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文: ヨシヤアツキ 写:遥南 碧
ーサウンドアーティストとしての活動の傍ら、自由大学で『DIYミュージック』という講義を開講されていますが、なぜ開講したんでしょうか?
私がコンピュータミュージックを始めた2000年頃は、コンピューターを使って音楽をつくることには、まだまだハードルがありました。その時代と比べると、今ではiPhoneやiPadで誰でも簡単に音楽をつくって発信できるのに、そのことに気づいていなかったり、先入観で自分の中で出来ないとジャッジしてしまっている人が多いと思っていて。“そんな事ないよ”って気づいてもらえたら、もっと音楽が楽しい事になるんじゃないかなと思い始めました。
ーsawakoさんの授業はとてもユニークですが、内容はどんな風に決めているんですか?
自由大学は音楽スクールではないので、受講生それぞれのバックグラウンドや興味の幅が本当に広くてユニークなんですね。中には、普段の生活ではほとんど音楽に触れていないけど「なんだか楽しそう!」という理由で、『DIYミュージック』を受講される方もいます。だから、『DIYミュージック』の講義内容は、毎学期受講生1人1人の反応ややりたいことを元に、内容を変えているんです。
ーちなみに、ここでの“DIY”はどういう意味合いなんですか?
講義名を考える時に、講義名自体がジャンルになって、色々な要素や他の人の定義を取り込んで育っていくようなものにしよう、ということが念頭にあったので、そこはあえて設定していなくて。“それぞれの中に、それぞれのDIYミュージックの定義がある”という想いから、関わるみんなに委ねています。
ーなるほど。
あとは“音楽を作ることはそんなに垣根が高い事ではないよ”というメッセージも含めてますね。
ーsawakoさんはサウンドアーティストとして活動をしていますが、幼少期の頃から音楽に触れていたんですか?
6才頃からピアノを弾いていたのと、家族全員で能楽をやっていました。また、NHKの『芸術劇場』で現代ダンスを見るような家庭だったことや、父親が市役所でデザイン博など企画関係の仕事をしていたことの影響もあり、サウンドアートやメディアアートにも知らないうちに出会っていたんだなと思います。あとは、小学校に入る前から、英語塾にも通っていたんですけど、歌を沢山歌う塾でした。なので、身の回りには色々な音楽がありましたね。
ーそうだったんですね。その頃はどんな性格でしたか?
すごくマイペースだったと思います。昔から好きなものの本質があまり変わってないですね。人に流される事も少なかったのかもしれません。
ー学生の頃に将来の夢はありましたか?
小学校の文集になりたい職業を書くことがあって、“学者か芸術家”と書いていました。実際に今は作品の製作にリサーチ的な要素も含まれるアーティスト活動をしているので、一貫性がありますね。
ーずっと変わらない事ってなかなかありませんよね。
その中でも少し変化はしているんですけど。高校生の時は日本ではアーティストだと生活ができないかなって思っていたので、周りの影響もありますが、学者になりたい思いが強かったです。
ーそれは意外です。高校生活についても聞いてもいいですか?
高校は中学よりずっと楽しかったのです。でも自分の好きな音楽や本、映画について、細かいところまで話せる人が居なくて、「ここだとはみ出ちゃうな」という気持ちがいつもありました。
ー具体的にどんな音楽や本、映画が好きでしたか?
軽音部に入っていて、そこでパンクやモッズの先輩に憧れたり、雑誌だと『米国音楽』や創刊直後の『BURFOUT!』が好きだったり、アート系映画をたくさん見たりしていましたね。
でも、小学校の時は地元の名古屋で『5時SATマガジン』というテレビ番組があって、そこに出ていたBLANKEY JET CITYとか電気グルーヴとかを見ていたり、『ポップジャム』でLÄ-PPISCHがThe Specialsのカバーをしているのを見て、スカバンドにはまったりしていました。あとはアルペンのCMソングで、気づかないうちにフリッパーズ・ギターを聴いて影響を受けたりしていました。
ー小学生の頃から、音楽が好きだったんですね。
そうですね。『MC Sister』で初めてピチカート・ファイブや嶺川貴子さんのことを知って、そこからビビっときたものを掘り下げいったりもしています。Pierre et Gillesという写真家が好きで、そこから色々探っていたら、近所のレコード屋さんで偶然、Pierre et Gilles が撮影をしたDeee-LiteのCDを見つけて、そこから好きになったり。
ー確かにその頃の年齢だと、そこまで音楽が好きな人が周りにいなさそうです。
ようやく「居場所があるな、私は私のままでいいんだ」と感じられるようになったのは、慶応義塾大学の湘南藤沢キャンパス(以降、SFC)に入ったり、ネット上に友達ができるようになってからです。
ー大学生の生活はどうでしたか?
出会った学生も教授も面白い人達ばかりでした。ただ私が入学した年に、メディアアーティストの藤幡正樹先生が他の学校に移ってしまった為、ゼミを選択する時に現代アート系のゼミが無くなってしまって。代わりに電子音楽のゼミに入りました。
ー電子音楽のゼミって、想像できないです。どんな内容のゼミなんですか?
プログラミング・電子工作や数学的・科学的なことも含む、“音や音楽とは何か”というコンセプト的な部分から、作曲や作品製作を探求していくようなゼミです。
例えば、プログラミングで音の波形を足したり引いたり掛け合わせたりして、“新しい音”の探求をしていく、というようなことをしていました。私はプログラミング初心者なのにそんなゼミに入ってしまったので、周りのプログラマーの方とは発想が違っていたらしく、変なプログラミングをして変な音を作り出しては、みんなに驚かれる日々でした。でもそれが楽しくて。
ーこれだけ環境や人からの刺激があると、それを自分の中に落とし込んで何かを創造したいという意欲がでてきますよね。
まさにそうで、大学を卒業する前からネット上で音楽を発信していました。
ーその時に海外でライヴをされたりしてたと思うのですが、そこまでに至った経緯を教えてもらえますか?
SNSもほとんどなかったので、当時はメンバーが500〜1000人程度の国際的なメーリングリスト上で、自分の音楽を発信していて。そこでの出会いがきっかけで、CDをリリースすることや海外での初ライヴに繋がりました。当時はまだラップトップで音楽をやっている人が少なかったことから注目されて、東京でもライヴに呼ばれるようになりました。
ーその活動をしばらくされてから、2004年にニューヨーク大学の修士課程に入られてますが、そこではどんなことをされていたんですか?
私がいたNYUのInteractive Telecommunication学部は、1学年に60カ国以上からやってきたバックグラウンドの違う約100人の生徒がいて、そんな同級生たちとコラボレーションしながら、テクノロジーを用いてクリエイティブな実験をするという内容の学部でした。具体的に自分の専門としてやっていたことは、いろんなデータやシグナルの可視化や可聴化、音 + 映像 + α(センサーや自然現象など)のインタラクションなどです。
ー今、都内の駅構内にインタラクティブサイネージなどがありますが、そういったイメージですか?
そうです。あとはネットワーク上の色々なデータや、空間を飛び交っているWi-Fiシグナルなどを可視化する事もしていました。そこで修士を取ってから4年間くらいニューヨークでサウンドアーティストとして活動をしていました。
ー日本と比べて、アーティストに対する違いは何かありましたか?
ニューヨークは色々な芸術に対する関心が高く、受け入れる仕組みもあるので、私のような外国人アーティストでも応募できる助成金がたくさんありました。アートとの関わりも、東京とは違う面が大きくて興味深かったです。
ー本当に色々なところから刺激や知識を受けて、今のsawakoさんの活動があるというのが分かりました。今後の展望などは考えていますか?
音楽と人と暮らしの関係性って、長い間変わらない部分もある反面、どんどん変わっている部分もあると思うんです。私が電子音楽を始めてから20年ぐらいの間にも、始めた時は思ってもみなかったようなことが、たくさん現実になっています。
だから展望という形で自分にリミッターをかけてしまうよりは、周りの環境や地球や宇宙の動きを見ながら、その時々で波乗りしていきたいと思っています。
ー『DIYミュージック』の講義については、何か考えていることはありますか?
『DIYミュージック』は卒業生が100人以上になり、今年の8月にはコンピレーションアルバムも出しました。生徒もユニークな活動をやり始めている人がたくさん出てきているので、『DIYミュージック』を拠点として、面白い繋がりやプロジェクトがどんどん生まれて発展をしていくように、コミュニティを育てていきたい と思っています。
ー幅がどんどん広がっていきそうですね。
広げていけたらいいですね。音楽のイベントだと音楽好きしか集まらないけど、“音楽 × 〇〇”というテーマだったら、音楽好き以外の人にも自分ごとだと思ってもらえると思うんです。そもそも地球上に生きている限り、音がない空間というのはないわけで。それを通して多くの人に、音楽について感じたり考えたりしてもらうきっかけにしていきたいと思います。
ーsawakoさんらしい考えですね。
“人が音楽に出会った時の化学変化”が、凄く面白いんですよね。そんな事を考えながら、人・モノ・場所を繋いでいくような企画をいろいろ仕掛けていきたいと思っています。
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