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文: 久野麻衣
米・Forbes紙などに寄稿する音楽ビジネスライター・Cherie Huがコロナウイルスの影響により、急成長をみせる音楽ライブ配信についてのドキュメントを公開。この世界的な危機を乗り越えるべく無料で公開されており、常に世界中からたくさんのアクセスとシェアが行われています。
本記事ではその中から第一章を翻訳して紹介。この章ではコロナウィルスが音楽ビジネスに及ぼした影響や世界の状況を例にあげながら、音楽ビジネスにおいてライブ配信がもたらす効果、作用の注意点が解説されています。
成長へ繋げるための手段として、ライブ配信を活用する為の重要な考え方を示しめす内容となっているので、ぜひ目を通してみてください。
Cherie Hu Profile
Cherie Huは、世界的な音楽ビジネスのイノベーションを中心に扱うライター。Billboard, Forbes, NPR Music, Music Business Worldwide, Pitchfork, Rolling Stoneなど多くの媒体に寄稿中。毎週配信している彼女の音楽技術ニュースレター「Water&Music」は、新進アーティストやマネージャーから大手音楽会社の経営幹部まで、約7,000人が購読している。CNBC、CGTN America、およびSiriusXMで専門家コメンテーターとして講演。ニューヨーク大学、ノースイースタン大学、オレゴン大学などではゲスト講師も務める。さらに、世界中の25を超えるカンファレンスでモデレーター、パネリスト、キーノートスピーカーとして登壇。現在、ブルームズベリー出版社より、独立した音楽キャリアと技術起業家精神の類似点についての本の制作にも取り組んでいる。
この文章では、ライブストリーミング(以下、生配信)をめぐる音楽業界の考え方が、「ニッチ」または「あったらいい(必要不可欠ではない)もの」として軽視していた状況から、グローバルなアクセス性を確保し、今回の新型コロナウィルス感染拡大のような極端な状況の中でも視聴者にリーチできるようなシステムを採用していく状況へとゆっくりと移行していることについて議論します。
新型コロナウィルスは世界中で広がり続け、数十億ドル相当の株価の下落とチケット関連業界の損失を引き起こしており、コンサート事業はかつてないほどの不安定な状況にあります。
SXSW、ULTRA、Tomorrowland Winter などの主要な音楽フェスでは、3月上旬に数日のうちに中止を発表しました。 一方、世界最大のプロモーターであるLive NationとAEGは、現時点においてアーティストによるすべての米国ツアーを月末まで延期することを推奨しています。
公共の安全を確保するためには正しい決定ではありますが、これらのイベントの中止や延期は、多くの音楽業界に携わる者たちの将来を大きく左右しています。特に、ツアーの収入に頼って活動している多くのインディペンデントのアーティストやプロモーターは不安に陥っています。
しかし、ツアーやフェスのために注がれた労力と計画が全て無意味になってしまったわけではありません。 アーティストやイベント主催者が、以前まで「ニッチすぎる」と捉えられ、根付いてこなかったファンエンゲージメントの戦術を採用する機会が到来しました。現時点において最も実用的なアーティストを救う方法である、ライブストリーミングです。
実際に、感染リスクの高い地域のミュージシャンたちは、コロナウイルス関連のキャンセルをきっかけにオンラインでのライブ配信をいち早く開始しました。 たとえば、中国では数万件のイベントがキャンセルされ、現地経済に数億ドルの損失が発生しました。アーティストやレーベルは、WeChatやBilibiliなどの地元のソーシャルプラットフォームやビデオプラットフォームを活用して、ファン向けのバーチャルショーケースを実施。イタリア、ベニスのオペラハウス、ラフェニーチェでは、何千人ものオンライン視聴者を対象に、無観客の劇場からコンサートを生配信しました。これは、そのうちイタリア全体が封鎖されるであろう状況を踏まえ、その他の現地のアーティストがこの同じような方法を採用し、快適な自宅から再現できる可能性が高まりました。
イベントやライブをオンライン上で配信する際において使えるツールやイベントの完全なリストの話題に入る前に、ライブストリーミングに関するいくつかのポイントと注意事項を議論したいと思います。 要するに、ライブストリーミングは必要ですが、現在のコンサート業界が抱える問題を全て解決するには不十分なのです。
1.ライブストリーミングは、実際のコンサートの完璧な経済的代替手段ではありません
この点は当たり前のように思えるかもしれませんが、繰り返し述べる必要があります。オンラインの仮想環境では、ツアーで期待していたのと同じ収入を獲得することはできないでしょう。 別の言い方をすれば、現実的には、ほとんどのアーティストやプロモーターは、長期的にこの生配信のフォーマットに真剣にコミットしない限り、ライブストリーミングだけでツアー中止から発生した損失を回収することはできません。
これは、一般の消費者は音楽の生配信に金銭を支払うということに慣れていないからです。生配信サービスのフォーマットは、有名人やセレブとカジュアルに交流できるようなチャンネル(InstagramやFacebook Live等)、または大規模なイベントの視聴者アクセスを増やす手段(例: 2019年の最初の週末だけで8,200万の視聴者を獲得したCoachellaのライブストリーム)として捉えられていることが多いのです。
バーチャルリアリティ(VR)は特に、実際のライブ会場においてのライブ収益とは比較になりません。付随するコンテンツはもちろんのこと、消費者がそもそもVRハードウェアを購入することに抵抗を示し続けてきたからです。 数年前に見た統計では、すべてのコンシューマーVRコンテンツからの年間収益は、Live Nationの通常の年間コンサートおよびチケット単独の年間収益の約0.01%に過ぎませんでした。
さらに、ライブ配信を有料制にし、普段のライブのようにファンにアクセス用のチケットを購入させたいと思ったとしても、そもそもその有料の制度を支えるような機能を備えたプラットフォーム自体があまりありません。 アーティストと消費者の間、共にこれらのプラットフォームの認識は低いのが現状ですが、新型コロナウイルス関連のイベントキャンセルラッシュの中で、今年増加する可能性があります(そして、できればこのドキュメントの助けを借りてください!)。
2.ライブストリーミングは、実際のコンサートの完璧な文化的または感情的な代替物ではありません
SXSWのパネルディスカッションやCoachellaのライブセットなどの大規模なイベントに向けられた準備量を考えると、これらの運営形式をそのままコピーして、オンライン配信環境に貼り付けたい願望は大変理解できます。 しかし、残念ながら、それほど単純ではありません。
Twitchを例に考えてみましょう。 Music Weekの最近のインタビューで、Twitchの音楽戦略とライセンスの責任者であるパット・シャー氏は、ライブ配信についてこのように主張していました。「動画をアップロードするだけの行為とは大いに異なるマインドセットが必要になる。どちらかというとFaceTimeに似ていて、視聴者との深い感情的なつながりを生み出す、生で親密な体験の提供なのです。」
ファンとのFaceTime会話を遠隔で維持することは、従来のアーティストが経験してきた、ステージに現れて直接振り付けされたルーチンを行うのとはまったく異なる種類の努力が必要になります。 前者は、よりインタラクティブ、親密、そしてパーソナルなものですが、同時によりカジュアルで低リスクな特徴もあります。
経済的なメリット(またはそのメリットのなさ)を考慮することとは別に、中止に至ってしまったライブやイベントの代替手段としてライブストリーミングを真剣に取り入れてみたいと考えるアーティストは、再考する必要があります。 あなたは、オンライン上で、直接ファンと会うよりもよりシンプルでカジュアルな体験を提供することができますか? 逆に、あなたのライブ配信に興味のあるファンは、あなたが通常のステージ上で行うハイクオリティでコストのかかった演出と同じようなものを見ることに興味がありますか?それとも、何か他のコンテンツを探しているのでしょうか? ファンは、必ずしも「ライブと同じ体験」をしたいわけではないということに、注意が必要です。
強い支持層を構築し、生活費(の一部)をTwitch上で築くことができたアーティスト、例えばJVNA、HANA、Flux Pavilionは、ファンのためにライブのバーチャルショーを行うだけではありません。音楽制作やレコーディングのプロセスの舞台裏をファンに紹介したり、音楽に関する話題かどうかは関係なく、ベッドルームでただ普段通り遊んだり、キャリアや生活についてのファンの質問に答えたりすることもあります。特に、ゲームをプレイしている場合や音楽を制作している場面において、数時間連続でストリーミングすることも多々あります。これは通常のライブよりも当然、はるかに長い時間です。
他のライブ配信プラットフォームを検討する際も、そのアーティスト特有の性格や活動のニーズに応じて、適合性を考えなければなりません。たとえば、パネルディスカッションをVRで配信したいと思っても実際に見せているのはPowerPointプレゼンテーションのみである場合、画面をZoomで共有するだけで良いですよね。その方が、はるかに諸々の動作が簡単になります。代わりに、オーディオのみの生配信をメインで行いたい場合、ポッドキャストを収録したりラジオセグメントのように「オンエア」で会話をすることに抵抗はありませんか?
ここでの大きなポイントは、生配信が最適に機能するのは、アーティストがその選んだ配信サービスに慣れるために時間をかける余裕があるとき、ということです。
3.ライブ配信は、もはや「ニッチ」な戦略ではありません。課題はアクセシビリティにあり、これからのバーチャル系イノベーションに繋がるようなきっかけでもあります。
ライブ配信は、上記の理由により、コンサート業界の不完全な代替品でありながら、コンサートプロモーターやイベント主催者が、一般的な集客向上のためにライブストリーミングを将来のイベントに組み込むことは今後より一般的になってくると思います。
より広く、よりグローバルな視聴者がライブイベントにアクセスしやすくする方法について人々が考え始めるきっかけを作るために、世界的なパンデミックが必要だったのは少し不幸かもしれません。しかし、長い間先延ばしにされ続けた新しいテクノロジーの起用が極端な状況において突然奨励されるような事例をこれまでに我々は何度か見てきました。たとえば、日本ではFacebookやTwitterはそれまであまり人気がありませんでしたが、2011年に日本を襲ったマグニチュード9.0の地震と津波の影響で、それらSNSが地元住民のライフラインになりました。
また、イベントをオンラインに移行する現象は、拡張現実のアバターやゲーム会社との統合コンテンツパートナーシップなど、近い界隈においてその他のイノベーションを誘発するきっかけにもなると思います。このタイミングにおいて、MarshmelloのDJセットがFortniteに出現したことや、MinecraftのDIYのゲーム内音楽フェスティバル(Coalchella and Fire Festival)はもはや最先端のびっくりイベントではなく、今現実的に直面している多くの制限や疑問に対する、実用的で応用可能な答案のように見えます。
第二章からは実際に海外で利用されている具体的なサービスやライブ配信イベントがリストアップされています。日本で展開されていないものも多くありますが、興味のある方は原文も合わせてチェックしてみてください。
翻訳:竹田ダニエル
Cherie Hu
Cherie Huは、世界的な音楽ビジネスのイノベーションを中心に扱うライター。Billboard, Forbes, NPR Music, Music Business Worldwide, Pitchfork, Rolling Stoneなど多くの媒体に寄稿中。毎週配信している彼女の音楽技術ニュースレター「Water&Music」は、新進アーティストやマネージャーから大手音楽会社の経営幹部まで、約7,000人が購読している。CNBC、CGTN America、およびSiriusXMで専門家コメンテーターとして講演。ニューヨーク大学、ノースイースタン大学、オレゴン大学などではゲスト講師も務める。さらに、世界中の25を超えるカンファレンスでモデレーター、パネリスト、キーノートスピーカーとして登壇。現在、ブルームズベリー出版社より、独立した音楽キャリアと技術起業家精神の類似点についての本の制作にも取り組んでいる。
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