福富優樹(Homecomings)が思う“東京の暮らしの感覚”。どんな場所にいても繋がる天使の存在

Column

文: 福富優樹(Homecomings)  編:riko ito 

テーマを設けてインタビューやコラム、プレイリストを掲載していく特集企画。2024年10月/11月の特集テーマは“Our Beloved Tokyo ―私たちが愛する東京―”。東京という街がアーティストたちに与えている影響や刺激、その暮らしを象徴する音楽について伺っていく。今回の記事では、京都で結成されたバンド・Homecomingsのメンバーで、石川県出身の福富優樹(Gt.)に“東京での暮らしとそれを象徴する音楽”をテーマにコラムを執筆してもらった。

つめたさと温かさを感じる東京の暮らし

都内で暮らし始めて5年が経った。2019年の夏の終わりに上京してきて、あっという間にコロナがやってきて、メジャーデビューしたりずっと憧れだったアーティストに会えたり、アルバムを何枚か出したり、4人だった僕たちは3人になったりした。京都から東京にライブのために来るたびに「こんなところ住むところじゃないやろ」と思っていた街は、やっぱり住むにはあまり向いていない街で、僕たちは郊外の静かな“町”で暮らしている。大きな川があって、暮らしには十分なお店が揃っていて、3人でよく行くごはん屋さんが何軒かあって、自転車で映画館やレコード屋さんにも行ける。好きな本屋さんがいくつかあって、生活圏内にいくつもブックオフがある。京都に行くたびに京都のすべてが恋しくなって「今すぐにでも引っ越したい」なんて口走ったりもするけれど、なんだかんだいって今の暮らしが気に入っていたりする。最寄り駅から徒歩で30分もかかるという条件をのんでまで選んだこの広い部屋はかなり居心地が良くて、あっという間に本とレコードとぬいぐるみと、メルカリで見つけたアメリカのお菓子会社やLISMOのグッズなんかの愛くるしいガラクタでいっぱいになった。休みの日にふと思い立って(畳野)彩加さんに電話して小さな中華屋で昼から1杯やったり、練習からの帰り道にほなちゃん(福田穂那美)とコンビニで買ったコーヒーを片手にアホみたいな話や真面目な話をして、そのままマンションの入口横での立ち話に進化したりする。

都内で暮らすこと自体にワクワクすることは少ないけれど、街としての東京にはまだまだワクワクする瞬間もある。取材から別の取材への合間、南青山から乃木坂を経由して赤坂まで歩いてみたり、北も南もわからなくなるくらい適当に角を曲がりながら原宿を散歩してみたりする時、なんとなく、東京っておもしろいなと知らず知らずに心が踊っている。ツアーで色んな街に行くたびに会場あたりを散歩するけれど、東京で感じる、心がカクンと鳴るあの感覚はやっぱり特別で、海外の街を歩いているときのふんわりとしたワクワクにすら近いような気がする。結局未だに僕は、東京の町に住みながらも、東京という街自体には浮足立っているのかもしれなかった。京都での暮らしは地図の縮尺がぎゅっとしていて、街と町の境目を感じることがあまりなかった。すべてが自転車で行ける範囲のなかにあって、その居心地の良さが誰かにとってはときどき窮屈なものにも感じられるのかもしれない。今暮らしているこの町にいる限り、僕はどこかで東京と距離を取りながらしか暮らしていけないような気がしている。

郊外の町へと移り変わった暮らしを描いた「Moving Days」、良き隣人であることがやさしい社会やケアを紡いでいくことを歌った「New Neighbors」と、東京での暮らしは僕が書く詩やHomecomingsが鳴らす音楽にかなり直接的に影響を与えている。新しいアルバム『see you, frail angel. sea adore you.』は、大学進学までの時間を過ごした海と稲穂に囲まれた故郷の小さな町と今自分が暮らす東京というふたつの場所、そして今とあの頃というふたつの時間が混ざり合っている作品だ。マーブル状に綺麗に混ざり合うのではなくエラーのように混線的に挿し込まれ合うそれらを表現するために、ギターのノイズや規則性もなく鳴ったり止んだりするグリッチ音が必要だったのだろう。そのなかでも特に「angel near you」という曲は、この東京という場所での暮らしから拾い上げた感覚や匂いが音や詩に含まれている。大勢の人のなかで感じるさみしさや、どれだけ重たく沈んだ夜でも明るい街のひかりや、タクシーや乗用車がひっきりなしにすり抜けていく国道沿いの歩道で胸に浮かぶぽつんとしたつめたさをそのまま抱きかかえながら、離れていても近くにいても、透明な線で繋がっている天使の存在のことを描いている。行こうと思えば行けたあの距離のことは余計に心に作用する。そんな距離が、僕が今思うこの場所の、東京の暮らしの感覚なのだと思う。

PROFILE

Homecomings(ホームカミングス)

2012年、京都精華大学在学中に畳野彩加(Vo. / Gt.)、福富優樹(Gt.)、福田穂那美(Ba. / Cho.)、石田成美(Dr.)の4人により結成。2024年2月に地元・京都のKBSホールで開催したライブイベントをもって石田がバンドを卒業。以降3人体制で活動を続けている。

これまで台湾やイギリスなどでの海外ツアーや、5度に渡る<FUJI ROCK FESTIVAL>への出演など、精力的に活動を展開。心地良いメロディに、日常のなかにある細やかな描写を紡ぐような歌詞が色を添え、耽美でどこか懐かしさを感じさせる歌声が聴く人の耳に寄り添い、支持を広げている。

2017年からは、イラストレーター・サヌキナオヤと共同で、映画と音楽のイベント<New Neighbors>をスタート。自らがセレクトした映画の上映と映画にちなんだアコースティックライブの2本立てイベントを主催している。2019年には映画『リズと青い鳥』、映画『愛がなんだ』の主題歌を担当するなど、活躍の場を広げている。

2021年春に、〈IRORI Records〉よりメジャーデビュー。2024年11月27には、メジャー3rdアルバム『see you, frail angel. sea adore you.』をリリースし、年末から2025年1月にかけて自身最大規模となるZeep Shinjukuでのライブを含むツアー<Homecomings oneman live “angel near you”>が開催予定となっている。

RELEASE INFORMATION

Homecomings Major 3rd ALBUM『see you, frail angel. sea adore you.』

2024年11月27日(水)リリース
Label:IRORI Records

■CD+Blu-ray PCCA-06348/税込6,050円
■CD Only PCCA-06349/税込3,300円
■CD収録曲

1. angel near you
2. slowboat
3. Moon Shaped
4. blue poetry
5. luminous
6. ghostpia
7. recall (I’m with you)
8. (all the bright places)
9. torch song
10. Tenderly, two line
11. Air
12. kaigansen

■Blu-ray収録内容
Homecomings Chamber Set at Billboard Live TOKYO 2024

1. Blue Hour
2. Moon Shaped
3. ラプス
4. Here
5. euphoria / ユーフォリア
6. 光の庭と魚の夢
7. Smoke
8. Songbirds
9. US / アス
10. Elephant

LIVE INFORMATION

Homecomings oneman live “angel near you”

2024年12月20日(金)at 京都 MUSE
OPEN 18:30 / START 19:30
2024年12月21日(土)at 愛知・名古屋JAMMIN’
OPEN 17:00 / START 18:00
2024年12月22日(日)at 大阪・梅田Shangri-La
OPEN 17:00 / START 18:00
2024年12月28日(土)at 東京・Zepp Shinjuku(TOKYO)
OPEN 16:00 / START 17:00
2025年1月18日(土)at 石川・金沢 vanvan V4
OPEN 17:30 / START 18:00
2025年1月19日(日)at 香川・高松TOONICE
OPEN 16:30 / START 17:00
2025年1月21日(火)at 福岡・the voodoo lounge
OPEN 18:30 / START 19:00
2025年1月24日(金)at 宮城・仙台 enn 2nd
OPEN 18:30 / START 19:00
2025年1月26日(日)at 北海道・札幌 ベッシーホール
OPEN 16:00 / START 17:00

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