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新型コロナウイルスの蔓延が続く中、人々を元気づけ、活気を取り戻させる映画が多く誕生した2021年。
ダニエル・クレイグ演じるジェームズ・ボンドが主役の『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』や、度重なる延期を経て12月24日(金)に公開が決まった『キングスマン:ファースト・エージェント』、邦画では『るろうに剣心 最終章 The Final』『るろうに剣心 最終章 The Beginning』など人気シリーズの最新作が続々と発表。アニメーションでは日本の映画監督・細田守の最新作『竜とそばかすの姫』が上映され、監督史上最高の興行収入を記録し大ヒットとなるなど、国内外問わず盛り上がりを見せた年となった。
そんな2021年の振り返りとして、衣装、脚本、音楽、映像の4部門に分け、独断と偏見によるベスト映画8本を紹介する。多様性を尊重する社会へと変化しつつある今、多彩な生き方にフォーカスした作品や枠に囚われない価値観を描いた作品が登場するなど、どれも現代を生きる人々へ届けられるにふさわしい作品が揃った。集団として淘汰されがちな社会においてアイデンティティを抱く意義を教えてくれるような、唯一無二の個性を放つキャラクターが活躍するのも見どころなので、ぜひお気に入りの1本を探してもらいたい。
エマ・ストーン主演でディズニー映画『101匹わんちゃん』を実写化。映画に登場したヴィラン・クルエラを主人公に、彼女の身に起こった出来事と悪役となったルーツを描く。
配信サイト「Disney+」を立ち上げ、劇場上映だけでなく様々なデバイスで映画を視聴可能にし、精力的に新作を発表し続けたディズニーの中でもひときわ反響の大きかった作品だ。なんといっても本作の見どころは、主人公クルエラがファッションデザイナーとして宿敵・バロネスに宣戦布告するために自らを着飾るファッションの数々。原作からの踏襲やインスパイアを感じさせるものから、前衛的でより現代チックにアレンジされたパンク・ファッションまで勢ぞろいの衣装は眺めているだけで心が躍る。
反骨精神を露わにし、自身の才能<センス>で戦いを挑むクルエラの姿は、従来の気高き精神をそのままに現代の新たなヴィランの姿を確立させた。
大手配信サイトAmazon Prime Videoがオリジナルで製作した、トラディショナルなおとぎ話である『シンデレラ』を大胆に現代の解釈でアレンジした作品。
ガールズグループ出身の歌姫カミラ・カベロや、『アナと雪の女王』でおなじみイディナ・メンゼル、期待の新鋭ニコラス・ガリトゼイン、エミー賞&トニー賞受賞歌手のビリー・ポーターなど音楽のセンスに富んだキャストたちが魅せる歌唱シーンも見どころだが、従来のクラシカルな『シンデレラ』とはまた違う見るも鮮やかな衣装の数々にも注目したい。特に自身のセクシャルについて公表し、LGBTQ+アクティビストでもあるビリー・ポーターがフェアリー・ゴッド・マザーに扮する際に着用しているドレスは圧巻。ジェンダーレスな美しさを感じられるビビッドなオレンジのドレスを身にまとうビリーは、本作の中でもひときわ存在感を放っている。
現代をポジティブに生きるための魔法のような映画として、称賛に値する1作だ。
ディズニーがピクサー・アニメーション・スタジオとタッグを組み製作した、港町の人々が恐れる”シーモンスター”の少年・ルカが、同じくシーモンスターであるアルベルトや人間の少女、ジュリアとの交流を通して成長していく姿を描いた作品。
本作の監督を務めたエンリコ・カサローザは、日本のスタジオジブリ作品の大ファンであることを公言しており、本作においてもジブリへのリスペクトを込めた演出を施している。ラストシーンでは、ルカの旅立ちを見守るアルベルトという構図が描かれる。ジブリ作品に見られる”映画が終わった先も続いていく物語”を感じさせ、きわめて情緒に溢れた粋な演出だ。
ひとりの少年を主人公にして展開される起承転結と、そこから生じる豊かな感情、映画の中だけで物語を完結させない巧みな脚本で、大人も子どもも楽しめる作品となっている。
『愛がなんだ』の今泉力哉監督が文化の町・下北沢を舞台に男女の出会いを描いた『街の上で』や、SNS発の小説を俳優・森山未來主演でエモーショナルに映画化した『ボクたちはみんな大人になれなかった』など、今年の邦画も粒ぞろいの良作が多かったが、なかでも8月6日に公開された『サマーフィルムにのって』が印象に残った。
主人公は時代劇好きの女子高生、ハダシ。映画部に所属しているが周りは恋愛映画を撮ってばかりで、好きな時代劇を撮りたいという思いを燻ぶらせていた。そんな中、自分のイメージする武士役にぴったりの青年・凛太郎と出会い、仲間たちとともに時代劇を撮ることを決意する。主演はアイドルグループの乃木坂46から女優へと転身した伊藤万理華。好きなことに全力投球するまっすぐな少女像を瑞々しく演じており、好感を持てるのも魅力のひとつだが、本作の真髄はその脚本とラストシーンが伝えるメッセージにある。
映画という娯楽の真の価値、というシリアスなテーマに切り込み、本作が令和というコンテンツに溢れた時代に製作された重要性を感じずにはいられない、非常にメッセージ性の強い脚本に思わず拍手を送りたくなった。ぜひ最後まで観て、その力強さを感じてもらいたい。
今年の映画界において、その類まれなる才能で一躍旋風を巻き起こしたリン・マニュエル・ミランダ。『tick,tick…BOOM!:チック、チック…ブーン!』『ミラベルと魔法だらけの家』など、彼が監督や音楽を担当した作品は軒並みヒットを飛ばし、今や時代の風雲児としてその名を轟かるマストチェックな人物となっている。そんなミランダが原作を手掛けたミュージカル発祥の『イン・ザ・ハイツ』も、今年の映画を語る上で欠かせない作品だ。
実在するニューヨークの街、ワシントン・ハイツの住人たちを主人公とし、遠く離れた故郷を思いながら、厳しい現実を生き抜くエネルギーを歌とダンスで表現した本作。原作ミュージカルでも歌われた楽曲に加え、より現代のテイストを盛り込んだラップ調のナンバーも登場している。
コロナ禍で人々の心も沈みがちだった今夏だったが、同じく苦境や逆境に立たされても前を向いて生きる彼らの歌うソウルナンバーを聴いて勇気づけられた観客も多いだろう。辛い現実が映画の中の世界とリンクし、音楽の持つ力を再確認できた作品となった。
エイダン・チェンバーズの傑作青春小説『おれの墓で踊れ』を、フランス映画界の名匠フランソワ・オゾンが映画化した作品。
1985年のフランスはノルマンディーを舞台に、ふたりの青年が転がり落ちるように劇的な恋をし、別れと喪失を経て成長していく。劇中では80年代の青春を彩るマスターピースたちが流れるのだが、ロッド・スチュワートの『Sailing』を始めとして、すべての楽曲に意図が込められており、ここぞというシーンで、まるで主人公たちがこちらに語りかけてくるように流れてくる。
極めつけはエンドロールで流れるThe Cureの『In Between Days』。アーティスト側から「本曲リリースの1985年に映画タイトルを合わせること」という使用条件を承諾し、タイトルを『Summer of 84』から変更するまでこだわっている。映画を最後まで観なければ伝わらない、歌詞が伝える物語の深みがそこにあるので、ラストまで切なくも愛おしいストーリーを堪能してもらいたい。
ディズニーの名作アニメ『ピノキオ』でも知られる児童文学『ピノッキオの冒険』を、イタリアの鬼才マッテオ・ガローネ監督が映画化したダークファンタジー。
原作に忠実なタッチで描き、美しくも残酷な物語を見事に映像化している。また、第93回アカデミー賞で衣装デザイン賞、メイクアップ&スタイリング賞の2部門にノミネートされており、主人公ピノッキオや彼を取り巻く登場人物たちの徹底されたキャラクターデザインと、彼らを生かすための衣装と映像クオリティの高さは一目瞭然。使い古されたアンティークのような細かいディテールを持つ衣装はもちろん、CG技術を駆使して作り出された映像美には思わず感嘆の声を漏らしてしまう。
ピノッキオが旅する森や海、洋館の絵本から飛び出してきたかと思うほどの美しさは、目の肥えた映画ファンでも唸ってしまうほど。まるで美術鑑賞をしているように観られる映画なので、世界観にどっぷり浸りたい時におすすめの1本だ。
『ブレードランナー2049』『メッセージ』などSF映画の名作を生み出したドゥニ・ビルヌーブ監督が、フランク・ハーバートのSF小説の古典を映画化した作品。
「Filmed In IMAX」という新たなプログラムを活用したIMAX映画として打ち出されただけあって、その映像美は過去の映画体験を塗り替えるほどの威力を持つ。砂の惑星デューンを舞台にしたシーンでは、細かな砂の一粒一粒が繊細に映し出され、光のフレアや主人公たちが纏う布の質感など、どれをとってもハイクオリティかつ完膚なきまでに美しい映像が楽しめる1作となっている。また、主人公ポールを演じるのは新世代のプリンス・オブ・ハリウッドとして人気沸騰中のティモシー・シャラメというだけあって、彼の圧倒的なオーラを画面いっぱいに感じられる映画としても手放しにすすめたい作品だ。
先日Part2の製作が決定し、更なるグレードアップと今後の展開に期待せざるをえない。
配信サイトの台頭によってコンテンツの幅が急激に拡大し、「ただ毎日をぼんやり過ごしているだけでも何かしら時間を潰すための娯楽はある」時代になった昨今。最近では劇場で上映している作品でもオンラインで鑑賞することが叶うようになった。そんな中でも映画館へ足を運び、映画を観て心を動かされたことは今年を振り返る上でも意義深い体験だったと感じる。
新型コロナウイルスの襲来により、誰しもが先の見えない不安を抱えている。だからこそ今、改めて映画という芸術が持つ力を再確認し、希望を抱き過ごしていけたなら、日々を潤すものがあったのなら、きっと苦難も乗り越えられるはずと信じたい。
来年もまだ知らぬ素晴らしい作品と出会うため、映画館へ向かう。自分と同じように映画を愛する人々が、スクリーンを見つめ時に笑い時に涙し寄り添い合っていることを願って。
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