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文: 黒田 隆太朗 写:生田 嘉希 編:Mao Oya
作り手が抱く不安や祈り、あるいは意地や本能、そうした内なる衝動が聴こえてくる作品である。Jeff Buckley(ジェフ・バックリィ)やJoni Mitchell(ジョニ・ミッチェル)の作品に共感したというReiは、2作目のアルバム『HONEY』において、これまで以上に本音を曝け出している。音楽的にも「NEO-TRAD」をテーマに掲げ、彼女の敬愛するルーツ・ミュージックを、現代的なプロダクションで更新。いわば本作は、音楽的な挑戦と内面の吐露の両方を果たした作品と言えるだろう。
カテゴライズされることへの違和感や、この世界のどこにも居場所がないことへの戸惑いを歌いながらも、そこに通底するのは「Self Love」というReiの信念である。無力さを嫌と言う程噛みしめながら希望だけは手放さない、そんな毅然とした姿が見えるだろう。「表現者として新しいステージに行けた」という新作について話を聞いた。
ー音楽的な豊かさはもちろん、Reiさんのパーソナルな心情が、ストレートに伝わってくる作品だと思いました。
そうですね。とても密度が濃くて、素直な作品になったと思います。
ーこれまで以上に、曝け出したところがあった?
そうだと思います。一歩先まで踏み込んで描けたらいいなというのは、アルバムを作り始めた当初から意識していました。
ー制作に入ったのはいつ頃ですか。
去年の11月にミニアルバム『SEVEN』をリリースして、それからすぐにこの作品を作り始めました。完成したのが今年の夏の終わり頃です。
ーということは、昨年の段階で自身の内面をより深く掬い上げるような作品にしようという、そんな構想があったということですね?
はい、ありました。いつも最初に作品の地図みたいなものを作って、それから作り始めるんですよね。その中で今回は「ネイキッド(naked)」というテーマが生まれて、自分の心を露わにするような作品にしたいと思っていました。その他にも、「コンフェッション(confession)」や「ドキュメンタリー(documentary)」とったキーワードが浮かんでいて、自分のポジティブな面だけではなく、ネガティブな面も敢えて表現してみたいと思って作り始めましたね。
ー今、そうした作風を目指したのは何故ですか?
アーティストが内面を吐露するような作品に強く惹かれていたので、自分も見ないようにしていた部分も深く見つめて、それを勇気を出して表現してみたかったんです。
ーReiさんが思う内面の吐露が聴ける音楽で、優れた作品はたとえばどんなものが挙げられますか?
曲調だとか目に見える面ではなく、精神性の面で目指そうと思ったアルバムを5つ挙げていて、それがAdeleの『25』、Jeff Buckleyの『Grace』、Joni Mitchellの『Blue』、Johnny Winterの『Johnny Winter』、Paul McCartneyの『Ram』でした。そうしたパーソナルな面が聴ける音楽で、作り込まれすぎていないというか、隙がある作品を聴いていました。
ーJeff Buckleyの『Grace』やJoni Mitchellの『Blue』は、確かに通ずるところがあるように思います。
作品の中で英語と日本語の両方を使っているのも、リスナーを信頼しているからで。想像の余白を残して表現することで、そこにリスナーの気持ちを投影していただきたいっていう気持ちからなんです。ただ、今回はより具体的で、直接的な表現をしてみた時に、どういう反応が返ってくるか興味が湧いていました。
ー前半はSOIL & “PIMP” SESSIONSを招いた「Lonely Dance Club」や「What Do You Want?」をはじめとし、パワフルでエネルギッシュな印象を受けますが、6曲目の「Broken Compass」を境に、後半は寂寞感や祈りが聴こえてくるような、しっとりとした雰囲気にシフトしていくように感じました。
アルバムを作る時には、A面B面じゃないですけど、折り返し地点っていうのは意識して曲順を決めています。そして、今作ではいつも以上にアルバムを通して聴く必要性を持たせたかったので、起承転結を意識しながら曲順を決めていきましたね。たとえば、インスト曲の前は4拍子の曲だけど、その後には3拍子の曲が来るから、インスト曲の中で拍子を変えようとか、そんなことも考えて作っていきました。
ー冒頭の「B.U.」は、この作品における宣誓のような楽曲になっていると思います。単語をぶつけるように歌うリリックが印象的で、端的にこの作品のテーマを聴き手に植えつけていくように感じたのですが、そこら辺はどのくらい意識的なとこだったのでしょうか。
1曲目を「B.U.」にしたのは、サウンドの部分とメッセージの部分の両方の理由がありました。まず、「セルフラブ(Self Love)」というテーマはずっと自分の作品で大事にしてきたことで、今回の作品でも「B.U.」や「ORIGINALS」という曲で色濃く表現しています。この多様性が重んじられる世界では、自己啓発的な楽曲って沢山あると思うんですね。
ーまさにそうですね。
なので「自分らしさ」というテーマはもう100万回擦られてきていて、今私なりの「自分らしさ」を歌う曲を書くのは、凄く難しいと感じていました。中でも私が嫌悪感を抱く自己啓発曲っていうのは、「頑張ろうよ!」とか「君ならできるよ!」とか他人事のように応援されるもの。なので、ある意味突き放すような表現をしたかったんです。
ーそれでこうした歌い回しになったと。
私の解釈では、歌詞というのは口語調に寄れば寄るほど、書き手の思惑に乗っかってしまうと思っているので、辞書的な意味や書き言葉を意識して歌詞の文脈をセレクトしていきました。
ーつまり言葉だけが独立して響くようにした?
そうです。意味だけが伝わっていくようにしたかった。「〜じゃん」とか「〜だよね」とか、そうした口語っぽい表現はなるべくポイントでしか使わないようにしています。また、命令口調だったり、他人事のような書き方をすると、リスナーに対して優劣がついちゃうと思うんですよね。
ー優劣?
「私はそんなに苦労してないけど、みんなは頑張ってねー」みたいな感じに歌詞が響いてくると、リアリティもないし、リスナーに対して対等ではないと思うんですよ。なので、「B.U.」は結果的には応援歌なんですけど、受け取っている人に対して、「私も頑張っているし、一緒に頑張ろうよ」っていうくらいの対等さで表現できたらいいなと思って作りました。
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DIGLE編集部
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