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文: アボかど 編:DIGLE MAGAZINE編集部
ビートには国境を超える力がある。この連載でもこれまでに海外リスナーを多く抱えるGREEN ASSASSIN DOLLARや海外レーベルからリリースした2seam、UKのラジオ局へのゲスト出演や海外アーティストとのコラボなどを行うIll-Sugiのケースを紹介してきた。そして、今回紹介するlee(asano+ryuhei)も国内に留まらない存在だ。
福岡出身でタイ・バンコクとの二拠点で活動するlee(asano+ryuhei)は、Bandcampなどを活用して2010年代前半から多くの作品を発表してきたビートメイカー。元々ラッパーから音楽のキャリアをスタートしたそうだが、現在はビートをメインに活動している。同郷のOlive OilやDJ MAKINOを影響源として挙げるそのビートは、ジャズやソウルを巧みに切り取って美しくコラージュした繊細なもの。映画やアニメなどから抜き出した日本語のフレーズの使用も特徴だ。また、(ブートレグの)リミックスも多く発表しており、これまでに50 CentやChance The Rapperなどの馴染み深いラップに全く異なるビートを合わせ、新たな魅力を引き出している。そのどこかパーソナルな空気の通ったビートは世界的な注目を集め、2014年にはアメリカの大手音楽メディア「Pitchfork」がインタビューも行った。
そんなlee(asano+ryuhei)が3月にリリースした最新作『FK_LV』は、そういった美しい魅力が詰まった充実の作品だった。ドイツのPersian Empireのほか、第2回で紹介した福井のクルー・DRSに所属するBallhead、沖縄のDJ PIN、lee(asano+ryuhei)と同じく〈OILWORKS〉からのリリース経験もあるFKDと、ゲストに招かれた面々も個性豊かな面々が揃っている。今回はこの傑作の魅力を掘り下げていく。
TuneCoreの作品ページには、「タイトルの通り‘FUCK’と‘LOVE’。一見正反対の言葉が、ある意味では表裏一体であり同意語でもある事を表現」とある今回の作品。そのコンセプトから想起される、荒々しさと優しさの共存は随所でしっかりと感じることができる。
冒頭を飾るタイトル曲「FK_LV」からそれは宿っている。シンプルでいて美しいピアノは「LOVE」なものだし、鋭いドラムやノイズは「FUCK」という感じがする。これらの要素が見事なバランスで組み合わさっており、また何かのセリフと思しき日本語のサンプリングやどこか飄々としたラップも絶妙だ。声に引っ張られ過ぎず、ビートと一体化するギリギリのラインを行っている。なお、この曲にはドイツのPersian Empireが参加。
続く「MUCHA NA YATU」は、ジャジーなピアノによれ気味のドラムを合わせた一曲。途中まではかなり「LOVE」寄りのビートだが、後半に突如入ってくる声ネタが「無茶な奴」を演出している。3曲目の「BOUND 3」は歌声を早回しし、細かくチョップして揺らしたような作り。美しい声を改変する手腕はまさに今作のコンセプト通りだ。チョップせずにそのまま使うようなアウトロでの優しさにもハッとさせられる。「ARAKURE」はタイトル通り荒くれたドラムが効いたアグレッシヴな仕上がり。かなり「FUCK」寄りに思える曲だが、途中からそれがイコライザーによって一気にクールダウン。見事にソフトな魅力を生み出している。5曲目の「RTH」では、イントロで日本語の「地球を救う方法はもう残されてはいないのだろうか?」「残されているとすれば、ただ一つ」「それは?」というアニメか何かと思しき会話をサンプリングし、その後美しいピアノと奇妙な連打ドラムを用いたビートになだれ込んで行く。会話のサンプリングが聞こえてくる時はビートも入っておらず、作品としてここで一度区切られるような印象もある。この“会話を締めずにビートで語るような流れで解釈に余白が生まれる作り”は、「FUCK」と「LOVE」を対比させつつ同一のものとして扱う今作に収録されたことで、意味深に響いている。
続く「FIFI」は、穏やかなギターを使ったビートにニューヨークの某ラッパーのラップを合わせた一曲。荒々しさを抑えたラップを少しスロウダウンしてサンプリングし、原曲とは異なる魅力を引き出したリミキサーとしての手腕が光る仕上がりだ。その後の「SAWASAWA」は、美しい歌声やピアノを、震えるようなドラムに絡めた比較的ストレートなビート。アクセントの声ネタなどは使われておらず、ループの美しさで聴かせていく。この前半の流れだけでも、lee(asano+ryuhei)の強烈な個性はしっかりと感じられるだろう。
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