文: 石角友香 編:Kou Ishimaru
疫病から子どもを逃す正義感を持ちつつ、大人から疑いの目を向けられた男について描いた童話『ハーメルンの笛吹き男』。HAMELN(ハーメルン)というアーティストネームからはこの童話を想像してしまう。だが、あながちそれが勘違いでもなさそうなことを1stフルアルバム『HYBRID』は語っているようだ。ヒップホッププロデューサー、トラックメーカー、ラッパー、シンガーの顔を持つHAMELN。SUSHIBOYS、KEN THE 390、ASIWCなどラッパーの作品のみならず、木梨憲武などさまざまなアーティストの楽曲制作も手掛け、2018年からはソロ活動を開始。これまでに『CAGE』『No Matter What Happens From Now On』『アルゴリズム・シティ』のEP3作品などをリリースしており、都市の憂鬱、現代の閉塞感、孤独や恋愛感情などをクールに、そしてときにはアグレッシヴなサウンドに乗せ昇華してきた。共通するムードとして、多くのSF作品で描かれてきた“ディストピア”はとっくに到来していることに気づいた人へのメッセージ足り得る音楽、そんな印象を持った。
ひとりで作詞・作曲からトラックメイキング、ミキシング、マスタリングまで行うHAMELNの満を持してのフルアルバムを聴いていこう。1曲目の「1CE8ERG」はどこか坂本龍一のサントラ音楽のようなシーケンスから始まり、王道的なキック&スネアが端正な印象。日本に緊急事態が発生したことを思わせるリリックが映画的だ。さらにトライバルビートとミクスチャーロック的なギターリフの「UNBOUND」ではリスナーに“独房”から逃げるように促す。グランジとラップが交錯する世界観とメンタリティが、海外の拝金主義者によって搾取されるいまの日本の危機的状況を憂うひとりぼっちのゲーマーを思わせる「VERSUS」、お手軽なプライドが行動原理となっているインフルエンサーを揶揄するような「CRAWING」など、前半は主に90年代のロック×ダンスミュージックにも通じるシンプルで強烈なビートが肉体に訴えるトラックが、表層的なモダンライフを徹底的に糾弾する。ただ、HAMELNの素直さのある声はマチズモとは正反対だけに、その糾弾は初々しいほどだ。
後半は過去と未来をつなぐインタールードを挟み、スパイ映画っぽいドラマ性が際立つトラックの「MOVIESTARRRRR」で、《人を憎むより叩くリズム》といった彼なりの戦う姿勢が見えてくる。トラックのユニークさではエレクトロでラガマフィンのビートの「PINFALL」、最終戦争後の街を思わせるスモーキーなタッチの「WORLD’S END」もいい。そう、後半では、緊急事態のこの国が終焉に向かっていくさまと、そうなったとき、結局希求するものは何なのか?という物語が展開されるのだ。ラストの「OVER」はそれまでが戦いの場だとすれば、宇宙船との交信のようなオートチューンのボーカルが“その後”の世界を思わせる。そこで歌われるのは国境という傷からまだ血なのか水なのか、何かが滲んでいるというイメージ。このメタファーはリリシストHAMELNの言葉の中でも特に心を動かされる。
SNSに振り回され、誰の判断で自分の人生を決めているのか不安になる時代。たったひとりで作り上げたディストピア映画のサントラといった様相を帯びる『HYBRID』は、ヒップホップジャンルに縛られない、今年ドロップされる必然に満ちたアルバムだ。
RELEASE INFORMATION
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1st Full Album『HYBRID』
2025年7月4日リリース
〈Borderless Journey With Creativity〉Tracklist:
1.1CE8ERG
2.UNBOUND
3.VERSUS
4.€XXXPLØ!T
5.CRAWLING
6.HYBRID INTERLUDE
7.MOVIESTARRRRR
8.PINFALL
9.自己皇帝[Ver. 2.0]
10.ΛL/EN
11.WORLD’S END
12.OVER
early Reflection
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