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文: 蜂須賀ちなみ 写:遥南 碧 編:Miku Jimbo
東京発の4人組オルタナバンド、ルサンチマン。パッションと技巧を兼ね備えたバンドサウンドや等身大の楽曲がリスナーの心を掴み、メンバーと同世代の20代を中心に人気を集めている。
高校在学時から数々のオーディションを勝ち抜くなど注目を集めていたルサンチマンは、メンバーの平均年齢が20歳となった現在も躍進中。2023年は渋谷Spotify O-Crestや渋谷WWW Xでのワンマン公演をソールドアウトさせ、大型サーキットイベントの常連として名を連ねるようになった。
そして10月25日、彼らは1stフルアルバム『ひと声の化石 / rebury』をCDと配信でリリース。歌ありの楽曲を収めたDISC 1と、インスト曲のみを集めたDISC 2による2枚組全20曲入りの大作となっている。名刺代わりの作品としては挑戦的とも言える本作に、彼らはどのような想いを込めたのだろうか。フロントマンの北(Vo.,Gt.)に話を聞いた。
ーまずは、アルバム完成後の心境を聞かせてもらえますか?
ルサンチマンの歴史が全部詰まっているアルバムなので、次の作品が出るまでは「ルサンチマンといえばこのアルバム」と言えるんじゃないかと思ってます。ここ1~2年で出したシングル3作は全てライブ会場限定だったので、配信リリースは約2年半ぶりなんですよ。今サブスクにある音源は高校生の頃の音源で、「今はもうちょっと上手くできるのにな」「ライブだったら、今のバンドの音を聴いてもらえるのに」という気持ちがあったので、このアルバムをリリースすることで、音源とライブのギャップが払拭できるのかなと。それが楽しみでありつつ、みんなに受け入れてもらえるだろうかという不安も少しあります。
ー2枚組のアルバムでDISC 2はインストのみとは、攻めましたね。
2枚組20曲入りのアルバムなんて、今時そうそうないんじゃないかと。そういうところでも唯一無二感を出せたらと思いつつ、バンドの顔になるようなアルバムにできたらいいなと思いながら制作しました。
ーこんなに曲数が多いと、制作は大変だったのでは?
マジで死ぬかと思いました(笑)。他のバンドさんの話を聞いていると、制作期間を1年くらい設けて、少しずつ作っていく人たちも多いみたいなんですけど、僕らは短期集中型なので、「大団円」と「lazy」以外の18曲を1ヶ月内に録りきったんです。制作期間でもライブの本数は減らしたくなかったので、ライブをやりながら、合間にレコーディングをして、それを1ヶ月で収めるという…なかなかヤバかったですね。レコーディングでのストレスをライブで発散するみたいな過ごし方をしていました。
ー今回のアルバムには、初期からある曲の再録版や新曲まで、様々な楽曲が収録されています。
そこは、アルバムのタイトルとも繋がってくる部分で。
ーというと?
高校を卒業するタイミングで『memento』というミニアルバムを出したんですけど、まず、それを超えるアルバムじゃなきゃいけないと思ったんですよ。そこで、ずっと古くからあって今まで残っているもの、そしてこの先残っていって滅びないものって何だろう…と考えた結果、「化石だな」と思って。今感じている怒りや苦しみ、喜怒哀楽どんな感情でもいいんですけど、そういう気持ちが何十年後でも何百年後でもディスクとして残るという意味で、アルバムって化石みたいなものなのかもしれないと思ったんです。そしてこの化石は、誰かが再生したときに聴く人の感情を突き動かす“ひと声”になる、そういうニュアンスで『ひと声の化石』というタイトルにしました。
ーDISC 1で一番古い曲は、1stデモ『風穴あける』にも収録されていた「大団円」でしょうか?
そうですね。「大団円」は、高校2年生のときに書いた、当時好きだった子に向けたラブソングです。 自分では恥ずかしくてあんまり聴けない(笑)。今の自分からすると拙いなと思う表現も多々あり、むずがゆい気持ちになりますが、だからこそ現役の学生のみなさまに刺さっている部分もあるのかなと思うと、ありがたい限りです。人気の高い曲なので、再録しました。
ーDISC 1の10曲目「荻窪」はライブで披露される機会も多い曲で、サーキットイベントに出演した際に、セットリストが全曲「荻窪」だったこともあったそうですね。
そんなこともありましたね(笑)。「このときにしか観られない唯一無二のライブにしよう」という感じで、特に深い意味とかはないんですけど、なんとなく全部「荻窪」にしようと思って。曲間の繋ぎを全部変えて、別の曲に行くと見せかけて、やっぱり「荻窪」でした!みたいなこともやりました。5回連続演奏する予定だったんですけど、最後にはめっちゃ盛り上がって、お客さんから「もう1回やって!」と言われたので、計6回やって終わりました。あれは楽しかったです。
ー《変わらないでほしい》とひたすらに歌っている「なさけないうた」は、どんな気持ちから生まれた曲でしょうか?
これは、お客さんに対する気持ちから生まれた曲です。自分たちがやりたいことは昔からそんなに変わっていないけど、徐々に楽器が上手くなって、自分たちのやりたい表現ができるようになって、方向性がどんどん定まっていったような感覚があるんです。だけど、お客さんからすると、変わってしまったように見えることもあるみたいで。「変わらないでほしい」と直接言われたわけではないけど、そういう空気を感じた瞬間に、「バンドとお客さんは共同体だから、もっと純粋に感謝したいし、もっと上手く関わっていきたいな」という葛藤が生まれて、こういう曲になりました。
ー「六月某日」では、「大団円」の歌詞を引用していますね。
セルフオマージュのような感じです。「六月某日」はコロナ禍に作った曲で、最近リメイクして今回収録しました。コロナ禍で失ったものがいろいろとあったので、「生まれてから今までずっと、いろいろ頑張ってきたし、バンドだって頑張ってきたのに、何なんだろう」と思って。気持ちが沈んでいたときに書いた曲ですね。なぜ「大団円」の歌詞が出てくるのかというと、「大団円」は一人の人のことを思いながら書いた曲なのに、その人がいなくなってしまったから、行き場のない歌になっちゃったように思ったからで。この曲を書いた当時は、絶望感の中でギリギリ立っているような状態でした。
ー「どうしようもない」については、いかがでしょう。
これはめちゃくちゃバンドの曲ですね。「六月某日」で書いた出来事を経て、「やっぱりバンドってゴールが見えないものだな」と思いながらも、「とはいえ続けるんだ」「どうしようもなくてもやるしかねえ」という気持ちになった。そういう気持ちを歌った曲です。僕が人生で成し得たものって現状バンドだけなので、続ける理由って特にないんですよ。もはや体の一部になりつつある。自分に腕がついているのと同じように、(バンドとは)これからも人生を一緒に歩んでいくんだろうなと思っています。
ー「十九」はやはり20歳になる前に書きたいと思った曲なのでしょうか?
そうですね。人生で一番後悔したことがあって、20歳になるんだから、大人になるタイミングで決着つけたいという思いで、19歳の最後に書きました。決意表明的な歌だけど、未練が残っていて、きっぱりしていないところが自分らしい。未成年ってたった19年間しかないですけど、僕は後悔も喜びもたくさん経験して、何においてもギリギリを生きていた感覚がありました。20歳になったら何か凄まじい変化があるんだろうなと思っていたから、こういう曲を最後に書いておこうと思ったんですけど…実際に20歳になってみたら、意外と何も変わらなかったですね(笑)。お酒を飲めるようになったくらい。
ー大人になるにつれて、バンドや音楽の存在が、自分の中で変化していくことはありませんでしたか? バンド活動=仕事になると、考えるべきことがいろいろとあって、純粋に音楽を楽しんでいるだけではいかなくなるんじゃないかと。
生意気な話なんですけど、高校生の頃から「バンドで食っていきたい」と思っていたので、半ば仕事と思いながらやっていたんですよね。今も高校生のときも、もちろん音楽は超楽しいんですけど、高校生の頃から商業的なことを考えたりしていたから、人の目に触れることを考えずにバンドをやれていたのは、中学でコピバンをやっていた頃が最後かもしれないです。
ーこうして制作エピソードを伺うと、バンドのドラマとともに曲があったんだなと思います。
自分は普通の人間だという自覚があるし、本当に、普通のことを曲にしていると思います。逆に言えば、みんな、多少劇的ということですよね。一本線の人生を歩んでいる人なんて、なかなかいない。みんな劇的であり、それが普通で、僕自身もそういう日常や人生を曲にしているように思います。
ーこのアルバムを再生すると最初に流れてくるのがDISC 1の1曲目「十九」なんですが、この曲のイントロって42秒あるんですよ。
そんなにあるんですね(笑)。
ーでも全く冗長に感じない。オープニングから、インストにもしっかり取り組んでいるバンドだからこその腕前を感じました。
嬉しいです。
ーインスト盤があるのはやはりこのバンドならではだと思うので、DISC 2の話も伺いたいんですが、そもそも、どういうきっかけでインストを作るようになったんですか?
初めてちゃんと作ったインストの曲は、DISC 2の1曲目に収録されている「nihil」なんですけど、そもそもインストを作ろうとしていたわけではなくて、元々あった「ニヒリズム」という曲の導入になるような、何かカッコいい曲間の繋ぎを考えられないかなというところが始まりだったんです。そこから「切り離して演奏してもカッコいいな」という感じで独立していって。
ーなるほど。「若者はギターソロを飛ばしがち」という俗説もある時代に、ディスク1枚まるっとインストだけという決断をするバンドは、やはり希少だと思うんです。世の中に対するアンチテーゼ的な気持ちはありますか? それとも単純に、自分たちのカッコいいと思う音楽をただやっているだけという感覚ですか?
半々ですね。僕ら自身インストバンドをめっちゃ聴くし、「カッコいいな」と思っているから、自分たちでも作る…というのもありつつ、例えばブッキングのライブとかで「高校軽音楽部出身」とか「同世代」という感じで括られても、「どうも噛み合わないな」と思うこともあるから、「インストもやっているバンドなんです」とちゃんと示しておきたいという気持ちもあって。
ー歌ありの曲もやるし、インストもやるという両輪があることで、「ルサンチマンはこういうバンドです」と打ち出しやすくなった。
そうですね。両方できるバンドってなかなかいないので、このポジションは今後も維持してきたいです。
ー11月10日から始まるワンマンツアーの吉祥寺公演は、インストのみでセットリストを組む予定だそうですね。今までも、そういうライブはあったみたいですが。
気分に合わせて、ちょいちょいやります。やっぱり僕らも鬱屈しているときがあるので、「どうしようもないし、1回やっときますか?」みたいな。
ー「一杯やっときますか?」みたいなテンションで言っているのが面白い(笑)。
全然盛り上がらない日もあるんですけど(笑)、「初めて観たルサンチマンのライブが、インストオンリーだったんですよ」というお客さんもいて。ちゃんと響いている人もいるんだなと考えると、こういうワンマンもアリなのかなと思います。今回、今あるインストは全部レコーディングしたんですけど、10曲じゃワンマンはできないので、今、急ピッチでインストの曲を大量に作っているところです。今日もさっきまで作っていました。
ーこのアルバムを聴いて、ルサンチマンは全員が前線に立っているバンドなんだなと改めて思いました。主役一人を他の人が支えるようなバランスではなくて、みんなが一緒に前に出てくる。
気づいたらそういうバランスになっていましたね。結成当初、僕はインストをあまり聴かない人間だったので「teto(現・the dadadadys)みたいなバンドをやりたいな」と、ちょっとパンクの要素の入ったバンドをイメージしていたんですよ。だからこんな技巧派のバンドになるとは思っていなかったんですけど、なんかみんな勝手に練習してて、どんどん上手くなっちゃうので、これを出さないのも損か、という感じで(笑)。バンドでも個人でも音の研究は常にしているので、どこかのタイミングでズバ抜けて良くなったわけではないんですけど、徐々に良い方向に変化していったんだと思います。そして気づいたら、今のスタイルになっていました。
ー全パート手数が多いし、音圧も凄まじいじゃないですか。ライブで同じステージに立っていて、正直「歌いづらいな」と思う瞬間もあるのでは?
いやー、どうなんだろう? 「まあ、こういうもんなんだろうな」と思いながら歌ってますけど、多分、他のバンドより歌いづらい環境なんだろうなと思います。
ー歌いづらくても、逆境の中で北さんが声を思いきり出す姿が、このバンドのカッコよさに繋がっている気がします。
それはあんまり考えたことなかったですね。逆境なんだ(笑)。ライブでは「かましてやろう」という気持ちでステージに立ってます。確かにしんどい瞬間もあるんですけど、マラソンみたいなもので。ライブが終わったあとには「気持ちいいな」と思うし、途中で「いけるかも」というモードに入った瞬間もすごく気持ちいい。楽しいけどしんどい、しんどいけど楽しいって感じです。
ーワンマンツアーも楽しみですね。
初めてワンマンをやる場所がほとんどなので、きっと初めて観に来てくれる人も多いんじゃないかと思っています。とにかくライブが第一のバンドなので、ライブを通じて、「ルサンチマンってこういうバンドなんだよ」ということを理解してもらえたら一番嬉しいです。
INFORMATION
1st FULL ALBUM『ひと声の化石 / rebury』
10月25日(水)リリース
〈Blue echo records〉【CD】BER-1011/¥3,300
【配信リンク】https://lnk.to/HitokoenoKaseki_reburyDISC 1
1.十九
2.なさけないうた
3.ぼくのつぶやき
4.知りたい
5.大団円
6.だっせ
7.六月某日
8.どうしようもない
9.俗生活の行方
10.荻窪DISC 2
1.nihil
2.tsukiochi
3.lares
4.kazaana
5.I remind
6.sake
7.fossil
8.lazy
9.not wrong
10.ikki<1st FULL ALBUM 「ひと声の化石 / rebury」RELEASE ひと声ツアー>
2023年11月10日(金)千葉LOOK
2023年11月11日(土)東京・吉祥寺WARP ※インスト楽曲のみの公演
2023年11月12日(日)宮城・仙台FLYING SON
2023年11月17日(金)福岡OP’s
2023年11月18日(土)北海道・札幌KLUB COUNTER ACTION
2023年11月22日(水)愛知・名古屋CLUB UPSET
2023年12月3日(日)大阪・心斎橋BRONZE
2023年12月9日(土)東京・下北沢ADRIFT
early Reflection
early Reflectionは、ポニーキャニオンが提供するPR型配信サービス。全世界に楽曲を配信するとともに、ストリーミングサービスのプレイリストへのサブミットや、ラジオ局への音源送付、WEBメディアへのニュースリリースなどのプロモーションもサポート。また、希望するアーティストには著作権の登録や管理も行います。
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