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文: 黒田 隆太朗 写:後藤倫人
明らかに独創的で個性的。ユニークな音楽を輩出し続ける京都においても異端であった、シーン切っての変わり種がギリシャラブである。The DoorsとDirty Projectorsが歌謡曲にハマったら…もしかしたらこんな音楽をやっていたのかもしれない。不気味で歪な踊れるサイケ歌謡であり、何よりも群を抜いている知性溢れるノワールな歌詞世界。バンドの中心人物・天川悠雅は、欲情なきセックスを綴る詩人である。『悪夢へようこそ!』はキミの常識を揺さぶる音楽だ。古今東西の文学を貪ってきた天川による、斬新な語録をどうぞ。
ー今回「人生で影響を受けた楽曲」というテーマでプレイリストを作っていただきましたが、まず、ご自身でこの10曲に共通項を見出すとしたらどういう部分になりますか。
全部に共通するかどうかはわからないのですが、2種類のタイプに分れると思います。ひとつは欧米のアーティストでありながら、たとえば南米やアフリカといった欧米ではない地域の音楽を貪欲に吸収して、それをポップソングとして発表しているアーティスト。
ーBlurなどは、まさにそうですね。
もうひとつは、南米だったりアフリカに出自がある欧米以外のミュージシャンが、自分達の民族性や音楽性を保ったまま、世界中に響くポップソングを発表しているアーティスト。その2パターンなのかなと思います。
ーつまり、ほとんどが自分の出自を超えて異なる文化に積極的にコミットしていった音楽、ということになると思います。逆に言うと、それが天川さんが音楽に求めているものということでしょうか。
それはあるかもしれないです。僕は音楽に目覚める前から本を読むのが好きで、高校に入ってからはフランス文学をよく読むようになったんですけど。
フランス文学って、日本のそれとは全然違う倫理や文法で書かれているから、最初は凄く不思議な感じがしたんです。でも、読んでいるとだんだん自分の中で血肉になってきて、違和感のないものになっていく。
そうすると今度はガルシア・マルケスとか南米の作家の作品、たとえば『やし酒飲み』(エイモス・チュツオーラ著)のようなアフリカの作品を読むようになっていきました。それもやっぱり日本とは文法が違うんですけど、僕はそういったものから受ける刺激が好きなんでしょうね。
だから音楽を聴く時にも、(様々な文化のものに触れることが)自分のスタイルとしてあったのかもしれないです。
ーその気質はどういう経験から培われたものだと思いますか。
僕は高校を1年で辞めたんですけど、そこでなんとなく、普通に生きていたら辿るであろう将来への道がなくなった気がしたんです。
なんとなく良い感じの大学に行って、良い感じの職業に就いて、良い感じの人生を歩むような気がしていたのが、高校を辞めるとそういうものはもう無理なんだなっていう感じがしました。
そこで思ったのが、ある意味それまではテストで良い点さえとれば認められるわけだけど、これからは人に認められるためには何か技術みたいなものを身につけないといけないんだと。そういう気持ちが強くなっていきました。
ーそれで文学に没頭した?
文章を書くのは昔から得意で、作文が表彰されたりもしていたから、なんとなく自分(が極めるもの)は本なのかなぁと思ったんですよね。
それでとりあえず沢山の本を読まないといけないと思って、ずっと図書館にいるようになりました。当時はジャンルも何もわからなかったから、純文学やミステリー、SFにライトノベルまで、片っ端から読んでいって。
それが高校を辞やめた16歳くらいの時の話なんですが、あの時から自分の中でいろんな作品を吸収していく性質が出来上がっていったように思います。
ーそこからどのような経緯で、音楽を作って自分で歌うという今のバンドになっていったんでしょうか。
自分で曲を作るようになったのは、大学に入ってギリシャラブを始めた時くらいです。元々高校の時にドラムを始め、高校生にしてはかなり技術的なレベルの高い、テンポも速くて変拍子も多い、前衛的な展開を入れ込むようなバンドを組んでいたんですけど。
そのバンドではあまり歌を重視していなかった中、大学に入って聴く音楽が変わっていくうちに、僕が歌を重視したくなっていったんですよね。自分が言葉を使って表現をすれば、良いものができる気がなんとなくしていたので。
ーそこで何か指針になるような楽曲はありましたか。
ひとつはBlurの「Popscene」です。BlurってOasisと比べられることの多いバンドですけど、僕は最初はOasisの方が好きだったんです。でも、ある時からBlurのほうが性に合っているなっていうことに気づいて。
ー知性のある感じに惹かれた?
うん、そうですね。それまでは歌詞を気にしていなかったのですが、「Parklife」っていう曲の歌詞を見た時に、凄い歌詞だなって思いました。
サビの歌詞は「みんなで手を取り合あって素晴らしい未来へと歩んで行こう」というような内容なんですけど、その書き方が入り組んでいるというか、字義通りのメッセージにはなっていない。ヴァースでは公園の生活者の姿を描写していて、全体的にアイロニーが注がれている。
それを知った時にBlurカッコいいなと思いました。正直に言って、それまでは文学性というものをどう音楽で表現すれば良いものになるのか、それがイマイチわかっていなかったんですけど。Blurを聴いて、音楽でカッコいいっていうのはこういうことなんだって教えてもらいました。
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