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文: 保坂隆純 写:Junya Tanaka 編:久野麻衣
ネットの発達により、膨大な過去の音楽にアクセスできる環境。そしてDTMソフトの浸透やHow To知識の共有、そういった恩恵を遺憾なく発揮する新世代アーティストの台頭が著しい昨今。京都を拠点とするTERAもまさしくそのひとりだ。
SSW/トラックメイカー/エンジニアなど、マルチな肩書を持つ彼は、EDMやフューチャーベース、トラップも自然に吸収。オンタイムな要素だけでなく、時にはどこか懐かしいエレポップも顔を出したりと、多彩なサウンドを取り入れながらも、どこまでも人懐っこいポップ・ミュージックとしてアウトプットしている。
音楽かいととのコラボ曲を始めとしたシングル群のリリースで話題を集めるTERA。そのバックグラウンドやこれまでの足取りを訊いた。
―音楽活動のスタートは音楽アプリ「nana」への投稿からだったそうですね。当時のきっかけや経緯を教えてもらえますか。
元々歌うことが好きで、「nana」も最初は趣味で投稿していたんです。中学生くらいの時に、アプリ内でJUJUさんのカバーを募集する企画があったんですけど、そこに参加してみたら、オフィシャル・アカウントからピックアップしていただいて。その頃から、本気で音楽活動してみようかなっていう気持ちが芽生えました。
―「nana」に投稿し始める前はどのように音楽と触れていたのでしょうか?
父親が元々バンドマンで、母とはライブハウスで出会ってることもあって、ふたりとも音楽好きなんです。その影響もあって、小さい頃から家で流れている音楽に合わせて、自然に歌っていました。
―小さい頃はどのような音楽を聴いていましたか?
自分が特に好きだったのは、THE BLUE HEARTSとかTHE HIGH-LOWS。甲本ヒロトさん、マーシーさん(真島昌利)が関わっている作品に関しては、聴いたらすぐに歌詞が出てくるくらい、体に染み付いていますね。
―「nana」に投稿するカバー楽曲は、どのような基準で選んでいたのでしょうか?
最初は純粋に好きな曲を歌っていただけだったんですけど、全然再生数が上がらなくて。そのうちに「どういう曲をカバーしたら聴いてもらえるんだろう」っていう考えに変わっていって、その当時流行っている曲だったり、話題の新曲だったりと、考えながら投稿するようになりました。「nana」には「いいね」機能みたいなものがあって、自分の承認欲求が満たされるというか。今はかなりの数の投稿を消してしまいましたけど(笑)。
―「nana」での投稿を経て、次は「mix channel」にて弾き語りなどの生配信をスタートさせたそうですね。
ちょうどその頃、米津玄師さんが「ツイキャス(TwitCasting)」を使ったり、生配信が盛り上がっていた時期だったんですよ。「mix channel」をなぜ選んだのかはちょっと思い出せないんですけど、僕も生配信をするようになりました。配信だとリアルタイムで反応を貰えるので、観てくれてる人のリクエストに応えつつ、当時だとback numberやクリープハイプ、星野源さんなどを弾き語りしていました。
―オンライン上での発信が常に身近な手法だったんですね。
そうですね。小学生の頃にスマートフォンを持って、中学生くらいからiPhoneに変えて。ネット環境は常に身近にありました。
―2018年には%PERCENT(1シンガー、2MCで構成されるユニット)の結成に至ります。ラップはいつ頃から自身のスタイルに取り入れていたのでしょうか?
「nana」に投稿していた時も、KREVAさんの歌寄りの楽曲をカバーしたり、JUJUさんの企画の時も、他の人達は歌で挑戦していたので、僕は敢えてラップで参加したんです。それがラップを始めたきっかけだと思います。
―では、ラップのルーツを挙げるとするとKREVAさんになるのでしょうか?
KREVAさんの存在は大きいですね。中学2〜3年生の時に出会って、そこからKICK THE CAN CREW、Rhymesterなども聴くようになりました。小さい時にずっとバンドを聴いていた反動で、ヒップホップに出会った時は衝撃でしたね。「こんな音楽あるんや」っていう感じで。
―%PERCENTはどのようにして結成されたのでしょうか?
メンバーは高校の後輩で、僕が高校3年生の時に出会いました。文化祭で自由に生徒が歌えるステージがあって、僕はシンガーとして、彼らはラップで出演していて。そこで出会って仲良くなりました。
―MVも含め、完成度が高いなという印象を受けました。
MVは高校の先輩にお願いして。今はもうプロとして活躍されている方なんですけど、当時は映像制作を始めたばかりで、「何か一緒にやろうよ」っていう感じで撮ってもらいました。
―%PERCENTではオーディション『出れんの!?サマソニ!?2018』を勝ち抜き、<SUMMER SONIC 2018>への出演も果たします。
サマソニって国内外から錚々たるアーティストさんが出演しているじゃないですか。当然、僕らの出演するステージは注目度が低い。なので、リハとかの時点でステージ前を通るお客さんをどれだけ捕まえることができるのかっていうことも意識してました。大きな会場でライブができてすごく楽しかった反面、悔しさも残りましたね。やり切れなかったというか。
―結成してからすぐにサマソニへの出演も果たすなど、傍から見たら順風満帆。まさにこれからというタイミングで%PERCENTは解散してしまいます。
3人とも意識が違ったというか、全員の考えをまとめることができなかったんです。ぶっちゃけ、サマソニのオーディションの時からそういう感じはあったんですけど、皮肉なことに結果は出続けて。そのままサマソニへ出演したはいいけど、その後特に大きな動きもなかったので、「解散しよう」ということになりました。
―そこからソロに移行するのは自然な流れで?
はい。複数人で活動することの大変さをそこで学んだので、自分の作りたいモノ、自分のやりたいことをひとりでやろうっていう感じで。サマソニ出演が決まった時に、「これからもっと本格的にやっていこう」って思って、「Logic」(DAWソフト)だったり色々な機材を購入したんです。結局すぐにグループを解散したので、自分のソロ活動活かすことに。
―ソロ活動後はJOEさんや音楽かいとさんなど、他アーティストとのコラボも活発に行っていますね。彼らとはどのようにして出会い、繋がったのでしょうか?
JOEとはお互い参加していた<YIMA2019(YOKOSUKA INNOVATION MUSIC AUDITION 2019)>で出会いました。ライブを観てすごくいいなって思ったのと、彼は横須賀に住んでいるので、遠隔で音楽制作してみたら楽しそうって思って。
音楽かいとに関してはYackleくんがオーガナイズしたイベントで出会いました。彼は当時15歳とかだったと思うんですけど、めちゃくちゃカッコいいな〜って喰らってしまい。喋ってみたらすごく気も合ったので、頻繁にコラボしています。
―音楽かいとさんとの制作はどのような形で行っているのでしょうか?
僕が京都で彼が大阪なので、お互いの家に行くこともありますし、喫茶店で喋りながら、役割分担や曲についてのイメージを固めていきます。
―音楽のルーツ的な部分も近いのでしょうか?
いや、かなり違うと思います。それこそ彼はもっと早くからエレクトロニック・ミュージックに触れていたみたいで。実は僕が中田ヤスタカさんの存在を知ったのも音楽かいとのおかげなんです。彼が父親と行く予定だったライブに、父親が来れなくなったという理由で誘われて。気軽な気分で行ったら衝撃を受けるっていう(笑)。
―音楽かいとさんとのコラボ曲“タピオカミタイダ”はポップな歌モノながら、フューチャー・ベースやグリッチホップも想起させるドロップがあったりと、その影響源の広さが感じられます。
何がハウスでテクノでサイケで〜みたいな分類が自分の中では全然できていなくて。好きになったものを全部吸収して、頭の中でゴチャ混ぜにしてアウトプットしている感じですね(笑)。
―トラックメイクにおいて自分の中でルールのようなものはありますか?
ルールや決め事はないですね。何でも気になったら取り入れてしまいがちなので、制作途中で影響を受けたサウンドが変化してしまうこともありますし。本当にその時々での影響に左右されていると思います。
―これまではシングルでの発表のみとなっていますが、EPやアルバムなど、まとまった作品のリリース予定は?
ストリーミング・サービスやプレイリストでのバズも狙うためにシングル中心に発表していたんですが、去年の12月くらいからEPを作りたいって思うようになり、3月リリースに向けて動いていたんです。でも、年明けくらいからトラック制作やミックスなどの依頼が立て続けにきて。ありがたいことなんですけど、その代わりに自分の作品になかなか時間が割けなくなってしまい…。今は8月か9月くらいに出せればっていう感じで動いています。どうせなら新曲をたくさん収録したいですね。
―EPには資料で頂いた未発表曲が収録される予定なのでしょうか?
そうですね。あと、3月にリリースした「群」も収録する予定です。今、新型コロナウイルスの影響でバイトも休みになってて、時間ができたので、制作を進めようかなと。あと、音楽かいとと一緒にやっている、〈ねいてぃぶ135°〉っていうオンライン・レーベルというかコレクティブみたいなものがあるんですけど、そこからリリースを控える#関西サラダ会館っていう新グループにも少し関わっていて。#関西サラダ会館はTwitterのフォロー/フォロワー数ゼロ、再生回数5回とかの、まだ誰にも知られていないアーティストで。サラダ会館でのワンマン・ライブを目標に活動しています(笑)。
―〈ねいてぃぶ135°〉はどのようにして立ち上がったのでしょうか?
音楽かいとも僕もまだまだ全然無名で、オーディション受けても何も反応がなかった頃、「じゃあ自分たちでやっちゃおうぜ」っていう感じで立ち上げました。去年彼がリリースした「静かな町、線路の音 feat.TERA」のリリースの時にレーベル名も考えて。「135°」っていうのは日本の標準時刻を算出する東経135度線を表しているんですけど、日本をレペゼンしながらも、世界中で活動していきたいっていう2人の想いを込めています。日本を表す言葉っていっぱいあると思うんですけど、きっとまだ誰も使ってないであろう言葉を考えていくうちに決まりました。
―EPに収録予定だという「群」は「学生時代の鬱憤を詰めに詰めた」とTwitterで呟いていましたし、資料で頂いた新曲「ginger ale」にもわかり合えないもどかしさのような、自身の実体験と思われるような感情が描かれているように感じます。EP全体のテーマのようなものは決まっていますか?
このEPに限らず、特にテーマやコンセプトを決めずに制作しても、いざ作品が完成すると対人関係のことや学校、職場のことに繋がることが多くて。架空のストーリーを描こうと挑戦したこともあるんですけど、結局リアルな出来事や感情を描かないと嘘になってしまうような気がして。
―EP収録予定の曲の中には、音楽かいとさんに加え、かふさんが参加している曲もあります。彼の2nd EP『朝日が吐いた優しい嘘』はTERAさんがミックス/マスタリングを手がけていますよね。
かふとは京都の「GATTACA」っていうライブハウスで知り合いました。彼は元々弾き語りをしていて、僕が初めてライブした時に仲良くなって。今回のEPもミックス/マスタリングをオファーしてくれて。
―ミックス、マスタリングの技術は独学で学んだのでしょうか?
はい。独学ですね。YouTubeで海外のエンジニアの方の動画とかを自動翻訳機能を使いつつ観たり。翻訳は結構めちゃくちゃなんですけど、何となくは理解できるので、それで知識を蓄えて。
―今後の展望として、音楽面でトライしてみたいことや、アーティスト活動としての目標などはありますか?
アナログ機材を取り入れてみたいです。最近、家にいる時によく色々なアーティストさんのライブ映像を観ているんですけど、電気グルーヴやパソコン音楽クラブみたいに、アナログ機材を弄りながらのライブ・パフォーマンスがとても楽しそうだなって思っていて。手に入れたらライブでも制作でも使ってみたいですね。
アーティストとしての目標だと、フジロックに出たいです。サマソニとフジロックに出演できたら日本の2大フェスに出演したことになるので。もちろんサマソニにも悔いが残っているので、リベンジしたいです。あと、ストリーミング・サービスのデータを見ると、東南アジアや台湾など、海外のリスナーも増えている言語や文化の違う人の前でライブをしてみたいなっていう気持ちもあります。
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