The Last Dinner Party、Fcukers、bed、HOMEなど。ライター・田中亮太が選ぶ気鋭ロックミュージシャン

Column

文: 田中亮太  編:riko ito 

毎月テーマを設けてインタビューやコラム、プレイリストを掲載していく特集企画。2024年2月は“Rock for Us”をテーマに、ロックミュージックから受けた影響や、日々を生きる中でロックに救われてきた経験などをアーティストやクリエイターたちに伺っていく。今回の記事では、国内外のロックシーンに精通するライターの田中亮太に“2024年に活躍が期待されるロックミュージシャン”について執筆してもらった。

2024年のロックシーンに欠かせないバンド・The Last Dinner Party

“2024年に活躍が期待されるロックミュージシャン”というテーマの記事だが、ロックを定義することは難しい。ここでは、ギターとベース、ドラムス(いずれも絶対条件ではない)を中心としたバンド編成で演奏されており、多少のうるささ、激しさ、力強さを備えていて、ラップ、R&B、レゲエ、レゲトン、アフロビーツ、テクノ、ハウス、ベースミュージック……これらのような他ジャンルと言い切れない音楽を指すことにする。また、“期待される”というのを狭義に捉え、この原稿では今年飛躍が期待できるニューカマーを扱った。

そうした絞り込みを抜きにしても、2024年のロックを語るうえで、このバンドを無視することはできないだろう。2021年に結成され、去る2024年2月2日に1stアルバム『Prelude to Ecstasy』をリリースしたThe Last Dinner Party(ラスト・ディナー・パーティー)。イギリスの公共放送局、BBCがその一年にブレイクしそうな新人を選出する名物企画の2024年版『BBC Sound Of 2024』で1位に輝いたことでも話題になったロンドン出身の5人組だ。メンバーは、ボーカルのAbigail Morris(アビゲイル・モリス)、ボーカル/ギターのLizzie Mayland(リジー・メイランド)、ギター/マンドリン/フルートのEmily Roberts(エミリー・ロバーツ)、ベースのGeorgia Davies(ジョージア・デイヴィス)、キーボード/ボーカルのAurora Nishevci(オーロラ・ニシェフチ)。2021年に結成された彼女たちは、まずライブパフォーマンスが評判に。バロックポップ的と言うべきドラマティックな曲展開とソリッドなギターロック・アンサンブルを融合させた音楽性、それらを中世貴族風にドレスアップしたスタイルで響かせる様がオーディエンスを虜にし、バンドは瞬く間に音楽シーンの噂となった。

正式に楽曲をリリースをする前から、The Rolling Stones(ザ・ロ-リング・ストーンズ)のオープニングアクトを務めるなど驚異的なステップアップを重ねてきた5人だが、音源発表を急がずにライブを大切にする活動を続けてきたことには、バンドの哲学が表れている。それは、まずライブで演奏しながら曲を磨いていき、生々しいエナジーと演劇性を楽曲に封じ込めること。そして、インターネット上での一過性のバズではなく、リアルでロイヤリティの高いファンベースを築き上げていく、ということだ。

そんな彼女たちがこのたびリリースしたフルアルバム『Prelude to Ecstacy』は、メンバーがみずからの音楽性を指して語っていたように“世界の終わりの乱痴気騒ぎ”にぴったりの作品だ(※1)。ゴシックホラー映画のオープニングテーマのようなオーケストラアレンジの表題曲を導入に、ビッグなギターリフとパーカッションが壮大に盛り上げる「Burn Alive」、QUEEN(クイーン)を想起せずにはいられない変幻自在のメロディーを駆使しながら、男装する女性のデカダンな欲望を歌う「Caesar on a TV Screen」と、パワフルな楽曲が続く。女性らしさを求められることへの反発を歌った「The Feminine Urge」など、歌詞においてはジェンダーの流動性に焦点を当てたものが目立ち、そうしたテーマが現代的だ。ダンサブルなギターポップ(と思わせつつ一筋縄ではいかない展開を持つ)「Sinner」「My Lady of Mercy」の2曲もチャーミングだし、華麗なストリングスとスケール感の大きいコーラスを据えた「Portrait of a Dead Girl」にも“名曲”の風格が漂っている。そして、すでにアンセム化している1stシングル「Nothing Matters」を経て、荘厳かつハードロッキンなバラード「Mirror」でアルバムは幕を閉じる。

デビュー時からのプロデューサー、James Ford(ジェイムズ・フォード)によるタイトで各楽器の音が気持ちよく耳に入ってくるプロダクションも、このバンドの魅力をストレートに伝えている。『BBC Sound Of』でロックバンドが首位に選出されたのは2013年のHAIM(ハイム)以来11年ぶりだそうだが、ラスト・ディナー・パーティーの『Prelude to Ecstacy』は、そんな期待に違わぬ、新たな時代の到来を告げる一枚だ。

刺激的なサウンドを届ける〈Speedy Wunderground〉の作品群

また、ジェイムズ・フォードと同様にUKロックの売れっ子プロデューサーであり、これまで、Wet Leg(ウェット・レッグ)やslowthai(スロウタイ)、Kae Tempest(ケイ・テンペスト)などの作品を手掛けてきたプロデューサー、Dan Carey(ダン・キャリー)が主宰するレーベル、〈Speedy Wunderground〉のリリースは相変わらずおもしろい。Black Midi(ブラック・ミディ)やBlack Country, New Road(ブラック・カントリー・ニュー・ロード)といったバンドをレコードデビューさせてきた同レーベルは、この10年にわたってコンスタントにリリースを継続。近年も、リーズ出身でささくれ立ったグランジサウンドを鳴らすEnglish Teacher(イングリッシュ・ティーチャー)、一時期の〈DFA〉サウンド(編集部註:DFAは、NYのレコードレーベル、プロデューサーチーム)を想起させるダンスパンクが痺れるほどにかっこいいロンドン出身のThe Queen’s Head(クイーンズ・ヘッド)、こちらもロンドン拠点でサックス奏者とパーカッショニストによるジャズ・ファンク・デュオのO.(オー)といった刺激的なサウンドをリスナーに届けてきた。

そうした〈Speedy Wunderground〉勢のなかでも、筆者のお気に入りはJojo Orme(ジョジョ・オルム)によるプロジェクト、Heartworms(ハートワームス)。無機質ながらもダンサブルな打ち込みのビートに、クールでソリッドなギター、ダークなシンセサイザーを重ねた音楽性は、彼女がフェイバリットに挙げるSiouxsie And The Banshees(スージー・アンド・ザ・バンシーズ)やInterpol(インターポール)などのゴシックパンク~ダークウェイヴからの影響を感じさせるもの。その一方でユニット名は、USインディーポップのレジェンダリーな存在、The Shins(シンズ)のアルバムからとられており、オルムにとって、同バンドのフロントマン、James Mercer(ジェイムズ・マーサー)は歌い手や作詞家としてもっとも影響を与えられた存在だという。まずは2023年の11月にリリースされたシングル「May I Comply」のMVを観てみてほしい。眼光鋭く、身体をしならさながら歌う彼女に魅了されずにはいられないはずだ。オルムはライブやパフォーマンスを「女性ミュージシャンは弱く脆いものだという先入観を打ち破る機会」と考えているそうだが、映像を観る限りでも、その狙いは果たされている。

ダンスミュージックをバンドで昇華するFcukersと国内シーンの動き

ダンスミュージックをバンドというフォーマットで志向している存在として、今後注目を集めていきそうなのがNYを拠点としている3人組、Fcukers(ファッカーズ)だ。iPhone 8 PlusのCM曲に楽曲「This Strange Effect」を使用されたことでも話題を集めたThe Shacks(ザ・シャックス)のShannon Wise(シャノン・ワイズ)が、DJとしてダウンタウンで活躍していたJackson Walker Lewis(ジャクソン・ウォーカー・ルイス)、Ben Scharf(ベン・シャーフ)と出会い、2022年に結成された。ダンスミュージック、特に90年代のそれに傾倒していた彼らは、試行錯誤しながらみずからのサウンドを作り上げ、2023年3月に最初の2曲入りシングル「Mothers」をリリース。〈Strictly Rhythm〉系(編集部註:Strictly Rhythmは1989年にNYで設立されたアメリカの老舗ハウスミュージックレーベル)のアッパーハウスやフレンチタッチからの影響が感じられるタイトル曲、BECK(ベック)の「Devils Haircut」をカバーした「Devils Cut」がバズを起こした。後者はベック本人もお気に入りだと公言している。また、ハウスのべテランDJ、Junior Sanchez(ジュニア・サンチェス)も同シングルへと夢中になり、すぐさま2曲をリミックスし発表。よりフロア仕様のハウスミュージックに仕上げていた。ファッカーズ自身の楽曲はまだ2曲しか発表されていないが、今後が楽しみな存在だ。

そんなファッカーズが2023年の10月に一夜限りの来日公演を行った際、共演していたバンドのひとつが、東京を拠点にしている4人組のbed。2022年から本格的にライブ活動を開始した彼らは、パンクやファンク、レイヴ、さらにギターポップなどの要素を取り入れた楽曲の完成度の高さに加えて、高揚感と陶酔感を喚起するライブパフォーマンスが凄まじい。2023年のライブレコーディング盤『Archives : May 27th, 2023』で、その魅力の一端は伝わるだろう。また、彼らと東京のヴェニュー、clubasiaが共同で企画しているパーティー<bedroom>は、ロックやダンスミュージック、エクスペリメンタルまでさまざまなミュージシャンやDJを揃えている。そんな振舞いからは、バンドカルチャーとクラブカルチャーを攪乱するような気概も垣間見えるのだ。

沖縄を拠点にビートミュージックを独特の和製ニューウェイヴに昇華しているHOMEも注目を集めている。筆者は彼らをDYGLNobuki Akiyamaに取材した際に「すごくおもしろいバンドがいる」と教えられたのだが、その後、DYGLの沖縄公演で共演していたのが印象深かった。2023年、長く在籍していた事務所から独立したDYGLには、それまでよりも軽やかなフットワークで活動できている印象を受けていて、若手や東京以外の地方のバンドを精力的にフックアップしている姿勢もなんとも頼もしい。逆に、インディーシーンで存在感を高めていき、最近メジャー進出を発表したa子SATOHといったアーティストが今後どういうふうに飛躍していくかも楽しみだ。

最後に、上記の国内勢と少し音楽的な路線は違うが、東京を拠点に活動する3人組、ハシリコミーズを、筆者の“推し”として紹介したい。パンクやガレージロックを基調にしつつ、レゲエやラテンからノイズ〜エクスペリメンタルまでを独自のポップさのなかに吸収している彼らのサウンドは、人懐っこくもユニーク。音楽のおもしろさや豊かさを体現しているかのようなトリオで、どうにも愛さずにはいられないフレッシュなニューカマーだ。

(※1)The Last Dinner Party: ‘Our vibe? Erotic, but with humour’

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