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文: 久野麻衣 写:遥南 碧
新作リリース、新人デビュー…私たちはたくさんの新しい音楽に囲まれている。しかし、それは決して当たり前のことではない。
ストリーミングサービスの普及でこれまで触れることのなかった国の音楽に触れられるようになり、日本でもアジア諸国のアーティストへ関心が高まっているが、そこで出会うアーティスト達の背景は様々だ。
シンガポールのシンガーソングライター、Charlie Lim(チャーリー・リム)。これまでサマーソニックを筆頭に、各国のフェスへ出演しアジアを中心に活躍する彼は、今まさに自国の音楽シーンの先駆者として挑戦を続けている。
シンガポールという国ではオリジナルの音楽はまだまだ受け入れられていないと彼は語る。自国のシーンを切り開いて行くために背負う苦悩や孤独は、彼の作り出す音やその歌声から感じ取ることができる。
今回、東京での来日公演はTENDREのツーマンライブとして開催された。それぞれの個性、そしてお互いのリスペクトを感じる一夜となったが、こうしたミュージシャン同士の交流が、彼の挑戦や孤独を支えるものになり得るのではないだろうか。
ライブ翌日に行われた今回のインタビューでは、TENDREとの競演からアルバム『CHECK-HOOK』について、そしてシンガポールでミュージシャンとして生きる彼の挑戦について語ってもらった。
ー今回の来日、東京でのTENDREさんとの共演はいかがでしたか?
彼はすごく面白い素敵な人で、一緒にライブができて本当によかったです。彼らのバンドももちろんだし、僕らもすごく楽しんでやることができました。観客から受けるエネルギーも凄く感じることができて、自分でも一段上を行くパフォーマンスができた気がしています。次また一緒にパフォーマンスできたら嬉しいですね。
ー今度はシンガポールで?
そう、シンガポールで!もちろんコラボレーションもできたら嬉しいなと思っています。
ーTENDREさんもMCでチャーリーさんについて「すごくかっこよくて、声も素晴らしくて、惚れました」という話をしていましたね。
実は妻が日本語が分かるので、それを翻訳して教えてくれたんですが、すごく感動しました。彼の仲間たちもそうだし、観客の中にはミュージシャンの方たちもいっぱいいて、いい雰囲気の中で演奏できてとても嬉しかったです。
ー今回のバンドセットでのライブはジャズ的なグルーヴが心地よく、エレクトリックな音源とはまた違う良さがありました。
一緒にやってくれたバンドメンバーはそれぞれがジャズミュージシャンとして素晴らしい活躍をしているので、彼らの力を借りていい演奏をみなさんに聴いてもらえたと思います。
通常のバンドセットではメンバーがもっと多くて、エレクトリックなサンプリングなどを入れているのですが、今回は素晴らしいミュージシャンと一緒だったのでアコースティックでベーシックなセットでやらせてもらいました。
メンバー間でのやりとりや、ケミストリーみたいなのものがあって、本当の“ライブショー”をみなさんに観てもらえたと思います。クラブ自体が小さかったので、お互いの音をよく聴けたし、メンバー全員が自分たちをよく表現できるようにセッティングできたのもよかったですね。
ーチャーリーさんはギターとピアノを使用していましたよね。演奏の際、どちらのほうが自分にフィットしていると感じますか?
それぞれの曲に必要な楽器を演奏しているので、どちらかということはないんですが、昨日の場合は特に素晴らしいジャズピアニストがいたので、彼の前でピアノを弾くことはちょっと躊躇しましたね、ちょっとだけ(笑)。
ーチャーリーさんの歌声を聴いて泣いている人もいて、TENDREさんの言う通り、心に響く素晴らしい歌声だと思います。歌はいつから始めたんですか?
小学校の頃に教会のクワイア(合唱団)に入っていたんです。当時はすごく嫌だったですけどね(笑)。それから、14歳でメルボルンに移ってポップスやロックのバンドを始めた時も歌っていました。
ーバンドを始めた時はどんなアーティストの曲を演奏していたんですか?
すごく恥ずかしいですね…(笑) 。えっと、Matchbox TwentyやGoo Goo Dolls、Coldplayです。でも、自分に音楽的影響を与えて、人生を変えてくれたバンドはRadiohead。13才の頃にRadioheadを聴き始めてから音楽に真剣に向き合うようになったんです。そこで自分の音楽性が変わったし、音楽を勉強しようと思うきっかけになりました。
それから Jeff Buckleyにハマって、D’AngeloやLauryn Hillといったソウルクエリアンズ周辺を聴き始めました。
ーオーストラリアの大学で音楽を勉強した後、シンガポールに戻ったそうですが、何かきっかけがあったのでしょうか?そのままオーストラリアで活動するという選択もあったのかなと思うのですが…。
簡単に言ってしまえば、よりチャンスがあったから。戻ろうと決めたわけでも、戻りたいと思ったわけでもなく、活動していく機会がシンガポールにたくさんあったんです。教育のシステムもシンガポールの方が良いと感じましたし。
実際にシンガポールでは“好きなことをやって生活していく”こと、特に音楽のようなもので生計を立てることに対して「ありえない」という考えが根強くあります。ここ10年で変わってはきましたが、まだまだ浸透はしていません。
僕がシンガポールで活動することによって、好きなことで人生を築けるということを示していけると思うんです。そういったムーブメントに関われることもシンガポールで活動する喜びです。
ーやはりアイデンティティはシンガポールにある?
自分が生まれ育った国だし、友達も家族もいるので自分にとって確実にアイデンティティはシンガポールだし、シンガポール人であることにすごく誇りを持っています。メルボルンに住んでいた時もそれは変わりませんでした。
海外でパフォーマンスをして強く感じるのは、シンガポールのアーティストはすごく少ないという事。僕はその数少ないうちの1人で、それだけのことを本気でやろうとしているクレイジーな人間だけど、これからもずっとトライし続けると思います。
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