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文: まいしろ 編:久野麻衣
音楽ファンが抱える深刻な悩みはいくつかある。
好きなアーティストが活動停止をする、ライブのチケットが取れない、新曲をなかなか出してくれない…そんな音楽ファンならではの悩みの中でも近年、特に深刻さを増しているのがこちらだろう。
そう、それは「アーティスト名か曲名か、どっちがどっちかわからないアーティストが多い」ということである。
いにしえの頃から曲名のような名前を持つアーティストは数多くいたが、最近はインパクトが強い名前を持つネット発のアーティストも増えている。
YouTubeで知らないアーティストのPVを見ながら「これはどちらが曲名なんだ…?」とWikipediaを検索したことがある人は私だけではないはずだ。
そして、中でも最もややこしいのが名前に「、」や「。」といった句読点が含まれているアーティストである。
特に「。」の威力は高い。小学生の頃から「。」がついている=文章の終わりである、と刷り込まれて育った我々にとっては、「。」がついているアーティスト名というのはある意味でルール違反のような名称である。
こういった複雑なアーティスト名は、慣れてしまえば問題はないが、初めて聴くアーティストであれば間違えることは必至となる。
というわけで今回は、そんな名前と曲名を間違えそうな「。」のつくアーティストをいくつかまとめて紹介したい。
まずは「。」を持つアーティストとして最も国民的に知られているであろう、こちらのグループを紹介したい。
いかがだろうか。元々が国民的アイドルグループであることもあり「モーニング娘。」を曲名と間違える人は少ないだろう。
こちらのグループ名は、日本語としては「複合名詞」と呼ばれるものになっている。簡単に言えば「モーニング」と「娘」という別々の言葉をあわせることで生まれた造語ということである。
そのため、一応文章らしさをおさえたグループ名となっているため、初めて聴く人でも「たぶん曲名じゃなくてグループの名前かな?」と瞬時に判断することが可能である。
また、モーニング娘。の「。」は、ナインティナインの矢部浩之が独断でつけたこともよく知られた事実である。初めてグループ名がテレビ番組で紹介された際のテロップに「。」が入っていたため岡村隆史が「。」を含めるのか確認したところ、矢部浩之がグループ名に「。」も含めると宣言。そのままグループ名に「。」が含まれることになった。
では、少しレベルを上げて紹介したいのが、ネット発の歌い手として強い人気を誇る「あるふぁきゅん。」だ。
あるふぁきゅん。は、ニコニコ動画から人気に火がついた歌い手であり、チャートを賑わす人気のミュージシャンである。
先程のモーニング娘。と同じくあるふぁきゅん。も日本語としては「名詞」にあたるが、先程と異なるのは「派生語の名詞」と呼ばれる分類になることだ。
彼女の音楽となんの関係もないのでこのあたりの細かい解説は省略するが、あえて言うならあるふぁきゅん。というアーティスト名は「αくん→あるふぁくん→あるふぁきゅん→あるふぁきゅん。」という進化でこの名前に落ち着いている可能性が高く、自分で自分の名前に「くん」付の敬称をつけるというフェイクを挟むことで、アーティスト名か曲名かをわかりづらくするという高等テクニックが使われている。
もしもあるふぁきゅん。を今まで知らなかったという方は、ぜひこのテクニックに惑わされることなく、落ち着いてアーティスト名と曲名を判別して欲しいと思う。
続いて紹介するのは「ゲスの極み乙女。」である。通称「ゲス極」とも呼ばれ、NHK紅白歌合戦への出場経験も持つロックフェスの常連人気バンドだが、グループ名を細かく見ると以下のようになっている。
先程の2グループと比べると、特徴的なのは助詞が入っているという点だ。ストレートに言えばゲスの極み乙女。の「の」がかなりアーティスト名として紛らわしい。
「ゲスの極み」という単語はおそらく「痛恨の極み」という日本語をもとにして作られた造語の可能性が高いが、そもそも元になっている「痛恨の極み」という単語がそこまで一般的な言葉ではない。そのため、初めて知った音楽ファンからすると「ゲスの?極み?乙女?」と各文節で疑問が浮かんでしまうのが普通だろう。
また、ゲスの極み乙女。の侮れないところは「私以外私じゃないの」「あなたには負けない」など、曲名もそれはそれで文章っぽいというところである。
文章のようなアーティスト名に加え、文章のような曲名をつけるゲスの極み乙女。。音楽ファンの間では既に広く知られたアーティストだが、もし知らないという方がいればこのフェイクに惑わされないよう、ぜひ気をつけて欲しいところである。
続いて紹介するのは2019年にデビューを果たした注目ユニット「原因は自分にある。」である。デビューから日が浅く、馴染みがない音楽ファンの方もいるかもしれないが、まずはグループ名を見ていこう。
先程のゲスの極み乙女。と同じく助詞を使い、さらに「ある」という述語の動詞を使ってグループ名を締めるという徹底ぶり。これはもはやグループ名というよりも100%普通の文章と言えるだろう。
グループ名も印象的なこちらだが、曲名もインパクトがかなり強い。10月に出されたデビューシングル「原因は自分にある。」もさることながら、2月にリリース予定のシングルは「嗜好に関する世論調査」というタイトルとなっており、ここまで来ると「これは本当に曲名なのか?」という新しい疑問が浮かんでくる。
なお、原因は自分にある。の由来は
「ある物事や、ある状態・変化を引き起こすもとになること。」という意味を持つ“原因”という言葉を肯定的に捉え、この名前の響きのように、インパクトを与え続ける前衛的なユニットとして躍進し、新時代のエンターテインメントを生み出す。
という意味を持っているということだが、肝心の「。」について、なぜ「。」がつけられているのかを関係者に直接問い合わせてみたところ「ついてる方がいいと思ったからです」という力強い回答をいただいた。
音楽活動をしておりグループ名に悩んでいるという方は、ぜひ一度原因は自分にある。にならって「。」がついていた方が良いかどうかを改めて問い直して欲しいと思う。
最後にご紹介するのは、昨年FUJI ROCKへの出演を果たし、人気急上昇中の覆面アーティスト「ずっと真夜中でいいのに。」。では、こちらのアーティスト名を見てみよう。
いかがだろうか。曲名っぽさを通り越して、ほぼほぼ完全な文章(しかも詩的)となっている。そして個人的に特に注目したいのは「いいのに」の「のに」の部分である。
またしても音楽となんの関係もないのだが、こちらの「のに」は日本語としては助詞の中の接続助詞に分類され、確定の逆接を示す助詞である。簡単に言えば正式には「ずっと真夜中でいいのに、実際は○○である。」という文章が完全形で、実際は後半の文章が存在することを暗に示している。
アーティスト名だけで音楽ファンの想像力を掻き立てる、非常に詩的な名前といえよう。
加えて、他のアーティストと異なるのは話し言葉を使っているという点だろう。先程の原因は自分にある。が曲名も含めて固い日本語を好んでいるのに対し、ずっと真夜中でいいのに。は友達と話すかのような言葉を好んで使っており、このあたりもそれぞれのアーティストの世界観が現れていると言えそうだ。
5組の「。」がつくアーティスト名を考察してきた本記事だが、あなたの知らないアーティストはいただろうか。
音楽ファンと会話をしていると「それ曲名?」「アーティスト名?」といった会話がよくなされる。また、一人でYouTubeを見ながら「これは曲名なのか…?」と首を傾げたことのある人も多いだろう。
名前はそのアーティストの世界観を表す大事な表現のひとつでもある。見分けることは難しいが、ぜひこちらの記事を参考に、曲名と間違えることなく、快適な音楽ライフを過ごしていただければ幸いである。
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まいしろ プロフィール
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