羊文学の虜になる理由ーー3つの魅力からそのワケを紐解く

Column

文: 坂井彩花  編:Mao Ohya 

2020年末にはメジャーデビューを果たし、アニメ『平家物語』のオープニングテーマを担当するなど、リリースを重ねるごとにスケールアップを続けるスリーピースロックバンド ・羊文学。本記事では、これまでの作品を交えながら音楽性の変遷やリアルな歌詞にフォーカスを当て、多くの人が羊文学の虜になる理由を紐解いていく。

羊文学が、渋谷トレンドリサーチが発表する『高校生最新トレンドランキング 次に来るトレンドは?10選』のアーティスト部門に選出された。多くの流行が若者から始まっていくことを考えると、世間の高校生から注目されているということは、彼らの人気が音楽好きの枠を越えて一般まで浸透していくのは時間の問題といえるだろう。

2020年末にはメジャーデビューを果たし、最近ではアニメ『平家物語』のオープニングテーマを担当。リリースを重ねるごとに自らを更新し、スケールアップを続ける彼らは、しっかりと”実力派バンド”という立ち位置を確立しながら、快進撃を続けているのである。

何が羊文学を特別な存在たらしめ、多くの人々を魅了しているのか、作品を交えながら紐解いていきたいと思う。

羊文学とは?

メンバーは、まだ24歳と25歳でありながら、今年で結成10周年を迎える羊文学。オリジナルメンバーは、ボーカル・ギターを務める塩塚モエカのみだが、そもそも彼女も誘われる形で羊文学を始めているのだから面白い。2015年にドラムのフクダヒロア、2016年にベースの河西ゆりかが加入し現体制となった。

羊とは、世界中の神話や宗教に逸話を持つ生き物だ。ギリシア神話には黄金の羊の毛皮を巡る“アルゴナウタイの物語”があるし、「ヨハネの黙示録」においても神聖な存在として扱われている。古来より人と関わりの深い生き物でありながら、神秘的なイメージを内包している羊は、日常と密な温度感でありながら、どこか神々しさを香らせる彼女たちにぴったりだ。

また、随筆としての美しさを感じさせるリリックも“文学”を謳うのにふさわしいと言えよう。作詞を担当する塩塚は、自身の書く歌詞について「文学的ではない。詩というより日記」と語っているが、それこそ彼女が紡ぐ言葉の強さだ。かの清少納言だって、何も難しく優れた日記を綴ろうとしたのではないだろう。日常の些細なことにも心を震わせ、見てきたことを誠実に文字に落とす。そんな真摯な姿勢が宿っているからこそ、良質なメロディーと重なりあったときに、グッと言葉が力を増す。まさしく羊文学は“名は体を表す”を生きるバンドなのだ。

事実、簡単に掌握させない歪なサウンドと嘘のない歌詞は多くの人の心を揺さぶってきた。若手アーティストの登竜門として名高い<FUJI ROCK FESTIVAL’16“ROOKIE A GO-GO”>へ出演し、2021年にはレッドマーキー(新進気鋭の若手バンドが選出されるステージ)へ躍進。2019年にリリースされた「1999」は、クリスマスソングの新定番として多方で耳にする曲へと成長している。2020年12月には、「もうちょっと大きいフィールドへ行ってみたい」という想いからメジャーデビュー。コロナ禍真っ只中での新たな門出となったが、ハンデを感じさせない良質な楽曲とコンセプティブなオンラインライブを展開し、シーンにおけるバンドの存在感をさらに増したのである。

羊文学の3つの魅力

羊文学が、なぜそんなにも魅力的なのか。ついつい語りたくなってしまう理由はたくさんあるのだが、今回は3つ紹介したい。

ひとつ目は、年代によって曲の雰囲気が違う点だ。「メンバーが変わってるし、雰囲気も変わるでしょ」と言われてしまえばその通りなのだが、ソングライターである塩塚モエカに所以した楽曲の変化は羊文学の持ち味である。

そもそも彼女は、オトナへの反発心や社会への苛立ちを楽曲づくりの原動力としており、「学校へ行きたくない」「高校の友達が嫌だ」「誰かの理想通りになんてならない」といった”思っているけど言いづらいこと”を音楽にしたところから始まっている。

また、バンドを始めた頃の彼女には「男の子に負けたくない」という思いもあった。中学生の頃、地元のBUMP OF CHIKENが好きな男の子たちとバンドをやろうという話になったとき「お前は女だからダメ」と言われたことが、ずっと彼女のなかで引っかかっていたのである。「女だって、カッコイイ音楽はやれる。男も女も関係ないじゃん」と。

それゆえに、2018年にリリースされたファースト・アルバム『若者たちへ』くらいまでの楽曲は、比較的ノイジーなサウンドかつ尖ったリリックのものが多い。世界の不条理を、ひとつひとつ蹴飛ばしていくようなたくましさすら感じさせていたのである。

そんな塩塚はCharaとの出会いをきっかけに変化をしていく。女性であっても“カッコイイ”を表現できること、女性だからできる表現に目覚めていくのだ。2019年にリリースされたEP『きらめき』は、羊文学の覚醒を感じさせる快作である。“本当の自分を認めること”に重きを置いた作品集であり、あえてポップさや女の子らしさを出すことに挑戦。ファズの騒音に身を委ねるだけではない、キラキラした一面を存分に開花させた。

さらには、2020年春の大学卒業と一人暮らしの開始も彼女の表現に影響を及ぼした。2020年にリリースされたメジャーデビューアルバム『POWERS』に収録されている「砂漠のきみへ」は、その例のひとつだろう。実家から離れ一社会人として生活を始めたことにより、常にいろんな重みに付きまとわれながら生きているような感覚を味わい、大切な人のことを救いたいと願いながらも救いきれない現実やひとつの価値観でしか物を考えることができなかった自分自身に気付いたのである。

塩塚モエカの心情が楽曲に素直に流れこんでいるからこそ、彼女の変化に際して楽曲も変わっていく。昔が悪いとか今が素晴らしいというわけではなく、移ろっていく季節のようにどの時期にも、美しい羊文学が存在しているのである。

ふたつ目は、「羊文学はこういうバンド」とひとつのイメージで定義できない点だ。一聴すると、ざらついたサウンドに「シューゲイザーなんだな」と思う人もいるかもしれないが、あくまでも羊文学は“旋律が秀逸なバンド”である。そのため、塩塚の歌声やメロディーを活かすアレンジが、どの楽曲でも施されている。

「砂漠のきみへ/Girls」の2曲、もしくはEP『きらめき』と『ざわめき』を聴いてもらうと、羊文学を一括りにできないことがよくわかるだろう。『きらめき』があえて女の子らしさを出すことに挑戦し、既存のイメージを覆すようなポップなサウンドを構築しているのに対し、『ざわめき』は自分の内面と向き合うことに重きを置き、原点回帰を思わせるシンプルでストイックな音作りを行っている。ポップさも骨太感も、無敵さも虚無感も、繊細さも荒々しさも彼らのサウンドである。聴く曲によって抱く印象が違い、多様な世界観に触れることができるのだ。

そして、三つ目は歌詞に嘘のない点だ。塩塚の紡ぐリリックには難しい言葉も登場しなければ、いじわるな暗喩も存在しない。彼女が日常で実感したことが、彼女が日常で使う言葉でもって綴られている。

「なんだ、そんな簡単なことか」と思われてしまいそうだが、これが意外と難しい。人には虚栄心があり、「大きく見せたい」「すごいと思われたい」と無意識に行動してしまいがちだからである。それに、表現者となると「何か意見しなきゃ」と責任を背負い込み過ぎる人も少なくない。

一方で塩塚モエカ並びに羊文学は、とてもフラットだ。聴いてくれている人を励ましたいわけでも甘やかしたいわけでもないし、声なき声を意識的に掬いあげるわけでもない。塩塚が実際に心を動かされたから、曲になるし歌詞になるし音楽になる。それでいて、「正解はこれだ」と提示するわけでもない。嘘のない言葉で綴られた歌詞に判断の余白を残すことによって、聴き手にとっての居場所を生み出す。だからこそ、壮大であっても圧迫感がなく、包みこまれるように心地いいのだ。彼らはありのままの姿でそこにいて、受け入れてくれる包容力のあるバンドなのである。

リアルな生き様と共に進み、移ろい、進化していく羊文学

ソングライターである塩塚モエカのリアルな生き様と共に進み、移ろい、進化していく羊文学。その嘘のない美しさが、多くの人を惹きつけるのだろう。彼らの存在は時と場合によって変化し、ひとつのイメージに固執しない自分でいることを肯定する。

見えている世界がフィクションだと疑いたくなるような混沌とした現実は続いていく。何が最善なのかわからなくなる出来事ばっかりで、めまいがする日もあるだろう。そんな日々だからこそ、嘘偽りなく凛とした佇まいで、ただそこにいてくれる羊文学が、多くの若者から求められているのではないだろうか。

ぜひ、自分の目で耳で心で、羊文学の持つ本質的な優しさに触れてほしい。

RELEASE INFORMATION

羊文学2nd AL『our hope』

▼初回盤(CD+Blu-ray)
2022年4月20日
羊文学
¥5,000(税込)

▼通常盤(CDのみ)
2022年4月20日
羊文学
¥3,300(税込)

【Disc1/CD】
1.hopi
2.光るとき (TVアニメ「平家物語」オープニングテーマ)
3.パーティーはすぐそこ
4.電波の街
5.金色
6.ラッキー (ahamoX music webキャンペーンソング)
7.くだらない
8.キャロル
9.ワンダー (コニカミノルタ プラネタリウムドラマ「流れ星を待つ夜に」主題歌)
10.OOPARTS
11.マヨイガ (アニメ映画「岬のマヨイガ」主題歌)
12.予感

【Disc2/Blu-ray】
「羊文学Tour 2021 “Hidden Place” at USEN STUDIO COAST 2021.9.24」
2021年9月に行われた単独公演のライブ映像をフル収録

1. mother
2. ブレーメン
3. 変身
4. 踊らない
5. 砂漠のきみへ
6. おまじない
7. 花びら
8. 人間だった
9. powers
10. ハロー、ムーン
11. ロックスター
12. Girls
13. 涙の行方
14. マフラー
15. 1999
16. ghost
17. あいまいでいいよ
<アンコール>
18. 銀河鉄道の夜
19. マヨイガ
20. 夜を越えて

<店頭特典>
Amazon.co.jp:メガジャケ
楽天ブックス:ポストカード(楽天ブックスオリジナル絵柄)
TOWER RECORDS全店(オンライン含む / 一部店舗除く):ひつじちゃんステッカー
羊文学応援店:ポストカード(応援店絵柄)
※羊文学応援店は追って発表いたします。

EVENT INFORMATION

『羊文学 TOUR 2022 “OOPARTS”』

チケット一般発売日:2022年4月23日(土)10:00

<日程・公演詳細>
■2022年5月29日(日)
宮城・仙台PIT
OPEN 17:00 / START 18:00
券種全席指定 前売 ¥4,500(税込み・ドリンク代別)

■2022年6月9日(木)
福岡・Zepp Fukuoka
OPEN 18:00 / START 19:00
券種全席指定 前売 ¥4,500(税込み・ドリンク代別)

■2022年6月11日(土)
大阪・Zepp Namba
OPEN 17:00 / START 18:00
2F指定/1Fスタンディング立ち位置指定 前売 ¥4,500(税込み・ドリンク代別)

■2022年6月16日(木)
愛知・Zepp Nagoya
OPEN 18:00 / START 19:00
券種全席指定 前売 ¥4,500(税込み・ドリンク代別)

■2022年6月24日(金)
北海道・Zepp Sapporo
OPEN 18:00 / START 19:00
券種全席指定 前売 ¥4,500(税込み・ドリンク代別)

■2022年6月27日(月)
東京・Zepp DiverCity Tokyo
OPEN 18:00 / START 19:00
2F指定/1Fスタンディング立ち位置指定 前売 ¥4,500(税込み・ドリンク代別)

■2022年6月28日(火) ※追加公演
東京・Zepp DiverCity Tokyo
OPEN 18:00 / START 19:00
2F指定/1Fスタンディング立ち位置指定 前売 ¥4,500(税込み・ドリンク代別)

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