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文: 黒田 隆太朗
「田舎の小僧が都会的な先輩に仕上げてもらった」とのことで、本作でのRyu Matsuyamaは一聴して一味違う。それもそのはず、mabanuaのプロデュースで生まれた新作が『Borderland』だ。雄大な大地を思わせる音像や、灼熱の太陽のようなエモーショナルな歌はそのままに、どこか洗練されたサウンドデザインが施されている。それはアーバンなmabanuaとの共作曲「Blackout」に顕著で、既にライブで披露されている「boy」や塩塚モエカ(羊文学)を招いた「愛して、愛され」など、佳曲揃いの一作になっている。初のゲストヴォーカルやプロデューサーの存在はもちろん、実父に依頼したジャケ写や海外マスタリングなど、メンバー以外の血が存分に注がれた一作はいかにして生まれたのか。リーダーのRyuに本作までの道のりを語ってもらった。
ー本当に素晴らしいアルバムだと思います。
やったー。ありがとうございます。
ー作品の雰囲気が変わりましたね。これはmabanuaさんの力が大きいんですか?
mabanuaさんがいないとできなかったアルバムですね。選曲の時点から入ってもらって、40曲くらいのデモトラックをmabanuaさんにお渡しし、その中からベストだと思う曲を選んでいただきました。そこからアレンジを提案していただいて、データのやりとりで作っていきましたね。
ーご自身では、これまでのRyu Matsuyama作品とどこが1番変わったと思いますか。
やっぱりアレンジ面ですね。あとはオブリやピアノのプラスアルファなど、要所に入っている音も特徴的だと思います。特にJacksonとmabanuaさんはドラマー同士ですし、ブラックミュージックが好きなふたりなので、Jacksonの良さに寄せていったアルバムになったと思います。そこにすんなり乗っかれるTsuruちゃんの安心感もあったし、僕もなるべく手つきを変えて弾いているつもりで、3人の強みを活かしてながらよりカッコよくなれた作品になりました。
ー抽象的な言い方ですが、音が洗練されましたよね。少し響きがアーバンなものになった気がします。
そうですね。昔はもっと風景っぽい音だったので、確かにアーバン感はあると思います。田舎の小僧たちが、飲み会で出会った都会的な先輩に仕上げてもらったというか(笑)。全員の洋服をコーディネートしてもらったら案外これイケるんじゃない?みたいな。そういう感覚が音にも出たかもしれないです。
ー塩塚さんを招いた「愛して、愛され」はいつ頃書かれた曲なんですか?
これはかなり前ですね。もしかしたらJacksonも加入していなかった頃かもしれないです。
ー凄い、そんな前の曲なんですね。
7、8年前とかかな。Tsuruちゃんとふたり体制でやっていた時に書いた曲で、これまで何度もアレンジをしてきた曲なんです。
ーバージョン5.0とか6.0の曲なんですね。
うん、もっといってるかもしれない(笑)。1年に1回くらいは新しいアレンジを試しながら、結局やらずじまいだったものをここでようやく回収できました。mabanuaさんもいいメロディだからそのままやってみようって言ってくださって、当時のままの歌詞とメロディで完成させています。
ー人は何故生きるのかを問うような、根源的な曲ですね。ここまでストレートに日本語を歌う曲はあまりなかったんじゃないかと思います。
これはそもそも比喩的な曲で、実はセミの恋を描いているものなんです。7年間土の中にいて、ようやく出てくると雄だけが鳴いて雌を探す、そういうセミの神秘的な行動に心を打たんですよね。その時、自分の感情にも当てはめながら書きました。愛し愛され、また憎しみ憎まれて人間性が成り立つんだと僕は思います。また、そうやって生きていきたいという希望も込めた曲ですね。そういうテーマにするならば、ストレートにしないと伝わらないなと思って、シンプルに綴っていったのを覚えています。
ー以前インタビューをした際には、日本に来た時には特に、自分の人生を問うように音楽をやっていたと言われていました。Ryuさんは今でも問うていますか?
それはもうエブリデイでございますよ。ただ、自分にプレッシャーを覆いかぶせるように考えているわけではないですね。そんなにネガティブなものではなくて、毎日の出来事の中でポジティヴにやっていけるように考えているという、そのくらいのものです。
ージャケ写は画家であるお父さんが描かれたものですが、いつか一緒に創作をしたいという気持ちがあったんですか。
そうですね。絵を描いてるので、せっかくならいつかはと思っていました。でも、このタイミングで描いてもらったのは偶然で、ジャケットを考えている時になんとなくみんなの中から出てきたものでした。で、僕も軽い感じで親父に「どう?」って聞いたら、「いいよ」って返ってきて決まっていったんですけど。今のご時世何が起こるかわからないので、このタイミングで一緒にできてよかったと思います。
ー逆に何故今までお願いしなかったんですかね?
なんか恥ずかしいじゃないですか。親父とコラボするっていうのは。出来るだけ親父の力を借りたくないっていう変なプライドもありましたし、自分達の力でなんとかやっていきたいって気持ちもありましたから。ただ、これまでも親父の作風に似た雰囲気のジャケットにしていたんですよね。
ー日本に来てからは自分の力で音楽をやり、バンドを組んでキャリアを進めていったと思います。それが今回プロデューサーやゲストヴォーカルを招いたばかりか、ジャケットもお父さんに依頼しているというのは、10年のキャリアの中で確固たるものが自分の中に出来たからこそ、3人以外の血も取り入れていけたんでしょうか。
そうですね。今まで培ってきたものや、出会ってきた人々が繋がっていったなと改めて思います。本当に『ONE PIECE』を読んでいるかのような気持ちですね。自分の人生に置き換えちゃうようになったというか、最近『ONE PIECE』を読んでると感動しちゃうんですよね。この前も仲間が戻ってきたシーンで、「うっ…」ってなってしまったんですけど(笑)。そうやって出会ってきた人達と制作できたらいいですし、制作を共にせずとも、これまでの経験や出会いから僕らの曲はできていると思います。
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