変革のYAJICO GIRL。時代を見つめて産み落とされた、祈りの音楽とは

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文: 黒田 隆太朗  写:百瀬浩三郎 

Frank OceanやChance The Rapperからの影響を打ち出し、『インドア』にて大胆な変化を遂げたYAJICO GIRLにインタヴュー。「Essential songs for INDOOR 」と題された、四方颯人による本作に影響を与えた20曲のプレイリストも公開。

YAJICO GIRLが変わった。何が変わった? 音が変わった。変化し続ける時代と、同じ歩幅で変わっていくことを選択した。Frank OceanやChance The Rapperといった、2016年以降のポップシーンの立役者達からの影響を響かせる音楽へと一変している。その旗印となるのが7月にリリースされた『インドア』であり、彼らはこのタイミングから自身らの活動に「Indoor Newtown Collective」と冠している。「バンド」ではなく「コレクティヴ」、音楽性を発展させる経過の中で、自然と自身らのアティテュードが定まっていったのだろう。ここにあるのは、バンドミュージックからの解放を目指した音楽家の姿だ。

Frank Oceanから小沢健二まで、新作のサウンド・デザインに貢献したプレイリストを作ってもらい、四方颯人にインタヴューを試みた。内省的なリリックが意味するところは何か? YAJICO GIRLはこうして2020年以降のシーンへと踏み出していく。

ロックバンドが鳴らすべき、Frank Ocean以降の音

ー『インドア』に影響を与えた楽曲をまとめてもらった、「Essential songs for INDOOR 」というプレイリストを作っていただきましたので、それに紐づけながら今のYAJICO GIRLの音楽観を聞けたらと思います。

はい。よろしくお願いいたします。

ーこのプレイリストの中で最も好きな曲を挙げるとしたら?

曲単体で言うのは難しいですね。でも、アーティストで言えばFrank Oceanかなあ。

ー『インドア』も一聴してFrank OceanやChance The Rapperからの影響が聴こえてくる作品で、端的に言って変化作になっていますよね。

自分がリスナーとしてカッコいいと思っている音楽と、自分がずっとやってきている音楽の乖離が2016年頃からだんだん大きくなり始めて。海外ではこんなに音楽が目まぐるしく変わっているのに、何事もないかのような顔をして普通にロックをやり続けることはできないなって思って。変わらざるを得ないですよね。

ー2016年っていうのは、『Blonde』が出た年ですね。

そう、『Blonde』が出たことでシーンに地殻変動が起こったと思っていて。僕にとっては今まで聴いてきたどの音楽とも違う、今まで聴いてきたすべての音楽の上に来るような感覚を覚えました。それで今回の作品ではサウンドや構成を変化させたいっていうのが第一にあって、それに合った歌詞や歌唱方法を取っていったらこういう歌になりました。

ーつまり、四方さんの現状認識から生まれてきた作品が『インドア』だと。

そうですね。

ーただ、「Essential songs for INDOOR 」では海外の現行のポップスと日本の音楽が10曲ずつ入っていて、これは明らかに意図的なものですよね。ここにある国内の音楽は、今の四方さんにとってどういう音楽だと言えますか。

90年代の音楽が多いんですけど、その辺りのアーティストは音楽的にちゃんと海外の状況を見ながら、同時代的な音楽を作っているような感覚があります。洋楽を日本に取り入れるということをいいバランスでやっていた時代なんじゃないかなって思っていて、90年代の渋谷や、東京の音楽は今回参考にしていました。

ーたとえばSUPARCARの『Futurama』は、彼らが本格的に打ち込みの音を導入し始めた頃ですね。

そう、まだ行き切っていないバランスで作られている頃ですね。

ー僕が思ったのは、 今のトレンドになっている海外の音楽と、元々YAJICO GIRLがやってきた音楽の中間を繋ぐ存在が、SUPERCARなんじゃないかということでした。

ああ、僕、SUPERCARは元々一番好きなバンドなんです。映画の『ピンポン』が好きで(主題歌がSUPARCARの「YUMEGIWA LAST BOY」)そこから入ったんですけど(笑)。『ピンポン』を小さい頃からずっと見ていたので、SUPARCARの音や声は自分の根底にある感じがしていて、彼らの音楽を聴くと自分の幼少期や無垢なイメージに繋がるんです。

ーそれであるならば、前作では何故そうした影響が音としては表面化しきっていなかったのでしょうか。

それは、今までは機材がなかったから(笑)。

ーなるほど(笑)。

ガレージバンドで遊びで作る曲にはSUPERCARっぽいのがあったりするんですけど、バンドでやるってなると楽器も限られているから、必然的にギターロックになっていました。今はDTMでデモを作るようになったので、僕としてはようやく本来の表現方法に戻れたという感じです。

ーリスナーが耐えられる時間を考えているところと、ストリーミングで沢山の曲が何回も再生された方が得をするという両方があると思うんですけど、海外のアーティストでは、1~2分の短い曲を沢山入れてアルバムを作る作家が増えてきていますよね。

そうですね。

ー『インドア』も比較的コンパクトな作りを目指したんじゃないかと思いますが、こうした曲のサイズ感は実際意識の中にありましたか?

はい、意識的に作っています。30分は必ず切ると思っていましたね。Kanye Westの『Ye』のサイズ感が凄く好きで、あれは7曲だけど確実にミニアルバムではないんですよね。僕らはドレイクみたいに20、30曲レコーディングしてポンってアルバムを出せるような環境にはいないので、今自分達が出すのならKanyeの方式だなって。凄くやりがいを感じながら作れました。

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5人編成で自身の活動スタンスを「Indoor Newtown Collective」と表現する。

結成してまもない2016年、大学在籍中に日本最大級音楽フェスティバル「SUMMER SONIC」の登竜門「出れんの!?サマソニ!?」を通過。
その後「eo Music Try」や「十代白書」など地元関西コンテストでの受賞を重ね、同年全国38局ネットのラジオ番組「SCHOOL OF LOCK!」が企画する10代アーティスト限定ロックフェス「未確認フェスティバル」、そしてロックプロダクション「MASH A&R」が手がけるオーディション「MASH FIGHT」でグランプリをW受賞。
翌2017年、タワーレコード内のインディーズレーベルから初の流通作品「沈百景」をリリース。
その後も音源制作、MusicVideoの撮影から編集、その他全てのクリエイティブをセルフプロデュースし、2019年夏、自分たちの音楽の同時代性に向かい合った作品群としてアルバム「インドア」を発表。
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