文: 黒田 隆太朗 写:木村篤史
エロスとタナトスに憑りつかれたロックンロール。Gateballersの音楽は天使にも悪魔にもなる。しかし、Elliott Smithの「A Distorted Reality is Now a Necessity to be Free」を愛し、人生で最も聴いたアルバムにThe Morning Bendersの『Big Echo』を挙げるとは。詞曲を手掛ける濱野夏椰(G&Vo)は、なんて美しい魂だろう。カネコアヤノのバンドメンバーとしても活動する本村拓磨(B)、ナツノムジナのドラムも兼任する久富奈良(Dr)からなるGateballersは、才能も技術もキャラクターも突出している。本人達曰く、彼らはラブリーボーイズとのことである。
カオスでいびつなサイケポップとなった前作『「The all」=「Poem」』に比べると、『Infinity mirror』は丸みを帯びたポップアルバムである。が、アイディアと遊び心の応酬である音は奇妙の連続で、ワープしていくリリックも相変わらず。Gateballersの音楽を聴けば、どこからでも飛べるだろう。The Velvet UndergroundやThe Beatlesの影を見ずにはいられない。彼らにとって、初めてのメンバー全員インタビューとなった。
ー10代の頃、初めて「これは俺の音楽だ」と思ったアーティストは?
濱野夏椰:
僕はBlankey Jet Cityです。12歳ぐらいの時、当時流行っていたORANGE RANGEやポルノグラフィティを聴いていたら、お母さんにそういうダルい音楽はやめてこれを聴きなさいって言われてブランキーのファーストアルバム(『Red Guitar And The Truth』)を渡されて。1分間イントロが続く「CAT WAS DEAD」に衝撃を受けて、俺もギターを弾こうと思いました。本村拓磨:
僕は一番影響を受けたのはThe Whoですね。中学の頃音楽を教えてくれた同級生がいて、そいつに勧められたThe Whoの映像を見たら、ギターの人はずっと絶叫してるし、ドラムの人もずっと絶叫してるし、「これは俺だな」と思いました。僕、学校で叫んでいて、人に聞いた話によるとDeep Purpleの「Burn」を授業中に歌ってたみたいです。ー(笑)。奈良さんはどうですか?
久富奈良:
僕は衝撃を受けたようなものはないんですけど、高校の時にはPeople In The Boxが凄く好きでした。親が仕事で家にいない時、ひとりで聴いてた時間が最初の濃密な音楽体験です。ーそんな3人が出会ったのはいつ?
本村拓磨:
18歳の頃だから、かれこれ9年前ですね。夏椰くんが通っていた大学に、高校の頃の友達が何人か進学したんです。その大学と僕の家がちょっとだけ近かったので遊びに行って、彼と出会いました。濱野夏椰:
変な大学で、スタジオが24時間空いているんですよ。そこでずっとセッションして、同年代のドラマーを見つけたいなって思った頃にオーディションをして。そこで奈良くんが来たんだよね。ー一発でハモったんですか?
本村拓磨:
初めてスタジオに入る時に、奈良くんは30分遅刻したんですよ。最高やんって思いました。ー実際入る気があって来たんですよね?
久富奈良:
はい。僕はバイト先の社長みたいな人にGateballers紹介されたんですけど、奈良くんはもっと遊んだ方がいいよって言われて、このバンドに入ろうと思いました。ー好きなドラマーはいますか?
久富奈良:
最近はジョジョ・メイヤー(Jojo Mayer)が一番カッコいいと思っています。人力ドラムンベースって言われている人で、もうおじいさんなんですけどまだめちゃくちゃ活動していて、自分もこうなれたら最高だなって思います。尊敬できるドラマーですね。ーそれは技術的に?
久富奈良:
それもありますけど、彼のスタンスですかね。ずっと好きなことをやっているっていうのは、人生で一番大事なことだと思ので、そのピュアなところに感動してます。ー本村さんはベーシストとして尊敬する人はいますか。
本村拓磨:
いっぱいいるんですけど、『Thank you Part-time Punks』 くらい からPaul McCartneyが最強だなって思うようになりました。録音する時に、自分の音をどういう位置づけにするのかっていうジャッジが本当に凄いです。楽曲毎にキャラクターがあるとうか、演技と言ってもいいんじゃないですかね。歌もベースサウンドも、曲によっては愉快な人だし、別の曲だと悪魔みたいな音も出して、また別の曲では牧歌的、邪念なんて1個もなさそうな音を出している。自分より先に音楽がある人だと思います。ーちなみに、Gateballersを組んだ時に音楽的なビジョンはありましたか?
本村拓磨:
僕は心が熱くなるやつをやりたかった。それを夏椰くんの曲に感じました。濱野夏椰:
僕はギターがカッコいいバンドをやりたいなっていうのは、ずっと思っていました。ただ、そもそも本村くんとは全然音楽性が違うから絶対にできないんですよね。で、奈良くんが入って来てさらにできなくなるっていう。ーこのメンバーでは、ブランキーにはならないなってこと?
濱野夏椰:
簡単に言うとそうですね。でも、この3人ならそうじゃないことができる。ルーツがみんなバラバラだった時って、頑張って共通点を探すんですけど。その共通点って、音楽的なことではなくてマインドのことだったりするんですよ。互いを尊重し合うとこういう音になりました。ーなるほど。
濱野夏椰:
それで1枚目の『Lemon songs』を作る時の、3人共通のテーマは「ジョンたま」でした。ージョンたま?
濱野夏椰:
John Lennoのアルバムの『ジョンの魂』。あれって音楽的に優れているわけでもないし、その辺にあった楽器で作っていると思うんですけど。あの作品で言っていることや、そこで歌っていることに意味があるわけですよね。プライマルスクリーム療法で心を裸にして作ったアルバムっていう。あの1枚が僕らの唯一の共通点だった。ーそれだけ裸の歌を歌おうっていうことだと解釈したんですけど。
濱野夏椰:
はい。ーGateballersの作品って、明らかに変な音が鳴っているじゃないですか。
濱野夏椰:
おっしゃる通り。本村拓磨:
ぐうの音もでない(笑)。ー再現性よりも、その瞬間に湧き上がったものをパッケージしようとしているように聴こえるんですけど、実際録音というものをどういう風に捉えていますか。
濱野夏椰:
ふざけてますね。レコーディングは「時間の保存」だと思っています。みんなで楽しい時間を過ごして、沢山笑っている様子をパッケージすることが僕らにとっての「録音」です。ー今回のアルバムの中で一番燃えた曲は?
本村拓磨:
一番爆笑したのは1曲目の「スーフィー」かな。僕らはみんなが想像しているよりもずっと爆笑しながらレコーディングしているんですけど、中でも奈良くんのダビングは爆笑度が高いです。素晴しいプレイ、カッコよすぎる。濱野夏椰:
今回ドラムを2回録っている曲があるんですけど、ツインドラムをひとりでやったりしているんですよね。「スーフィー」もツインドラムなんですけど、今回のレコーディングで奈良くんについたあだ名が「レニ超え」(レニはThe Stone Rosesの名ドラマー)。ー尋常じゃないですね(笑)。
濱野夏椰:
僕と本村くんは、呆然と立ち尽くすか、両手を上げているかのどっちかでした。あと、大正琴をふざけて弾いたのが凄く重要なことになりました。裏で鳴っているシンセのギターが全部大正琴なんですよ。本村拓磨:
あれが入った時も抱腹絶倒だったよね。TAG;
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