王道ギターロックバンド・時を唄えばが届ける、よどみそうな日常に風を送り込む鮮烈な言葉とメロディ

Review
ポニーキャニオンとDIGLE MAGAZINEが新世代アーティストを発掘・サポートするプロジェクト『early Reflection』より、今おすすめのアーティストをピックアップ!第8回目は、時を唄えばをご紹介。

活動初期のEP「AM05:18」などがサブスクリプションサービスで聴けるのだが、シンプルで歌メロがしっかり聴こえるギターロックバンドのあまりのてらいのなさに驚いてしまった。現在は作詞作曲を手掛けるじゅり(Vo,Gt)、TTN(Gt,Cho)、橋本泰斗(Ba)、tuti(Dr)にメンバーを固定し、2021年の夏以降、ライブ活動を精力的に行なっている彼ら。バンドネームからもたらされる“時を”“唄う”ことの意味は時代というより、季節感やシチュエーションだ。主に下北沢のライブハウスに出演している彼らが歌の中で描く、「急行を乗り過ごす」シチュエーションは井の頭線だろうし、「お洒落なバンドを見に行くため」に恋人未満友達以上(と思われる)の女の子と8時に待ち合わせるのは新代田だったり、ちょっとした緊張感もありつつ、そこに居場所があればいいと思うのは新宿だったりする。土地勘がない人にとってもそれらの地名を自分の行動半径に置き換えて聴くことはできると思う。若いバンドマンであり、その界隈で生活する青年にとってのリアルな感情が、激しい喜怒哀楽というよりも、情景や季節の匂いに変換されて立ち上がるのだ。これは強い言葉以上に効果的にリスナーに響くんじゃないだろうか。

心動く瞬間を紡ぎ出した、バンド初の全国流通盤アルバム

精力的にライブ活動を続けつつ、自分達の音楽が演劇やドラマなど、広く人の日常に溶け込むことを望むというのも彼らの特質で、積極的に楽曲提供を行なっている。バンドとして目立つことより、曲が多くの人の生活や人生と共にあることを楽しく思えるのは翻って、曲に自信がなければできることじゃないだろう。さて、そんな時を唄えばがさらに多くの人に聴かれる新たなタイミングが11月23日リリースのアルバム『そよ風のような瞬間を』だろう。すでにデジタルリリースされている「そばに」「FMの電波に期待して」「シーサイドステップ」、そして最新リリースの「聞き上手な君が良い」に加え、新曲「私のヒーロー」「タイムリープ」「国道16号」を加えた7曲入りだ。

アルバムとして順番に聴いていくと、曲調の抑揚や季節の変化を感じられてとてもいい。M1の「私のヒーロー」はいわゆる推しを指しているのだろうか。いつでも自分を励ましてくれる存在として描かれているのだが、M2の「そばに」では、辛いときは頼ってほしいと内心で思いながら、彼女の美しい横顔を見つめるだけで言葉にはできない。想像だが、M1の彼女にとってのヒーローはまだこの歌の主人公じゃないのだろう。音楽的な新鮮さもあるM3の「シーサイドステップ」はネオアコテイストの爽快な1曲。ここでも主人公は夏の太陽に照らされて眩しいほど綺麗な彼女に見惚れているばかりだ。ちなみにタイトルはSeasideを意味していると思われるが、カタカナでは“Sea”とも“She”と見立てることもでき(文法的にはHer Sideだが)、どちらにも受け取れる素直すぎるカタカナ英語の発音が切なく聴こえてくる。

M4の「タイムリープ」では真夜中のLINEで夜更かししてしまう主人公を俯瞰で見ているような気分になる。早く眠らなきゃと思うほどに目が冴えてしまうのは最後に何か含みを持たせたメッセージを送ったせいだろうか。さらにM5の「FMの電波に期待して」は彼らには珍しいマイナーコードのアッパーチューンで、ギターサウンドもソリッドだ。毎日の仕事に追われているのか、賑わう街にもテレビのニュースにも疲れて距離を置いている。それでも誰かと繋がっていたい時、深夜のラジオにメッセージを送る。もしかしたら、君に聴いてほしい曲をリクエストしたのかもしれない。「タイムリープ」で直接チャットしていた時より、主人公は疲れているのだろう。

あくまでもこれは想像でしかないのだが、続くM6の「聞き上手な君が良い」で、ついに主人公はタクシーを飛ばして、隣町の君に会いに行く。少し心が重くなる出来事があったりして、話がしたくなる時、答えが欲しいんじゃなく、ただ聞いてくれるだけでいいーーそんな経験は誰しもあるだろう。この曲は時には直接会いに行けばいいじゃんと、背中を押してくれるニュアンスが溢れている。歌の中で主人公はタクシーに前の車を追い越して、と心の中で念じている。言葉に出した訳じゃなく早く会いたい気持ちの表現なのだろう。

ラストの「国道16号」は大きなグルーヴやメロディに海を感じさせる、バンドのスケールが一段アップした印象の曲だ。国道16号といえば首都圏と横浜を繋ぐルートで、過去、主人公が暮らしていた街と君を思い出している。会いたいけど、今は遠くから思いを空に投げるような距離感のようだ。こうしてアルバムを通して聴いていくと、二人は別れたのか、少し距離があるだけなのかはわからない。でも、曲の中でのその時々の気持ちの鮮やかさは確実に聴き手であるあなたのいつかの気持ちと共振するはずだ。アルバムタイトルにあるように心動く瞬間を彼らは紡ぎ出す。よどんだ気持ちに風を送ってくれるのだ。

RELEASE INFORMATION

1st Album
『そよ風のような瞬間を』
2022年11月23日(水)
時を唄えば

EVENT INFORMATION

<時を唄えばPRESENTS「そよ風のような瞬間を」届けに行く!東名阪ツアー>
2022年11月24日(木)東京・渋谷Milkyway
2023年1月5日(木)大阪・アメリカ村 BEYOND
2023年1月6日(金)愛知・栄Party’z
2023年1月29日(日)東京・下北沢MOSAiC

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時を唄えば(ときをうたえば)

季節を彩る音楽を唄う4人組Pop&Rockバンド。メンバーは、じゅり(Vo,Gt)、TTN(Gt,Cho)、橋本泰斗(Ba)、tuti(Dr)。

じゅり、橋本、TTNが大学のバンドサークルで出会い前身バンドを始める。その後メンバーチェンジを経てtutiが加わり、2021年7月に本格始動。立て続けに大型サーキットフェスに選出されるなど注目を浴びている。

「季節を唄いに来ました」というライブのキャッチコピーのように、季節感、情景を大切にしている。じゅりは1曲の中に、日々の中で自身の心に刺さったキーフレーズを必ずひとつ入れており、ストレートなメロディでその言葉をリスナーに届けている。
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