シャムキャッツ・夏目知幸が、自身の作詞に影響を与えた10曲をセレクト。言葉の真髄を語り合う

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文: 黒田 隆太朗  写:遥南 碧 

シャムキャッツの夏目知幸が、自身の作詞に影響を与えた10曲をセレクト。夏目が感銘を受けた楽曲を紐解きながら、『はなたば』で踏み出した新たな境地まで、「言葉の真髄」を存分に語り合う。

澄んだ瞳の詩人、卑猥な唄歌い、知性溢れるロマンチスト。夏目知幸はシーン切っての言葉の求道者だ。シャムキャッツが誇るソングライターのひとりであり、市井の悲喜こもごもを描くことにおいては随一の作家である。今回のインタビューは、夏目知幸に影響を与えた歌詞10選を挙げてもらっていった。いわば彼の作詞のリファレンスを徹底的に探ったものである。

シャムキャッツという稀有なバンドも今年で結成10周年。その歩みの中で変わったことと変わらなかったこと、達成したことと目指していること、そして新作『はなたば』で芽生えた兆しについて。そのすべてを「言葉」という側面から追及してみた。歌詞の可能性を拡張する者、かく語りき。

「説明できない」感情を表現するのがロックンロール

ー「夏目知幸が歌詞に影響を受けた曲」というテーマでプレイリストを作っていただきました。この10曲に共通するものがあるとしたら?

※Spotify配信楽曲以外に、中島みゆき「悪女」、THE BLUE HEARTS「ラブレター」、前野健太「マン・ション」をセレクト。

すべてストーリーのある曲。主人公がどういう状況にいて、どういう気持ちを抱えているのか、それが描かれているものに惹かれます。あと、相反する感情がある曲、ということも言えますね。人間とはアンビバレンスな存在なんだと感じさせてくれる曲ばかりです。

ーまさに。両義的な歌が多いし、それはたとえば、シャムキャッツの「このままがいいね」にも通じる気がします。

確かに。あれも両義的な気がする。「このままがいいね」という歌は、つまりこのままではいられない、ということについて歌っている曲だから。

ーRCサクセションの「トランジスタ・ラジオ」は特にそうですね。

大好きです。「Hard to Explain」、つまり「説明できない」という感情を表現するのが僕はロックンロールの初期衝動だと思う。それはThe Whoがやっていたことであり、日本語でそれをやった理想形がRCサクセションの「トランジスタ・ラジオ」。<こんな気持ち Ah/うまく言えたことがない>っていうのが決め台詞ですね。

ー主人公は授業をサボって、屋上でタバコを吸いながら海外のポップスを聴いている。でも、自分が熱中するものを教室の彼女は知らないっていう、そこに得も言われぬ断絶や倒錯を感じます。

そう。ラジオから流れてくる自分の好きな曲を彼女は知らないし、自分が好きなものは自分の国のものではないという唄。つまり、海外から聴こえてくるメロディがアイデンティティを保ってくれている曲ですね。そこで「こんな気持ちうまく言えない」と思うのは凄く島国的で、それをここまで描けているのが素晴らしい。切ない歌ですよね。

ー「説明できない感情を表現するのがロックンロール」と言われていましたが、「ランチタイムが終わる頃」や「煙突」も解決しない感情、もしくは茫洋とした感情の揺れを表現していると思います。

結論ではなく途中経過を描く、過程を要約して歌うというのは好きですね。

ー何故?

決定的な結論を得ることなんて、人生においてあるのかと。少なくとも、僕はないんですよ。考えは毎日変わるし、流動的だから。

ーなるほど。

気持ちの揺れ動きをそのまま見せてくれる歌に感動するし、まさしく松任谷由実の「ランチタイムが終わる頃」や、ミツメの「煙突」はそこが上手く表現されていると思います。ゆーみんは天才ですね。僕は女性じゃないし踊りもやったことがない、ましてやランチタイムに外に出て好きな人を探したこともない。それなのに不思議と登場人物の気持ちがわかるんですよ。これって本当に凄いことだと思います。

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メンバー全員が高校三年生時に浦安にて結成。

2009年のデビュー以降、常に挑戦的に音楽性を変えながらも、あくまで日本語によるオルタナティブロックの探求とインディペンデントなバンド運営を主軸において活動してきたギターポップバンド。サウンドはリアルでグルーヴィー。ブルーなメロディと日常を切り取った詞世界が特徴。

Siamese Cats is a guitar pop band originally formed at their hometown – Urayasu when they were in the last year of high school.
Since they debuted in 2009, they have been trying to transform their music style everytime they have a release but always exploring Japanese alternative rock music and managing themselves independently. The music they make sounds real and groovy, along with melancholic melodies and their lyrics flame the casual daily scenery.

2016年からは3年在籍したP-VINEを離れて自主レーベルTETRA RECORDSを設立。より積極的なリリースとアジア圏に及ぶツアーを敢行、活動の場を広げる。

In 2016, they left P-vine which they had signed for three years and started their own label TETRA RECORDS. Since then they have been focusing on making music more than ever and went on the tour across Asia as well.

代表作にアルバム「AFTER HOURS」「Friends Again」、EP「TAKE CARE」「君の町にも雨は降るのかい?」など。最新作はシングル「カリフラワー」。
2018年、FUJI ROCK FESTIVAL ’18に出演。
そして2018年11月21日、5枚目となるフルアルバム「Virgin Graffiti」発売。

In 2018, they appeared at Fuji Rock’18.
“Friends Again” and “TAKE CARE” are listed as their major works.
Their latest album “Virgin Graffiti” came out on 21st Nov. 2018.
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