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柔らかく雄大なメロディや、情景が目に浮かぶような丁寧な歌詞描写、温かみのある歌声。これらの魅力を、フォーキーながらも絶妙なポップセンスを発揮したサウンドに乗せてリスナーに届けるのが、八丈島出身のシンガーソングライター天野花だ。
18歳の頃に一度は就職したものの、“人生で一つだけ後悔があるとしたら、音楽をちゃんとやること”と一念発起し、19歳で活動をスタート。アコースティックユニットBocco.やバンド活動を経て、2017年よりソロで活動している。そんな天野が名刺代わりの作品として発表したのが、2018年に自主制作した1stアルバム『透明なブルー』である。10代〜20代前半の生活の中で生まれた楽曲は瑞々しく、青春の煌めきが感じられる一枚となっている。
そこから6年の時を経て、本作のデジタルリリースが決定。しかし天野は当時の音源をそのまま配信するのではなく、EGO-WRAPPIN’、yonige、クラムボンなどの作品にも携わる岡本司を録音エンジニアに迎え、本作を再録。歌入れ、リアレンジ、ミックス、マスタリングを施した。再度作品と向き合うことで、天野のアーティストとしての変わらない軸と成長が感じられる作品となった『透明なブルー』。今回はレコーディングの裏話についてはもちろん、DIGLE MAGAZINE初登場ということで、彼女の音楽の原体験や展望について伺った。
ー音楽に興味を持ったきっかけを教えてください。
中学校2年生の頃、夏祭りで同世代の男の子がエレキギターをかき鳴らして歌っているのを見たときに、「私もギターを持っていたら、あんな風に歌が歌えるかも」と思って貯めてたお年玉でアコースティックギターを買いました。楽器屋さんが近くになかったので、楽天市場で初心者セットを(笑)。
ーギターを始めた当初は、どんな練習をしていましたか?
『月刊歌謡曲(ゲッカヨ)』という、流行りの曲とかを簡単なコードに変換して載せている弾き語り本を毎月買って練習した記憶があります。YUIさんが大好きで、全曲弾けるんじゃないかっていうぐらいYUIさんの曲ばかりやっていました。
ー始まりはYUIさんだとして、今の音楽性に影響を与えているアーティストはどなたですか?
この間「0の歌」を録ったときに、エンジニアの岡本さんが「井上陽水みたいな歌だな」と言って聴かせてくれた歌が、コード進行がほとんど同じだったんです。島には電車がないので車移動が多いんですけど、母が車の中で井上陽水さんやスピッツをよくかけてたんですよ。だから「ああ、聴いてたものが根っこにあるんだな」って思いました。私の原点はフォークだと思います。
ー18歳で八丈島から都市部に来たのは、音楽をやるためだったんでしょうか?
当時は「音楽はできない」と思っていて、一度就職をしました。普通に生きていこうと思ったんですけど、就業時間が長くてブラックな職場で、パワハラ、モラハラもたくさんありまして…。すごくつらい中で「人生で一つだけ後悔があるとしたら、音楽をちゃんとやること。音楽をやりたい」と思って。そのとき楽器は実家に置いていたので、もう一度アコースティックギターを買って「ここで死んだつもりで働いて、専門学校に行こう」って、お金を貯めて19歳から専門学校に通いました。
ー10代で本当にやりたいことに気がつけるって素晴らしいですね。
その職場じゃなかったらそう思えてなかったんじゃないかなって。普通に働いて、卒なく暮らしていたような気がします。あのとき追い込まれて逆にありがたかったなって、今は思いますね。
ーそして2018年に発表した1stアルバムが『透明なブルー』。6年経った今、本作を再録してサブスク化しようと思ったのはどうしてでしょうか?
1000枚作ったCDが残り100枚くらいになったときに、一生懸命作ったアルバムだし大好きな曲ばかりなので、サブスクという形に残したいなって。いろいろ直したいところもあったので、せっかくなら録り直そうと思いました。これを機により多くの人に聴いてもらいたいですね。
ー今回録り直したのは、歌だけでしょうか。アコギも?
1〜2曲くらいアコギも録り直したんですけど、(サウンドは)ほとんど当時のままですね。歌がけっこう変わったので、元の音源を知ってくれてる方が聴いたときにどんな反応をするのかドキドキしています。
ーたとえば「Honey days」は初期衝動的な瑞々しさがあると思って。この曲のように、今歌うのは難しいと感じる曲もあったのでは?
めちゃめちゃその通りです! 「Honey days」はライブでももう全然歌ってないので、いざ録るときになって「なんだこのピチピチした歌は…!」と思いました(笑)。今回のレコーディングでも特に難しかったです。19歳くらいのときに作ったので、気持ちをどこに置いたらいいんだろうという感じで、試行錯誤しながら歌いました。
ー30歳と10代後半では全然心境が違いますよね。昔の日記を読んで複雑な気持ちになる感じに近いというか(笑)。
そうですね。書いてある字体にすらイライラしてくるみたいな(笑)。本当に別の人が書いたんじゃないかって思うくらい初々しい曲ばかりで、歌うのが難しかったです。
今回は、自分のことを書いた曲のほうが難しかった気がします。怒りとか、悲しみとか、喜びとか、そういう感情ってそのときのものじゃないですか。だから思い出すにしてもちょっと違うものになっていて。今の私がその歌と向き合うってなったときに、例えると「この人ちょっと知ってる人だけど、どうやって挨拶しよう…」みたいな難しさがあった気がします。
ーそれは当時の自分を俯瞰しているから、そうなったのでしょうか?
自分のことだったので、俯瞰はできてないんです。でも、もう痛くない、悲しくない。そこが難しかったですね。逆に俯瞰して作った曲は、今の私が一番よく歌えるように歌おうと思って、すんなり録れた気がしています。「パンプルムース」とか「エンディングロール」、「wonder」とか、このへんは他人事で歌えるような気持ちがあったので、ちょちょい!でした(笑)。
ーSNSで「レコーディングは学びが多かった」と投稿されていて、充実したRECになったようですね。
一回録ったことがあるからだと思うんですけど…昔はリズムもピッチもグチャグチャで、でもそこに文化祭のようにはじけるようなキラキラ感があって、それが良かったのかなって思う曲もありました。そういった曲を今の私が歌うと当時より上手に歌えすぎてしまって、(聴き返したときに)曲が入ってこないことがあったんです。「上手に歌っちゃって、なんかつまんない!」みたいな感じ。面白みや胸を打つ瞬間みたいなものって、上手さというよりは、切実さやちょっとレールを外れたところにあったり、予想してないところにあったりするなって。それを抽出するのに時間がかかりました。
ーまさに初期衝動ですよね。その部分を抽出するためにどういうことを意識されましたか?
曲によって向き合い方が全然違って、何回も歌い直してやっと歌えるようになった曲もあれば、歌詞をじっと見て「何を一番受け取ってもらえたら、この曲が誰かにとって特別なものになるだろう」というのを探す作業をすることもあれば、エンジニアさんと一緒に「どうですかねー」「いや、これは違うだろう」「じゃあこれは」って一個一個探して、アドバイスいただいて歌った曲もありました。
ー今改めて『透明なブルー』を歌ってみて、当時と変わった部分はどこでしょうか?
声ですね。革製品と一緒で、「クタッとしたな」みたいな気持ちになります。自分で聴くと余計にそうです。
ー「0の歌」は、聴き手としても壁にぶつかったときに支えになる曲だなと感じました。
嬉しいです。曲を書いたときの私が救われます。「0の歌」は録り直してから改めてこの歌を好きになって、最近ライブで歌うタイミングが増えた気がしますね。レコーディングでもわりとすんなり歌えた気がします。
当時は音楽が大事だけどうまく形にならなくて…っていうのを行ったり来たりしてたんですけど、そういうところは今もあって。少し色味は変わった気がするんですけど、今も変わらず葛藤しながら音楽をやってるので、素直に今の自分で歌えました。
ー2018年時点での楽曲解説によると「2年ぐらい曲が書けなくなっていた」そうですが、いつ頃のことでしょうか?
20歳から22歳ぐらいかな。その頃にBocco.というユニットをやってて、カバー曲を毎週YouTubeにアップしていたので、自分の歌を歌う機会がなくなってしまって。その活動をして、夜はバイトして、朝帰って昼からまた活動をして…っていう生活だったので、自分の曲が書けなくなっちゃったんです。
ー活動を頑張る中でも「作りたい」という欲が出てくるのは、生粋のクリエイターなんですね。
いえいえ、とんでもないです。当時の活動も、カバーをすることでいろんな曲に触れることができました。キーボードとギターと歌だけというシンプルな編成のグループだったので、(カバーするために原曲を)もう一回抽出し直す作業は、今思うとすごく勉強になったなって。
ー「0の歌」には自分の《1を探してみる》という歌詞もありますが、今“1”は見つかりましたか?
応援してくれるみなさんや、音楽を通してたくさん自分のことを好きになってくれる人に出会えて「やっと1になれたな〜」って思いますね。
ーやっと自分の中で自信がついてきたというか。
そうですね。やっと1です。まあ、みなさんのおかげなので、これが“私の1”なのかどうかちょっと不安になりますけど…(笑)。
ーいや、支えたいと思われるように頑張って活動を続けてきたからこそですよ。活動する上で大事にしてることはありますか?
逆に、私は音楽以外のことが欠如してるんですよね(笑)。10年くらい、音楽だけは唯一大事にできてることなので。コツは「私生活をダメにすること」とか…ダメですよね(笑)。
ーそれだけ音楽に情熱を注いでいるということですね。
音楽をやる中でつらいことがあっても、ちょっと嬉しいなーみたいに思うんです。それくらい音楽が好きですね。
ー曲作りの方法は『透明なブルー』の頃も今も変わらずですか?
今も変わらずですね。曲によって違うんですけど、詞先でパーッと書いてそのままメロにすることもあれば、メロ先もあります。ギターを弾きながらメロディと仮の歌詞がでてきて、その母音を残して歌詞をはめて作ることもあります。
ー歌詞を書くときに大切にしているのは?
メロとの兼ね合いですね。あと、あんまり難しいことを歌ったり複雑なメロディを書いたりするタイプでもないので、“背伸びしない”ことを一番大事にしているかもしれないです。
ー先ほど「Honey days」について「まるで他の人が書いたみたいだ」とおっしゃってましたが、10代後半〜20代前半の当時と30歳となった現在で、書く言葉が変わったなと思うことはありますか?
まったく違うと思ってますね。たぶん、当時は自分が好きで、自分のために一生懸命“(ミュージシャンとして)価値を見いだせないか”みたいに思ったり、利己的な考えがあったような気がするんです。今は本当にそういうのがなくて、曲も自分の歌のようで自分の歌ではないなって。人からもらった想いや暮らし、時間とか、そういうものが言葉になって歌になると思うことが多いですね。ホント、“歌”ってもらったものでできてるんだな、という気持ちです。
ーということは、活動を今後続けていけば続けていくほど、いい曲が生まれてくるってことですね。
確かに、そうなりますね。頑張ります!
ー6年の時間が経って、『透明なブルー』というアルバムは、天野さんにとってどんな作品になりましたか?
間違えたりちゃんと選んできたことだったり、私の暮らしがそのまま歌になってるなって思います。グチャグチャで、でも一所懸命でそれがなんか私っぽくて。たくさんの人に力を貸してもらって作ったのもあって、特別な作品です。
ー今後の展望についても伺います。挑戦してみたいことは?
変わらずに、大事に歌っていきたいなと思ってます。最近ライブハウスの人に言われたことで、「確かにな」と思ったことがあって。「ステージに上がるとき一歩目に考えてることが、絶対ライブになるんだよ」と言われて、それが私の中にすごく残ったんです。でも、私は何も考えずにすっと出ちゃってるんですよね。だから、たとえば作品を作るときもライブするときも、一歩目をもっとしっかり踏み込んで作品やライブと向き合う、お客さんと向き合う。それを大事にしていきたいなと思いますね。あ、展望じゃないですね(笑)。
ーでも大事なことですよね。今回の『透明なブルー』の再録でも作品と向き合ったそうですし、今の天野さんのテーマになっているのかも。
そんな気がします。作品をもう一回録り直す作業の中で、歌ってその瞬間の心やそれまでの人生が映し出されるんだなぁと気がつけたのが私にとって大きな学びでした。『透明なブルー』だけでなく、過去に作ってきたものがいつかもっとわくわくするような未来に繋がっているといいなぁと思います。歌も私自身も成熟していきたいです。
ーアーティストとしての最終目標的なものはありますか?
私、目標立てるのが本当に苦手で…こういうとき、なんて言えばいいだろう。Zepp Tokyo(Zepp DiverCity)とか言っといたほうが良いんですかね…じゃあ、「Zeppに立ちたい」にします(笑)!
ー(笑)。今後、新作の予定は?
来年あたりに新しいミニアルバムを出す予定があります。今はイメージだけあるんですけど、全部新曲にしようと思ってますね。『透明なブルー』は“私”だったと思うんですけど、次のアルバムは“私”じゃなくて、俯瞰して作っている曲が多くなる気がします。今まで私の歌を聴いてくれてた人にとっては新鮮な気持ちで聴いてもらえるといいなと思っていますね。
INFORMATION
ALBUM『透明なブルー』
2024年8月28日(水)リリース
〈hanaco Record〉収録曲
01. Honey days
02. Siren
03. エンディングロール
04. 次の恋人は社会人
05. 無題のラブソング
06. パンプルムース
07. Chrome
08. かさぶた
09. wonder
10. 0の歌
11. 群青
12. 透明なブルー
early Reflection
early Reflectionは、ポニーキャニオンが提供するPR型配信サービス。全世界に楽曲を配信するとともに、ストリーミングサービスのプレイリストへのサブミットや、ラジオ局への音源送付、WEBメディアへのニュースリリースなどのプロモーションもサポート。また、希望するアーティストには著作権の登録や管理も行います。
マンスリーピックアップに選出されたアーティストには、DIGLE MAGAZINEでの動画インタビューなど独自のプロモーションも実施しています。外部リンク
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