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文: 黒田隆太朗
まさに押しも押されもせぬ存在だろう。藤井風の「何なん w」やiriの「Clear color」をはじめ、多数のアーティストのプロデュースをこなす傍ら、自身のソロプロジェクト・Yaffle名義では、海外のクリエイターとコライトしたアルバム『Lost, Never Gone』をリリース。これまで『響』や『ナラタージュ』 など映画音楽の制作もこなすなど、まさに多方面に渡って活躍する日本屈指のクリエイターである。
そうした自身の活動に対して懐疑的な眼差し、いわば自己批評性を持っているところが、Yaffleの優れた資質かもしれない。本稿ではプロデュース業に関する“迷い”が語られるが、それも彼が言うところの「漫然と生きない」ことの裏返しなのだろう。日々さまざまな芸術や風景から影響を受けながら、主体的な創作を続けるからこそ生まれる迷いなのだと思う。
今回の取材では昨年リリースされた『Lost, Never Gone』の制作風景から、小袋成彬と共同主催する〈TOKA〉(2021年に〈Tokyo Recordings〉から改名)の理念について、さらには自身のプロデュース業への所感など、彼がこなすワークス全般について言及してもらった。次第に赤裸々になっていくその胸中とは?
ー『Lost, Never Gone』を出されてから半年ほど経ちますが、今年もご自身の創作を続けられていますか?
いや、自分自身の創作はあまり出来てないですね。凄く忙しくなっちゃって、人の曲ばっかりやっています。コロナ禍になって今一番忙しくて、みんなライブのニュースが切れないから制作でニュース切ろうという気持ちがあるのかな。お声がけいただけることが多くなって、やんなきゃなあって感じです。
ーアルバムに関しては、リリースから少し時間が経ったことで、自分の中での位置付けが変わったところがありますか?
うーん、どうだろう。僕はフォークな人間じゃないから、作品を俯瞰して語るのが得意じゃないんですよね(笑)。もっともらしいことも言えるんですけど、まあ、mp3をクラウドに上げただけですからね。ただ、今ぐらいになるとある程度自分と切り離して聴けるというか、そういう意味では今の自分とは地続きなものではなくて、良いものが出来たなとは思います。
ー2019年に欧州を旅して、各地のアーティストとコライトしたものをまとめた作品ですが、歌詞を相手に委ねたのは歌い手の文化や言語を尊重したい気持ちがあったからですか?
単に僕が歌詞を書けないっていうのと、母語じゃない言葉で歌うのはあまり説得力がないよねっていう問題ですね。
ー表現がナチュラルじゃなくなる?
英語の歌詞を第二言語の人が書くと、話っぽくなるんですよ。英語話者の書く英語詞って、取り止めがないじゃないですか。<窓/そいつ/尖ったナイフを/俺が>とか(笑)、ぐちゃぐちゃですよね。でも、英語話者じゃない人が英語で書くと、ストーリーがしっかりしているというか、“誰が・どこで・どうした”みたいに、ちゃんと話として成立するものになるので、それが固いなって思う時が結構あります。
ーなるほど。
あとは自分が人間の出す言葉フェチで、気取って言うと周波数好きと言うか、ASMRみたいな感じです。言語自体に独特な響きがあって、僕はそういうのが好きなので、その響きをそのまま出せるなら出してもらおうっていう。ただ、どうしてもトラックメイカーやDJ系のアルバムって、ヒットソング集みたいになっちゃうことが多いですけど、作品を作る上でコンピレーションっぽくしたくはなかったんですよね。そのためにコンセプトをトップライナーに話して、そこで感じたものをそれぞれ出してもらうっていう作り方にしました。
ーそのコンセプトっていうのが、タイトルにもなってる『Lost, Never Gone』?
そうですね。“喪失を悲しむ必要はない”っていうような意味で付けています。
ーそうしたキーワードは当時のどういう考えから出てきたものだと思いますか。
なんか虚無感があったんじゃないですかね。人間関係も然り、環境も然り、割と動きがあった時期なんだと思います。僕思うんですけど、85歳くらいになって寿命が2倍になりますとか言われたら、どうしよって(笑)。
ー面白い想像ですね(笑)。
たとえば18歳くらいで誰かと付き合って、その人と結婚して85歳まで仲睦まじくやってきて、そこでこれから200歳くらいまで生きますって言われたら、18歳で出会った人と200歳までいられるのかなって。でも、80歳くらいで死ねたら美談になるけど、そこでドロドロの不倫騒動を起こして晩節を汚す感じになったら、ヤベえなって言われますよね。そういうことを想像して、死ぬ間際の状態で人生判断しすぎなんじゃないかなって思う時があって。
ーなるほど。
死ぬほど人生苦労して、82歳くらいで人生の最高期がやって来て、子供5人に囲まれて病室で死ぬのと、めちゃくちゃ大金持ちで死ぬほど贅沢してきたけど、最後の最後で株がはじけてひとりで野垂れ死ぬのと、どっちが幸せかわからないじゃないですか。いつ死ぬかわからないのに、先に結果を見通して将来のために積み立てていくのも、やりすぎるとずっとつまらない人生ですよね。
ーその時々で楽しむことも重要だと。
そういう刹那的な価値観があります。それで、みんなの思う幸せのロールモデルが決まってる社会は気持ち悪いなって思ってて、楽しかったものがなくなると喪失だと捉えちゃうけど、その時楽しかったというのが残ってれば良いんじゃないかなって。3年後に楽しかろうが、1年前に楽しかろうが、総量は一緒でしょって思うから。『Lost, Never Gone』っていうのは、そんなことを考えながら出てきた言葉ですね。
ーそれをコライトする相手とシェアして創作していったと。
今みたいな話をセッションする前に話して、それをどう受け取るかは相手次第。で、声が違うから、そこは大分刺激的だったと思います。創作の工程はサンドイッチ型というか、カラオケだけ作って歌いやすいように歌ってもらって、曲が大体出来てきたら僕が作った元の部分は消して、もう一回曲だけを書くんです。だから歌の響きが大事というか、硬い言い方をすれば倍音みたいなことろに引っ張られないと、曲を書きたいと思えないですね。
ー旅をする中で、訪れた土地や風景からは何か刺激や癒しを感じていましたか?
それはめちゃくちゃあると思います。たとえばインタビューでも、ブランディングがあるからアーティストは自分が思われたいことを言うじゃないですか(笑)。でも、何から影響を受けたかなんて、自覚的にはわからないですよね。もちろん好きな音楽はあるけど、もしかしたら街で聴いているAKBの曲から影響を受けているかもしれないし、商店街の豹柄を着たおばちゃんから影響を受けているかもしれない。自覚的に影響を取捨選択することはできないから。旅をする意味はそこにあるというか、無自覚の影響に自分をぽんって落とすことなんですよね。
ーなるほど。
だから音楽だけではなくて、街の風景からの影響はめちゃくちゃあると思います。凄く思うんですけど、ポピュラーミュージックって結局街と合ってなきゃいけないなって。消費される音楽だから、その街の雰囲気というか、正装というか、東京を歩いていてスッと入ってくるようなものでないといけない。それは人の曲を作るにしろ、自分の曲を作るにしろ大前提だと思っています。
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