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文: 村尾泰郎 編:Mao Oya
映画『ロード・オブ・カオス』は、ノルウェーの伝説的なヘヴィ・メタル・バンド、Mayhem(メイヘム)を題材にした物語。
といっても、彼らの活躍を描いたロック・ムーヴィーではない。ここで描かれるのは、いつの間にか間違った場所へ迷い込んでしまった若者たちの血も凍るような悲劇だ。サタニズム(悪魔崇拝)を掲げて、死人をイメージしたメイクと過激なライヴ・パフォーマンスを展開したMayhemは「ブラック・メタル」のオリジネイターとしてメタル・シーンに大きな影響を与えた。しかし、彼らはその一方で「邪悪なこと」を競い合う集団、インナーサークルを結成。その活動は次第に過激化して、教会の連続放火、さらには殺人へと発展していく。
彼らを狂気に駆り立てたものは何だったのか。本作の監督を務めたのは、Mayhemと並んでブラック・メタルを代表するバンド、Bathory(バソリー)の元メンバーで、現在はMV界の巨匠であり、映画監督としても活躍するジョナス・アカーランド。Mayhemと同じく北欧ブラック・メタル出身のアカーランドは、Mayhemの暴走をどんな想いで映画にしたのか、話を訊いた。
※ネタバレを含む箇所があります。
『ロード・オブ・カオス』ストーリー
1987年、ノルウェー・オスロ。19歳のギタリスト、ユーロニモスは、ヴォーカルのデッドたちとともに「真のブラック・メタル」を追求する全く新しいバンド「メイヘム」の活動に熱中していた。
デッドは、ライヴ中に自身の身体を切り刻み、観客にその血をかけた上、豚の頭を投げるなどの行為を繰り返し、その過激さもあって「メイヘム」は熱狂的にブラック・メタル・シーンに受け入れられる。しかしある日、デッドはショットガンで頭をブチ抜き、自殺を果たした…。発見者のユーロニモスは、親友の脳漿が飛び散る遺体の写真を撮り、頭蓋骨の欠片を友人らに送付し、喧伝することでカリスマ化。レコードショップ「ヘルヴェテ(地獄)」を根城に、“誰が一番邪悪か”を競うインナーサークルを作り、王として君臨するようになる。
しかし、メンバーのヴァーグが起こした教会放火を契機に、主導権争いは熾烈化。歯止めが効かなくなった果て、彼らですら想像しえなかった狂乱が待ち受けていた。
ーーMayhemをめぐる事件を映画化するにあたって、監督が興味を惹かれたのはどんなところでしょう。
最初は彼らの音楽、ブラック・メタルの暴力性やダークなイメージが面白いと思っていたんだ。でも、登場人物たちを掘り下げていくと、彼らはモンスターではなく、ごく普通の若者たちだったことがわかってきた。そんな若者たちはどんな関係で結ばれていたのか、その人間的な部分に興味を持つようになったんだ。
ーー遺族や関係者に話を聞いたりもしたそうですが、そこで印象に残ったエピソードはありますか?
取材するごとに発見はあったし、今も発見は続いているよ。なぜなら、この事件は実際に何が起こったのか、本当のことは今も解明されていないし、よくあるような出来事ではないからね。リサーチでわかったことすべてを映画に盛り込むことは不可能だった。バンド・リーダーのユーロニモスの両親とあって話もしたけど、彼らにとって思い出したくないことでもあるから、話を聞くのは辛かったよ。この話はまさにネバー・エンディング・ストーリー。語りつくせない物語なんだ。とにかく興味深いエピソードが多いから、テレビドラマのシリーズにするのがいいんじゃないかと思う。
ーーユーロニモスを描くにあたって心掛けたことはありますか?
彼は実業家だった、ということかな。想像してほしい。インターネットがなかった時代、彼はすべて自分の手でバンドをプロモーションしたんだ。雑誌に手紙を書いたり、フライヤーをまいたりしてね。そういうことができるくらいクリエイティヴな能力を持っていて、そして若くイノセントだった。
ーーユーロニモス役にロリー・カルキンを起用したのは、どういう経緯からだったのでしょうか。
いろんな俳優にあってみたんだけれど、ずっとロリーのことが気になっていた。彼とはNYで会って物語に興味を持ってくれたようだったんだけど、ブラック・メタルについては何も知らなかったんだ。それから1年後、ロリーに再会したら髪を伸ばして役に入り込んでいた。事件の記事を読んだり、メタルを聴いたりして、熱意を持って宿題に取り組んでくれていた。そんな彼の役作りを気に入って演じてもらうことにしたんだ。
——Mayhemの初代ヴォーカルのデッドことペレを演じたジャック・キルマーも印象的でした。
彼の父親(ヴァル・キルマー)とは知り合いだったけど、ジャックとは会ったことがなかったんだ。彼とはLAのホテルで初めて会ったんだけど、ロビーに座って彼が歩いてくるのを見た時に驚いた。あまりにもペレそっくりだったからね。同じように長髪で間の抜けた歩き方だった。僕はバンドをやっていた頃にペレとは少し付き合いがあったんだ。ペレ役はジャックしかいないと思って、それから1年かけて口説いたんだ。
ーー最初はバンドとして集まった仲間が、やがてインナーサークルという反社会的な行為を競い合う集団へと変化していきます。彼らをそういう行為に駆り立てたものは何だったと思われますか?
それは大きな質問だね。最初彼らは同じような考えを持ち、同じような音楽を愛する若者たちの集まりで、バンドは自分たちがこれからどこへ行こうとしているのか一緒に考える場所だった。自分探しの旅の途中で、いつしか彼らは考え方に違いが生まれて心が離れていった。そして、殺人によって一緒にやってきたバンドも、レコード店も、友情も、すべてが終わってしまったんだ。
ーーそんななかで、バンド・リーダーのユーロニモスと、後からメンバーに参加したヴァーグの関係は大きく変わっていきます。はじめはユーロニモスに憧れながらも彼にバカにされていたヴァーグですが、過激な行為を繰り返すうちにユーロニモスを見下すようになる。そして、2人のねじれた友情は最後に悲劇をもたらします。
2人の関係をどう描くは、物語を作る上で一番難しいところだった。2人の間にはいろんなことが起こったし、彼らは本当に仲が良い友達だったからね。彼らがいつも一緒にいるところを多くの人が見ているし、事件の2週間前に2人に会った人も彼らがとても仲が良さそうだったと証言している。リサーチで色々な事実を知ることはできたけど、2人の間に何があったのかについては当事者しかわからないから、そこは想像で描くしかなかった。映画の冒頭でも言っているけど、この映画は事実をベースにしながら、そこに想像を交えて描いているんだ。
ーー Mayhemが生み出したと言われるノルウェーのブラック・メタルはその後のメタル・シーンにどんな影響を与えたと思いますか。
北欧のブラックメタル・シーンはとても大きくて、Mayhem以外にもBathoryやDarkthrone(ダークスローン)というバンドも重要で、彼らは独自の世界を作り上げた。サウンドだけではなく、ビジュアルの視点からみても彼らの作った世界は独創的だったよ。今も若い人たちは彼らから大きな影響を受け続けている。
ーー監督はBathoryのメンバーとして活動していた時期もありましたが、Mayhemのメンバーと面識はあったのでしょうか。
私がBathoryにいた時にはMayhemは存在していなかった。でも、彼らが出てきた時、すぐに彼らの存在を知ったし、事件を知った時は「一体何が起こっているんだろう」と驚いた。ファンタジーと現実がごっちゃになっているような感じがして、なぜあんな事件が起こったのか理解に苦しんだよ。
ーー北欧ではヘヴィ・メタルが人気ですが、監督がメタルに興味を持ったきっかけを教えてください。
スウェーデンで生まれ育ったので、物心ついた時からメタルは身近な音楽だった。最初はT. Rex(T.レックス)やAlice Cooper(アリス・クーパー)が好きで、そのうちBlack Sabbath(ブラック・サバス)を聴くようになった。イギリスのメタル・バンド、Iron Maiden(アイアン・メイデン)やDiamond Head(ダイアモンド・ヘッド)にハマった時期もあったよ。友達の多くが同じようなアーティストを聴いていて、一緒に音楽を始めるようになったんだ。そして Bathoryでブラック・メタルをやり始めたんだけど、ブラック・メタルよりも普通のメタルの方が好きだったね。この映画は、当時の北欧のメタル・シーンの楽屋裏を覗いているようなところがあって、そこも面白いと思う。
ーーメタル・バンドを題材にしながら、Sigur Rós(シガー・ロス)の音楽を使おうと思われたのはどうしてですか?
いい質問だね。音楽はこの映画で重要な役割を果たしている。当時、流行っていたバンド、Dio(ディオ)、Accept(アクセプト)、Motörhead(モーターヘッド)の音楽は当時のメタル・シーンを表現するのに大事だし、もちろん、Mayhemの音楽も欠かせない。そういった音楽は物語の「大きな場所」を表現するものだ。その一方で、Sigur Rósの音楽は登場人物のパーソナルな感情を表現してくれた。僕はSigur Rósのファンで、たまたまLAで開かれたパーティーでヨンシーに会った時に、この映画の台本を渡したんだ。そしたら彼が台本を読んでくれて気に入ってくれて、低予算の映画にSigur Rósが曲を提供してくれることになった。それはお金には置き換えられない、とても価値があることだと思う。Sigur Rósの曲が登場人物の人間関係のエモーショナルな部分を見事に表してくれた。それがこの物語の重要な部分なんだ。
映画『ロード・オブ・カオス』
2021年3月26日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほかにてロードショー!以降順次公開
出演:ロリー・カルキン(ユーロニモス)、エモリー・コーエン(ヴァーグ)、ジャック・キルマー(デッド)、スカイ・フェレイラ(アンマリー)、ヴォルター・スカルスガルド(ファウスト)
監督・脚本:ジョナス・アカーランド(『SPUN/スパン』)
脚本:デニース・マグナソン(『孤島の王』)
原作:『ブラック・メタルの血塗られた歴史』(著:マイケル・モイニハン 、ディードリック・ソーデリン ド)
音楽:シガー・ロス(『バニラ・スカイ』)
撮影:パー・M・エクバーグ(『ポーラー 狙われた暗殺者』)
編集:リカード・クランツ原題:LORDS OF CHAOS|2018 年|イギリス・スウェーデン・ノルウェー合作
アメリカンビスタ|117 分|R18+|字幕監修:川嶋未来(SIGH)|アドバイザー:増田勇一
© 2018 Fox Vice Films Holdings, LLC and VICE Media LLC
配給・宣伝:AMG エンタテインメント、SPACE SHOWER FILMS
提供:AMG エンタテインメント
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