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兄弟ユニット・SPANOVAが2024年9月4日にリリースした最新アルバム『From The Interim Space』を聴いたときに最初に想起した風景は、曇り空の隙間から差す一筋の光だった。完全な曇りでもなければ、天気が良いとも言えない、ただずっと見ていたくなるような美しく悲しい光景だ。
喜怒哀楽がはっきりしている訳ではなく、角度によって悲しさとも嬉しさとも、不安とも安心とも捉えられるような歌詞。そして『It’s no illusion / Home Docummentary 00』(2011年)のライブ感、前作『セーダソーダ』(2016年)の柔らかな打ち込みを経てたどり着いた、デジタルともアナログとも言えない曖昧なサウンド。SPANOVAは今作を通し、より表現の複雑さ・曖昧さに磨きをかけたように思う。
結成以前、ひいては初めて音楽を作り始めた中学生の頃から「曲作りのスタンスは変わらない」と語るSPANOVA。ではこれまでの活動は、どのように新作『From The Interim Space』へ影響を与えているのか。また、彼らが「曖昧さ」を追求する理由とは。彼らが音楽を始めたきっかけからSPANOVA結成の経緯、そして今作が完成するまでの過程について話を伺った。
BIG UP!
『BIG UP!』はエイベックスが運営する音楽配信代行サービス。 配信申請手数料『0円』で誰でも世界中に音楽を配信することが可能で、様々なサービスでアーティストの音楽活動をサポート。また、企業やイベントとタッグを組んだオーディションの開催やイベントチケットの販売や楽曲の版権管理、CDパッケージ制作などアーティスト活動に役立つサービスも充実している。
さらに、音楽メディアも運営しており、BIG UP!スタッフによるプレイリスト配信、インタビュー、レビューなどアーティストの魅力を広く紹介している。
▼official site
https://big-up.style/
ー元々おふたりが音楽を始めたきっかけは何ですか?
田崎晋:
中学くらいから作曲家を志望していた憲がオルガンを弾き、俺が逆さにした鍋を叩く、みたいなセッションをやっていました。それはもう鍋が凹んで親に怒られるまで続けていたのですが(笑)、そのうちカセットテープ丸々30分に、そのセッションを録音するようになって。当時、学校の英語の授業で習った“Time”“Lake”といった覚えたての英単語を使い、曲名を付けてました。ーすでに当時からレコーディングもされていたんですね。コピーなどもされていたんですか?
田崎憲:
根幹には「曲を作りたい」という思いがあったので、既存の音楽のコピーに対する興味はありませんでした。ギターのTAB譜とかを見ても、あまりグッとくることがなくて。むしろ自分でリフを作ったりするほうが面白かった。田崎晋:
そしてオルガンセッション時代は完全にインストゥルメンタルしか作りませんでしたが、途中から歌を書くようになりました。というのも、自宅に家庭用のカラオケマシンが導入されたんですよ。録音機能があり、しかも2つのカセットを再生することができたので、多重録音をするようになりました。まずはドラムを録音して、それを再生しながらベースを入れ、歌を入れ…と作業するうちに、どんどん音質が劣化していって(笑)。完成した頃にはノイズがうるさすぎて音楽として聴けないものになっていましたね。ーその当時、どんな音楽を聴いていましたか?
田崎憲:
特定のジャンルというわけではなく、広く聴いていましたね。俺はポップスが好きでしたが、晋はヘビメタが好きだったよね。田崎晋:
そうそう。それで最初はヘビメタやハードロックを聴き続けていたのですが、途中からKing’s X(キングスX)といった、ファンクの要素が入ったロックが登場したんです。まさにRed Hot Chili Peppers(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)の1stアルバムとかもそうですよね。そこからファンクやジャズに興味をもつようになりました。ーなるほど。憲さんは「広く聴いていた」とのことですが、おふたりともどうやって音楽をチェックしていたんですか?
田崎晋:
NHKラジオで、Billboardのホットチャートをランキング形式で40位から紹介する番組を聴いていたんですよ。そこで洋楽のポップスも聴いていました。途中から憲は曲を聴いただけで、何位にランクインするかわかるようになってたよね。ーすごい特技ですね。
田崎憲:
まだ当時はMTVの黎明期で、ビジュアルよりも音楽性がヒットに直結していたから、楽曲を聴くだけで何となくわかる時代だったんです。1986年くらいから徐々にミュージックビデオが影響力を持ち始め、当たりにくくなりました。田崎晋:
それで、憲が当てられなくなった時期と思春期の中学生特有の暗い時期がちょうど重なって(笑)。より静かに淡々と音楽を聴くようになりました。ーしかし、兄弟で音楽の好みがしっかり分かれていたんですね。おふたりで曲を作るとき、お互いのアイディアがぶつかり合ってしまうこともあったんじゃないんですか?
田崎晋:
あんまりぶつかり合うことはなかったと思います。もちろんお互いに好きなジャンル同士は離れているけれど、そもそもふたりとも音楽を「人間が作ったもの」とは思っていなかったところがあって。ジャンルなども意識しないし、ある意味で音楽を自然現象を見ているような感覚で捉えていたところはありました。だからこそ、自分の好きな音楽だけじゃなく、お互いの好きな音楽も聴けたというか。田崎憲:
僕も晋の聴いている音楽からものすごく影響を受けました。晋はヒップホップも詳しいんですよね。20代の頃、晋につられてラップを聴いたりするうちに良さを感じてきて。その延長線上で、僕もソウルミュージックなどを聴くようになりました。田崎晋:
一緒に活動を続けていることもあって、年を重ねるごとにお互いの好みも混ざり合い、境界が曖昧になっているとは思います。でも、それぞれでずっと好きな音楽みたいなものは間違いなくあるんです。ー現在のように“SPANOVA”というユニットを結成し、活動を始めたきっかけはなんだったのでしょうか?
田崎晋:
Gemi Taylor(ジェミ・テイラー)というピチカート・ファイヴのサポートとしても活躍されていた、尊敬すべきギタリストがいるんですよ(註:Gemi Taylorはかつて、Sly & The Family Stoneのベーシスト・Larry GrahamのバンドGraham Cantral Stationなどでもギターを演奏していた人物)。90年代前半、あるきっかけで出会って以降、彼に曲を聴いてもらうのを楽しみに作曲していました。ーそんな経緯があったんですね。
田崎晋:
当時は自分たちが歌うなんて考えてもいませんでした。プロのシンガーとは声質が明らかに違うし、歌詞を綴る経験も乏しかった。心理描写的な言葉をずっとノートに書き綴ったりもしていましたが、メロディを邪魔せずに曲の雰囲気だけを伝える技術は追求していなかったんです。アーティストとしてちゃんと音楽を作ることの土台は、SPANOVAという活動を通して培われたと思います。ー作曲家になるために、SPANOVAを結成したんですね。実際、おふたりは他のアーティストへの楽曲提供もされています。作曲家としての曲づくりとSPANOVAとしての曲づくりで違いはありますか?
田崎晋:
正直、頭の使い方に変化は感じません。ただ、境目がないと言えば嘘になる。楽曲提供をするときは、ポップスの美学やルールを念頭に置きながら作ることが多いかもしれません。田崎憲:
楽曲提供するときは、そのアーティストのキャラクターを頭に入れるしね。ただ、SPANOVAの曲を作るときも、ポップスの美学は頭の隅で意識しています。ー「ポップスの美学」というものを、どのように捉えていますか?
田崎憲:
ポップスが好きになるきっかけになった曲が、やっぱり根幹にはあります。Billy Joel(ビリー・ジョエル)の「Allentown」やMichael Jackson(マイケル・ジャクソン)の音楽など、1980年代前半〜中盤にヒットチャートを賑わせていた音楽が、俺の中の原風景になっているんです。田崎晋:
Prince(プリンス)の「Pop Life」も、この前聴いたらやっぱりめっちゃ良いんですよ。割り切れないようなハーモニーや、明るいけど切ない感じがやっぱり好きです。田崎憲:
当時のポップスには、形にはまらないカラフルさがあるよね。「Pop Life」は俺も好きな曲。コード進行をどう導き出したのかが想像できない、不可思議さがあるんです。ーSPANOVAの音楽がジャンルを明確に捉えにくいのも、そういった背景があるのだと思いました。
田崎晋:
以前は、よくレコード会社を困らせていましたね。でも確かに、SPANOVAはポップさと聴いたことのなさの曖昧な境界線上を追求するタイプのアーティストだと、自分たちは捉えています。ドープネスな音楽も好き。だけど、重要なのは大前提としてポップな曲であることなんです。ー今回のアルバムを聴いて最初に感じたことは、まさに「曖昧さ」でした。まず、デジタルサウンドと生音の境界が絶妙で、全体ですごく気持ちが良いです。今回はなぜこういった音づくりに帰結したのでしょうか?
田崎晋:
まず2020年に「ハイイロ」や「Indigo」「雨が降るまえに」をバンドスタイルでレコーディングしたんです。それらの曲をアルバムで出すために、この3曲を基軸として制作が始まったという背景があります。ー3曲あればEPとしてもまとまるように感じたのですが、なぜフルアルバムに?
田崎晋:
レコーディングに参加してくれたミュージシャンや、エンジニアのMokyくんが作ってくれた音がすごく好きだったんです。もちろん自分らでドラムを打ち込んで曲を制作することもできるけれど、今回はしばらく会っていなかったドラマーに、スタジオで叩いてもらったんですよ。そしたら、久々に会うからこそ変化したところと、ずっと変わらないところが浮き彫りになって。田崎憲:
レコーディングって、そこにいるミュージシャンが表現してくれる世界観や、音の色の相乗効果によってどんどん物語が変化していくんですよね。コンセプトなども特に決めないままアルバム制作を始めたのですが、関わる人たちと一緒に紡いでいくことで明確になっていきました。その工程がすごく面白かった。田崎晋:
他者と混ざり合うと、曖昧な音ももっと曖昧になっていく。はっきりと割り切れないニュアンスを自分たちの作品から感じるのは、すごく幸せな瞬間です。田崎憲:
曖昧さを重ねすぎた結果、曲のゴールがわからなくなって難航することもあるけれどね(笑)。ただ今話して思ったけど、根っこでは中学で始めたオルガンと鍋のセッションがまだ続いている感じです。いまだに少なくとも3割くらいは、自分たちで録音した音を聴いて「おー!」って拍手する、あのときのフィーリングで曲を作ってるかもしれない。ー先ほど憲さんが「レコーディングを経てアルバム全体のコンセプトが明確になった」とおっしゃっていましたが、歌詞で意識したことはありますか?
田崎晋:
やっぱり俺らの根っこは作曲人間なんですよね。「こういうコンセプトのことを歌いたいから曲を作ろう」というモチベーションで歌詞を考えてはいなくて。むしろ生まれた曲をもとに歌詞を考えています。ー完成したアルバムを聴き返してみて、ご自身の歌詞に以前との変化は感じましたか?
田崎晋:
制作中に起きた多くの出来事に少なからず影響を受けていたのかな、とは思いました。直接的なメッセージソングを作りたかったわけではないけれど、コロナから戦争まで、たくさんの出来事がありましたから。ー今までの制作とも大きく異なる一枚になったのでは、と思いました。
田崎晋:
やっぱりおっさんになったせいか、時間がかかるときはすごく時間がかかるんですよ(笑)。バイオリズムがゆっくりになっているのかもしれません。その一方、「時間をかけてでもこの曲を仕上げたい」と思うような瞬間も増えました。昔なら「完成しないならやめた!」と次の制作にシフトしていたんですけどね。田崎憲:
あと、デビュー当時はもっと躍動感のあるものを作ろうとしていたけれど、年をとるにつれて静かに、落ち着いてきたのかなと。だからこそ、ちょっとノレれるようなグルーヴ感は意識していきたいです。田崎晋:
グルーヴしている音楽、好きなんですよね。今度はもっとノレて、躍動感のある音楽に挑戦できたらな、とは思っています。ただ、メロディライティングやハーモニーは変えないし、音づくりもそこまで変えません。自分らが変えちゃいけないところだから。ー次作もすごく楽しみにしています。
田崎憲:
僕らの音楽は、今のJポップからすれば全然白黒はっきりしていない音楽。でもそのグラデーションがかかっているような微妙な響きに、耳を澄ましてもらえたら嬉しいなと思っています。RELEASE INFORMATION
SPANOVA New Album『From The Interim Space』
2024年9月4日リリース
Label:〈felicity〉Track List:
1. All
2. ハイイロ
3. From The Interim Space
4. Indigo
5. Smooth Fader
6. Augustones
7. 雨が降るまえに
8. Dreaming Under The Sun
9. Pages
10. 意識の景色
11. Dancing For Hope▼各種ストリーミングURL
https://big-up.style/UJu8NZjQCG外部リンク
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