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文: Nobuki Akiyama 編:riko ito
ある日、渋谷・bar bonoboで遊んでいると「DYGLのファンです!」と声をかけてきた子たちがいた。元気そうな、お洒落な3人組。お礼をするとその中の1人が立て続けにこんなことを言ってくれた。
「以前、秋山さんがMCで『音楽は人生の特効薬にはならない』と言っていたけど、それだけは違うと思いました。DYGLの音楽が、僕にとっては特効薬ですから」
だいぶ爽やかな笑顔で言い放った彼は、挨拶を済ませるとサッと人混みの中に去っていった。まあ人混みとは言え、bonoboの距離感なので割とずっとお互いそこにいるんだけど、なんか人混みの中に去っていった、って感じがして良かった。あの日はありがとう。
私自身、このMCをした時のことは覚えている。私がそのMCをした時、念頭にあったのはこの言葉だった。
“Rock ‘n’ Roll might not solve your problems, but it does let you dance all over them(ロックンロールは悩みを解決しないかもしれない、けどその悩みごと踊らせてくれるんだ)”
The Who(ザ・フー)のPete Townshend(ピート・タウンゼント)の言葉。どこか達観し諦観すら感じられるのに、ロックミュージックに対する揺るぎない信頼も端的に表現されている。冷静なのに熱い、良い言葉だと思った。
私は10代の頃、変に物事をナナメに見る性格(今よりも悪質)だったので、よくある希望に溢れた美辞麗句も、逆に冷笑的な虚無主義もどこか居心地が悪かった。どちらも何か取り繕った感じがして、不自然さがある。初めて音楽を聴き始めた時、好きな曲も沢山あったし楽しいなと思っていたけど、なんとなく自分に合わない曲を無理をして聴いている時期もあった。
そんなある日、当時自由が丘にあった山野楽器(※1)のCDコーナーで定期的に自主開催(参加人数1人)していた新譜試聴大会の最中、私はそれまで必死にThe Offspring(ザ・オフスプリング)やGreen Day(グリーン・デイ)に近いサウンドを探していたのだけれど、その日ふと面置きされているハートの落書きジャケが気になり、手に取った。The View(ザ・ビュー)の1stアルバム『Hats Off To The Buckers』だった。金のない当時中学生の私は、その試聴会の目的を情報収集に限り、購入は後日ブックオフで(可能な限り500円以下)という大変コスいルールのもと、開催を独自に続けていたのだが、2曲目「Superstar Tradesman」のイントロ2発のカッティングを聴いた瞬間、DVD付き特別版で当時確か3,000円くらいしたはずのそのCDを財布内全額フルベットでレジにてお会計していることに気がついた。
平均年齢17歳ほどで作られたというそのアルバムは、1曲目から日本版ボーナストラック最後の曲まで、自由と解放感に満ち溢れていた。何も飾らない、シンプルで、希望に溢れ、やんちゃだけど人懐こいサウンド。毎日なんとなく息苦しく、生きづらく、心も身体もなんとなく萎縮しながらゼイゼイと息をして生きていた私にとって、この音楽でなら自由に息ができる、と真に思わせてくれる作品だった。自由が丘の山野楽器に、その日確かに雷が落ちた。
その後、彼らを発掘したのと同じA&R(※2)がThe Strokes(ザ・ストロークス)やThe Libertines(ザ・リバティーンズ)を発掘した人物だと知る。そして今度は彼らを通して、また次の音楽に…と扉は開いていった。自分が本当に好きな音、好きなアティチュードとは何か。それは自分がどんな性格だからそう感じるのか。好きな音を見つけるたび、自分の心の中の隠れていた部分にまた一つ気づき、それはまるでカウンセリングに通ってセラピーを受けているかのようだった。暗く沈んだ、塞ぎ込んだ私の心は、少しずつ、どんどんと快活に、肯定的に変わっていった。そして変わりすぎて今度はお喋りになった(すみません)。
何が言いたいかというと、そんなこんなである時先ほどのPeteの言葉に出会った。この言葉は、現実の厳しさも、音楽の喜びも否定していなくて、とてもリアルだった。「きっと大丈夫だよ」なんて大丈夫じゃない時に言われる気休めでもなく、ロックを聴いた時に感じる圧倒的な解放感もまたサラッと肯定している。その両極端のどちらも否定せず、そのまま受け入れていいのだとしたら、それは生活そのもの、人生そのものだと思った。ロックには生活と夢が同居してる。それが私にとっては大事なことだった。
ロックは私自身の心や、生活、そしてその先の社会にまで目を向けさせてくれた。かつて他人にも社会にも無頓着だった小中学生の自分は、少しずつ周りの人たちが何を考えているのか、世の中にはどんな性格の人たちがいるのか、その人たちにとっての喜びや怒りとは何か。日本社会、そしてその外側の社会では何が起きているのか、一つ一つに興味を持つようになった。今、かつての私と同じように制限や束縛から解放されないといけない子供たちがどれだけいるか時々考える。大人の中にも、解放が必要な人が実はきっと多くいるだろう。私自身、まだ解けていない呪いが心のどこかにあるかもしれない。
私たちには、私たちが生きたいと思う人生を生きる権利がある。それは、親に制限されてもいけないし、兄弟に制限されてもいけない。友達にも、社会にも、総理大臣にも制限されてはいけない。自国の政治にも、他国の政治にも制限されてはいけないものだ。だから、誰かのピュアな魂が押さえつけられ苦しい目に遭っているのを見るのは、かつての自分の苦しみが再生産されているようで本当につらい。
日本国内でも海外でも、虐待や格差、戦争やそのほか様々な理由で、彼らにとってのThe Viewと出会う機会を奪われている人たちが沢山いるのを日々目にする。音楽どころか、命を奪われてしまう人すらいる。
かつての自分のように不自由な心や社会のシステムに苦しむ人たちが少しでも減るように、同じ思いの人同士で協力して生きていきたい。世界が暗ければ暗いほど、明かりは余計に輝く。Oasis(オアシス)もThe Viewも、別に政治的なことは何も歌っていなかった。でも彼らの音楽の存在が、私に自国や他国の社会について目を向けさせてくれたのは確かだ。どんな形であれ魂に正直な音楽は、それを聴く人に予想外のキッカケを与えてくれる。私はその可能性を、この先も信じ続けたいと思っている。
※1:2014年に閉店
※2:音楽アーティストの発掘や育成、マーケティングやプロモーションなどに携わる仕事
PROFILE
DYGL(デイグロー)
2012年に大学の同級生で結成された4人組ロックバンド。メンバーは秋山信樹(Vo. / Gt.)、嘉本康平(Gt. / Dr.)、加地洋太朗 (Ba.)、下中洋介(Gt.)。
The StrokesのAlbert Hammond Jr.をプロデューサーに迎え、NYで制作された1stアルバム『Say Goodbye to Memory Den』を2017年にリリース。2019年には、メンバーがイギリスに移住し制作した2ndアルバム『Songs of Innocence & Experience』を発表した。その後、コロナ禍で日本中心の音楽生活をスタートさせたメンバーが、ステイホームの中で新しい音楽性にチャレンジしながら、2021年に3rdアルバム『A Daze In A Haze』を完成させた。
2022年には、レコーディングからミックスまで自分たちの手で制作した完全セルフプロデュースの4thアルバム『Thirst』をリリース。さらに2023年には、国内14公演、アメリカツアー12公演、アジアツアーも成功を収めた。2024年3月からは、彼らがリスペクトするバンドをゲストに迎えた自主企画パーティ<crossing>を開催予定。
EVENT INFORMATION
DYGL presents<crossing>
◼︎東京公演
2024年3月21日(木)at 渋谷・Spotify O-EAST
Guest:
OGRE YOU ASSHOLE
Texas 3000◼︎大阪公演
2024年3月29日(金)at 大阪・味園ユニバース
Guest:No Buses外部リンク
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