文: 石角友香 写:Kazma Kobayashi 編:Kou Ishimaru
ルーツ・レゲエやダブミュージックを土台にしつつ、現代のポップミュージックのエレメントも呑み込むタフな11人編成バンドTHE BERSERKERS。FISHMANSやBuffalo Daugterらを手掛けるZAKがミックスした2曲も含む1stアルバム『THE BERSERKERS』は想像以上にルーツ・レゲエのリアルな音像や演奏スタイルのDNAを感じさせるもので、若いリスナーには新鮮に、またこのジャンルを聴いてきたリスナーには驚きをもって迎えられるだろう。加えて現代のレベルミュージックを標榜する側面は日常的でありながら問題意識を潜ませた世界観にはっきり窺える。和やかなアーティスト写真にいい意味で裏切られる(?)ユニークな音楽性についてバンドを代表してリーダーでベースの長幡優、ボーカル&ギターのナパポーン、ギターの岡藤“DRAGON”隆平に話を訊いた。
ーまず皆さんがバンドで共有している音楽的なルーツについて伺えますか?
長幡優(Ba.):
音楽的ルーツは実はみんなバラバラなんです。大学でたまたま入ったサークルが、ルーツ・レゲエやロックステディというジャマイカ音楽をやるサークルで。まだその音楽も知らなかったメンバーたちなんですけど、やっていくうちに気が合いながらレゲエが好きになっていって、共通項となりました。ーおのおののルーツは違うんですね。それぞれどんなルーツがあって、レゲエに対してはどんな思いを抱いているんでしょうか。
ナパポーン(Vo.):
自分がもし次の音楽をやれるんだったら間違いなくインディロックをやってると思います。普段かなり暗いインディロックしか聴かないんですけど、ルーツ・レゲエで自分の言葉を変換した方が自分のマインド的にも他者に対してもいい影響が及ぶ気がして。自分の中で誠実でいられる、義理堅くいられるっていう思いがあったんです。それから、レゲエに対して自負、矜持を持ってやっている上の代の人がいて、それを自分たちも守っていかなきゃならんな、というミッションみたいなものを内面化していったのもあります。かつ、彼らの人間像がユーモラスで、知的なところもあれば陽気なところもあって、そこに近づいていきたいと思ったことも原動力のひとつですね。岡藤“DRAGON”隆平(Gt.):
自分はもともと中学生のときRed Hot Chilli Peppers(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)が好きでそこから掘っていったんですけど、バンドを始めたのが大学からで、バンドやるとしたらレゲエやロックステディしか自分にはないかなという感じで今もやってます。長幡優(Ba.):
僕にとってもレゲエは音楽的な目新しさがかなりありましたね。それまでワールドミュージックは知らなかったし。高校までは吹奏楽をやってて、クラシックのほうが好きだったので大学に入ってもやりたかったんですけど、間違えて民族音楽サークルに入ってしまい、「こんなにリズミカルで気持ちいい情熱的な音楽があるんだ」とレゲエにどんどんのめり込んでいきました。ーレゲエの先人の思想への共感もありましたか?
ナパポーン(Vo.):
それもあります。大学に入った時にレベルミュージックをとにかくやりたいというふうに思っていたんです。で、もともとStevie Wonder(スティーヴィー・ワンダー)だったりのR&B、ソウルの人々も好きで聴いていたので、そこをやるかと思っていたらこっちに流れ着いたというところがあって。そこは思想的な親和性も高かった。ーメンバーはそのサークルで自然に集まったんですか?
長幡優(Ba.):
そうですね。自然と気が合うやつらが周りにいたっていう感じです。このバンドはサークルが終わって卒業してから始めたんですけど。ーナパポーンさんのようなボーカリストがいることで色がはっきりした部分もあるのでは?
長幡優(Ba.):
そう思います。メッセージを考えてくれているのはナパポーンであって、バンドの道を作ってくれてると思いますね。ーこの人数が集まっていった過程には興味があります。
長幡優(Ba.):
最初は4、5人で始まったんですけど「ああいう音入れたいね。じゃああいつ呼ぼうよ」ってサポートで呼ぶみたいな考えは僕にはあまりなくて、仲間として引き入れていくうちに10人ぐらいになっちゃいました。結局は友達と遊んでる感覚が僕らにはあって、そのままバンドとして作品を作れているという感じではあるんですね。なので徐々に仲間が増えていったという。ナパポーン(Vo.):
ヒップホップクルー・KANDYTOWNのふわふわしてる版みたいな感じ(笑)。ーメンバーそれぞれレゲエやダブに対する理解やスタンスにグラデーションがあると思うんですけど、もめないんでしょうか。
長幡優(Ba.):
もめないですね。みんなやりたい音楽も違うと思うし聴いてきたルーツも全然違いますけど、一つの曲という箱があってみんなが好きなことを詰め込んでいって1曲ができるみたいな感じで曲を作ってるので、その過程が面白いなって思ってるぐらいなんです。なのでもめることはないし、みんなそういうもんだよと思って自由にやっています。ーバンドの始まりがコロナ禍に重なったそうですが音楽性やメッセージの部分に影響していると思いますか?
ナパポーン(Vo.):
自分は明確にありますよ。コロナ禍のタイミングってつらさもあったのかもしれないんですけど、自分としては逆に居心地のよさの方があったんです。他人の露悪的なところを見なくて済むというか。例えば電車に乗っている時に起きるいざこざを見なくていい時期でしたよね。そうやって自分と向き合っていける時間があったのに、(コロナ禍明けに)全部「皆さんポジティブな気持ちで社会に出て行きましょう」って解放されちゃったんですよ。その瞬間に見なくてよかったものが色濃く見えるようになっちゃったのがつらくて。それを融和するために自分に対しても「大丈夫。お前の考えていることをとりあえず書いとけば自分自身は救われる」と思って曲を書いていました。ーそういう感覚はバンドで共有していたり?
長幡優(Ba.):
いや、あんまり(笑)。ー11人もいるとそうなのかもしれない。
ナパポーン(Vo.):
仮に1人とか4人とかの小さな核の中でやっていくのであれば、「私たちはこういう考えのもとでやってます」っていうふうになるかもしれないですけど、自分たちは11人メンバーを抱えている以上、その中にも色とりどりな考え方があってそれを包括した上でやっているので。ー今回のアルバムは結成当時から書いてきた曲で構成されているんですか?
ナパポーン(Vo.):
一部がそうです。絶対に入れたい既存曲を中心に、どういうふうに肉付けをしていくかという形でほかの曲を作りました。ー軸になった曲はどれですか。
ナパポーン(Vo.):
2曲目の「wolves」、それから3曲目の「stranger」です。ー「wolves」は“これがTHE BERSERKERSだ”というのを出せた曲なんでしょうか。
長幡優(Ba.):
そうですね。バンドのカラーを一番表現してるのはこの2曲だと思ってて。僕たちがやってきた音楽であり、やりたいことやメッセージが特に「wolves」にまとまってるなというふうには思います。そこからさらにアルバムを広げていくなら、設計図を書いて広げていけたらというような起点となった曲ですね。ーこの2曲に関して皆さんは音楽的にどんなイメージを持っていますか。
ナパポーン(Vo.):
実は、録ったときにいろいろと曲のイメージについて聞き合ってみたらバラバラだったんです。岡藤“DRAGON”隆平(Gt.):
「stranger」は特にバラバラで。ナパポーン(Vo.):
音像を作り上げるときにそういう会話を一度して、その時に「え?おまえそんなこと思ってたんだ」っていうのがありましたね。自分はヒップホップ的で、一定の無機質なビートの上で人が歩くようなイメージだったんですけど、それとは違ってかなりレゲエ的な解釈を持っているメンバーがいたりして「あ、そうなんだ?」と。ーナパポーンさんは淡々としたイメージを持っていた?
ナパポーン(Vo.):
自分が好きなラッパーでっていう人がいるんですけど、その人みたいなクールなイメージでステージの上にいるみたいなことを考えていたから、それよりはすごくバンドアンサンブル的なところを想像しているんだなっていうのはそこで初めて知りましたね。長幡優(Ba.):
「stranger」に関してはかなり同じリズムを繰り返す曲ではあるので、僕の中ではいかにリズムを面白く見せるかというのを考えていて。同じリズム、同じリフを繰り返してどんどん盛り上がりを展開をしてバンドがどんどん姿形を変えていく、そういうものが作りたかったのでもう全然ナパポーンと言ってることが違ったっていう(笑)。でも作っていくと方向はどんどん近くなっていって今の曲になった感じですね。ー《I’m a stranger しらふでいられるわけもない》というナパポーンさんのリフレインが残ります。
ナパポーン(Vo.):
(笑)。自分はとにかく人から見られるのが怖いんです。この歌詞は下北沢を歩いているときに周りがすごく「なんでこんな町の住人として堂々としていられるんだろう?」と感じて、「あ〜酒が欲しい」と思って書いた曲です。ー(笑)。ところでTHE BERSERKERSの曲作りってどんなふうに始まるんですか。
ナパポーン(Vo.):
それぞれのスタイルでやっていきますね。長幡優(Ba.):
それぞれ作り出すタイミングも作り方も違って、作ってるものすら違うぐらいなんで。ーひとりである程度まで作るんですか?
長幡優(Ba.):
そうですね。ひとりである程度バンドの下地は打ち込みで作って持っていきます。割と僕はギターを持って曲を考えるんですけど、自分が作りたいのはサウンドが見せる景色みたいなもので、ギターのコードをいろいろ研究してこういう展開していったら面白いだろうなっていうのを考えながらまず作って。そこに下手くそなドラムの打ち込みとかべースとかを入れて、「こんな曲の箱があります」っていうふうにバンドの人に見せて、「じゃあこういうリフとか入れよう」「こういうメロディを付けようよ」とか、みんなのやりたいことをその箱にどんどん入れてもらう感じで曲作りしてますね。ーその作り方の中でも今回のアルバムでよりバンドとして前進した曲というと?
長幡優(Ba.):
6曲目の「簡単には言い表せない何かについて」って曲がありますね。これは1年ぐらい前に作った曲ではあるんですけど、レゲエはレゲエだけどなんか新しいやつ作ってみたいんだよなという気持ちから頑張って作った曲ではあります。レゲエじゃないちょっと独特なノリとかコードとかキメを入れたデモを送ってみんなで演奏して、ライブでも何回かやったんですけど全然メンバーが好きになってくれなくて(笑)。長幡優(Ba.):
「メンバーにハマってないぞ?やめようかなこの曲」と思ってたんですけど、自分の中ではかなり自信のあった曲なので、アルバムでちゃんと作品にしようってことで作りました。それでレコーディングの時にみんなにいろんな音を考えて研究して入れてもらって、割とこのアルバムの中でもかなり面白いものができたし、自分がやりたかったことがたくさんできた1曲になったなと思ってます。僕の中では作曲って実験みたいなものなんですけど、それが成功した形っていうイメージですね。ーサビは結構ポップですもんね。
長幡優(Ba.):
そうなんです。サビから考えて、サビだけポップにしようっていうところで急にコードもメジャーキーに変わって景色が広がるようにしたんですけど、ルーツのレゲエの音楽にはないギミックですよね。「レゲエにはないけどやったらどうなるんだろう?」というのは面白いところだなと思いますね。ーナパポーンさんの作曲スタイルは?
ナパポーン(Vo.):
僕は絶対に言いたいことが生まれるまでは曲を作らないタイプで、それが生まれてきたら一気に書くスタイルです。長幡は最初にデモを作ってから何度かアップデートをしてくることが多いんですけど、自分は作ると宣言したら20日ぐらい何にもしてこなくて、最後の一日でバーンって出して「はい!終わり」と。長幡優(Ba.):
ちゃんと完成するのかいつも心配になる(笑)。ナパポーン(Vo.):
基本的に自分は歌の人なので、リフレインが定まったらそこから一気に拡張していくっていう感じなんですね。今回の場合だったら「怒られたくないな」は《怒られたくないな》ですし、「stranger」も《I’m a stranger しらふでいられるわけもない》ですし。ただ根底にあるのは言いたかったメッセージというよりも、自分の中でそれに伴うビッグなイベントが起きた時だと思ってます。例えばさっきの下北沢を歩いていてとんでもない孤独を感じたとか、「怒られたくないな」は3年前ぐらいの怒られた記憶が寝る前にフラッシュバックしてしまったときに、「ああもうこれはもう曲にするしかない」っていうふうに思ってやるんですね。そこまで突き上げがないと作れないっていうのもどうかと思うんですけど(笑)。そんな衝動的なクリエイティブに頼ってます。ー両極端な曲作りが存在するのがいいのかもしれないですね。
長幡優(Ba.):
それが面白いところかも。このバンドのバラエティの広さはそういうところかもしれないなと思いますね。ーそしてZAKさんがミックスされたのは「wolves」と「怒られたくないな」。ZAKさんが作る音に対してどういう印象がありますか。
長幡優(Ba.):
ただ綺麗に整えられたミックスではなくてZAKさんの持ってる特別な感性を強調してつけてくれているので、僕たちはFISHMANSも聴いてきたのでなじみはあったんですけど、いざ自分たちの曲につけてもらえると驚きの連続というか、めちゃくちゃ興奮しましたね。具体的にはダブエフェクトみたいなのも派手につけてくれて最終的には空に飛んでっちゃうようなすごい音の圧で。そういう音を作れるアーティストとして尊敬する一面を間近で見れたという感想がありますね。ナパポーン(Vo.):
自分はZAKさんに頼むってなった時にめちゃめちゃ不安がっていたひとりなんですよ。俺らの制作過程を知らない人に頼むなんてそんなことあっていいのか?みたいな(笑)。そのぐらいまで思っていたんですけど、返ってきたのを聴いたらアーティストとしてミックスをやるってこういうことか、それは当然良さとして影響を及ぼしてるんだから納得だわっていうふうに、もう舌鼓を打ちました(笑)。長幡優(Ba.):
納得の味でしたね。ーアルバムがリリースされたばかりですが、今後についてはどんな展望がありますか。
岡藤“DRAGON”隆平(Gt.):
ま、続けたいですね、バンドを。それが僕にとって唯一の目標かなと思ってて。長幡優(Ba.):
それはありますね。音楽は進化させていきつつ、作る原動力を失わずに続けていければいいなってのはありますし、音楽的なところで言えば僕はもっとチャレンジしたいっていうのがあります。今、曲作りが面白いので、今まで聴いたことがないような曲が今回作れたんですけど、この先も「THE BERSERKERSの音楽だよね、これって」って言ってもらえるような新しい発見のある自分たちの世界が作れたらいいなと思いますね。ナパポーン(Vo.):
演奏してる自分たちもそうだし聴いてくれる人もそうなんですけど、適当に寄って来れる集いの場にしたいですね。救いっていう言葉を使うと手を組んで祈るだとかそういうイメージになってしまいがちだと思うんですけど、どんな考えを持った人でも適当にふらっと来ていい場所にしたいんですよね。結構歌詞の中でもあんまりロジカルではないことをたくさん言おうと思っていたんです。ーロジカルではない?
ナパポーン(Vo.):
例えばラップのリアルってラッパーの一貫性の中で何かが語られがちだと思うんですけど、そうじゃなくてこのバンドでは「こんな人間だけれども、はたまたこう考えていることもある」という感じをたくさん出したんですね。それが基本的にバンドに対する目線でもあって欲しいと思ってるんです。あなたたちが信じているそのイメージまで自分たちが担うことはできませんが、それはでも私たちからあなたに向けてもそうなんです、と。そういう双方向的な見方でありたいから、あなたがどんなことを考えていてもいいし全然関係ないんで、ぜひぜひ来てくださいっていう場所にしたいですね。RELEASE INFORMATION
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