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文: 黒田 隆太朗
第1刷は昨年の5月25日、発売から1年弱が経過している。「紹介」ページということを思うと、何を今更…と言われても仕方がないタイミングである。が、本やレコードは残るもの。いつ手にとってもいいのである。もし積ん読になってしまっている方や、気づかぬまま通り過ぎてしまった方がいたらチェックしてみてはどうだろう。ここにはいくつかの普遍的な言葉が綴られている。
作者はマヒトゥ・ザ・ピーポー。早くも伝説となりつつある、昨年の全感覚祭を主催したバンド・GEZANのヴォーカリストである。彼は「♯WASH」と題し、自粛要請によるライヴハウスへの影響を映したドキュメントを、どのメディアよりも速く動画にまとめている。また、それから数日後の4月7日には、難波BEARSのオムニバスを企画したことを発表。感服するほどの行動力である。きっと彼は、常日頃から自身の生活(つまり、自身を取り巻く環境や人々)を見つめ、考え、よりよい未来のために格闘してきた。有事の際、すぐさま現状を見極め行動に移すことができるのはそのためだろう。本書はそんな著者による初の小説である。
「やさしさを持ち始めてからが人なんじゃ。それまではただの獣よ」
本書に登場する老人の言葉である。「ヒト」は優しさを知り「人」になる。そして、「ひとりぼっちを感じた瞬間から人としての時間が始まる」のである。「自己」と「他者」を認識することからしか始まらないのだ。この本が世に出される数ヵ月前に、マヒトは『不完全なけもの』と『やさしい哺乳類』というふたつのソロ作をリリースしていた。タイトルが意味するところは、どちらも「人間」だろう。これは私の解釈だが、彼の歌にはいつだってヒトとは何かという哲学が込められていると思う。そう言えば、「めのう」では<また人として生まれてこれるだろうか>と歌っていたじゃないか。
さて、この本に出てくる主な登場人物には次の3人がいる。英会話講師のゆうき、何年も曲を書けていないバンドマンの光太、シングルマザーのましろである。皆自分の軸を見つけられずにいるような、どこかちゅーぶらりんな自我を自覚しながら生きている。そして、そんな生活ですら、ある「通達」によって失われてしまう…というのが大まかなストーリーである。
確固たる信念を持たずに生きている彼らでさえ、世界の終わりが目の前に迫っているかもしれないと知った時には、自身の生活を思い狼狽する。無様で不器用な生き方は、私達そのものだ。少なくとも自分は、「選択できなかった人」という言葉を他人事には受け取れない。ちょっとしたことで生活が一変してしまうということを、今多くの人が感じているだろう。
本書の舞台は渋谷・神泉。猥雑で、汚く、ヒトの欲望が蠢く夜の街を舞台にしている。あるがまま、街の姿が描かれる。そして本書では劇的なドラマは起きない。何しろ、『銀河で一番も静かな革命』なのである。ただただこの小説の中で生きる人々の景色が、詩人・マヒトのポエティカルな表現で綴られていくのを追いかけるのである。
ここで描かれていることのほとんどが、我々の日常にも溢れているなんてこのない一場面だが、きっと多くの人が普段は意識の外に置いている景色だろう。誰でも見れるのに、彼にしか見れないヒトの業が描かれるのがこの小説の醍醐味だ。読み進めるごとに著者の鋭い視線を感じる。そして、どんなに「流されるように」生きていたとしても、誰もが自身の生活の当事者であるのだとこの1冊は訴える。
INFORMATION
マヒトゥ・ザ・ピーポー『銀河で一番静かな革命』
単行本: 236ページ
出版社: 幻冬舎 (2019/5/23)
言語: 日本語
ISBN-10: 4344034678
ISBN-13: 978-4344034679
発売日: 2019/5/23
梱包サイズ: 19 x 13.2 x 2 cm
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