文: 黒田 隆太朗 写:Mark James
「痛み(『Pang!』)」と題された本作を、敢えて優しくも活気を持ったアルバムだと言ってしまおう。Super Furry Animalsのフロントマン、Gruff Rhys(グリフ・リース)による6作目のアルバム『Pang!』は素朴な魅力に溢れている。本作のミックス・マスタリングを託されたのが、南アフリカのエレクトロ・アーティストのムジであり、彼とのコミュニケーションがグリフのキャリアに新しい風を吹かせた。本作では自国ウェールズの文化とアフリカの文化が溶け合い、また、制作期間中によく聴いていたというPrinceの『Around the World in a Day』からの反響がある。本作が音楽的にカラフルなポップ作品に仕上がった一因は、間違いなくかの名盤からの影響だろう。さて、本作のリリックは全編ウェールズ語である。訛りが激しいことでも有名な、グリフの飾らない歌が聴こえてくる。
ーライヴ前の貴重な時間をいただきありがとうございます。
こちらこそありがとう。
ー新作は健やかで、暖かさと活気を感じるような作品だと思いました。そうした作品に『Pang!』(意味:(発作的な)悲痛、心の痛み)と名付けたのはどうしてですか?
確かに音楽的には楽観的な内容だね。でも、生きていると時には痛みに直面することもある。僕はそういうものも含める形で作品を作りたかったんだ。
ー逆に言うと、日常の中にある痛みと向き合い、その中から喜びを見出すような気持ちがありましたか。
世界を取り巻く状況はいろいろあるけど、未来に対しては楽観的な気持ちを持とうという気持ちはあったね。
ーここからは制作の話を聞かせてください。Africa Express(Blur/Gorillazのデーモン・アルバーン(Damon Albarn)が主宰する非営利団体。アフリカ諸国のミュージシャンと欧米のミュージシャンのコラボレーションを促し、多岐に渡る作品制作やイベントを行ってきた)に参加したことが今作の発端になったと思いますが、アフリカン・ミュージシャンと制作を共にする中でどういった発見や喜びがありましたか?
去年の1月、Africa Expressのプロジェクトでヨハネスブルグに1週間滞在したんだけど、そこでは沢山のプロデューサーやミュージシャンと一緒に音楽を作る機会があって、特に楽しかったのがMuzi(ムジ)というプロデューサーだった。彼とBUCUというグループと一緒に作ったのが「Vessels」という曲だね。
ー『Molo』に入っている曲ですね。
帰国してから、フェスのための曲を提供してほしいという依頼を受けたんだけど、その時カーディフの国籍や人種が多様な地域で音楽を作っていたから、そこでも地元のアフリカ系のミュージシャンと一緒に仕事をする機会があったんだ。そこではN’famady Kouyatéというバロフォン奏者と一緒にやるのが凄く面白くて、彼が作った曲がダンサブルな曲だったから、Muziにリミックスしてもらおうと思って曲を送ったんだよね。それが今作の2曲目「Bae Bae Bae」だよ。
ー今作の中でも凄くいい曲だと思います。その1曲が引き金になったんですね。
そう。そのリミックスがよかったから、Muziに連絡して「アルバムを全部一緒にやりたい」って話したんだ。そしたら彼が「全部ウェールズ語で歌うならいいよ」と言ってくれて、そうして今作のアルバムができていったよ。Muziもウェールズの音楽をリミックスするのが楽しかったんだろうね。だから『Pang!』はAfrica Expressに関わらなかったら実らなかったアルバムで、2年前には想像もできなかった作品だよ。凄くポジティブなアルバムに仕上がったと思ってる。
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