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文: Kou Ishimaru
緊急事態宣言が発令され、外出自粛、在宅勤務に切り替わってからおよそ3ヶ月が経っていた2020年7月。この『ニューエイジ・ミュージック・ディスクガイド』が発売された。
在宅仕事時の良いBGMを模索していた自分にとって、この本に掲載されている「ニューエイジ・ミュージック」をはじめ「アンビエント」、「環境音楽」は、このシーズンの一大トピックであり、未だ読めてない本が自分のデスクに積まれていることを把握しながらも、発売日に即、Amazonの購入ボタンを押すこととなった。
本のタイトルにある「ニューエイジ・ミュージック」とは、1960年代のヒッピーカルチャーやニューエイジ思想をルーツとするインストゥルメンタル音楽群のこと。自然回帰願望を持った人々に向けた癒し系音楽で、サウンド的に近い「アンビエント」、「環境音楽」からも影響を受けながら発展した。
「イージーリスニング」とか「ヒーリングミュージック(癒し系音楽)」、YouTubeで作業用BGM化されている、川のせせらぎ、鳥の鳴き声のような自然音や、一度は目にしたことがあるであろう「a波で快眠」を謳ったようなリラクゼーション音楽もこのニューエイジの葉脈であると言えよう。
西洋社会における「キリスト教」とも「近代合理主義」とも違う新しい文化原理を探求するカウンターカルチャー、サブカルチャー的思想が大元にあるが、例えば日本では企業の“自己啓発”に繋がっていったり、元々消費社会へのアンチテーゼとして生まれたニューエイジ音楽が、”ヒーリング・ミュージック“シリーズとしてダイソーで100円で売られて大量に商用消費されてしまうなど、このニューエイジ・ミュージックの扱いを追うだけでも、産業社会とそれに対峙、或いは飲み込まれていった概念の縮図が見えてくる。
そういった膨らみのある過去をもつニューエイジ・ミュージックを「世界のニューエイジ」「日本のニューエイジ」「テン年代のニューエイジ」「ルーツ・オブ・ニューエイジ」、さらには「俗流アンビエント」「森とニューエイジ」「アニメ・サントラ/イメージ・アルバム」の全7項目に分けてアーカイブしているのがこのディスクガイドだ。
王道のニューエイジ・ミュージックはもちろん、例えば先ほども触れた100円ショップのために大量生産された作者不明のアンビエントCDは近年生まれた新しいカテゴリ「俗流アンビエント」に入れられ、2010年以降Vaporwaveなどのインターネットカルチャーと共鳴して再評価、最新作のリリースが進んでいるニューエイジ・リバイバルは「テン年代のニューエイジ」にまとめられている。
第1チャプターである『世界のニューエイジ』がまず最初に知りたい王道ではあるのだが、本来のニューエイジ思想から大きく離れていわば“ゾンビ”のようになった「俗流アンビエント」は、本流とは違う趣きがあったり、実は一番興味をそそられる存在であったりもした。
また、各チャプターの間には細野晴臣と岡田拓郎の対談、尾島由郎とスペンサー・ドラン(Visible Cloaks)へのインタビューが挿入。更には『「ニューエイジ・ミュージックの」始祖を探して』(江村幸紀)や、『「チル」と「ニューエイジ」の距離、オルタナティブR&B勃興とニュースエイジ/アンビエント再評価の底流』(TOMC)、『クラブシーンで起きたニューエイジ・リバイバル』(動物豆知識bot)などのコラムも掲載されており、ニューエイジの成り立ちから、クラブ、ストリーミングサービスとの組み合わせによって進んだ再評価の背景を探ったり、膨大な視点からニューエイジを知ることができる必見本となっている。
サウンドはシンプルで、しかも歌のあるポップソングとは違ったインストゥルメンタルな音楽という特性上、ジャンル全貌の輪郭の掴みにくいニューエイジだからこそ、このディスクガイドの活字を読んで各作品をマッピングしながら、脳にインプットすることをオススメする。
コロナ禍以降、音楽の趣味が変わった人が多いという話をよく耳にする。自宅で聴きたい音楽を今も探している方や、これを読んで“アンビエント””ニューエイジ”というキーワードに惹かれている方は、是非一度手に取ってみてはどうだろうか。
INFORMATION
本「ニューエイジ・ミュージック・ディスクガイド」
▼内容
ニューエイジを切り口に、語られなかった音盤を紹介した、画期的なディスクガイド。環境音楽から実用系まで600選。著者:門脇綱生(かどわき・つなき)
発売日 : 2020/7/17
単行本 : 224ページ
ISBN-10 : 4866471239
ISBN-13 : 978-4866471235
寸法 : 21 x 14.8 x 2.5 cm
出版社 : DU BOOKS (2020/7/17)
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