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文: 石角友香 編:Miku Jimbo
高校生時代に10代アーティスト限定のフェス<未確認フェスティバル2018>でグランプリを獲得。のみならず同年にロッキング・オンが主催する<RO JACK>においても優勝し、すでに結成から7年のキャリアを持つマッシュとアネモネ。長らく4ピースバンドとして活動してきたが、2021年4月にドラマーが脱退し、現在はバンドの首謀者でありソングライターであるもちこ(Gt,Vo)、間下隆太(Gt,Cho)、二代目ベーシストである田尾実悠の3ピースで活動中だ。そんな彼女らが2022年4月からスタートした12ヶ月連続リリースの集大成となるアルバム『逆らうでもなく、従うでもなく。』をリリースする。
内容はというと、連続リリースしてきた12曲の中から選んだ6曲と、新曲「135」と「ナリ(Acoustic ver.)」が収録されている。単曲リリースでは捉えきれなかった現在形の彼女らを知るには最適な、意思の塊としてのアルバムと言えるだろう。
アルバムタイトルが示唆するアンビバレンツは一見、社会や常識のことを思わせるが、アルバムを聴き進めていくとどうやらそれは自分の感情なのではないか?という思いが強くなる。さらにフォーカスしていくとおそらく恋をしている時の感情だ。1曲目の「シーヒム」(See Him)で、もちこが吐き出すのは誰かを好きになることで起こる喜怒哀楽の浮沈の悩ましさだろう。マッシュとアネモネの特異性はそれを歌詞だけで描くのではなく、もちこから自然と発生する不安定なコードや曖昧な曲の輪郭全てで表現しているところだ。よくぞこんなにパーソナルな心情を掬い取れるなと驚くのだが、その感情表現は彼らの音源の触ると崩れ落ちるような輪郭の危うさも起因しているのだと思う。
続く「ジュン」は対象が人間ではなく愛猫なのかも?と想像させつつ、本作の肝である「134」へ。My Bloody Valentine(マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン)ばりのシューゲイズサウンドの狭間で、間下のブラックミュージックやAORのセンスが窺えるフレージングが光る。そのアレンジも違和感となって、自由なのにどこにも行けない持て余し気味のもちこの葛藤を浮き彫りにするのだ。ギターフレーズ自体がオシャレで軽妙であるほど、現実の少しも動けない不自由がリアルに感じられるというか。なかなか真似しようと思ってもできない個性だ。
その不思議な違和感は、シティポップの定番である16ビートのコードカッティングに懐かしさを、リバービーな音像にサイケデリアを感じる4曲目の「レモン」にも感じられる。歌詞に登場する《ピンクの象》は酩酊状態で見える幻覚のたとえだと思われ、それが“見えない”主人公はきっと狂えず、シラフで生きていくのだろうと思う。
続く「テレビ」や「サークル」は輝度の高いサウンドそのものが、日常を逸脱した恋の感情を描いているようでもあり、この辺りは長く続くギターポップやインディーポップの普遍性を体現している。終盤に新曲の「135」がセットされているのだが、この曲が「134」の続編なのかはわからない。ただ、《だって 見ているものが 違うんだってさ》という歌詞から、二人は別々の道を行くことになったのかもしれない。ここまでの少し現実離れした音像から、アルバムの中でも比較的ストレートなギターロックで地に足がついた印象も受ける曲だ。そしてラストは配信もしていた「ナリ」のアコースティックバージョン。歌メロに則さないようなコードや不協和音が、歌とアコースティックギターだけのシンプルなアレンジゆえに、より鋭く鮮明に届く。そのことが少しでも安心したい気持ちと、不安さえ奪われるいたたまれなさという矛盾する気持ちを立体的にするのだ。
彼女たちの音楽は何もスッキリ解決してくれはしないけれど、誰しもの心にある矛盾する感情をかなりの純度で吐き出させてくれる。答えは出ないまま生きていく中で、思い出したい音楽なのだ。
RELEASE INFORMATION
1st FULL ALBUM『逆らうでもなく、従うでもなく。』
8月23日(水)リリース
Blue echo records外部リンク
early Reflection
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