革命を起こすアジア系クィアアーティスト、既存の枠にとらわれない個性の魅力|前編

Special
近年、徐々に注目を集めつつあるアジア系のクィアアーティストたち。既存の枠にとらわれずに生き、自分だけの個性を自らの音楽に詰め込む彼ら/彼女らの魅力を紐解いていく。前編ではRaveenaとRina Sawayama、Qrionをご紹介。

近年のポップミュージックにおいて、「元祖アジア系クィアアイコン」として知られているのはHayley Kiyoko(ヘイリー・キヨコ)だ。彼女が2015年にリリースした「Girls Like Girls」は「アジア系のアーティストや女性でもクィア性について歌えるんだ」という衝撃を多くの人に与え、現在のZ世代のアーティストが自由にセクシュアリティを表現するようになったのも少なからず彼女からの影響があると考えられている。

引用:The Daily Targum

メインストリームのメディアでは、現在においてもアジア系のクィアアーティストについて言及されることは少ないが、Spotifyの「AAPI Pride」というプレイリストに見られるように、徐々に注目は集まってきている。その中でも各ジャンルにおいて革命を起こしているアジア系のクィアアーティストを今回の連載で紹介したい。

Raveena

ストリーミングでも数多くのプレイリストに起用され、インディペンデントシーンでは着々と知名度を上げているRaveena(ラビーナ)は、シク教の家庭で育ったインド系アメリカ人、そしてクィアのアーティストだ。6月にはTwitterで「もしかしたらpan(パンセクシュアル)かも(笑)」とカジュアルに投稿したりと、自身のセクシュアリティの流動性について頻繁にSNSで投稿していることが印象的だ。


Raveenaの作品の特徴は、インドの文化的なルーツとクィア的な自己アイデンティティ、そして双方のコミュニティを内側から支援するような要素を取り入れていることにある。インドの伝統服やビンディを衣装として身につけたり、デビューEPはヒンディー語で「平和」を意味する『Shanti』と名付けたり、R&Bというジャンルに属しながらもインドの伝統音楽にも通ずる柔らかな歌い方とリズム感が用いられており、音楽業界においてマイノリティであることをむしろ自分の作風の「個性」として用いている。

シングルの「Honey」でも、インド音楽でよく使われるタブラとシタールを曲の冒頭に取り入れることで、繊細でメロウな雰囲気を醸し出している。同様に、「Honey」のミュージックビデオでは、ジュエリーや服に装飾が施されたボリウッド風のヴィンテージなビジュアルが使われている。

インドの伝統文化に加えて、MVにはLGBTQ+の有色人種が登場し、南アジアのコミュニティに存在するジェンダー/セクシュアリティの受容に関する問題を浮き彫りにしている。このように、Raveenaは自分の音楽を使って南アジアの文化に光を当てるだけでなく、南アジア社会の中で周縁化されたコミュニティに、自分たちの声を増幅させる手段を提供している。その結果、Raveenaは、南アジアのコミュニティで頻繁に議論の的になるような話題を話し合うためのプラットフォームを作っているのだ。

近日発売予定のデビューアルバムのための最新シングルで、Raveenaはセクシュアリティの流動性や魅力について取り上げている。「Temptation」という曲では、女性の中に安らぎを見出し、その女性を好きになることについて語っている。Raveenaがバイセクシャルをテーマにした楽曲をリリースすることは、決して些細なことではない。南インドの文化では、性的指向に対して大きなスティグマが存在しているため、彼女が「Temptation」のような曲を発表することで、南アジアのコミュニティでの対話を開き、音楽業界における南アジア人の表現や評判を変えようとしていることがよくわかる。

南アジアの人々は、今日のメディアではほとんど紹介されておらず、これらのアーティストを妨げているスティグマや制限について疑問を投げかけている。Raveenaはこのような壁を打ち破っただけでなく、有色人種やLGBTQ+の人々が表現される場を提供することで、他の人々のためにも壁を打ち破る努力をしているのだ。

引用:afterglow

Rina Sawayama

日本でも、音楽好きに広く知られているアジア系アーティストといえばリナ・サワヤマだ。日本人としてイギリスを拠点に活躍している彼女は、絶賛された2ndアルバム『SAWAYAMA』をリリースして以来、世界的に「クィア・アイコン」として愛されている。パンセクシャルを自認する彼女は移民としての苦悩、ケンブリッジ大学で鬱になっていたのをLGBTQコミュニティに救われた経験、業界で人種差別を受ける葛藤、アジア系のクィア女性として「枠からはみ出して」生きる覚悟などについて音楽や言葉を通して発信しており、全てが2021年のアイコンにふさわしいと言える。

もちろん、注目を集めているのは彼女の音楽だけではない。昨年、高らかに歌い上げるポップ・アンセム「Cherry」のリリースに合わせて、彼女は初めて自分がパンセクシャルであることを公言し、ゲイやストレートといった二項対立にとらわれない著名人のリストに自身を加えた。今年は「#20BiTeen」と呼ばれる記念すべき年になったが、LGBTQコミュニティの中でも、バイセクシャルの人々に対する差別はいまだに絶えない。”

「バイセクシャルの人たちは、自分のアイデンティティを確立するのが難しいと感じていると思う」とリナは言う。「ゲイ男性の文化は非常に強く表現されているし、レズビアンの文化も表現されているけれど、バイセクシャルの文化はまだ形成段階で、まだそれを体現して理解している段階だと思う」彼女は、特にキャリアの絶頂期にバイセクシャルであることをカミングアウトしたHalsey(ホールジー)とDemi Lovato(デミ・ロバート)を賞賛し、男性と女性の両方の恋人について歌ったKehlani(ケラー二)をインスピレーションの源として挙げている。

「古い言い方になるかもしれないけど、パンセクシャルという言葉は私にとって新しい言葉。私はバイセクシャルとして育ったし、4、5年前にはそのような語彙は存在しなかった。私にとっては本当に新しいことで、私は今自分の新しいアイデンティティに慣れてきたところです」

引用:Rolling Stone

今年の2月には抗議の末、世界各地で#SAWAYAMAISBRITISHの運動を通してブリット・アウォーズやマーキュリー・プライズでの受賞資格を獲得することに成功したことが大きく話題になった。日本国籍であるリナ・サワヤマは当時のルールでは「イギリスのアーティスト」としては認めてもらえず、デビュー・アルバムの『SAWAYAMA』がマーキュリー賞の受賞資格から外されていた。

「ブリティッシュであることは何かということを再定義する!」と語っているサワヤマ氏は、国籍によって受賞資格から排除する音楽業界の慣習に問題を突きつけた。その後、英国レコード産業協会がルールの変更に合意し、イギリス国籍がなくても、イギリスで5年以上暮らした人々であればノミネートされるようにと規定が広げられた。

BBCに出演した際には、

「私は音楽を通して、壁を取り壊すことに努めてきました。次の世代が自信を持って”ブリティッシュ“であると感じられるように、何か良い影響を残せたらなと思っています。」

と語り、Rolling Stone誌では以下のように、「革命」として取り上げらている。

「リナ・サワヤマにはポップスの古い枠にハマってる暇なんてない」

引用:Rolling Stone

Qrion

札幌出身のDJ・プロデューサーであるQrion(クリョ―ン)はForbes Japanの「30 Under 30」にも選出されており、〈Anjunadeep〉、〈This Never Happened〉、〈Mad Decent〉などのレーベルで国際的に活躍している。リミキサーとしてもAlina Baraz(アリーナ・バラス)、Lane 8(レーン8)、Andrew Bayer(アンドリュー・べイヤー)などの作品に参加し、Above & Beyond(アバブ&ビヨンド)、Porter Robinson(ポーター・ロビンソン)、Tourist(ツーリスト)とも共演している。2019年にはdeadmau5(デッドマウス)の<Cube V3>ツアーに参加し、<ABGT350 Live from Prague>、レコードレーベル〈Anjunadeep〉のPrintworksショーケース、<NoisePop>、<Tomorrowland>、<HARD>などの大型フェス、そして今年は<EDC Las Vegas>にも出演。

Qrion氏は、2020年にTwitterにて「私はゲイ」とカミングアウトしている。さらに、「伝統的な日本人としてゲイであることは時に大変だけど、私は自分のことを誇りに思う。」とも語っており、アジア人であり、女性であり、クィアであるアーティストの勇気に対してファンの多くが支援の声をあげている。


後編ではmxmtoonAlextbhkhai dreamsなどのアーティストを紹介していきたい。

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