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文: Mao Oya 編:Mao Oya
日本を代表するパンクバンド、the原爆オナニーズのキャリア初のドキュメンタリー映画『JUST ANOTHER』が10月24日から公開される。 25年に渡ってアンダーグラウンドで活動を続ける音楽レーベル〈Less Than TV〉を追 ったドキュメンタリー映画『MOTHER FUCKER』で映画監督デビューを果たした大石 規湖監督(以降、大石監督)が、今年で結成38年を迎えるthe原爆オナニーズを追いかけた『JUST ANOTHER』は、「なぜこのバンドは名古屋を拠点にし続けているのか」「なぜバンドに専念しないで仕事をしているのか」「なぜ60歳を過ぎて今なお激しいパンクロックに拘っているのか」という疑問が制作のきっかけだったという。
映画では、これまで語られることのなかった彼らのリアルな日常が映し出され、やり続ける為に自分達の道を突き進む、the原爆オナニーズの確固たる意志を感じることができる。そして、TAYLOW(vox)が見せる音楽の向き合い方や、若いアーティストを届けようとする想いの強さは、シーンが活性化する可能性を秘めているはずだ。彼らの姿は、葛藤や悩みを抱えているアーティストの心を軽くし、新しいやり方を模索するきっかけを与えてくれるだろう。
インタビューで大石監督は、「ちょっとでもヒントになる部分があったら、自分の中に取り込んでほしい」と話していた。アーティストだけでなく、私達にもやり続けていく方法や、生き方を提示してくれる本作について、大石監督に話を聞いた。
ーー今回の映像を撮ろうと思ったきっかけや、経緯を教えてください。
今回、第二作目の映画になるんですけど、一作目で『MOTHER FUCKER』というハードコア・パンク・バンドをやっている家族の話を撮ったんです。その時に全国各地にツアーに行く機会があって、その土地土地で面白いハードコア・パンクバンドをやってる人達に出会いました。東京シーンでは比較的、流行りに影響されがちだったり、売れるかどうかが価値の基準と感じることが多いのですが、地方で出会った人達は、自分達にしかできないことをずっと続けてる人が多くて。尚且つ、時間の過ごし方も独特で、そこから生み出される面白さって絶対にあるんですけど、ローカルで、ヒップホップ以外でやってるジャンルの人達って、あんまりメディアに取り上げられてないじゃないですか。それで、彼らを取り上げたいなと思ったのが1つのきっかけです。あと、1作目を作り終わった時に海外へ取材に行く機会が多くなったんですけど、海外に行くと音楽が生活の中に溶け込んでいて、それが衝撃だったんですよね。ここまで差があるんだって思わないですか?
ーーそうですね。ストリートで演奏をしているところに他の人が飛び入り参加して、セッションが始まったり、小さいパブでライブをしていたりもしますよね。
パブに飲みに来たついでにライブを見て、知名度関係なく、良かったら物販を買うとか、その場で「どっから来たんだ?」って会話が始まって友達になるとか、そういうのを見て、生活に音楽が溶け込んでいるのを感じて。バンドをやっているっていうことが特異な目で見られないし、むしろやってて当たり前。日本ってどちらかというと「バンドやってんの?」って、ちょっと変な目で見られる感じが結構あるんですよね。
ーー確かに、そういう目で見る人は一定数いると思います。
それがすごく嫌だなって思っていて、それも映画を作るきっかけになりました。その2つのきっかけがあった中で、たまたま出会えたのがthe原爆オナニーズで。彼らは名古屋でバンドを続けて、生活と分離することなく、生活の中の一環として自分達の音楽を極め続けてる。あと『今池まつり』っていう名古屋のお祭りが映画の中に出てくるんですけど、あのお祭りでは通りすがりのおじいちゃんやおばあちゃんが、駐車場でやっているライブを観ているんですよね。その生活の中のたまたまのシーンにライブがあるのが、海外で見た生活の中に音楽が溶け込んでいる感じとリンクして、それが素晴らしいと思ったし、羨ましくも思ったんです。それで、名古屋で活動を続けているthe原爆オナニーズが、バンドを続ける方法や、生活の中で音楽を根ざすやり方とか、何か教えてくれるかもしれないと思ったんです。
ーー大石監督の色んな経験がthe原爆オナニーズに繋がっていったと。『今池まつり』が海外とリンクするとおっしゃってましたが、『今池まつり』は映画の中でも大きなポイントになっていると感じました。
映画の中だと、ちょっと映ってるだけなんですけど、『今池まつり』はありとあらゆるエンターテイメントが街のそこらじゅうで行われているんですよ。プロレスをやってるかと思えば、プロレスリングの上で結婚式が行われるし、コンビニの駐車場で落語をやってる人がいれば、カラオケを唄っているおばちゃんがいて。自分がやりたい事をみんなが表現してて、訳がわかんないんですけど(笑)。
ーークレイジーなお祭りですね(笑)。
昔はBOREDOMSや灰野敬二さんもライブしてたみたいなんですけど、町中に爆音が鳴り響いてても大丈夫なんだって思いました。<SXSW>も街中でずっとライブをしてて、音が鳴り響いるんですけど、あれはショーケース的な意味もあるし、整備されているので、雰囲気は似てるんですけど、もっとやりたいことを表現してる感じが、<SXSW>よりも面白いなって感じました。でも、そのぐらい自由でも、終わった後はみんなでゴミ拾いをして、街を綺麗にしていて、人の事をちゃんと気遣った上で成り立っているんですよね。
ーー価値観を否定せず、誰もが自由に表現できて心地よくいられる空間って、1人1人が意識しないと実現するのは難しいですよね。
偏見や壁がないのは土地柄としてもあるように感じて、『今池まつり』に現れているのかなって。今池にはそういう土壌があるんだと思ってます。だからこそ、町全体がその状況を許容して、お客さんがそれを特別だと思ってないんですよね。それがとてもいいなって思います。
ーー映画の始まりと終わりに『今池まつり』を映したのは、どんな意図ですか?
パンクやハードコア・パンクの人達に惹かれる理由の1つとして、女性への偏見や、人に対して差別がないと感じることが多いからなんです。だから、『今池まつり』に現れている偏見のなさや自由な感じと共通する部分があって、象徴的に編集しました。
ーーなるほど。
最後の『今池まつり』でのライブのシーンも、お年寄りの方から小さい子供までライブを見てリズムに乗ってるんですけど、そういう空間が自然にあることを、パンクやハードコア・パンクの人達は求めているんだろうなって思いました。なので、『今池まつり』が映画の象徴になった感じはありますね。あと、the原爆オナニーズを1年間記録したんですけど、それが2018年の『今池まつり』から2019年の『今池まつり』までだったっていうのもあります。
ーー「偏見のなさ」や「生活と音楽」など、話している中で、映画のキーワードがいくつか出てきましたが、the原爆オナニーズの撮影を始める際に、彼らのどんな所にフォーカスしようと考えていましたか?
最初はthe原爆オナニーズが何か教えてくれるんじゃないかと思ってたんです。音楽に対してのこだわりや、バンドを長く続けるやり方、どういう事を考えてバンド運営をしているかにフォーカスして撮り始めてたんですけど、全然、思っていたようには撮れなくて。本人達もそんなに喋る人達ではなかったし。
ーーthe原爆オナニーズはストイックで、自分の内に秘めてるものを言葉しない印象があります。
じゃなくて、シャイだったみたいなんです。
ーーそうだったんですか?!
どうやら名古屋の人は比較的打ち解けるまですごく時間がかかるから、あんまり喋ってくれないという説があるそうです。それもあってなかなか言葉で表現をしてくれないし、何か事件が起きるわけでもないので、何も撮れないんじゃないかって不安になりました。あと、本人達が映画を作ることをあんまり本気にしてなくて、話半分みたいな感じだったんですよね。なので、自分の本気度や熱意を伝えるのがまず先でした。
ーーじゃあ、信頼をしてもらえるまですごく時間がかかった。
そうですね。撮りたいものを撮る為にどうするかというよりも、情熱を伝えて、信頼関係を築くのに時間がすごくかかりました。
ーー信頼関係を築けて、描いてたものを撮ることはできましたか?
当初は「バンドを続けていくための方法を教えてもらおう」ぐらいの教科書的なものが作れるかなって思ってたんですけど、撮り始めたら、そのバンドにしかない人間関係や、その土地の中でのやり方があって、どのバンドにも当てはまることばかりじゃなかったんですよね。ドキュメンタリーだから、やっぱり思ったようにいきませんでした。でも、昔と今だと仕事を見つける事は、昔の方が難しかったかもしれないけど、自分がやりたい事と仕事を両立させる方法を欲張りに見つけていく感じは、どの時代にも通じるのかなと思ってます。
ーー人それぞれ状況は違いますけど、共通する事はありますよね。
TAYLOWさんがインタビューの時に、「今、音楽と仕事を両立させるなら、パソコン一台持って仕事ができるSEとかデザイナーとか、そういうのがいいんじゃないか」って、言ってたんですよね。TAYLOWさんは時代の変化にすごく敏感で、今、何をやるべきか、何が一番ベストかっていうのを常に精査できる視点や、知識を入れる事をずっとしているからこそ持てる考えだと思ったんです。それがすごく自分の中で面白かったです。
ーーTAYLOWさんは常に自分をアップデートしている人だと思いました。新譜のCDを沢山買われてたり、「古いアーティストだけじゃなくて、若いアーティストも聴いてもらいたい」っていう想いから、対バンの相手に若手アーティストを招いていたり、インプットだけじゃなく、アウトプットもしているのが印象的です。
TAYLOWさんみたいに自分から擦り寄る事もなく、年齢も性別も関係なく、興味範囲だけで居続けるって、人として中々できることじゃないなですよね。それをやり続ける音楽への愛とか、そういうのを含めて、どこかで疲れる時があると思うんですけど、TAYLOWさんぐらい楽しんでやっていけたらいいのかなって。続けていくことや何かを作ることとか、生活してくこともすごく大変じゃないですか。でも、周りの人や身近な人を大事にして丁寧に過ごしながら、たまには楽しいこともあるなっていうのも含めて、先は見えないけど自分達の時間軸で続けていくことができるのは強いですよね。
ーー人を見て学ぶ事ってありますよね。『JUST ANOTHERS』から音楽活動の続け方や、生き方のヒントが得られると思いました。
歴史から学べる事と同じような感じで、上の人のこういうアイディアは取り入れられそうとか、盗めそうなものの1つとして観てもらえたらいいなって思ってます。でも全部を盗むっていうのはちょっと違う。パンクやハードコア・パンクの人達って、「俺達はこうやってるけど、君はどうやるの?」みたいに提示してくれる人が多くて、「自分のスタイルを極めたらいいじゃん」って、相手を尊重してる人達だと思うんです。それと一緒で、ちょっとでもヒントになる部分があったら自分の中に取り込んで、自分を極めてもらえると嬉しいです。
ーー背中を後押しするような力強さがパンクやハードコア・パンクにはありますよね。楽曲にもそれが現れていると思うのですが、オープニングで「発狂目覚ましくるくる爆弾」を起用したのは、何か理由がありますか?
the原爆オナニーズがライブの一曲目として歌う頻度が多く、バンドを象徴する曲だと思って起用しました。あと「発狂目覚ましくるくる爆弾」って歌われても、なんのことを言ってるのかわからないですが、曲がかっこいいから気になる、バンド名もそうですけど、そういう少しひっかかりになる部分が冒頭にあると、ちょっと普通のバンドとは違うなというのが感じられるのかなと思いました。
ーーオープニング映像の作り方も凝ってましたよね。80年代の雰囲気というか、昔のライブ映像を見ている気持ちになりました。
VHSとかノイズ系の映像を作るのが上手い快速東京の福田哲丸さんに作ってもらったんです。福田哲丸さんは快速東京でthe原爆オナニーズと対バンしてたという縁もあって。福田哲丸さんに作ってもらえたらいいなって思ってた時に、たまたまライブハウスで会う機会があって、お願いしたらよく引き受けてくれたんです。
ーーそれもすごく面白い繋がりですね。大石監督はthe原爆オナニーズの中で好きな楽曲はありますか?
最後の『今池まつり』で演奏している「ANOTHER TIME ANOTHER PLACE」っていう曲が好きです。the原爆オナニーズの曲はビートがストレートで、お客さんが拳を上げて聞いている印象の曲の方が多い思うんですが、この曲は踊れるようなリズムで、聴いていて楽しくなります。あと、「STEP FORWARD」っていう曲があるんですけど、《突き進め誰も見た事のない明日へ》っていう歌詞で、the原爆オナニーズが突き進んできた結果にこれを歌われると、本当に説得力があるなって思います。
ーー確かに。今回の撮影を経て、大石監督の中で気づいた事はありますか?
派手じゃないけど地道にやってる人達をスクリーンにずっと出していきたいです。直接会ったこともないけれど、先入観で判断してしまうことってあると思うんです。だけど、そこは勘違いしないで、喋ったり直接会ったりすることで、抱いているイメージとは全然違うよっていうのを伝えられるものを作りたいなと思いました。なので、この映画もバンドや、パンクバンド自体を知らない人にも観てもらいたいですね。
ーー自分が出来る事があるからこそ、そういった人達を広げていきたいですよね。
少しでも、何かを伝える手段として、映像で自分が出来るのであれば、作り続けていきたいなって思ってます。
映画『JUST ANOTHER』
10月24日(土)より新宿 K’s cinema ほかにてロードショー!以降、全国順次公開!
出演:the原爆オナニーズ <TAYLOW、EDDIE、JOHNNY、SHINOBU>
JOJO 広重、DJ ISHIKAWA、森田裕、黒崎栄介、リンコ 他
ライブ出演:eastern youth、GAUZE、GASOLINE、Killerpass、THE GUAYS、横山健 企画・制作・撮影・編集・監督:大石規湖
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