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文: Akari Hiroshige 編:久野麻衣
7月26日(日)のリニューアル、コロナ禍でのライブ配信、日本と台湾を繋ぐ音楽レーベル〈BIG ROMANTIC RECORDS / 大浪漫唱片〉のレーペルショップ&台湾のソウルフード「魯肉飯」専門スタンド “大浪漫商店”と台北のカレースタンドのオープンなど、大忙しの青山・月見ル君想フ(以下、月見ル)。世の中が混沌とする中、進むべきビジョンをいち早く明確にして突き進んできているように見える。このコロナ禍で身動きが取れず次々と店をたたまざるを得ない事業者が多い中で、なぜここまで「攻め」の姿勢をとることができるのか。前回の月見ル君想フ店長・タカハシコーキ氏へのライブハウス運営にフォーカスしたインタビューに続く第2弾として、代表取締役の寺尾ブッタ氏に下北沢と台北への出店について訊いた。
ー下北沢の “大浪漫商店” の出店、そして台北のカレースタンドのオープンおめでとうございます。コロナ禍で相当大変な時期が続いていると思いますが、もともと実店舗の出店は計画されていたのでしょうか?
出店自体は、昨年くらいから計画を立てていました。レーベルを始めてから徐々に作品が増えてきて、それらを丸ごと表現できるような場所を作りたいと思っていたんです。これまで、レーベルのポップアップストア自体は、代官山のTSUTAYAや音楽フェスなど、色んなところでレーベルコーナーを設けてやっていました。一枚一枚レコードを紹介するのはなかなか骨が折れますが、レーベルごとまるっとわかりやすく紹介してもらえる場があるのは、非常に有難いことでしたね。来てくださった方々の反応もそれなりによかったので、それを期間限定ではなく実店舗として「あそこに行けば絶対お気に入りの曲が見つかる」みたいな期待してもらえる場所を作りたいと思い、出店に踏み切りました。
ーたまたまお店にご飯を食べに来た人が、ばったりお気に入りの音楽に出会えたらいいですよね。
そうですね、飲食目当てできたお客さんがレコードなどのグッズを見て、台湾の音楽にも興味を持ってもらえたら嬉しいです。出店の最大のメリットとして、実際に商品を手にとって実物を見ることができるというのがあります。実際、すでにネットでも同じ商品は販売していて、日本全国、台湾全国から買えるようになっていますが、オンラインだと自発的に探しに行かなければその商品とは出会えない一方で、実店舗においては「たまたま見つける」という偶然性を持っています。そんな出会いの場となる店舗を、東京、そしてその他の地域にも広げていきたいです。
ー下北沢の店舗では、なぜメインメニューとして「魯肉飯(ルーロー飯)」をチョイスしたのでしょうか。
台湾にいる時は必ずと言っていいほど魯肉飯を食べていて、台北で魯肉飯が美味しいお店もリストアップして研究していました。一方で、現地の魯肉飯は油が強くて自分でも食べ続けるのは中々しんどいと思って感じていたんです。かと言って、日本で食べられる魯肉飯もアレンジされすぎていて物足りなさも感じて、プロデューサー視点で考えると“料理のしがいがあるな”と。魯肉飯はスタンダード且つソウルフードですし、月見ル独自の味の表現をするのに適した可能性を秘めた題材だと思い、選びました。
ー青山・月見ルのライブハウスでも魯肉飯を提供していると思うのですが、レシピは月見ルのものと一緒ですか。
それが全く違うんですよ。今後統合する可能性が高いとは思いますが…。月見るの魯肉飯はかなりニューウェーブで独自路線を走っているのですが、対して下北沢の魯肉飯は台湾寄りの味です。2つを食べ比べてみるのも面白いかもしれないですね。
ー食材はもちろん台湾のものを使用されているのでしょうか。
お店は、魯肉飯と滷味(ルーウェイ)の二枚看板でやっていますが、基本、調味料は台湾のものを使用しています。魯肉飯はご飯の上に煮込んだお肉をかけたもの、滷味は様々な食材を煮込んだおかずのような立ち位置の料理です。台湾では、レストランで滷味のような小皿料理がショーケースにあって、そこから自分で選んで持ってくるのがよくある風景なんですよ。どうしても外せない味のキーとなる調味料は、無理言って台湾から送ってもらっています。
ー一方、台湾から輸入しているクラフトビールにはどんなこだわりがあるのでしょうか。
クラフトビールは月見ルの独占輸入です。現地のビールメーカーの担当者には口約束で「うちだけにしてください」って言ってます(笑)。うちから他のお店に卸すという手段もあるんですよ。ただ、月見ルと下北沢の大浪漫商店でしか飲めないという独占ネタがあるとお店の売りになるので、独占状態を何とか維持したいと思っています。とは言え、ある程度数を仕入れないとビジネスにならないので、たくさん売って、また新しい味を買ってラインナップを増やしていきたいですね。そのビールメーカー自体は、そこまで大きな規模の会社ではないのですが、台北月見ルオープン時からずっと付き合いがあって、音楽イベントとコラボするなど親和性が高く、特にミュージシャンや音楽好きの間ではかなり注目度の高いメーカーなので、ウチにばっちりハマってると思います。
ー台湾での出店についてもお聞きしたいのですが、2013年にオープンしたライブカフェ(台北月見ル・本店)に続く第2号として、このコロナ禍で台北のカレースタンド出店に踏み切った理由を教えてください。
まず前提として、コロナショック以降、台北では飲食店は通常営業できていたのですが、ライブビジネスは完全にストップしていました。月見ルでは、ライブハウスの運営以外にも、日本のアーティストの海外ツアー制作や、海外アーティストのブッキングなどを行なっているのですが、今それらのプロジェクトが完全になくなってしまったんです。要は飲食店の営業しかできることがなかったので、自然とそちらを拡大しようという流れになりました。
そもそもの飲食店出店の経緯として、台北は日本と異なり、ライブ収益のみで運営できているライブハウスが非常に少ないという事情が絡んでいます。毎日ライブがあってブッキングが埋まっていて…という状況ではないので、毎日営業できる飲食業をベースにしながら、ライブスペースを併せ持っているところが多いです。飲食業でなくとも、他の収入源を持っているケースが多いと思います。結果的に、このコロナ禍でもリスクを回避できたのだと思います。
ー日本とは異なりライブスケジュールがなかなか埋まらないとのことですが、台湾の音楽シーンの規模自体がそこまで大きくないということでしょうか。
そうですね。日本みたいに、バンドが毎日ブッキングできるような状況じゃない。平日にライブを開催するほどの需要がない印象です。ライブ収入のみで運営している「THE WALL」というライブハウスは、コロナ前は海外アーティストの公演含めて平日も程よくイベントスケジュールが入っていて調子がよかったのですが、コロナで海外アーティストが来れなくなると、いよいよ国内アーティストだけでは埋まらない。やはりシーンの規模の問題ということに尽きるのかなと思います。コロナに限らず、常日頃からいろんな問題を孕みつつシーンが成り立っている状況ではありますね。
ーカレースタンドの出店先である台北の赤峰はどういうエリアなのでしょうか。
東京で例えを探すのが難しいのですが、敢えて言うなら裏原や、今だと蔵前とかですかね…。最近まで何もなかった裏路地なんですが、ローカルな印刷工場や板金屋があるようないわゆる超ローカルな路地に、ここ数年の間に個人ブランドのような店舗がポツポツ入居しだしていろんな人を呼び、今や台北一のカルチャーストリートになっているんです。とはいえ、竹下通りのような観光地になっている訳でもなくて、落ち着きを保ちながらローカルな街並みと若者がやっている新しめのブランドショップが溶け合っているようなストリートです。下北沢の店舗にもTシャツが置いてある「PAR Store」もこの赤峰エリアにあります。ここは知り合いのお店なのですが、インディーズカルチャーと非常に相性のいいお店で、九份のような観光ではなくよりニッチな穴場スポットを探し求める人がこのエリア出向くイメージです。
ーぜひいつかそのエリアを散策してみたいです。今は、日本・台北間を人が行き来しづらい状況ですが、お店は現地のスタッフのみで回している状況でしょうか。
そうです。本来であれば私も現地に出向いて立ち上げの手伝いをしたかったのですが、本格的に準備に入る前にコロナ禍に突入してしまったので、代表である私もまだこの目で店舗を見たことがないんです。下北沢と台北の2店舗をどちらも行ったことがあるという人はこの世に存在しないので、果たして誰が第一号になるのか…その人のことを心から祝福したいですね。台湾にビジネスで行って、隔離期間を経て日本に戻ってきて、PCR検査陰性で下北沢の店舗にきて「台北のお店も行きましたよ!」って言われたら、嬉しくて思わずご馳走しちゃうと思います(笑)。
ー日本だとコロナ対策が各飲食店に求められてきたイメージですが、台湾ではどうですか。
条例があり、行政からのお達しは出てたと思います。台北月見ル本店に関しては、一番コロナの影響がすごかった3月は席を間引いて営業していました。ドアを開け放って、席数を減らしてゆとりを持って。営業自粛要請自体は特になく、時間制限もありませんでした。ライブこそできなかったですが、飲食店としては普通に営業していて、売上も悪くはなかったですね。むしろ「売上はコロナ前より良くない?」みたいな不思議な感じでした。「インド人はカレーを食べるからコロナにかからない説」を猛烈にプッシュしたりしてましたね(笑)。コロナショックの超初期にそういうネタがあって、残念ながら今はそういうのは全部関係ないってことが証明されてますけど。
ーなぜ、看板メニューとして「カレー」を選んだのでしょうか。
逆にカレー以外の選択肢がなかったんです。日本を最大限売りにしたいんですけど、かと言って寿司とか刺身定食のような「ザ・和風」を売りにはしたくありませんでした。かつ、音楽と飲食の結びつきを台湾の人にアピールしたいという意図があってカレーをチョイスしたんです。日本だと、カレーそのものが進化を続ける日本の飲食カルチャーを表すものだと思いますし、野外フェス会場などでも登場する定番メニューだと思うので、そういう意味で音楽と相性がいいなと。東京・青山の月見ルでもカレーを提供していて、まさに日本で行われていることをそのまま台湾に持っていきたいという狙いがありました。美味しいお酒とご飯と音楽と。東京で身近に感じていた「音楽を取り巻くライフスタイルの提案」をしたいと思っていたんです。
ーカレーの中でもスパイスを調合して作る「スパイスカレー」を提供されていると思うのですが、台湾では馴染みのある食べ物なのでしょうか。
台湾にも日本の給食で出てくるようなスタイルに近いカレーがあって、カレー自体はもともと台湾社会に馴染んだものではあるのですが、ここ1、2年でスパイスカレー屋がドッと増えたんですよ。日本でも数年前くらいにスパイスカレーブームが来たと思いますが、その後です。日本で流行した物やお店が時間差で台湾に進出することはよくあるのですが、月見ルに初出店した当初は、カレー専門店は現地にあんまりなかった気がします。そこから台湾でもスパイスカレー専門店が増えて、台湾の人も徐々に慣れていって、という流れです。台北月見ルとしては、初出店した2013年からカレーを長くやっているので、現地では老舗の域に達していますよ。
ーブッタさんの考える月見ルの未来像を教えてください。今後も実店舗はどんどん増やしていく予定でしょうか。
僕は下北沢の店舗で毎日魯肉飯を作りながら、この業態で日本にあといくつ店舗を出せるかをずっと考えています。レコードはすでに作っていて、在庫があるんですよ。つまり、そこで投資をすでにしているんです。あとは売り場を増やせばビジネスモデルとしては出来上がっているので、魯肉飯で集客ができる見込みが立ったタイミングで横展開していきたいと思っています。
ウチのレーベルの商品も日本全国のインディーズレコードショップで徐々に取り扱いを増やしてもらっていってるのですが、レーベル直営の実店舗も積極的に展開していきたいですね。“味も評価も安定してきたら、システムだけコピペして新たな街で出店したいな”って思いながら、毎日下北の店舗で肉を切っています。現に、台北は物販と飲食を組み合わせた下北沢に似たコンセプトを持つお店になっていますからね。コロナでみんな大変だと思いますが、魯肉飯を飽きずに食べに来て欲しいです。日本のどこかの地域で、台湾料理店の出店は絶対NGみたいな地域があるならそこには行きませんけど(笑)。
ーレーベルグッズの取り扱い店舗や実店舗が増えれば増えるほど、うまく各拠点の舵取りをしながらリスク分散していくことが重要になってきそうですね。
いくつか収入源があるというのはリスクを減らせて安心なので、店舗の出店は今後のリスク分散の為に必須だと思っています。月見ルのライブハウスもそうですが、チケットの売上とフード・ドリンクの売上等の様々な要素があって(レーベルもその要素の一つと言えるかも知れません)、どれかが良かったり悪かったりするものなんです。どれかで埋め合わせをしながらトータルでプロデュースしていくことにはもともと慣れていているので、あとは拠点を広げていくのみ。いろんなチャンネルを持っておくことで、お互いに補完し合い、時には化学反応を起こせる可能性を秘めているので、今後も続けていきたいと思っています。
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