんですか?
竹渕慶:
今回“feat. ⿑藤ジョニー”となってますけど、ジョニーに先陣を切って、主導してもらう形にしたかったんです。でも今の私たちがどういうことを歌うべきか、というか歌いたいのかを話したときも、自然と齊藤ジョニー:
近かったよね。ふたつの円が重なる範囲が思いのほか広くて、それは良かったなと思いました。竹渕慶:
でもそこからいきなり「じゃ、こういう感じで!」とはいかず、読み合いみたいな時間もあったんです。でも、何か口火を切らないとねみたいな感じで、ジョニーが「とりあえず1回、どうでもいいような曲やろう」みたいなこと言い出して(笑)。齊藤ジョニー:
そうそう(笑)。実は、この曲の前に1つ別の曲を作ってたんですよ。何曲かセッションで形を作ったんですけど、最初にできたのがすごくくだらない曲で(笑)。その場のノリで慶ちゃんがスルッと言ったことをそのままメロディに乗っけて、それをサビにした1分半ぐらいの曲を作ってふたりでケラケラ笑って(笑)。それで結構ほぐれて「よし、準備運動できましたね」って感じだった。ーそれっていわゆるエピソード0のようなものですから、いずれ世に出していただきたいです(笑)。
齊藤ジョニー:
シークレットトラックとかでね(笑)。竹渕慶:
本当はこれでした、って(笑)。ちなみにサビの頭になってる《君に会えてよかったよ》っていうのが、最初に出てきた言葉だったんですよ。「あぁ、ふたりとも言いたいことってこれかな」ってね。齊藤ジョニー:
こうやってキーワードをふたりで出し合って、僕が鼻歌で歌ってたら慶ちゃんが「そのメロディだったら、この言葉じゃない?」って感じではめてくれたんですよ。それでジャカジャカやりながら《君に会いたかったよ また出会えてよかったよ》って、この曲が徐々に形作られていったんです。ーお互いに対する気持ちが、自然と反映されたみたいなことなんでしょうか。
齊藤ジョニー:
そうですね。出会いにはいろいろな理由があるのかとか、縁なのかとかそういうことではなく、ただ純粋に“出会えてよかった”って思えたこと。もっと言うと、出会えたことがすべてなんじゃないのって。僕は普段、こういう極度にシンプルな言葉ってあまり使わないんですよ。根がひねくれてるんで(笑)。難しく言ってしまいがちだけど、やっぱりこのふたりで歌うことを考えたらスルッとこういう素直な言葉が出てきたし、不思議とそれを恥ずかしいとも思わなかったのが印象的でした。シンプルなんだけど、今の自分たちの芯を食ってる言葉なんだろうなと思って、そういうのもすごく新鮮でしたね。1人で根詰めて考えると、なかなかこういうモードになれないので。ーおふたりの出会いだけでなく、音楽との出会い、ファンの皆さんとの出会いなど、シンプルだからこそ広がりのある言葉でもありますよね。
竹渕慶:
そう。ファンのみんなに対してもそうだし。齊藤ジョニー:
もしこの先ライブで歌う機会があるとしたら、お客さんに歌いかけているようにも聴こえてほしいです。ただ大事にしたのは、やっぱりこのふたりの中の世界というか、このふたりのこの範囲内だけで収まる話にしようというのが起点で。そこから、ふたりの関係性や絆みたいなものを、聴く人が自分たちのことのように感じてくれて、最終的にはお客さんへのメッセージになるみたいな感じになったらハッピーだなって気持ちはありました。ーではここからはおふたりのプレイリスト(※Track 1〜Track 10:竹渕慶選曲、Track 11〜Track 20:齊藤ジョニー選曲)について伺っていきたいと思います。まずお互いの選曲をご覧になってどんな印象でしたか?
竹渕慶:
ジョニーは本当に音楽が好きなんだなって(笑)。くるりの「東京」は入ってるかなと思ってた。これ、曲順も意識してるよね?齊藤ジョニー:
そうですね。物心ついた頃から、ある程度歳を重ねたタイミング、自分の人間形成までのタイムラインになるべく沿うようにしました。竹渕慶:
1曲目がThe Beatles(ビートルズ)で。私も1曲目がJohn Lennon(ジョン・レノン)なので、そこは「お!」と思いました。あとは「本当に洋楽を聴いてきたんだな、この人」っていう感じ。私、正直知らない曲もいっぱいあります。齊藤ジョニー:
AMリスナーとFMリスナーの違いみたいな感じ。何かで聞いたんですけど、60年代とかのFMリスナーは、当時のトップチャートを知らず、AMリスナーはJimi Hendrix(ジミ・ヘンドリックス)を知らなかったっていう言葉もあるそうで。それに近いものがある感じかな。僕も知らない曲、あるんで。竹渕慶:
竹渕慶の曲とか(笑)?齊藤ジョニー:
それはもちろん知ってるよ(笑)。慶ちゃんの「Voice of an Angel」がすごく好きなので、ここに入ってるのは嬉しいなって思いました。この曲を聴いて、「慶ちゃん、ひと皮むけたな」みたいなことを強く感じたので、印象深いんです。あとはCeline Dion(セリーヌ・ディオン)、Christina Aguilera(クリスティーナ・アギレラ)、Lady Gaga(レディ・ガガ)あたりがズドーンて出てくる感じが(笑)。竹渕慶:
王道でしょ(笑)。齊藤ジョニー:
“ドDIVA”みたいなところは、ブレがないなと思います。僕はバンドものとか楽器がフィーチャーされた音楽をずっと聴いてきたので、歌にあまり関心がなく、ディーバと言われるような人たちの音楽も通ってこなかったんです。でも、前のグループで慶ちゃんと合わせたときに、歌の力ってすごい、歌を歌えるってすごいんだなみたいなことを思った経験があって。だからそれと照らし合わせてもブレがないなと思ったし、聴いてきた音楽が出るんだなと思って面白いなと思いました。ーちなみに「心の支え」というテーマですが、どんなことを考えながら選曲されましたか?
竹渕慶:
あまり意識してなかったんですけど、並べてみたらその曲を聴いて浮かぶのが家族や近しい人っていうのが多くて。例えばBette Midler(ベット・ミドラー)の「The Rose」は祖父が亡くなったときに聴いてたし、Coldplay(コールドプレイ)「Fix You」は愛犬が死んだときのことを思い出します。Lady Gagaの「Born This Way」は、20代前半ぐらいで自分の在り方について迷ってたときによく聴いてたんです。back numberの「水平線」は、祖母が亡くなったときですね。齊藤ジョニー:
僕の場合は、単純に自分の人生を変えてくれた曲。もっと言うと、自分を音楽の世界に導いてくれた曲たちっていう、その原点にある曲を選んだつもりです。ビートルズの「Tomorrow Never Knows」はすごくサイケデリックな曲ですけど、小学校のときに聴いて衝撃を受けたんです。「ヤバいもの聴いちゃった」「よくないものを聴いちゃった」みたいな(笑)。竹渕慶:
(笑)。齊藤ジョニー:
何か突き抜ける感覚があって、それが音楽の原体験としてあるなと思いながら曲を選びました。The Rolling Stones(ザ・ローリング・ストーンズ)の「Jumpin’ Jack Flash」はド定番ですけど、定番じゃないものも幅広く入ってるのはそのせいですね。ー「Johnny B. Goode」は “Marty McFly(※註:映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズの主人公)”のバージョン。これはさすがだなと思いました(笑)。
齊藤ジョニー:
下手すると、どんなミュージシャンよりもギターを手に取らせたんじゃないかなと思って。ギターキッズたちに。竹渕慶:
そうだね。齊藤ジョニー:
元々Chuck Berry(チャック・ベリー)のバージョンを聴いてたんですけど、軽音楽部だったからギターが弾けることを知ってるクラスの友だちから、「『Johnny B. Goode』のイントロ弾いて」って言われて、Chuck Berryのほうを弾いたら全然ピンときてなくて。そこで「あ、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のバージョンだ!」と思ってそっちを弾いたらすごく盛り上がったんです。映画の力がデカいとはいえ、その瞬間にギターのリフ一発で盛り上がるすごさや、自分がギターを弾いて喜んでくれる人がいるっていう、そのエネルギーやダイナミズムの素晴らしさみたいなものを教わったんですよね。だからこれ、決してネタじゃないんですよ(笑)。ー「Blue Moon Of Kentucky」はElvis Presley(エルヴィス・プレスリー)のバージョンが有名ですが、こちらはオリジナルバージョンです。
齊藤ジョニー:
ブルーグラスの立役者とも言えるBill Monroe(ビル・モンロー)のワルツです。これは親父のCDで聴いたんですけど、高速道路のサービスエリアとかで売ってるカントリー・ヒットソング集みたいなCDに入ってて。この曲が流れたときにアメリカの景色が浮かんだんです。竹渕慶:
わかる。齊藤ジョニー:
行ったこともなければ、それまで意識したこともないようなアメリカの景色が、イントロが流れてきた瞬間にフワッと浮かんで、なぜか「あ、これだ!」って思ったんですよね。僕はブルーグラスとかカントリーとかが好きで今もやってるんですけど、その口火を切ってくれたのがこの曲でした。ー竹渕さんは、くるりの「東京」は入ってるかなと予想されていたそうですね。
竹渕慶:
Goose house時代もカバーしていて、ジョニーがセンターで歌ってるんです。当時、この曲やりたいって言ったのもジョニーだったよね?齊藤ジョニー:
そうだっけ?竹渕慶:
私、恥ずかしながらそのときまでこの曲を知らなくて。でも練習を始めて歌詞とかも知った上で聴いてたら、「これ、ジョニーじゃん」ってすごく思って(笑)。私はそのときコーラスで入ったんですけど、聴いていてすごく心地よくて、「この人が歌うとグッとくるな」「説得力すごいな」って思っていたんです。いまだに動画を見返したりしますよ。齊藤ジョニー:
マジで(笑)?竹渕慶:
あのカバー、すごく好きなので。齊藤ジョニー:
プレイリストにはこの1曲だけ邦楽を入れたんですけど、本当に心の支えです。大学進学で初めて地元を離れて、一人暮らしを始めたんですね。東京に行った同級生が多かったけど、僕はいろいろ縁が重なって東京ではない場所にいて。ちょうどSNSとかが出始めた時期で、同級生たちの動向が割と目に入りやすかったんですよ。それで東京に対しての憧れとか鬱屈とした気持ちみたいなものを感じていたんですが、そんなときにこの曲に出会って、初めて歌の歌詞というものを意識したんです。歌詞に自分を重ねて、それでちょっと救われてる自分がいるってことに気づいたんですよね。この曲がきっかけで、自分でも曲を作ったり、メロディに言葉をのせてみようって思うようになりました。ーおふたりが作られた「Happy Song (feat.⿑藤ジョニー)」もそうですが、さらにコアな楽曲についてのエピソードなどは今後ファンサイトなどで展開しても面白そうですね。
竹渕慶:
いいですね。やりたいです。ー竹渕さんのファンサイトも、開設から1年半くらい経ちましたね。
竹渕慶:
はい。皆さんにはいつも支えていただいてます。今年の初めに結婚の発表をしたんですけど、最初に伝えたいのはファンクラブで応援してくださってる皆さんかなと思ったので、公にする前にお伝えしたりもしました。「(ファンクラブのコンテンツが)足りてるかな?」って気持ちになったりするんですけど、本当に皆さん温かくて、「慶ちゃんのペースでいいよ、待ってるからね」って(笑)。もちろんそれに甘んじることなく今後もコンテンツをあげていきたいですし、せっかくこうやってジョニーとコラボしたりしてるので、YouTubeだけでなく、さらにコアな、ファンクラブ内でしか喋れないこととか見せられない部分もお届けできたらいいなって思ってます。ーでは最後に、今後のビジョンなどはいかがですか?
竹渕慶:
もうおわかりかと思うんですけど、いついつにこうしてとか、気を張ってやってない部分が昔からあって(笑)。それは今もそうで、ありがたいことに、振り返ったときに「こうなるべくしてなったんだな」と思えるような活動の仕方をさせてもらっているので、今後もそうなのかなとは思っています(笑)。あと、去年は47都道府県ツアーをやりましたし、今年はアルバムを引っ提げてのソロツアーもやったんですが、バンドツアーが延期になってしまっているので、待ってくださっている皆さんのためにもまずはやり遂げたい思いが今はあります。そして、せっかく配信リリースをしたので、ジョニーと生で歌を届けられる場も設けたいなと思っています。齊藤ジョニー:
うん。それは楽しみ。ー齊藤さんは今後についてどんなビジョンをお持ちですか?
齊藤ジョニー:
今回この曲を作るにあたって、ふたりでやることの意味もそうですけど、僕自身が最近思ってる音楽的なテーマが実はすごく反映されているんです。今って、定規の目盛りで測ったみたいにきっちり作られてる音楽が多いなと思っているんですね。でも、パソコンが流すクリックやBPMではなく、人間の生身のグルーヴだったり、自然と生まれてくるハーモニーみたいなものをもっと頼りにした音楽をやりたい気持ちが最近すごく強いんです。僕は僕なりにその道をどんどん追求していこうかなと思ってるのと、その道の上で、慶ちゃんとふたりでやるというのは、これからも重要な要素になっていくんじゃないかなっていうのは思いました。今回この曲を一緒に作ってみて改めて感じましたし、自分のそういう大事なテーマも、どんどん形にしていきたいなと思っています。慶ちゃんにも協力してもらって(笑)。竹渕慶:
もちろんです(笑)。でも、今ジョニーが言った話は私もすごく共感していて。ジョニーとはあまり音楽について深く話したり、特に何か示し合わせたりもしないし、飲むときもどうでもいいような話しかしてないんですけど(笑)、今回曲を作るときにいろいろ話してみたら「そうそう!」っていうことが多くて。今思ってることとか、こういう音楽をやりたいよねとか、本当に今言ってたようなことを私も思ってたんです。お互いに持ってきたプレゼンがほぼ同じだったみたいな、そういう感覚。ジョニーが今回の曲の歌詞にも《⼤袈裟にしたり 気取ったりしなくっても》って書いてくれてるんですけど、そこにすごく込められているんじゃないかなと思うんですよね。齊藤ジョニー:
それがグルーヴの本質かなと思っていて。派手に合図とかやらなくても、スネアが一発ポン!って鳴ったらそこから始まるみたいな。そこでグルーヴにしっかり乗れたら、あとは何もしなくても転がっていく。そういう感覚を大事にしていきたいし、それを共有し合える人とこれからも音楽をやっていきたいって思っています。そういう意味でも、慶ちゃんはぴったりな人かなというのは思ってますから。竹渕慶:
嬉しい。これからもよろしくお願いします(笑)。PROFILE
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竹渕慶(たけぶち けい・写真左)
1991年生まれのシンガーソングライター。幼少期をロサンゼルスで過ごしたのち、2010年にシンガーソングライターユニット・Goose houseの前身となるグループ・PlayYou.Houseに参加。その後はGoose houseとメンバーとして活動する。その傍らソロ活動もスタートし、2013年の自主制作ミニアルバム『舞花~my flower~』、2014年のミニアルバム『KEI’s 8』などを発表した。
2018年にGoose houseを離れ、本格的にソロアーティストとしての始動。2021年7月には1stアルバム『OVERTONES』をリリースし、2022年3月にはビルボードライブ東阪ツアー開催した。2024年に2年9ヶ月ぶりのオリジナルアルバム『I Feel You』をリリース。5月からは同アルバムを携え、47都道府県ツアーを実施した。
さらに、2025年4月にはカバーアルバム『この歌をあなたに』をリリース。7月16日はGoose house時代からの盟友・齊藤ジョニーとのコラボ曲「HAPPY SONG」をリリースした。
齋藤ジョニー(さいとう じょにー・写真右)
1987年生まれのシンガーソングライター。YouTubeを中心に活動する音楽ユニットGoosehouseのメンバーとして認知を得た。ブルーグラス、カントリーをルーツに持ち、バンジョーやマンドリンといった楽器も弾きこなすマルチプレイヤーとして、現在は森山直太朗をはじめ多数のアーティストのサポートも務めている。
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