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7BULLのボーカルとして活動しながら、2020年に1st EP『neon』を発表。以降、2022年よりソロ活動を本格化した美咲ミサ。アンニュイさとパワフルさを兼ね備えた歌唱力が聴き手をドキッとさせる、実力派のシンガーソングライターだ。
EP『neon』のリリース時点ではバンドサウンドに重きを置いたグルーヴィな楽曲が中心だった彼女。しかし、2022年にリリースしたシングル「対話したいわ」「寝れない」では打ち込みを取り入れた楽曲へとシフトしていった。
「『対話したいわ』を制作していた頃から外へ発信することを意識し始めた」と語る美咲。2023年7月にはファンコミュニティを開設し、よりリスナーとのコミュニケーションを深めようとする動きもある。
「対話したいわ」に至るまでに、どういった心境の変化があったのだろう。また、彼女自身の音楽性はどのように醸成されていったのだろうか。今回、美咲が作成した「“ピンクバイブス”全開の楽曲プレイリスト」をもとに、話を伺った。
ー今回、プレイリストでは美咲さんが影響を受けた音楽を時系列順に並べていただきました。そもそも、音楽に興味を持ったきっかけは何だったんですか?
実は両親の影響が大きいんです。父がサックス奏者で母が三味線奏者なんですよ。だから小さい頃からピアノと三味線、ユーフォニウムを演奏していたし、家で音楽がかかっていることも日常でした。
ただ一番好きだったのは、音楽番組を観ながら歌うことだったんです。小学校6年生のときに「ボーカルスクールに通わせてほしい」って親に言って。自分から習い事をやりたいって言ったのはそれが初めてでした。
ーそれは、特定のシンガーに影響を受けて?
EXILEが大好きでした。同時に宇多田ヒカルさんやJUJUさん、AIさんなど、当時流行っていた日本のR&Bが好きだったんです。音楽番組でもロックバンドより、ビートが入っているような音楽を率先して追っていました。
ー自分で作詞・作曲を始めるようになったのはいつからでしょう。
中学3年生のとき、ボーカルスクールのなかでライブをする機会をもらったことがきっかけです。“オリジナル曲”という響きに憧れを感じていて。今とは全く別人のような、可愛い曲を作った記憶があります。《斜め後ろの席からあなたを眺めているわ》みたいな歌詞の、ピュアな曲でした(笑)。
ーたしかに今のイメージとは異なりますね(笑)。プレイリストでピックアップしている宇多田ヒカルさんの「Goodbye Hapiness」は、ご自身の原体験を示す一曲なのですね。
「Goodbye Hapiness」はまさに中学校時代に強く影響を受けた楽曲の一つです。ダンスミュージックの要素とメロディアスな優しい音が共存する音楽が好きなんですよ。特に宇多田さんの柔らかい歌声とタイトなビートの対比は、本当にかっこいい。
対照的で相容れないはずの要素が包括されている音楽、総じて好きなんです。同じくプレイリストに挙げたTempalayも、怪しげなAメロ・Bメロの先に、美しいメロディのサビが待っていますよね。対照的な要素を楽曲のなかで融合させているところに惹かれます。
ープレイリスト3曲目のMariah Carey(マライア・キャリー)など国外のアーティストを聴き始めたのはいつ頃だったのでしょうか。
高校生になってからです。マライア・キャリーは父の影響で幼少期から聴き親しんできたのですが、高校の頃にたくさん聴くようになりましたね。Ariana Grande(アリアナ・グランデ)やMISIAさんなど、いわゆる“歌姫”をリスペクトしていて。
ーおお。音楽の好みが広がったのはどういった背景が?
ちょうどその頃、カラオケ番組への出演なども経て「歌一本で勝負していきたい」と思うようになりました。プレイリストにピックアップしたマライア・キャリーの「Emotions」も、実は私にとっての“課題曲”で。自分がどれくらい成長したかをチェックするために、今でも定期的に歌っています。
実は、同時期である高校1年〜2年のときに、音楽の聴き方も根本的に変化したんです。それまではメロディよりも歌詞に比重を置いて聴いていたのですが、徐々にトラックやメロディを意識するようになって。
ーそれは何かきっかけがあったんですか?
K-POPブームで「歌詞を聴かなくても音楽を楽しめる」ことに気づいたのが大きいと思います。だんだんとリアルタイムで流行っていたBruno Mars(ブルーノ・マーズ)やMaroon 5(マルーン5)、Katy Perry(ケイティ・ペリー)も聴くようになりました。
そして2018年の大学入学後にはR&Bやファンク、ネオソウルが中心のセッションサークルに入部して、モータウン時代のソウルやファンクにも触れるようになりました。まさにPJ Morton (PJモートン)はサークルをきっかけに好きになったアーティストなんです。
ー2020年にはバンドサウンドを中心とした1st EP『neon』がリリースされました。そのまま順当に進むなら、バンドサウンドを軸に音楽性を固めていくのでは…と感じたのですが、エレクトロの要素が絡むようになったのはどういった背景が?
2021年3月に、下北沢MOSAiCでフルセットバンドのソロワンマンライブを開催したとき、バンドメンバーとして素晴らしいミュージシャンのみなさんにお声がけしたんです。やりたかったことができたからこそ、一旦バンドセットへの欲が満たされました。
あと、ソロでやりたいことを持続するにはどうしても資金面がネックで。「ソロ活動をするなら持続可能なスタイルじゃないと、どこかでつまづいてしまう」と悩んでいた時期に、ちょうどJomanda(ジョマンダ)を聴いたんです。
ーJomandaのどんな部分に影響を受けたんでしょうか?
当時の私は “生音至上主義”ではありました。でもJomandaは歌やコーラスワークに生感が強く、なおかつエレクトロとの調和がとても綺麗。「生音が好きな過去の自分」と「四つ打ちが好きな自分」をミックスするスタイルを確立すれば、ソロ活動も続けられるのでは、とヒントをもらえたんです。
そのうちエレクトロのなかでもDua Lipa(デュア・リパ)のような歌モノを率先して聴くようになりました。Maika Loubtéさんも、クラシックなエレクトロを歌モノに変換し、オリジナリティとして昇華しているところに魅力を感じます。憧れの存在であり、アーティストとしても「こうなりたい」と思える存在です。
ー2020年にはバンド7BULLのボーカルとしての活動もスタートしましたよね。ソロとバンド、活動の棲み分けはどのように捉えていますか?
バンドでは自分の好きなR&Bやソウルに特化し、ソロではエレクトロをミックスしていく。明確に区別をしたうえで、今は活動を並行しています。
実は歌い方も変えているんですよ。7BULLのメンバー同士が個性をぶつけ合うからこそ、もはやライブは“戦い”の域に近くて(笑)。メンバーに潰されないよう、遠くまで届くようなソウルフルな声を意識します。
その一方で、ソロではあえて歌い上げないように抑えたり、ヒップホップの要素を強めてみたり…と、バンドではできないことに積極的にチャレンジしています。
ー過去から現在に至るまで、幅広い音楽に触れていながらも、好みに一貫性を感じました。そのうえでプレイリストのタイトルにも掲げている“ピンクバイブス”にはどういった意味が込められているのでしょうか。
明確な意味はないのですが、「心にギャルを飼っていこう」というおまじないのような言葉だと思っています。もともと高校時代もコギャル(?)だったし髪の毛もピンクだから、ギャルとして扱われることが多くて(笑)。でも「アーティストは根暗であれ」というような空気を感じて、その暴論を真に受けて「ギャルだと音楽やっちゃダメなのかな」とグジグジしていた時期もありました。
でも「対話したいわ」をリリースした頃から「本来は根明なんだ」と最近は自分で認め始めて。心のギャルを否定することをやめました。
ー美咲さんにとって“ピンクバイブスのある音楽”とは具体的にどういった音楽ですか?
「多幸感」のようなものでしょうか。シンプルにハッピーになれるものでもあり、つらいときにはすがるものだったり、希望を見出せたりするもの。プレイリストの選曲も多幸感を重視しています。
ーなるほど。
ピンクバイブスを語る上で、特にゴスペルは欠かせないです。ゴスペルの「そこまでやられたらハッピーにならざるを得ない!」という“多幸感ゴリ押し”のパワーが必要になる瞬間が定期的にあって。
元気がないときの強制エネルギーチャージがゴスペルだと捉えています。そのなかでもPJ Morton は、ヒップホップやソウル、R&Bをミックスするバランスが絶妙。音楽性で強く影響を受けていると思います。
ー“ピンクバイブス”は、アーティストとしての見え方を意識するようになったからこそ生まれた概念のように感じました。
ちょうど「対話したいわ」の頃、「外へ発信する」ことを意識し始めたんですよね。自分が歌うことの意義について「リスナーに幸せになってほしいから」「元気を出してほしいから」とは安易に言えず、模索していました。
でも「一回誰かのためではなく自分の心が救われるようなアンセムを作ろう」と思って「対話したいわ」を書いたら、方向性が固まったというか。自問自答する様子を「なんかわかる」とリスナーに感じてもらうような関係性がベストだと思ったんです。
ー「みんなに理解してほしい!」というわけでもなく。
あんまり思わないです。人生が変わるきっかけになってほしいわけでもなく。ただ、誰かにとって「自分自身と対話するきっかけ」になれば良いな、と思っています。私とは違う意見でも良いから、考えるきっかけになったら嬉しいんです。
私自身、求心力のあるリーダータイプではありません。どちらかといえば間を取り持つようなタイプ。だからこそ「この曲聴いて!」と一方的に投げかけるよりかは、曲を元にリスナーとコミュニケーションを取りあいたいというか…。
ー以前stand.fmで行われていた「みさみさの対話チャンネル」というラジオでもファンのみなさんからお便りを募集したりしていましたよね。
いろんな人の話を聞きたいんですよね。私、アートワークやSNSでもウニョウニョのマーブル柄をよく使うんです。どこが中心軸なのかがわからない感じがすごく好きで。自分の意見や考えること、楽曲に込めるメッセージも関わる人や状況によってウニョウニョ変わっていくから面白いと思っています。
ーだから“ピンクバイブス”もはっきりとした定義がないんですね。美咲さんは7月にファンクラブを開設されましたが、「コミュニケーションを取りたい」という意識と深く関係していそうですね。
密接に絡んでいます! 実は、SNSでは思ったことをあまり書かないようにしていて。普段の日常生活でも、悩みを人に打ち明けることは少ないです。ギャルバイブスがありつつも「なんだか掴めない存在」でありたいんですよね(笑)。
とはいえ、思ったことをちゃんと人に伝えたい気持ちはある。ファンクラブは興味を持っていただいた方にだけ、考えをそっと打ち明けるような環境に育てていきたいんです。「こんなことを考えていたんだ」と知ってもらいたい。
ーファンクラブではどういった形でコミュニケーションを取りたいですか?
以前やっていたラジオではお便りを募集していたので、それはファンクラブでもやりたいです。引き続き、相互的なキャッチボールはしたいですね。音楽のことだけじゃなくて、悩み事やら恋愛相談やら、なんでも話していけたらなって思っています。
ーキャッチボールを続けることは、曲作りにどのように反映されると思いますか?
今のところはむしろ影響を受けずにいたいかな、と思っています。「自分の内面をいかに言葉にするか」ということに集中したいので、そこはちゃんと線を引きたい。引き続き、自分のなかの哲学を形にすることで、音楽を生み出していきたいです。
ー最後に、今後の活動について教えてください。次にリリースするのはどういった楽曲になりそうですか?
すでにライブでも少しずつ披露しているのですが、今、湿度を意識して作っている曲が多いんです。湿度を保ちながらゴスペルやヒップホップ、R&Bと、自分の好きな音楽を凝縮し、エレクトロと生音のバランスを取っていく。DTMのスキルが上がってきたからこそ、音への意識をもっと高めていきたいです。
同時に、歌詞もより内面的かつ流線的で、ウニョウニョしていければなって考えています。実は今回プレイリストの最後に選んだ「対話したいわ」が、まさに今後の方針を固めた楽曲でした。歌詞もバンドセットのときはラブソング寄りだったのが、徐々に内向的になってきて。「対話したいわ」が生まれたことで「自分の書きたい歌詞ってこういう感じだよね」と見え始めた気がします。
ー美咲さんにとって「対話したいわ」はかなりキーとなる楽曲なんですね。
活動が第一章から第二章へシフトできたのは、やっぱり「対話したいわ」を生んだ瞬間かもしれません。改めて、私のなかではこれまでの音楽遍歴の集大成のような曲なんです。
PROFILE
美咲ミサ(みさきみさ)
1999年7月26日生まれ、東京都出身。“ピンクバイブス”をモットーにソウルフルかつサイケデリックな世界観を持つシンガーソングライター。ハッピーなキャラクターながらも、哲学的なリリックや没入感を提供するリズムとグルーヴにより、リスナーをそれぞれの内面世界へ導く。
R&Bやソウルをルーツに持ち、セッションライクなライブにてグルーブのある歌唱力を発揮する一方、クラブミュージック/カルチャーへの関心からエレクトロな楽曲のリリースやサンプラーを用いたソロ形態ライブなどを行っている。
バンド活動や留学経験を経て、2022年にソロ活動を本格化させるべく再始動。以降は、R&Bやヒップホップ、ゴスペルを融合させた1st シングル「対話したいわ」のリリースや、下北沢MOSAiCでのワンマンライブの開催など、溢れるエネルギーと多幸感溢れる実力派シンガーとして東京を中心に活動の幅を広げている。
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