それぞれの音楽ライフを掘り下げるインタビュー企画『Music DNA』。16回目の今回はドリームポップ、エレクトロニカといった国内の電子音楽シーンで注目されている宅録アーティストUtae。作曲家、モデルなど多方面で活躍している彼女の独特な世界観が生まれた背景や、これまでの音楽ライフに迫りました。
転校を繰り返した学生時代と、音楽との出会い。
ーまずは、音楽の原体験について教えていただけますか?
『冷静と情熱のあいだ』という映画の予告編に使われていたエンヤの「Book of Days」という曲が音楽の原体験になっています。小学校2年生の時にたまたまテレビで流れていて、両親にCDを買ってもらいました。多重録音で声がたくさん重なっていて、異国情緒あふれる壮大な世界観に衝撃を受けましたね。
ーエンヤ好きの小学2年生ですか。なかなか個性的ですね。
私は引っ越しが多い環境で育ったので、1人でいる時間が好きだったんです。生まれが茨城で、小学校から中学校までは大阪、東京、福岡で過ごしました。高校3年間は長崎にいたので、1つの場所で長く暮らしたり、同じ人とずっと一緒にいる経験があまりなくて。自然と自分自身で楽しみを見つける癖がつきました。
たとえば、家に家族がいない時に爆音で音楽をかけたり、踊ったり。エンヤを聴くとどこか遠くの世界に連れていってもらえる気がしたので、楽しかったんですよね。
ー何度も転校を経験するのは寂しい思いをすることも多かったのでは?
クラスメイトとの別れは毎回寂しかったですが、知らない土地で新しい友達ができることにワクワクもしていたので、意外となんとかなりましたね。
ただ、私は協調性がないので、いわゆる女子の派閥のような複雑な人間関係からは距離を置いていました。人からどう思われるかを気にしない性格なのが良かったのかなと思います。学生生活は普通に楽しかったですよ。
ーエンヤ以外ではどのような音楽を聴いていましたか?
小学生の頃は80年代の曲にハマっていました。両親が『FINE』というオムニバスCDを買ってくれて、a-haの「Take On Me」をよく聴いていました。
また、私には姉がいるのですが、当時ダンス部に入っていた姉がダンス用の洋楽をたくさん聴いていたので、洋楽に興味を持つようになりました。中でもEnigmaの「Return To Innocence」は壮大な雰囲気がエンヤに通じるものがあったので好きでした。
ニューエイジ・ミュージックなどのエレクトロニックな音楽だけではなく、J-POPやJ-ROCKも聴いていました。YUI、ミドリ、神聖かまってちゃん、サカナクションとか。激しいロックな曲が好きでしたね。
ー幅広く音楽を聴かれていたんですね。思い出深いアーティストはいますか?
長崎で過ごした高校生の頃に聴いていたレイ・ハラカミさん、LEO今井さんは思い出深いですね。
高校ではデザインを専攻していて、PCで作品制作をしていました。暇な時はネットでひたすら音楽を掘っていて、Wikipediaのサカナクションのページにレイ・ハラカミさんのことが書かれていて、音源を聴いてみたんですが、衝撃を受けました。独特で繊細な音なのに、奥行きのある世界を感じられることがすごいと思って。当時は「わすれもの」「あさげ」「ゆうげ」をよく聴いていました。
また、高校生の頃は1人暮らしをしながら学校に通っていたのですが、LEO今井さんの「Lemon Moon」や「Tokyo Lights」を聴くと、下宿先の周りの道や通学路の途中にあったバス停の景色を思い出しますね。
高校卒業後に進学した音楽の専門学校では、ノイズミュージックに出会いました。今私をプロデュースしていただいている方が当時の先生で、AutechreやOvalなどのアーティストを生徒に紹介していたのですが、それまで流行りの曲を聴いていた生徒にとって未知のジャンルだったので、先生はカリスマ的存在でしたね。私もmoshimossさんやN-qiaさん、I Am Robot And Proudなどのエレクトロニカ系のアーティストをよく聴いていました。
これまでは、実験。今後は納得のいく曲作りを。
ー活動初期の2016年は浮遊感のある非日常的な作品が多く感じました。これまでに聴いてきた音楽の影響が大きいのでしょうか。
エンヤの世界観が好きなので、ここではないどこか遠くの世界をイメージした作品が多かったと思います。リアリティーのある曲は作ろうと思えば作れてしまうのですが、それでしかないなと感じています。
私には他の人が作れないものを作りたいという欲求や、「自分のことを簡単にわかられてたまるか」という気持ちがあって、歌詞から人柄がみえたり、「Utaeちゃんはこう思ってるよね」ってわかったようなこと言われるのがすごく嫌で。強いメッセージ性のある曲を作るくらいだったら日記を書いたほうがいいのではないかと思っていた頃もありました。
first EPでは歌詞はあくまで曲を構成するパーツだと思っていたので、歌詞に重みを持たせたくなかったんです。
ー最近ではバンドサウンドや電子音など、これまでにない音を使った曲が増えています。何か心境の変化があったのでしょうか。
活動初期はわかりづらく難しい曲を作ろうと思っていたので、例えばデビューEP『toi toi toi』の「Dystopia」は自分の声を多重録音しているのですが、歌の歌詞がなるべく聞こえないように工夫していました。
作品をリリースした後はライブのオファーが増えましたが、ポップでキャッチーな曲のアーティストと共演することが多くて、お客さんの反応があまりよくなかったんです。そこで、どこまでわかりやすい曲にしたらお客さんが振り向いてくれるだろうという実験心が沸いてきました。
それから、「RVR」というVRをヒントにしたロックテイストの曲を作ってみたり、流行りの80年代感を出した「Internet Magic」という曲を作ってみたりしたら、徐々に現場で受け入れてもらえるようになりましたね。
ただ、以前から私の曲を聴いてくださっていた方々には違和感があったみたいで。私自身も人からの評価を気にしてもしょうがないと思うようになりました。
これまでは曲作りもライブも実験的なところがありましたが、今後はもう少し肩の力を抜いて、難解な曲だろうとポップな曲だろうと、納得のいく自分らしい作品を作りたいと思っています。
宇宙、神話、古代文明に人工知能。「ロマン」を大切に。
ー曲名や歌詞、Twitterの投稿などを見ていると、宇宙や神話などのオカルトが好きそうだと感じました。
私は自分が知らない世界や未だ解明されていない「謎なもの」に興味を惹かれます。
あるテレビ番組で解説されていた「古代宇宙飛行士説」を知ってからは古代文明にハマっています。「なぜ人類はこれほどまでに高度な文明を築けたのか」「ピラミッドを作るのに何人必要なんだろう」「実は世界は何度か滅んでいるのではないか」など、妄想が止まりません。
私は、きっとこの世には人知を超えた何かがあると思っていますし、そういうロマンを大事にしたいです。例えば、街中で歩き方が独特な人を見かけたら、「あの人は跳ねるように歩いているから、重力のない世界からきたのかもしれない」と考えみたり、「東京メトロの銀座線はまるで走るカステラ」と捉えてみたり。ロマンは世界中にあふれていると思います。
それだけでなく、最新技術にも興味津々です。私にとってはAIやVRもマヤ文明と同じくらい謎なので、取り残されることなく時代の波を体感したいです。
人工知能が見る海の夢(っぽい) pic.twitter.com/rZLa8NYYug
— Utae (@Almost_human720) 2017年11月1日
これはアプリで海の風景にグリッチエフェクトをかけたものなのですが、「AIは現実世界をこんな風に見ているかもしれない」と思うとワクワクします。
ー目に映るものの捉え方がユニークですね。最後に、今後の抱負を聞かせてください。
まずは制作中の作品たちを今年中にリリースすることが目標で、ゲストボーカルやMV制作で参加しているエレクトロジャズユニットUN.aの活動にも力を入れていきたいです。
また、現在モデルとしても活動しているのですが、今後はさらに音楽以外の活躍の場を増やして“Utaeらしさ”を確立させていきたいですね。飽きっぽい性格なので、幅広い分野で活動するのが理想です。
Utaeさんセレクトのルーツ・プレイリスト
Photo by 遥南碧