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文: 田中亮太 写:上村 窓 編:Miku Jimbo
2020年に結成され、東京を拠点に活動している4人組、xiexie。彼女たちは、Mac DeMarco(マック・デマルコ)やAlex G(アレックス・G)に通じるサイケなローファイ・アンサンブルに、Men I Trust(メン・アイ・トラスト)やFaye Webster(フェイ・ウェブスター)と並べて聴きたいネオアコ・マナーのソウル・フィールを重ねて、独自のインディーポップを作り出してきた。
2021年以降、多くの楽曲を配信で発表してきたxiexieは、着実に支持を広げていき、2022年には<FUJI ROCK FESTIVAL>のROOKIE A GO-GOに出演。今年2023年10月には初の海外ツアーを行い、台湾のフェス<浪人際’23>でのパフォーマンスが話題になるや、その2日後に開催した台北での自主企画はソールドアウトと、大成功を収めた。
また、10月25日には2作の配信EP――『XIEXIE』と『33』にシングル6曲を加えた初のフィジカル盤『XIEXIE/33』をリリース。さらにバンドとして勢いを増しているなか、このたび『Bitfan』でのファンクラブ開設が決定。それを記念して、メンバーが作成したプレイリストをもとに、バンドのバックグラウンドや現在の状況について、話を訊いた。
ーまずは選んでくれたプレイリストを見つつ、バンドのルーツや今のモードを教えてもらいたいと思います。今回はメンバーそれぞれが“最近のフェイバリットソング”を挙げてくれましたが、飛田さんがチョイスしてくれたThe Drums(ザ・ドラムス)、MGMT、King Krule(キング・クルール)あたりはバンド自体のルーツでもあるのかなと想像しました。
飛田興一(Dr.):
xiexieのメンバーはわりと世代が違うんですけど、僕は確かにこのあたりの2010年くらいに出てきたバンドがルーツのひとつではあります。だから、新譜が出るとチェックしちゃいますね。2010年頃のインディーポップは、クラブ・カルチャーからの影響を受けつつ、バンドサウンドに立ち返った感じがあって、自分もかなり刺激を受けていました。Metronomy(メトロノミー)とかもそういう存在でしたよね。幸田大和(Gt.):
そうだね。それ以前はポストロックやエレクトロニカっぽいバンドが目立っていたけど、この頃からインディーのなかでもシンプルでポップなサウンドが主流になった気がする。飛田興一(Dr.):
ドラムスなんて音源ではほとんど演奏していないのに、それでも“バンド”と打ち出す軽やかさがかっこよかった。ー飛田さんが選んでくれたドラムスの「Be Gentle」は、彼らの新作『Jonny』の収録曲ですが、かなりしっとりとした楽曲です。
幸田大和(Gt.):
僕はやっぱりメロウなものが好きで、オルタナでありつつ大衆性も大事にした音楽をxiexieでもやりたいと思っているんです。この曲からは、ドラムスのそういう姿勢を感じられて。ーあと南アフリカ出身のシンガーソングライター、Alice Phoebe Lou(アリス・フィービー・ルー)関連のものが2曲入っているのもおもしろい。ソロ名義での「Shelter」と、彼女がZiv Yamin(ジヴ・ヤミン)とやっているユニット、strongboi(ストロングボーイ)による「fool around」を選ばれていますが、これは偶然ですか?
幸田大和(Gt.):
偶然です(笑)。ストロングボーイは僕が選んで、ソロのほうは開が選びました。すごく思い入れがあるわけではないんですけど、Meariとちょっと歌の音域が似ているなと感じていて、女性ボーカルのバンドをやるうえで参考にしたアーティストではあります。開輝之(Ba.):
僕も同じような観点で、xiexieに雰囲気が似ているなと思っていたんです。ちょっと陰があるインディーポップというところとか。音自体の気持ちよさとか。ー開さんは、金延幸子の「青い魚」も選曲されています。いまや世界的に評価が高い和製フォークの名盤『み空』(1972年)の収録曲です。
開輝之(Ba.):
最近までぜんぜん知らなかったんですけど、金延さんは伝説的な存在だそうですね。この曲は、ラジオで聴いてすごくいいなと思ったんですよ。部屋の中で自分1人に向けて歌っているような音作りにも惹かれました。ー『み空』には細野晴臣や林立夫も参加していますが、ちょっとソウルっぽさもある演奏ですよね。
開輝之(Ba.):
“陰キャなキャロル・キング”というか(笑)。そういうサウンドが好きなんですよね。xiexieも、陰でもない、陽でもない、どっちつかずで掴みどころのない感じをめざしています。ーまたJames Reese & The Progressions(ジェイムス・リース&プログレッションズ)の「Joker, Where Did You Come From」も開さんのセレクト。60年代後半から70年代前半にかけて活動していたサウスキャロライナのプロデューサー/トロンボーン奏者が率いていたソウル・グループです。
開輝之(Ba.):
これもラジオで聴いて、知ったんです。こういうメロウなレアグルーヴは好みですね。ーソウルやブラックミュージックもメンバー共通のルーツなのでしょうか?
Meari(Vo.,Gt.):
そうかもね。私は親の影響で幼少期からThe Jackson 5(ジャクソン5)とかDiana Ross(ダイアナ・ロス)とかが好きでしたし。母親が持っていた『エド・サリヴァン・ショー』(※編集部註:1948〜1955年にアメリカで放送されたバラエティ番組。著名なミュージシャンが多数出演した)の映像とかをよく見ていたんです(笑)。飛田興一(Dr.):
特に昔はブラックミュージックしか聴かない時期もあったくらい。幸田とはxiexie以前に別のバンドを組んでいたんですけど、そのときはファンク要素のあるJ-Popをやっていました。幸田大和(Gt.):
当時は俺もギターのカッティングしかやってなかったよね。飛田興一(Dr.):
そのバンドが終わり、xiexieを始めるにあたって、僕が開をベーシストとして誘ったんです。彼が以前にやっていたバンドと対バンしたことがあって、僕と彼は演奏における白さと黒さの割合が近いなと思っていたんです。ドラムとベースでそれが噛み合うのって結構大事で。ブリティッシュポップ的な部分とソウルっぽい部分を両方持っているプレイヤーってあんまりいないんですよね。どちらかに偏ることが多い。ー確かに開さんのベースラインはグルーヴ感がありつつ、The Beatles(ザ・ビートルズ)っぽいメロディアスな側面も強く出ていますよね。ベースが耳に残る曲が多いと思っていました。
開輝之(Ba.):
嬉しいです。Meari(Vo.,Gt.):
今日、来てよかったねー(笑)。ー小さい頃からソウルや昔のポップスに触れていたというMeariさんはJessica Pratt(ジェシカ・プラット)の「Mountain’r Lower」とThe Millennium(ミレニウム)の「5 A.M.」を選ばれています。
Meari(Vo.,Gt.):
深く考えて選んだというより、最近よく聴いている曲という感じです。ミレニアムは結構古いバンドですけど、ふとしたきっかけで聴いたら、めちゃくちゃハマってしまって。ーソフトロックの代表的なソングライター/プロデューサーであるCurt Boettcher(カート・ベッチャー)が率いていたグループですね。「5 A.M.」は唯一のアルバム『Begin』に収録されていて、同作はいまや名盤と名高いですが、1968年のリリース当初は商業的には失敗した作品でした。
Meari(Vo.,Gt.):
「Prelude」から始まり、曲と曲が繋がっている組曲みたいなアルバムですよね。その趣向がもう美しすぎて、衝撃を受けました。ーまたジェシカ・プラットはサンフランシスコ出身のシンガーソングライターで、「Mountain’r Lower」は2012年のアルバム『Jessica Pratt』に収録されています。
Meari(Vo.,Gt.):
アルバム自体がすごく好きで、めちゃくちゃシンプルな音作りで、ボーカルもさらっとしているし、心地よい作品ですよね。でも、なんだか鋭さもあって。ー心地よいけど、鋭さがあるってというのは、xiexieの音楽にも通じるところがあるなと思いました。では、残ったBill Fay(ビル・フェイ)の「Filled With Wonder Once Again」についても訊かせてください。この曲は幸田さんのセレクト。
幸田大和(Gt.):
現在も活動しているUKの伝説的なフォーク歌手ですけど、僕はもともとフォークがルーツのひとつなんです。特にFleet Foxes(フリート・フォクシーズ)とか民謡的なメロディやサウンドを採り入れたアーティストが好き。フォークは言葉を大切にしないとできない音楽だと思っていて、だからこそフォークという軸がしっかりしている楽曲は、他の音楽を取り入れても、まとまりがあるものに仕上げられると考えています。xiexieもフォークを基調にしつつ、そこにオルタナやロックを混ぜていくという手法を意識していますね。ーなるほど。オルタナ~ロックという点では、2022年にリリースされた「sea bird」という曲は、ポストパンクやニューウェイブっぽさのあるソリッドな音がすごくかっこいいですね。
幸田大和(Gt.):
「sea bird」は<フジロック>で演奏するために作りました。フェスで気持ち良く鳴る楽曲が欲しいなって。実際、やってみて気持ち良かったし、フジのお客さんからの反応も良かった気がします。以降は、ライブでも最初にやったり最後にやったりしているんですけど、バンドのチューニングを合わせやすいという点でも、重宝している曲ですね。ーメンバーそれぞれxiexieの曲で特に好きなもの/まず聴いてほしいいものを教えてもらえますか。
開輝之(Ba.):
僕は「blue」という曲かな。個人的にベースラインが気に入っているというのもあるんですけど、ゆっくりした曲でBGM的に聴けるところもいい。幸田大和(Gt.):
僕は「alien」です。この曲はコード進行が最初から最後まで変わらないんです。だけどメロディやアレンジで強弱が付けられていて、ミュージシャンとしてはよくできたと思える楽曲。xiexieっぽさもあるし、Maeriの良さも出ているし、2分30秒くらいで聴きやすいし、“これがxiexieです”って言えますね。飛田興一(Dr.):
かぶっちゃいますけど僕も「alien」。xiexieの裏テーマとしてSFというのがあるんですよ。幸田くんが作ってくれているアートワークでもそこを大事にしていて。xiexieは日常っぽさと非日常的な感覚の両方を持っているアートをめざしているんですよね。それを強く打ち出すつもりはないんですけど、ふんわりとバンドの魅力になればいいなって。ーそれはこのバンドの大事な美学という感じがしますね。Meariさんはどの曲がお気に入りですか?
Meari(Vo.,Gt.):
悩むんですけど、やっぱ「narrow sea」が好きかな。最後のヤマちゃんのノイジーなギターもいいし、私個人的にはこの曲でなんかxiexieの制作スタイルが見えてきたって感じがします。ーおもしろいのは4人とも最初のEP『XIEXIE』から選んでいることです。やっぱり思い入れが深いんですね。
幸田大和(Gt.):
最近はちょっと原点に帰っているところもあるので、それが関係しているのかも。わりと作品ごとにいろいろな実験をしてきていて、実験の現時点での終着点が2022年の『33』というEPだったので、それを経て改めて最初に立ち返ってみている感じですね。バンドってそういうふうに進んだり、戻ったりしないと新しいものを生み出せないと思っています。飛田興一(Dr.):
実はこれまでの音源ってドラムはほとんど打ち込みなんですけど、それだとライブでそのままやるのが難しかったりもして。今はバンドが生演奏できるものにしようとなっています。メンバー全員で演奏しながらアレンジを練って、それを音源として形にする。だから、よりバンドっぽくはなっているかな。ー先月に行った台湾公演も大盛況に終わったそうで、その模様がSNS上でもバズっていましたよね。バンドのコンディションはとても良さそうに見えますし、そうしたなかで『Bitfan』を通じてファンクラブを開設することは、さらなる活動の後押しになるんじゃないですか?
飛田興一(Dr.):
ファンクラブでの具体的な施策はこれから詰めていく感じなんですけど、やっぱり30分のステージだけでは、なかなか人間性までは伝えられないので、メンバー1人1人の個性やキャラクターが見えるコンテンツにできたらいいなとは思っています。それぞれ音楽以外でもサッカーだったり、コーヒーだったり、好きなものがあるし。あと、他のバンドをやっていたりもしますしね。ーSNSの時代を経て、今はクローズドなサークルというものの価値が高まっている気がします。みんなが知っている情報よりも、自分しか知らない情報のほうが、知っていて嬉しいじゃないですか。そういうスペシャルな場にファンクラブはなりえますよね。
幸田大和(Gt.):
根本は、聴いてくれる人に感謝を伝えたいんですよ。ファンクラブは、その気持ちを伝えられる場所でしょうし、それがあるのはめちゃめちゃいいなって。僕はファンの人たちやライブのお客さんも、バンドメンバーだと思っているんです。 一緒に音を作る存在というかね。ライブも、お客さんが歌ってくれたり、レスポンスしてくれたりしてこそ、そこで音楽が成り立つんだと思う。ー本当にそうだと思います。ライブはそこにいる誰もが主役ですし、特に海外だとそういう意識が普通だと感じますね。
幸田大和(Gt.):
このファンクラブを、台湾で観てくれたお客さんや、海外のリスナーと繋がるプラットフォームにもできたらいいですね。ー『Bitfan』は世界55の国/地域から利用できるそうなので、その可能性は大きい気がします。
Meari(Vo.,Gt.):
海外でのライブを増やしていきたいです。もちろん台湾にもまた行きたいですし、 タイのDoor Plant(ドアプラント)ってバンドとコラボした楽曲もあるので、タイでのライブもやりたくて。ーこの10年で日本とアジアのインディー・シーンの交流は格段に多くなりましたしね。xiexieもアジアを代表するバンドになってほしいです。最後にxiexieが今、抱いている夢を教えてください。
Meari(Vo.,Gt.):
うーん…オルタナをお茶の間に届けたい、かな。飛田興一(Dr.):
僕らはアンダーグラウンドに居続けたいわけではなくて、xiexieを通じて“こういう音楽もありますよ”ということを、広い層に伝えられたらいいなと思っているんです。それで聴いている人がもっと音楽を好きになってくれたら嬉しい。バンドってすごく素敵な表現で、本当に純粋な形で人間性が音に宿るんです。だから、嘘がつけないし、やりたいことを正直にやり続けたいですね。PROFILE
xiexie(シエシエ)
メンバーはMeari(Vo.,Gt.)、幸田大和(Gt.)、開輝之(Ba.)、飛田興一(Dr.)。NY&BICYCLESの幸田とex.all about paradiseの飛田の声掛けで、2020年1月に東京で結成。2021年デジタルEP『XIEXIE』でデビュー。2022年は<FUJI ROCK FESTIVAL’22 ROOKIE A GO GO>や<FM802 MINAMI WHEEL2022>等に出演。2022年11月20日にはバンド初となるワンマンライブ<xiexie1st Live ~パラレルワニ園>at 下北沢BASEMENTBARを盛況のうちに終える。
2023年10月に初の海外ライブツアーとして10/15台湾の音楽フェスティバル<浪人際’23>(台南)出演。xiexieを一目観たオーディエンスが台北のライブハウスに駆けつけ、10/17台北のライブハウス・Revolverにて行われた初の台湾自主企画<xiexie 1st Taiwan Tour “SURPRISE TEA”>(w/MoonD’shake(TW)がソールドアウトした。同年10月25日には、これまで配信のみだった作品を集めた初フィジカル作品『XIEXIE/33』をCDリリース。同作は2024年1月24日にLP化も決定している。
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