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文: Yuya Eto
カルチャーシーンにおいて、ここ数年アジアの中でも、一際注目を集める台湾。その変化を肌で知っている写真家・Cho Ongo。今回PARA-でもBLANKMAGを紹介してくれたのも彼。
関わりの深い台北のショップやカルチャーについての造詣を惜しげもなくこちらに共有してくれた彼の素直さと情報感度の高さと選ぶセンス。そして大らかな人間性を持つCho Ongoとは一体何者か。語られてこなかったルーツを辿るほどに彼の今が見えてきた。
出会った頃から今なお「女の子を撮るのが好きなんだ」とニコニコしながら語るCho Ongoの笑顔は印象的で、親しみやすい。そんな不思議でたまらない魅力を持ち合わせる彼の姿を紐解いてみることにしよう。
両親が台湾人の彼は、双子の兄と東京で生まれ、台湾で別々に育てられ、そこから共に上海へと渡り、そしてまた日本へと舞い戻る。元々中国語しか喋れなかった彼が、小学校に上がって日本語を学びはじめたそう。Cho Ongoとは一体どんな子供だったのか、はじめて幼少期の話を聞いてみた。
「とにかく運動とゲームが大好きで。休日は兄弟とゲーム、平日は外で友達と遊ぶ生活をしていました」
普通の活発な男の子だが、居住地を転々としていたために、地元という概念がなくこだわりがなかったという。
「なので学校にも自分の進路にも興味がなかったのですが、大学進学のタイミングで『ハチミツとクローバー』という漫画にハマって、美術大学に対する憧れが出てきました。同時に、本を読んだり、現代アートに触れて、キュレーターっていいなと思いはじめて。キュレーションを学べる京都造形芸術大学を目指したのですが、結局は美大には通えずに駒沢大学に進学したんですよね」
そうしてスタートした大学時代に写真と出会う。
「とにかく可愛い女の子と出会えるサークルを探して、男女比が5:5だったのが写真サークルでした。その時カメラのCMを宮崎あおいがやっていて、『そんな子がいるかも』と思って(笑)。動機はそんな感じでしたね」
確かに彼のInstagramを見ると可愛い子がたくさん載っていて、写真をはじめた当初とスタンスが変わらないんだなぁとクスッとしてしまう。
「でも、それからどんどんと現像にハマってしまって。その頃周りはデジタルばかりだったので、1人暗室で好きな音楽を爆音でかけて黙々と作業をしていました」
Cho Ongoの活躍といえば、東京のスケートレーベル“Diaspora Skateboards”所属の写真家としての認知が高い。原点となるスケートボードとの出会いもちょうどこの頃。
「その大学時代に友達から、『スケボーの大会があるから遊びに来ない?』って誘われて。面白そうだなと思って行ったのがはじまりでした」
それは、ずっと1人黙々と現像作業に没頭していた彼にとって新たな出来事だった。
「それからスケート目的で駒沢公園へ行くように。そこでDiasporaと出会い、喋ったり写真を撮っていくうちに自然と仲良くなっていきました。Diasporaのフィルマーである小林万里君が写真を褒めてくれたのが嬉しくてちゃんと写真をやってみようかなと。それからスケーターをよく撮るようになりましたね」
写真こそがコミュニケーションツール。「相手を知れる最高の手段だ」と語る彼は、カメラを通じてお互いの居心地がいい距離をはかることができるようになった。
「カメラはすべて独学だったので、上手く撮るために夜な夜な皆が集まるスポットには足を運んで、メイクが決まるまでひたすらレンズを構えて。周りにアドバイスをもらいながらも自分の感覚も取り入れて吸収していきました」
美大でキュレーター志望だった青年から写真家へ。その変化の道のりを自身はどう捉えているのだろうか。
「思い返すとその時に一番やりたいなって思ったことは、やれていないんです。その度に、確かに葛藤はあるけれど、過ぎたことは仕方がない、という気持ちで落ち着きます。でも結果、そこでまた新たに見つけたことが今につながっていて。結局は巡り巡って好きなことをできているんですよね。…常にいろいろな分かれ道があって選択しなきゃいけないけど、間違いだったことがない。だからどっちを選んでもいい方向に行くから大丈夫なんですよ」
とニヤリと微笑みながら語る。言葉尻には妙な説得力があるのも、彼の経験と肝の据わった行動力があってのこと。どんな選択に対しても、真摯におこなうことこそが重要なんだ。
そうして、写真家になった今Cho Ongoが一番大切にしていることとは。
「ちょうどいい違和感かな。道端にネズミの死骸があったら瞬時に撮ってしまうように、日常に現れる違和感を逃さない。ここは汚いのに道を曲がったら綺麗だとか、一歩踏み出したら世界が違う。そんな瀬戸際が好きです。それはスケーター的目線でもあって。だからイベント仕事の撮影でも僕は内容よりも敢えてアウトテイクばっかり撮っている。『ふざけんなよ』って言われたりもしますが、結局は『いい写真だ』って、毎回声を掛けてもらっているので。やっぱり自分だけの目線を持つことが大事なのかなって思います」
視点を少しずらして見えてくるもの。大半の人が逃しがちなその場面をしっかりと捉える。そんなスキルを磨いた彼は東京と台湾で見るものに違いはあるのだろうか。
「両都市でレンズを構えた時に感じるイメージは、日本は“青”で、台湾は“赤”。東京は常に変化が街にも人にもある。対して台北は、カルチャーが生まれても基本的には何も変わらない。そこが違いなんだと思います。そのどちらも面白いなって感じます。
ただ僕の好み的には、そこにある変わらないものを撮ることの方が好き。映画も音楽もかっこいいと感じるものは普遍的なものだし。かっこいいものは、時代を超えても残っていく。今の瞬間に『いいね』って言われても、その後に評価されないと意味がないような気がします。結局人も根本の部分は変わらないし」
「僕自身もずっと燻ぶっていて。去年、雑誌『EYESCREAM』の台湾特集をやらせてもらってから、ちょっとずつ仕事の幅も広がってきました。それを経験して、僕も周りをフックアップできる存在でありたいなと思いから、キュレーションという立ち位置でもあれたらいいなというところにつながるんだと思います。実際、今売れているものに対して、僕はいいと思ってないから、自分の目線からみて良いと思うものに気づいて欲しい。
その時に大事なことは、どんなことでもそうだと思いますが、対人(たいひと)なので。目先の利益ばかりを追い求めないで、人とのつながりを大事にしていきたい。じゃないと疲れてしまいそうで」
最後にCho Ongoのこれからについて聞いてみた。
「ファッション写真を撮るのはずっと目標。女の子を撮りたいので(笑)。最終の目標は、僕の作品が美術館に保管されること。でもまだやりたいことはまだ伝わってない。正直ずっとアングラと言われるスケートカルチャーだけど、実際はいつの時代もスケーターからカルチャーははじまっていて。時代の最先端はそこなのにフィーチャーされてないのはなんでだろうって思う。僕もいいなって思うことを発信しては、流れを変える立役者になれるかな。そのために今も思考錯誤してるのでたくさんの人に伝えられたら良いな」
人生を生きていく中で、必ずしも出会う“人”に対する関係性の築き方。彼がこれまで人に直面した時に悩みながらも出したのは柔らかくもポジティブな態度。優しさと真っ直ぐな気持ちとして反映されているのかな。と今回改めて感じた。
コミュニティに縛られることなく存在し、誰に対しても“変わらない”。Cho Ongoの視点で切り撮る日常の姿は、これからも楽しみで仕方がない。
取材・文:山根麻未
写真提供:Cho Ongo / 山根麻未
編集:冨手公嘉(the future magazine)
プロフィール
Cho Ongo
1989年生まれ。 大学の時に写真の現像にハマり、写真に興味を持つ。 そしてDiaspora skateboardsに出会い、本格的に写真をはじめる。 写真をひとつのコミュニケーションツールとして捉え、 写真の基本機能「記録・写実」を意識しながらシャッターを切る。
http://ongocho.com/
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