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文: 村田タケル 編:Kou Ishimaru
DIGLE MAGAZINEの読者の皆さま、こんにちは!村田タケルです。
MLB・エンゼルス所属の大谷翔平のホームラン王争いを毎日チェックしながらあっという間に過ぎ去ったった9月でした。彼が凄いのは、現代のプロレベルでは不可能と考えられていた投手・野手の二刀流に挑戦し、どちらも高いレベルで成果を残したことだと思いますが、やりたいことをやり抜いた彼のスタイルはインディ・アーティストのDIYなマインドにも通じる気がして、ワクワクさせてもらいました。それでは今月もホームラン級の最新インディ・アーティスト5組を今回も紹介します!
衝動的であり、芸術的であり、繊細であり、破壊的。black midi以降の世代が既に背後にスタンバイしているのを確信させるKyoto Kyoto。ブリットスクールを出自とするblack midiがその代表であるように、サウス・ロンドンで起きた一つの潮流は、専門的な音楽教育を受け、知識と実践を研ぎ澄まして行った若者が作る新たなパンクシーンにある。Kyoto Kyotoはblack midiが作った一つの景色を更に高次元に塗り替える可能性もあるほどの衝撃を感じた。今後、再注目バンドの一つとして是非ともチェックして欲しい。
UK・北アイルランドの最大都市ベルファストを拠点に活動するEnola Gay。そのバンド名の固有名詞の意味に日本人として暗い印象を抱くかもしれないが、彼らは真の変革者として闘っている。痛烈で直接的に現代社会の問題を浮き彫りにする彼らの音楽は強いビートとメッセージによってリスナーの拳を硬くさせるであろう。
「ボリス・ジョンソンが首相になった夜に書かれた曲で、EU離脱の生傷を漂わせながら、Saltは現在の政治状況に唾を吐いています。私たちが置かれた状況がいかに不確実性に満ちた悪夢であるか、若者をいかに陥れているものなのかをこの曲で表現したかった。自分たちの世代だけでなく、将来世代の為にも」とこの曲についてバンドは語っている。日本でも自民党総裁選が行われたばかりだが、保守政党の老獪な政治がもたらす危機に隣り合わせな我々としても、Enola Gayのメッセージは決して他人事とは思えない。Enola Gayのこの楽曲は、腐敗が蔓延とする世の中に対して闘う勇気を与えてくれる。差別や不平等、不誠実な世の中にNOを突きつける。
映画や絵画。そして音楽…。古来より優れたアーティストが描き続けた人間の狂気。このコラムでもほぼ毎回何かしらの話題に絡んでくるNYのインディ・レーベル〈Fire Talk〉が契約したマンチェスター出身のアーティストでもあるMandy, Indianaはその領域に於いてアグレッシブな表現を見せている。Battlesの大名曲『Atlas』を下書きにしたようなキャッチーさがありつつも、Girl Bandのような実験的で暴力的なノイズの味付けを施し、その反復するビートやノイズの中で狂気、怒り、快楽がカオスティックに反芻する。11月19日にデビューEP『…』をリリース予定。
前作『Lush』で一気にブレイクしたUS・ボルチモアを出身とするSnail Mail。11月5日にニュー・アルバム『Valentine』をリリースすることを発表し、その表題曲が先行リリースされた。人一倍の純粋さと脆さの狭間の中でぐずり泣き出すように感情を乗せる彼女の歌に今回もドキドキさせられる。レズビアンであることをカミングアウトしているSnail Mailが、その不条理な偏見や差別から起きる苦悩に正面から向き合った楽曲。ビデオも痛快と感動。世間からははみ出した人間と思われようとも、そのままの姿と裸の感情で生きる尊さをSnail Mailは思い出させてくれる。こうしたアティチュードを持つアーティストから世間が学ぶことは沢山ある。
優れたダンスミュージックはリスナーに心地良い居場所を与えてくれる。たとえどんなにも馴染めない状況に陥っていたとしても、その音楽が自分自身の半径1mで身体全体を包み込むようにバリアとなってくれる。Godfordの音楽はまさにそんな音楽だ。Daft Punkの真似?とも思われそうな、顔を隠してダンスミュージックを創作するパリの覆面アーティストは、そうしたマーケティング戦法を取っているわけでは勿論なく、アーティストがTikTokでバイラルヒットなんかする必要はないことを知っている。今回紹介した楽曲を含めて今年は3曲をリリースしているが、その全てが素晴らしい。
Radioheadの世紀の名盤として評価される『Kid A』と『Amnesiac』。その2枚に未発表音源を含むレア・マテリアルを12曲収録した『Kid Amnesiae』を加えた3枚組作品『Kid A Mnesia』が11月5日に〈XL Recordings〉よりリリースされるそうです。
個人的な思い出ですが、実は生まれて初めて買ったCDはRadioheadの『Amenesiac』でした。愛知県のど田舎。姉の影響もあって、OasisやNirvanaといった有名な海外のロックを少しずつ聴くようになった自分は、Radioheadというバンドがヤバいらしいというのを何となく聞きつけ、よく分からないまま地元の某中古ショップでRadioheadのCDが置いてあることに気付いたのでありました。それを運命だと思ったのか、何となく惹かれるように、なけなしのお小遣いを使って買ったような感じだったと思います。
家に帰って聴き始めると、当時高校1年生の自分にとってその音楽は全然分からないものでした。2曲目の『Pyramid Song』に移った絶望風景は当時の自分にとって衝撃でしたが、その世界観の重さに耐えることは全くできませんでした。
「タケルって洋楽聴くんだって?」と当時在籍していた野球部のチームメイトに言われた流れで、当時自分の所有物となっていた数少ない洋楽CDとしてその1枚を貸したら、青春が殺されたように無言で返却されたこともありました。その後、インターバルを挟みながら何度か聞いてるうちに次第にこの音楽の良さにしっくりくるようになり、今ではRadioheadの作品の中でも個人的なフェイバリットランキング上位なアルバムとなっていました。近年は<Radiohead Night>というイベントにもDJで出演させてもらっていますが、この作品から選曲することが本当に多いです。
教訓めいたことを言いたいわけではないですが、もしかしたらストリーミング中心の大量でスピーディーなサイクルの聴き方ばかりをしてしまいがちな現代では、こういった体験をするのは難しくなっているのかもしれません。自分自身への戒めとしても今回のコラムで綴ってみました。このコラムでは紹介するアーティストに向き合って、作品を楽しみながらその感想や調べる中で知った情報をきちんと伝えられるものでありたいと思っています。
お読み頂きありがとうございました!
<School In London>のプレイリストでは、今回紹介したものも含めて毎月追加更新という形で、新しいオススメのインディー楽曲をまとめています。記事で紹介した音楽を気に入ってくれた方は是非チェックしてみてください。
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