音楽の力で希望と癒しを。コロナ禍に生まれた韓国ミュージック〈後編〉 〜K-POPからインディまで〜

Column
コロナにインスピレーションを受け誕生した韓国ミュージックを、K-POPからインディの楽曲まで前編・後編に分けてご紹介。今回はBTS、NELL、BUMKEY、イ・ジョクなど全6曲をご紹介。

全世界を震わせた歴史的コロナショック。こと音楽業界に関しては、コンサートやファンミーティング等、数え切れないほどのオフラインイベントの中止、CDや映像作品のリリース延期が相次いで発生した。影響を受けたのはお隣、韓国も同じだ。

世界中の人が厳しい環境下で悲鳴を上げる中、韓国のミュージシャンたちがコロナ禍に抱いた感情を続々と歌に昇華し始めた。今回は、そんなコロナにインスピレーションを受け誕生した韓国ミュージックを、K-POPからインディの楽曲まで前編に続き6曲ご紹介したい。この記事をきっかけに、韓国からのエールが日本の皆さんの耳に届いたら嬉しい。


BTS「Life goes on」

2020年11月20日にリリースされたアルバム『BE』のオープニングを飾る曲。アコースティックギターのサウンドが曲に温かみを持たせるオルタナティブ・ヒップホップで、曲が進行するにつれて、ゆったりどっしりと深みを増していく。

《ある日世界が止まった。先が見えないんだ、出口はあるのかな。》パンデミックによって生活が一変したのは決して私たちだけではない。BTSも例外ではなく、予想外の出来事に私たちの見えないところでさまざまな苦労や悲しみを味わったであろう。それにもかかわらず、常に前向きで明るい姿を失うことなく世界中の人々に音楽の力でエールを送り続けるBTSの姿に、心打たれ共感したファンも多いのではないだろうか。

《きっと1日が戻ってくるよ、何事もなかったかのように。》MVの終盤に、観客のいない空っぽの公演場で何度も響くフレーズに勇気づけられる。私も、変わってしまった現実を受け入れながら、新しい日常を思い描いて一歩ずつ前に進みたい。

CODE KUNST, チェ・ジョンフン, Simon Dominic「For the gone(with ELLE KOREA)」

ファッションマガジン 『ELLE KOREA』 創刊28周年を記念して企画された音楽プロジェクト『RECONNECT』としてリリースされた楽曲。国民に長きに渡って愛されるバンドJANNABIのボーカル、チェ・ジョンフン、有名ラッパーのSimon Dominic(サイモン・ドミニク)、韓国のレーベル会社〈AMOG〉の実力派プロデューサー・CODE KUNST(コード・クンスト)ら大物アーティストのコラボが話題となり、韓国の主要音楽授賞式の1つである< Melon Music Awards 2020 >にてパフォーマンスが披露された。

《消えた全てのものに、忘れられた全ての夜に。》ノスタルジックなサウンドで困難な時期を耐えているすべての人に慰めを届けるエールソングをぜひ。

NELL「Remember(기억해)」

NAVERが提供する番組『ON STAGE』 10周年記念に企画された『10STAGE』をきっかけ作られた楽曲。『10STAGE』プロジェクトの一つに『私にON STAGE』という企画がある。これまで『ON STAGE』に声援を送ってきた音楽ファンのために、音楽ファンが抱える悩みや事情に対しミュージシャンが新たに楽曲を作り披露するというもので、「Remember」はこの企画を通してこの世に生を受けた。

モダンロックバンド・NELL(ネル)に対して送られたファンの「小さな店を経営しているが、突然やってきたコロナによって辛い時間を過ごしています。多くの人々に力と勇気を与える音楽を作ってください。」というメッセージに対し、優しく力強く答えた楽曲。ぜひ、高々と伸びるボーカル、キム・ジョンワンの歌声に聴き入ってほしい。

BUMKEY「COVID-19(여기저기거기)」

一日も早くコロナが終息し、すべてが元の姿に戻ることを希望して作られた R&Bミュージシャン・BUMKEY(バンキー)のシングル(2020年9月リリース)。ラッパーのSUPERBEE(スーパービー)がフィーチャリングで参加した。

《いつコロナは終わるの?君がやりたいことは何?このコロナが終わったらマスクを取って遊びに行こう。》パンデミックで思うように外に出れないことに対するフラストレーションを、聴いていてスカッと気持ち良いほどに無邪気でストレートに言葉に変えて解き放つ。部屋でテントを建ててみたり、料理をしたり、ゲームをしてみたり。有り余った時間でとりあえずいろんなものに手を付けてみるも、長続きせず声を上げて歌い出してしまう、そんなMVに共感せずにはいられない。

イ・ジョク「 Things We Took For Granted(당연한 것들)」

1995年に登場したシンガーソングライター、イ・ジョクが、コロナで心が複雑な日々の中で、希望を夢見て作った歌。《私たちが生きてきた平凡な日々がどれだけ大事だったかを知ってしまったんです。》コロナから解放されて自由な日常を夢見る人々の熱望を代弁し、忘れ去られた日常の喜びを思い出して、憂鬱から抜け出そうと語りかける、そんな曲である。

本楽曲は、なんと絵本として出版されており、今年の4月に韓国の大手オンライン書店 YES24キッズ部門でベストセラー1位になったと現地メディアで報じられている。歌手としてだけでなく、絵本作家としても期待されているアーティストだ。

The Black Skirts「Two Days」

韓国ソウル出身、米国育ちのチョ・ヒュイルのソロ・プロジェクト、The Black Skirts(ザ・ブラック・スカーツ)。日常のありふれた素材や瞬間を歌にすることに国内外で定評のある彼が、今年の4月にリリースしたEP『Good Luck To You, Girl Scout!』のリード曲が「Two Days」だ。

同アルバムは、コロナウイルス感染拡大による隔離期間中に恋人に振られてしまった友人にインスピレーションを受け、傷ついた若者の気持ちになって制作した作品だそうだ。「Two Days」はリード曲として、失恋直後のやるせない若者の心情を、持ち前のレトロでノスタルジックなインディ・ポップで表現している。

ユニークな世界観のMVにもぜひ注目してほしい。監督はNYを拠点に活動するWaley Wang、主人公はNYでブレイク・ダンサーとしても活躍する日系アメリカ人俳優、Leo Suzuki。失恋によって心身共に病んでいく主人公に、こちらまで何とも痛ましい気分になる。チョ・ヒョイル本人も、実は主人公の元彼女に女装してMV冒頭で出演。斬新な配役、韓国・米国の融合で耳も目も楽しい1曲である。


経験したことのないパンデミックに迷い震える中、ここまでやってこれたのは、心の中で音楽流れ続けていたから。時には応援のメッセージを、時には共感、時には癒しを私たちの元に届け、分断された世界を繋ぎ止めてくれたように思う。ワクチンが行き渡り日韓の行き来ができるようになったら、アーティストのライブに足を運び、諦めることなく励ましの音楽を送り続けてくれたことに対する感謝の気持ちを直接伝えたい。

PROFILE

Akari Hiroshige 

会社員として働く傍、『BUZZYROOTS(バジールーツ)』 という韓国インディーズ音楽に特化したサイトを友人と立ち上げ運営中。韓国のミュージシャンや業界人に取材をしたり、オススメの楽曲を紹介したりと、微力ながら韓国音楽愛好家として活動している。気づけば韓国音楽担当というブランディングに繋がり、本メディア・DIGLE MAGAZINEでも韓国のインディバンドSURLのインタビュー記事や、ライブレポート等、韓国関連の記事を担当。

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