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アーティスト、プロデューサー、作詞・作曲・編曲家など多岐にわたり活躍するヒダカトオルが、2024年4月に『ヒダカトオルOfficial Site』をBitfan内にオープンした。
アーティストとしては、パンクバンドのTHE STARBEMSやソロ・アコースティックユニットGALLOWなど、さまざまな形態で活動を行うヒダカ。また、デビュー時のバンドBEAT CRUSADERSは解散から約14年経った現在も根強い人気を誇る。英語詞を取り入れつつも口ずさみやすい歌詞とメロディ、シンプルなアンサンブルの中に多彩なジャンルを溶け込ませたサウンドなど、彼の作品に音楽を聴く楽しさ・奏でる楽しさを教えてもらったリスナーやバンドマンは数しれずいるだろう。
そういったキャリアを持ちながらも、取材では誠実かつ謙虚に取材に応じてくれたヒダカ。深い音楽愛とどんな相手にも敬意を払う姿勢こそ、長く活動を続ける秘訣なのだと強く感じた。そして『ヒダカトオルOfficial Site』も、リスナーとの対等な関係を築く場所となるはずだ。
また、今回はTHE STARBEMSの活動や『ヒダカトオルOfficial Site』メンバーシップのコンセプトである“ワン&オンリー”という言葉に絡めて『ワン&オンリーなロックミュージシャンたち』というプレイリストを作成してもらった。
ーまず、プレイリスト『ワン&オンリーなロックミュージシャンたち』について伺います。そもそも、ヒダカさんが“ワン&オンリー”という言葉を掲げているのはどうしてでしょうか?
それしか説明の仕様がないんですよね……パンクロッカーもロックンローラーも違うし、じゃあエンターテイナー? それは(綾小路)翔やんとかだろうし……みたいな。自分の身の置き場って、自分だからこそ余計にわからないんです。で、やっぱり、自分のやりたいこと、そしてやってることをうまく説明できるのは「ワン&オンリーな音楽を作りたいミュージシャン/バンドマンです」。これが一番しっくりくるんですよね。
ーなるほど。今回のラインナップは、そんなヒダカさんのルーツや刺激を受けたアーティストが名を連ねているなと感じました。1曲目はThe Monkees(モンキーズ)。
モンキーズはThe Beatles(ザ・ビートルズ)に対抗してテレビ番組のオーディションで集められたバンド、というのが、かえって今っぽいですよね……半世紀経って時代が一周したというか。元々は作られたアイドルなんだけど、当時僕らはそんなこと全然知らなくて、ただただ良い曲だ、面白いロックだ、と思って聴いてて、それがあとからヒストリーを紐解くと、会社との軋轢を乗り越えて作品を作るとか、途中でメンバーが離脱するとか、すごくドラマチックなんですよね。ビートルズくらいになると背景も知られているけど、モンキーズはほとんど知られずに「Daydream Believer」を呑気に聴かれちゃってる。だからモンキーズは自分の中で最高のポップスターでもあり、悲劇のヒーローでもあるんです。
ただ、モンキーズにくらって音楽を始めた人は意外と多くて……電気グルーヴの(石野)卓球さんも当時テレビで観てたそうですし、(石田)ショーキチくんやカジ(ヒデキ)くんとかアイゴン(會田茂一)とか、50代のアーティストはモンキーズを一回は通っているんです。みんな今やっている音楽はそれぞれ違うけど、ポップな根っこは一緒みたいな。その広がりを作ったという意味でもモンキーズはすごいと思います。
ー「Papa Gene’s Blues」を選ばれた理由は?
「Daydream Believer」よりギターが効いているし、これを聴いて自分はギターを弾きたいと思ったんですよね。押し入れから母ちゃんのガットギターを出してきて、最初はギターの音色がどれかわからないからランニングベースの音を拾っちゃってたんですよ。今考えると、そこでベース音を拾ってたからあとあとコードの概念がわかっていって。実はそういう音楽理論的なものもモンキーズで勉強してたんですよね。
ーギターの原体験になっているんですね。続いて、高橋幸宏さんの「ARE YOU RECEIVING ME?」。
この曲はCMで流れてたんですけど、英語で歌われているんで海外のバンドが歌ってるんだろうなと思ってクレジットを見たら、日本人名が出てきて衝撃を受けました。そこからYMO(YELLOW MAGIC ORCHESTRA)と幸宏さんにがっつり入れ込みまして……当時、国内ではピンク・レディーみたいな王道の歌謡曲がJ-POP的に流行ってましたし、日本人が英語で歌う必然性って全くなかったわけで。その中で英語で歌って、海外に向けても同時に発信する、という必要性に気づかせてくれたアーティストは幸宏さんでした。
ー西洋の音楽を表現しつつも、日本っぽさが滲み出ていて。
そうですね。和のテイストが入っているのもいいなと思います。あと、YMOの他のおふたりもそうですけど、調べれば調べるほどすごいじゃないですか。幸宏さんはYMOの前にサディスティック・ミカ・バンドでRoxy Music(ロキシー・ミュージック)の前座をイギリスでやってるとか。でも、テレビや媒体に出ても全然すごぶらないのも格好いいなと思って。威張っちゃいけないという気づきをくれた人だし、ミュージシャンとしての態度やマナーもものすごく影響を受けてますね。
ーThe Clash(ザ・クラッシュ)は、後期の「This is Radio Clash」を選んだ理由も気になります。
最初に買った洋楽シングルなんですよね。自分の世代はオリジナルパンクの衝撃にリアルタイムでは間に合わなくて、有頂天とかLaughin’Noseとかでパンクロックに出会ってるので、その正体を知りたくて初期パンクを聴き漁りました。
これは打ち込み音源も入っていて、絵に描いたようなパンク感はゼロ。ディスコっぽいのが逆に衝撃で。この曲からダブやレゲエ、ダンスミュージックとパンクって隣接してるんだって学びました。そんなバンドってなかなかいないですよね。Sex Pistols(セックス・ピストルズ)でさえ、ジョニー・ロットン(※ピストルズ在籍時のJohn Lydonの名義)は脱退後にPIL(Public Image Ltd)でダンスミュージックに接近するけど、クラッシュはひとつのバンドでいろんなことやってるんですよ。あと、ボーカルのJoe Strummer(ジョー・ストラマー)のルックスがよかった。ファッションごと受け入れてもらえるパンクロッカーってレアな存在ですよね。
ーTHE STALINとの出会いもリアルタイムとは少しずれているのでしょうか?
人気が出たあとなので、微妙に後追いですね。THE STALINは、臓物を投げるとかエピソードの一個一個がとにかく恐ろしいんですよ。でも、THE STALINのライブってモッシュやダイブの走りで、一体感がありました。当時はポゴダンスと言って前の人の肩につかまってピョンピョンするだけだったんですけど、それでも怪我しそうになることはしょっちゅうあって、フロア内の助け合いがすごかったんです。満員のフロアで倒れちゃったら、青いモヒカンの兄ちゃんが助けてくれたりして(笑)。あと、ド金髪のお姉ちゃんに「美容師やっててブリーチの練習したいからタダでやってやるよ」って声をかけられたり、そういうコミュニティがライブハウスにあったんです。だから当時は行くライブすべてが新鮮でしたね。そういう衝撃を最初に教えてくれたバンドです。
ーボーカルの遠藤ミチロウさんはのちに弾き語りでライブ活動をするようになりますが、ヒダカさんも弾き語りでライブしていますよね。
何回か現場も一緒にやらせてもらいました。伝説のミチロウさんだからおっかないのかなって思ってたら、すごく優しい人で。自分はあまりアーティストと一緒に写真を撮らないようにしてるんですけど、ミチロウさんは我慢できなくて「一緒に写真撮ってもいいですか?」と恐る恐る聞いたら連絡先まで教えてくれて、めちゃくちゃ嬉しかったですね。「お母さん いい加減あなたの顔は忘れてしまいました」を東北でアコギ一本で弾いてるミチロウさんは神々しかったです……もう自分にとってはパンクロックの神様ですよね、本当に。
ー続いては、Echo & The Bunnymen(エコー&ザ・バニーメン)。
エコバニはUKモノの代表として選んだんですけど、リアルタイムだったのでめちゃくちゃ影響を受けています。当時のロックっぽい格好良さって、全部イギリスに集約されてた気がしますね。その中で他のバンドは「ビートルズっぽくなるぞ」とか「テクノっぽいニューウェーブを」とか、わかりやすいメタファーがあったけど、エコバニだけThe Doors(ドアーズ)をやってるんですよ。急にサイケデリックを引用するチグハグさがすごく格好良くて。今で言うモロッカンファッションの走りもやってて、オシャレだし音も格好いいし、いまだに現役で活動してるのに、あまり再評価されてなくてもったいないですね。あと、打ち込みとかリミックスみたいなことをいち早くやってるのも先進的で、クラブとロックの隣接を教えてくれたアーティストでもあります。ぜひ若者にもシューゲイズと併せてガンガン聴いてほしいですね。
ー有頂天は’80年代のインディーズ御三家のバンド。
ジャパニーズ・インディの入り口でしたね。『インディーズの襲来』っていうライブハウスの洗礼を浴びるきっかけになったNHKの番組を観たときに、異才を放っていたのが有頂天のケラさん(KERA、ケラリーノ・サンドロヴィッチ)で。他はUKパンクっぽい佇まいなのに、ケラさんだけ出自がよくわからなかったので調べていくと、ヒカシューやP-MODELみたいな日本と海外のテクノが合体したものが好きなことに気づくんです。
ケラさんが一番すごいなと思ったのは、80年代中盤の時点で「ロック嫌い」って言ってたんですよね。その頃はなんでかわからなかったんですけど、大人になってエンタメという名目の元に、悪い意味で商業的なムーブを見ちゃったりするほどに、その言葉が染みてきて。ケラさんはそういう汚いやり口のことを憂いていて、それでいち早くインディーズで活動してたんだなって。“文句があるから自分でやる”というアティチュードはめちゃくちゃ影響を受けていますね。
ー7曲目はThe Specials(ザ・スペシャルズ)。パンクとスカを融合させた2トーンの代表的バンドです。
ブラックミュージックを白人が翻訳する作業はどんなジャンルにおいてもあるじゃないですか。けど、スペシャルズは白黒混合のメンバーがいるユナイト感がすごいですし、本来イナためなイメージが強かったレゲエやスカを全然別のベクトルで、スタイリッシュにやる発想ってのはなかなか思いつかないですよね。そもそもスカって異文化同士の融合感がすごく強い音楽だと思うんですけど、それを更にクラブ文化に落とし込んでいく見せ方や聴かせ方もかっこいいなって。2トーンって(ファッションが)細身のスーツなんですけど、スペシャルズはモッズっぽさもあるし、いろんなジャンルが集約されていて勉強になります。
ーASYLUMは1985年結成のバンドですね。
ゴスの走りですよね。当時はゴスとかビジュアル系っていう言葉がまだなくて。化粧するアーティストの原点ってThe Damned(ザ・ダムド)とかもっと遡るとDavid Bowie(デヴィッド・ボウイ)だと思うんですけど、そういうUKっぽいゴスの系譜から、他のアーティストは軽快なパンクロックやスラッシュメタルといったわかりやすい音になっていくんです。でも、ASYLUMだけ音がプログレなんですよ。だから変拍子も出てくるし、パンクっぽいところもあればメタルやハードロックっぽいところもあって、ミクスチャーっぷりが天才だと思いました。そういう意味ではNIRVANA(ニルヴァーナ)よりも全然、早すぎたグランジなんですよね。
ー続いてAll(オール)。Descendents(ディセンデンツ)からボーカルのMilo Aukerman(マイロ・オーカーマン)が抜けたあとのメンバーで結成したバンドです。
ドキュメンタリー『FILMAGE:THE STORY OF DESCENDENTS/ALL』でNOFX(ノーエフエックス)のFat Mike(ファット・マイク)が「アメリカじゃAllのこと誰も好きじゃねえよ」と言ってて衝撃だったんですよ。確かに、本国ではマイロの代替えバンドと思われるのはしょうがないんですけど、日本にはディセンデンツとオールは同等のバンドとして入ってきたような気がします。「Crazy」はキャッチーだし、それまでのメロディックパンクとまた違ってテクニカルなんですよね。そこにパワーポップっぽさも入ってるから、ディセンデンツよりメンバーたちのルーツが垣間見えるんです。単純にパンクロックで括れないというか。
何よりボーカルが変わるだけでバンドが変わるっていいですよね。いい意味でキャラで聴いてないんだなと思います。日本って、どうしても人気が出るほどその人のパーソナリティで音楽を聴いちゃう傾向があるけど、それって音楽にとって危険なことだと思うんですよね。極論、代替えが効いてもいい。ボーカルが変わるとバンドが著しく変わるけど、それもいい作用となって変化するのがすごいなって思います。
ー最後はTHE MAD CAPSULE MARKETS。
これは早すぎたデジロックですよね。MADがすごいなって思うのは、ちゃんと「デジパンク」なんですよね。2ビートにデジタルを乗せたのは彼らが最初だと思いますし、自分も似たような試みをしてるからわかるんですけど、デジタルとハードコアを合わせるのはとても難しくて、どうしてもダンスロックっぽい印象が勝っちゃうんです。でもMADはちゃんとパンクのほうが勝ってるから稀有な存在というか。KYONOくんの声が強いのもあると思うんですけど。ブレイクする以前からこういうことをやってるのもすごいし、今メンバーが個々でやってる音楽もここから進化したものをやろうとしてるから、本当に尊敬すべきバンドマンたちですね……友人として照れくさいですけど、本人たちがいないうちに言っておきます(笑)。
ーもし若手で今回の“ワン&オンリー”のプレイリストに入れるとしたら、どなたですか?
たくさんいますけど、まず明日の叙景ですかね……音響っぽい感じがすごい格好いいんですよ。あと、ジャケットに可愛い女の子のイラストを使っちゃうとかね。ヘヴィなバンドのアートワークって基本おどろおどろしいものですけど、今の子たちは音も見せ方もミクスチャーができるんですよね。ブラックメタルなのに見せ方が爽やかで、ライブはエモくて激しい。こういうハイブリッド感は今の時代ならではだなってリスペクトしちゃいます。
あとはKokeshiもいいですね。何人ボーカルがいるんだろうって思うぐらい、女の子のボーカルがめちゃくちゃ歌い分けてて。スクリームやグロウルはもちろん、メロディアスなとこもすごすぎて逆に怖いんですよ(笑)。この界隈は良い意味でこだわりなく好きな感覚をミクスチャーできるので、うらやましいなって思いますね。シンプルに音楽友達になりたいです。
ーTHE STARBEMSの最新作『Gazillion』は、“パンク感”は軸としつつさまざまなジャンルのクロスオーバーが感じられました。こういったアプローチはストリーミング/サブスクで聴かれることも意識しているのでしょうか?
CDはもちろん作りつつ、サブスクには絶対入れようと思ってたんですよね。今ってもう盤で聴く時代じゃないし、自分の中学生になる息子もそうなんですよ。だからサブスクに入れたときの雰囲気っていうのは考えました。一曲一曲の重さを減らすというか、短くして。メッセージを減らすんじゃなくて、聴き応えとしては軽くていいかなって。
ーサブスクというと、最近Spotifyが“非音楽”な音源などの再生数計算を減らすという規定が発表されて。フェイク・ストリーム対策と言われていますが、それをきっかけに“音楽とは?”と改めて考えるようになったんですよね。
うん、すごくいいことだと思います。
ーそこでぜひ聞きたいのですが、ヒダカさんが思う“音楽”ってどんなものでしょうか。
自己の存在を示すものですね。好きなアーティストを言うことで、その人のイメージって決まるじゃないですか。たとえば僕が「一番好きなアーティストは誰ですか」って聞かれて「IZ*ONEです」って言ったら、ギャップにみんなビックリするでしょうし(笑)。好きなんですけどね。だから、音楽ってその人を指し示すものだと思うんですよ。“どんな服を着るのか”と一緒。だから僕は、服とか音楽になるべく自覚的になったほうが人生は楽しいと思うんです。映画、テレビ、小説も同じですよね。その人の代名詞にもなり得るものだと思うから、文化って大事だなって思います。だからこそ、SpotifyやApple Musicのオーナーたちは、もっと音楽家を大事にしてほしいですよね……もっと還元率を上げてくれって(笑)。
ーサブスクはアーティストへの還元が少ないって言いますもんね。
アルバムを買えば何十曲分の印税が入っていたものが、今は1曲ずつしか入らないわけで。そういう意味ではスティーブ・ジョブズを恨んでます(笑)。ジョブズだってビートルズが好きなのに(※註:「私のビジネスの手本はビートルズだ」と発言するなどファンとして知られている)。スマホで聴けるようになったところまではいいけど、課金のシステムとか聴き方を工夫してほしかったなって思いますね。その前に亡くなっちゃったのかもしれないですけど、その遺志を受け継いでくれてる開発者が少ないんだろうなとは思います。
我々はあくまでも音楽ソフトを作る人間なんで、音楽ハードを作る人たちにもっと頑張ってほしいなとも思います。ハードを作ることも立派な表現の一つだから、音楽体験がもっと楽しくなるようにしてほしいんですよね……ウォークマンを開発したときみたいに。今は正直、しっかり聴いた感を持ちにくくて。サブスクで音楽をかけながらデスクワークしたりもするんですけど、読後感がないんです。昔はCDを入れ替えたりアナログ(レコード)をひっくり返したりする作業があったからそこで一回一息つけたけど、ノンストップで作業できちゃうから、なんか物足りないんですよね。ハードメーカーの人たちにはもっと工夫してほしいなと思いますし、未来の音楽はそういう部分が盛り上がってもいい気がしますね。
ー4月にオフィシャルサイトとメンバーシップ機能を兼ね備えた『ヒダカトオルOfficial Site』を開設しましたが、その経緯を教えてください。
もともと使っていたサービスがなくなっちゃうってなったときに、Bitfanが声をかけてくれて。最初は(会費制のものは)小っ恥ずかしいなと思ってたんですけど、オフィシャルサイトはあったほうがいいと思ったんですよね。いろんなことやっていて、何がいつ発売になるか、どのライブがいつあるかを一望できるものが欲しかったので、いいタイミングで声をかけてもらいました。
ーオフィシャルサイトとして情報は無料で閲覧できますし、有料のfor LISTENER(メンバーシップ)の会費も120円。安い(笑)。
僕の目標はこれを毎月のタバコ代にすることなんですけど、3〜4人は入ってくれないと買えないですよね(笑)。ありがたいことに、今のところは大丈夫そうでよかったです。
ーすでにたくさんのコンテンツをアップしていますね。
せっかくだから単なる「弾き語ってみました」「喋ってみました」よりは、もっと面白いことやりたいんです。たとえば今は専門学校で先生をやらせてもらっているので、簡単な音楽授業とか。『いまさら聞けないパンク御三家』みたいなこととかね。120円なので3分以内しか説明しないよ、とか。
ー授業の濃縮バージョンみたいな。3分でもぜひ聞きたいです。
そういう移動中の暇つぶしみたいな音楽豆知識を展開できたらいいなって思ってますね。あとは、ゲストを呼んで喋りたいです。ヒダカトオルのサイトなのにケラさんやカジくんと喋ってるとか。
ーそれが120円で聞けたら贅沢ですね。また、for LISTENERではレコーディングやツアーの舞台裏も見せていただけるとか。
自分がお客さんの立場なら、そういうのも面白いかなって。アーティストってツアー中に何してるかわかんないじゃないですか。電車や車に乗ったりごはん食べたり、普通のことをやってるだけなんですけど、「ここのこれ美味しいよ」みたいな情報が嬉しかったりしますし。今、インスタの“めしスタグラマー”の投稿をめっちゃ見るんですよね。この言い方が正しいのかわからないけど(笑)。ああいう“ザ・舞台裏”がメインコンテンツとして成立するのってすごい時代だなって思います。バンドマン版めしスタグラムをやりたいですね。
ーバンドマンは全国を廻ってるから、ごはん情報に詳しい方も多いですもんね。
好き好きロンちゃんの勧めるラーメンは絶対美味いし、あとサニーデイ・サービスの田中貴くんとかも詳しいし。自分は「ここの喫茶店はタバコが吸えていいね」とか「禁煙がいい人はここおすすめですよ」みたいなことを発信できたらいいなって。そうすれば、お客さんも僕らバンドマンが通った導線でライブを楽しめるかなと思うんですよね。わざわざ遠方から来てくれたときに「そういえばヒダカさんが寄ってた喫茶店ここだな」っていう楽しみ方も面白いんじゃないかなって。
ーSNSやnoteとの棲み分けで言うと、for LISTENERはより役に立つ情報を提供する?
noteはまだ迷ってるんですよね。有料で役立つコンテンツを(提供する)ってビジネスライクに考えちゃうのは、あくまでもミュージシャンなのであんまりやりたくないんですよ。なるべく無料で読めて面白いのが一番いいんです。だけど、音楽以外の有益な情報を自分がnoteで発信する必要はないんで、やっぱり音楽にまつわることにしたほうがいいんだろうし。だからnoteは問題提起の場ですね。「本当にメジャーレーベルはそのやり方でいいのか?」「サブスクはこの在り方でいいのか?」とかを発信する場にしたいと思います。他のSNSはもうちょっとライトな発信でいいと思いますけど、多角的にやってみようと思います。
もしかしたら、アーティスト何人かを呼んでオフィシャルサイト内でオンラインの討論会みたいなことをやっても面白いのかもしれないですね。サブスクをどう思ってるのかとか、普段なかなか発信できないことをやってみたいです。素直に言える媒体として、このサイトが機能したらいいなと思います。
ーまた、Bitfanはファンと交流できる機能もあります。
自分と交流したい人、いるんですかね(笑)? ライブハウスで話しかけられたら普通に話し返しますし。
ー交流したいけど、リアルの場で話しかけるのは…と躊躇してしまう方もいると思います。
こないだショックだったのは、ロンちゃんのお客さんで「ヒダカさんがいたけど畏れ多すぎて物販行けず…」って人がいて「いや、買いに来いよ! お金落としてちょうだいよ!」って思ったんですよね(笑)。それはこっちの実力不足なんで、全然いいんですけど、怖がられる理由も別にないので。
ーインターネット上で簡単に繋がれるようになったからこそ、リアルで接するのに勇気が要るようになったのかもしれませんね。SNSが主流の現代における“ファンとアーティストの関係性”について、ヒダカさんはどうお考えですか?
リスナーが一方的にアーティストに“面白い”を求めてるけど、アーティストがリスナーに“面白い”を求めてもいい時代だと思うんですよね。リスナーとアーティストが同じ土俵で喋るとか、リスナーが(好きなアーティストについて)ファンアートとして発信していくのも全然アリだなって思います。リスナーと対等に話し合いたいんですよね。「誰々の新譜よかったよね」みたいなことを、もっと友達ノリで喋りたいというか。
ーヒダカさんにとって、ファンの方はどんな存在でしょうか?
ファンというよりは、同じリスナーですね。「自分もリスナーだから好きなアーティストがいっぱいいるよ。仲間だね」っていう感じ。同じ種類のヲタ(オタク)ですね(笑)。だから、アーティストに失礼はしたくないなっていう気持ちや、話しかけるのに躊躇しちゃうとか距離感が難しいっていうのも同じヲタとして理解できます。でも、リスペクトがあれば全然大丈夫だと思うんですよ。
ーなるほど。
幸宏さんが<WORLD HAPPINESS>にヒダカトオルとフェッドミュージックを呼んでくれたことがあって。そのときはちょうどTHE STARBEMSを始めようとしてたんで、幸宏さんに恐る恐る「このフェスはうるさいのは出れないですよね…?」って聞いたら「これからはうるさいのも出したいと思ってるよ」って言ってくれたんです。幸宏さんが同じ目線に立って対等に返してくれたのがすごく嬉しかったんですよね。偉そうでもへりくだってたわけでもなく、イーブンに。それって大事ですよね。あれは自分の人生のピークだったなって思います。
ー立場やキャリアが違う人同士が対等に接するって、簡単じゃないですもんね。
対等じゃなければいけないっていうのを、みんな(尊敬するアーティストたち)が体を張って教えてくれてる気がするんですよね。ファンだからって遠慮する必要はないし、リスナーだからって躊躇する必要も全然ない。でも、そこにはリスペクトが必要ということを、この『ヒダカトオルOfficial Site』の活動を通じてうまいこと表現できたらいいなって思います。もう『BreakingDown』でもやりましょうか。
ーギターバトル的なことをやるとか?
喧嘩させましょうか。
ー物理でいくんですね(笑)。
そしたらTOSHI-LOWひとり勝ちになっちゃうか(笑)。
ー今後の活動について伺いたいのですが、THE STARBEMS『Gazillion』レコ発の開催予定は?
数少ないヲタの人たちもそこは気になってると思います。ずっとサポートしてくれてたドラムのminzoku(安部川“minzoku”右亮)が一昨年に脳梗塞になっちゃって、ずっとサポートドラマーが入れ替わってるんですよね。ただ、アルバムの半分はminzokuで録ったので、なるべく彼の復帰とともにレコ発をしたいなと思って。それでなかなか正式な日程が決められない状態なんですよね。もう半年くらいすれば速い2ビートも叩けると思うので、もうちょっと待っていただきたいです。いつかは絶対やりますんで。
別のサポートドラマーでやることも難しくないんですけど、さらっとやっちゃうのはなんか違うなと思っていて。友達としてminzokuの復帰を待ちたいんですよ。やっぱり人情の残る昭和世代なんで、泥臭くやれたらいいなって思います。だけど、(対バンで)呼ぶのは若手とかがいいなって。それこそ明日の叙景と一緒にやってみたいですし、これまでやったことがない新しいバンドとライブがしたいですね。
ー楽しみです。近年は国立音楽院の講師や<TEENS ROCK>の審査員などもしていて、後進を育てたいという思いが強いのでしょうか。
というよりは、仲間を増やしたいですよね。もちろん自分に賛同してもらえるのが一番いいですけど、ただただ手を挙げて賛同してくれるよりは「こういうふうに考えてる」って意見が聞きたいというか。さっき言ったハードに対する意見に対してみんなはどう思うか聞きたいし、逆にハードを作ってる人たちが音楽家たちのことをどう思っているかを聞きたいし。もうちょっとオープンにならないかなって思います。
ーヒダカさんがミュージシャンとして成し遂げてみたい夢はありますか?
まあ、死ぬまでやりたいですよね。『オール・ザット・ジャズ』っていう名作映画があって、ミュージカルの演出家が自分の本懐である“ステージの上で死ぬ”っていうだけの物語なんですけど、それが一番の理想ですね。
ー主人公は死の間際まで演出を続けて、走馬灯でも舞台に立つという。
舞台上で葬式になってそのまま火葬場に持っていってくれたら手をかけなくていいのかなと(笑)。なるべく死ぬ間際まで音を鳴らすことは大事だなと思います。先輩たちの死を見ると余計にね。ちょうど、同い年のチバくん(チバユウスケ/The Birthday、ex.THEE MICHELLE GUN ELEPHANT)も今年亡くなっちゃって、50代のミュージシャンにとって死は他人事じゃないので。いかに死ぬまで音を鳴らせるかがここから先のテーマで、ミュージシャンとしてのひとつの命題ですね。
ーそのためにライブも作品作りも続ける。
あと4年で還暦なんですけど、なるべく逆行したいですね。還暦前後のミュージシャンの雛形というと(奥田)民生さんとか思い浮かべると思いますけど、それを想像して俺の曲を聴くと度肝を抜くかガッカリするかどっちかみたいな(笑)。意外なことを死ぬまで続けたいですよね。「80〜90歳の死ぬ間際のアルバムが一番BPM速かったです」だったら面白いと思いますし、年々BPMは上げていきたいです(笑)。
PROFILE
ヒダカトオル
THE STARBEMSやGALLOWの活動と並行して、作詞・作曲・編曲家、音楽プロデューサーとしても活躍する気鋭のアーティスト/プロデューサー。
1999年にBEAT CRUSADERSとしてデビューし、木村カエラ/高橋瞳/メロン記念日などのプロデュース業も手掛け始める。2004年からはGALLOWとしてネオアコースティック/ダンスミュージックへのアプローチも開始。2013年からTHE STARBEMSとしてパンクを鳴らしながら、弾き語りを中心としたソロ活動や、ギタリストとしても活動。これまで、LiSA、椎名林檎、SCANDAL、PUFFY、TEAM SHACHI、いきものがかり、デーモン閣下など多数アーティストの作編曲に関わっている。その他、DJ、番組MC、コラム執筆、国立音楽院講師など、多岐にわたる活動を通して音楽愛を表現し続ける。
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