「陶芸×スニーカー」が表現するものとは?陶芸家・古賀崇洋が繋ぐ伝統と前進

Special

文: 久野麻衣 

アディダス オリジナルスの新作スニーカー「SUPERCOURT」とコラボレーション作品を発表した陶芸家の古賀崇洋氏をインタビュー。

スタッズが施された壺、戦国武将の鎧を模した盃。これまでの陶芸のイメージを裏切る作品で新しい風を吹かせている陶芸家の古賀崇洋。世界の著名人やアーティストにも彼のファンは多い。

そんな彼がアディダス オリジナルスの新作スニーカー「SUPERCOURT」発売に合わせてコラボレーション作品を展示している。“陶芸×スニーカー”という、異色のコラボレーションにはどんな思いが込められているのか。

そこには時代を超えて繋がれる、文化・カルチャーがあった。私たちが残したいモノや思い、生きた証はきっとこの先も受け継がれていく。

力の最小単位=スタッズ

ー古賀さんといえばスタッズをあしらった作品が代表的ですが、あの表現にはどのような経緯でたどり着いたのでしょうか。

元々は壺とか全く興味がなくて、学生時代はオブジェで表現をしていたんです。でも、韓国のサムスン美術館にある“陶芸家がお手本にするべき壺”と言われている壺を見た時にすごく感動してしまって。それまで壺っておばあちゃんの家にあるような古いイメージが強かったので「記念に見ておくか」って確認作業みたいなテンションで行ったんですけどね。

ーその壺にどんな魅力を感じたのでしょう?

その壺が作られたのは今から1400年も前なので、時代を経てきた強さを感じました。それに電動ろくろもない時代なので、人間が足でろくろを回して形を作っていく大変な作業だったはずなんです。電動ろくろを使っても相当力を使うのに、あの時代にこれだけ立派なものを作っていて、さらに魅力のある形まで作り上げている。それにメラメラした闘志を感じて、初めて自分も壺を作ってみようと思ったんです。

でも、自分で作ってみてもあまりかっこいい形に仕上げられなくて。なので「あの時感じたパワーを表現できないなら可視化しよう」と思ったんです。最初は音楽でボリュームを表す際に使われるスペクトラムアナライザのイメージで四角柱を壺につけてみたんです。そこから“力の最小単位って何だろう”って考え始めて、円柱や球体をつけてみたり、逆に壺に模様を掘ってみたりしました。

ーその結果たどり着いたのがあのスタッズの形だったと。

やっぱり四角柱のような人工的な形は力学的に弱いんですよ。焼き物は1300度くらいの温度で焼くので鉄分が溶けちゃって、すぐに割れるし、すぐに垂れる。それに対して円は力学的に強いんです。

中でも東京タワーみたいな、下が太くて上にいく程とがっていく形が焼き物に向いていると分かって、スタッズの形に辿り着きました。よく「音楽やファッションから取り入れたのか」って聞かれるんですけど、僕はスタッズがついているファッションはあまり着ないし、パンクロック育ちでもないんで、そういうわけではないんですよね。

ーでもスタッズの持つ力学以外の要素も大事な部分ですよね。

ブリティッシュパンクでは反骨心の象徴であり、トゲトゲしていて“痛そう”“強そう”という刺激を感じるスタッズの形は、人間の深い内面的なところで倫理観に訴えるものがあるので、そこもスタッズに惹かれた要素でした。

ー力学的にも、哲学的にも古賀さんの表現したいものにハマったと。1つではなく、集合することでスタッズとして表現力が高まるというのも面白いと思いました。訴えかけてくるような力を感じるというか。

“過剰”っていうのが1番力を感じると思うんです。例えば密集させたりとか。

表現ってクールでもいいんですけど、行き過ぎた表現っていうのは1番人の心に刺さると思うので、そこは意識しています。

ー制作の工程ではなにか特殊な技法などあるのでしょうか。

新しいって言われたりしますけど、やっていることは江戸時代から変わらない技法で、新技術みたいなことは全くやってないんです。粘土をこねて作るので、かなりフィジカルですよ。

次ページ:日本の文化をパッケージした頬鎧盃

SNSで記事をシェア

SNSフォローで
最新カルチャー情報をゲット!

閉じる